◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
リディアンの地から姿を眩ませて、ずっと考えていた。
俺がどこからきて、どういう存在なのか。
この世界には、俺自身が普通と感じるものと特別と感じるものとの認識の差が激しい時がある。例えばノイズ――こいつらは普通の存在ではない。少し考えればわかることだが、この地球上に存在する通常の生物とは異なる存在だ。生物として、生殖機能をもって生まれているわけではなく、物理的に存在していない。唐突にそこに現れる、どちらかというと生物というよりは現象に近い存在。
こんな科学じゃ解明できないような存在が、この世界には普通に存在している。明らかにこの世界で浮いているのに。そしてそれを打倒できる術はないと言われていたのに、響ちゃんの纏っていたバトルスーツや錬金術、聖遺物なんてものが立て続けに登場してきた。
おかしな話だ。
歴史の裏には何者かの暗躍があることは、おそらく一般人であろうと想像がつく。歴史の裏で政治や宗教、戦争を操作している何らかの闇があるかもしれないなんて、普通に囁かれているようなことだ。
それでもその裏に超常的な存在がいるなんて誰も思わない。現実にはそんなものいるはずがないからだ。幽霊は目に見えないし、超能力なんてどこにもないし、怪獣やスーパーヒーローは空想上の存在で、現実には存在しない。それを人類の一部が隠そうとしたところで、絶対にどこかから漏れる。ないものは、ないのだ。
けれどこの世界ではそれがある。
超常の存在はいるし、ヒーローの様な力を持った者がいるし、科学じゃ解明できない存在がいくつも存在している。
そして俺自身も、おそらくその超常の何か。
「これ、やっぱり俺の記憶消されてるな……この世界での俺の人生とは全く違う俺を知っている人間がいることからも明らかだ」
おそらく、あの錬金術師のところにいた何者かもそうだ。奴がパヴァリア光明結社に俺の存在を教えたのか、また違う何者かがいるのかはわからないけれど、おそらくそいつらは複数人いる。パヴァリア光明結社なんて裏組織に俺への非殺傷命令を下せるくらいの立場にいる奴もいるくらいだ、おそらくそいつらは全員繋がっている可能性が高い。
だとしたら、俺は生まれた時から監視されていたかもしれない。
なにせ俺がこの世界に生まれてから今日まで、俺は何の不思議もない普通の人生を送ってきたのだから、そこに特別なことはなかった。ノイズに無視されるとか、触れられるという性質は特殊といえば特殊だが、それが発覚したのもつい最近の話。二課なんていう裏の組織が知らなかったくらいだから、本当にあの時発覚した事実だったはず。
であれば、俺のことを知っている奴らはきっと俺のここまでの人生には関与していない。俺が生まれる以前のことを知っていて、なんらかの目的があって俺を観測していた可能性がある。
「てことは、俺は生まれる以前に何かやってた? 錬金術師や聖遺物なんてものが存在するくらいだし、遥か昔の存在が今も存在し続けていることだってあり得そうだしな」
何らかの問題が起こって俺の記憶が消えた、もしくは意図的に消されて、この時代に生まれた俺を、過去の俺を知っている奴らが監視しているってことか? 俺がそいつらの目的にとって障害になりうるか見定めているのかもしれないし、そいつらが俺の記憶が戻るのを待っている味方である可能性もあるな。
じゃあ十中八九俺の身の回りにもいたな。そういう奴ら。
可能性として高いのは、俺の家族か。
母さんや妹、父さんあたりは怪しいかもしれない。というか、母さんはそうだとしたら滅茶苦茶納得できる。あれだけ俺のことを理解している人間、母親であっても普通じゃないしな。
まぁ、とはいえ俺の家族は俺に対して敵対しているような色は感じられないんだよなぁ。俺のことを知っている存在の中にも敵と味方はあるかもしれないけど。
「うーん……そうなると錬金術師とか二課のあのバトルスーツとか、単にノイズを討伐するための力ってだけじゃなさそうだよなぁ……むしろノイズもなんらかの過程を経て生まれているわけだし……人間しか襲わないって時点で人間が作ってそうな気もする」
単一種しか殺さない存在なんて生物の中にはいない。どんな生物も自分の餌になるものを殺すし食らう。ましてノイズは殺すだけで食いもしない。じゃあ何のために人を殺すのかと言われたら、殺すために作られたからじゃないか?
であればノイズは災害じゃなくて殺人兵器ってことになる。生物かどうかもわからないけど、生物だと仮定するなら殺人のための生物兵器だ。
まぁ全部推測でしかないし、根拠も何もないし、俺の記憶がない以上この推測に穴がないわけでもないけれど……もしもこの推測が合っているのなら、ノイズを作ったのは錬金術師とか聖遺物を作ったような存在とかじゃないと無理がある。人類にあんな兵器を作れるとは思えないしな。
そうなると、あの対ノイズのバトルスーツを作った奴は怪しいな。櫻井了子、だったっけ? 聖遺物の力を活用して色々生み出しているみたいなこと言っていたから、厳密にはノイズを作った奴の仲間ではなさそうだけど、そいつに関する情報は持っていそうだな。
「一旦リディアンに戻るか」
俺がいなくなってからも誰かしらが俺のことを監視しているかもしれないし、そもそもまだ全て推測の段階でしかない。まずは怪しそうなところからあたるのが一番良いだろう。二課から色々探ってみるか。
今気づいたけど誰にもバレない様にコッソリ出て行ったから未来ちゃんとか心配してるかもしれないな。響ちゃんと上手くやっててくれればいいけど。まぁあの二人は仲良いから大丈夫でしょ。
……とりあえず電話くらいはしておこうかな。
「じゃ、帰るかー」
携帯を取り出してまずは未来ちゃんにコールしながら、歩き出した。
◇ ◇ ◇
―――また、携帯が鳴った。
もうどれくらい経ったのかもわからないけれど、響が帰ってこなくなってからずっと部屋に引きこもっていた私。そんな私を心配してか、クラスの友達からは何度も連絡がきていた。
メッセージには心配の色が綴られたものがもう数百件も溜まっているし、着信もきっと何十件も溜まっていると思う。最初こそメッセージには大丈夫だと心配掛けないように返していたけれど、途中からそれも億劫になってずっと無視してしまっていた。着信に関しては一度も出ていない。
最近はメッセージが送られてくるばかりで、私が出ないと知ってか着信は無くなってきていたのに、今回は久々に着信―――電話だった。
「……」
布団に包まっていた私はもぞりと顔を出し、傍に放置されていた携帯の着信画面を視界に入れた。一体誰からの電話なのかと。
そしてその着信相手を見て、一気に意識が覚醒した。
―――珱嗄だったからだ。
「ッ!!?!? 珱嗄ッ!!」
今まで全く動かしていなかった身体が跳ねるように起き上がり、携帯を乱暴に掴み取る。急に動いたからか心臓の鼓動が一気に速度を高め、呼吸が荒くなるが関係ない。
通話ボタンをタップしてすぐさま声を張った。
「珱嗄!? 珱嗄なの!? ねぇ、無事なの!?」
言葉が上手く出てこず、とにかく必死に言葉を放つ。
すると、その勢いに若干押されたのか少々困惑した様子で返答があった。
『あー……うん、珱嗄さんだよ……無事無事、特に問題なく生きてるよ』
それは間違いなく珱嗄の声で、私が今一番声を聴きたかった大切な人の声だった。
「珱嗄……ぉうか……よかった……よかったよぉ……」
電話口から聞こえてくる大好きな人の声が、こんなにも安心するなんて、夢にも思わなかった。自分ではない誰かが生きていてくれたことが、こんなにも嬉しいなんて、嘘みたいだった。
私はやっぱり、この人が好きなんだと思った。
ボロボロと流れてくる、枯れたほど流した涙がまだ出てくる。目が熱くて何も見えなかったけれど、電話の向こうにはちゃんと珱嗄がいる。
「ぐすっ……珱嗄、今どこにいるの?」
『今はー……えっと、日本ではないかな? 場所は正直わかんないけど、でもリディアンに帰ってるところだから、直にそっちに戻るよ』
「そっか……よかった……」
『心配掛けたみたいでごめんな。響ちゃんがいるから大丈夫かと思ってたんだけど……響ちゃんは?』
「あ……響とは…………私、響に酷いこと言っちゃった」
『そうなの?』
珱嗄が戻ってくることが分かってホッとしたのも束の間、響とのことを聞かれて私は一気に顔が青褪めるのを感じた。珱嗄が帰ってくることはとても嬉しいことだが、それで響が帰ってきていないことは解決しない。まして私は自分の弱さを響にぶつけてしまったのだ。
流れていなかった血液が再度流れ始めたような、身体がどんどん体温を取り戻していくように焦燥感が身体を支配する。
「どうしよう……響が全然帰ってこないの……私、探しに行くわけでもなくずっと現実逃避して引き籠ってたの……本当に馬鹿だ」
『そっか……俺がいなくなってから何か変わったことはあった?』
「え……えと、うん……色々あったよ……響が二課の人に協力してノイズと戦ってることも知ったし……響を狙ってきた子がいたり……あと、珱嗄のお母さんが何か知っているみたいだった」
『母さんが何か言ってたのか?』
「うん……響たちの事情とか、二課のこととか、何か色々知っているみたいだった……珱嗄は何か知ってるの?」
『……いや、正直それは俺も探ってるところだな。でもそうか……わかった、なるべく早く戻れるように急ぐよ。響ちゃんの居場所は多分、二課の人ならわかるんじゃないか? 気になるようなら尋ねるのも良いかもしれない』
珱嗄に最近色々あったことを伝えると、珱嗄は何か考えるような間を置いてからそうしてアドバイスをくれた。確かに、二課の人なら響の行方を把握しているかもしれない。混乱して全然思いつかなかったけれど、珱嗄がその分冷静になってくれていてよかった。
『とにかく俺は無事だから、すぐ戻るよ。あまり危ないことはしないようにな』
「うん……ねぇ、珱嗄……また会えるよね?」
『会えるよ、そこは心配しなくてもいいから』
「……わかった」
珱嗄が何か確信をもってそう言ってくれたから、私はそれを信じて一つ頷いた。
珱嗄は冗談は言うけれど、無意味な嘘はつかない。こういう時に断言するということは、何か根拠があるのだと思う。
折角無事を確認出来て、会話ができるというのにすぐに電話を切るのは少し口惜しいけれど、今の私にはやるべきことがちゃんとある。
自分の弱さで傷つけてしまった親友を迎えに行かないといけない。
そして、きちんと謝って……仲直りがしたい。
今珱嗄に縋っていては意味がない。
やるべきことを、ちゃんとやろう。
「……じゃあ、響を探しに行かなくちゃ」
『そっか……行ってきな』
「待ってるからね、珱嗄」
『ああ、すぐ戻るよ』
そう言って、電話を切った。
しばらく切れた電話をじっと見つめてから、大きく深呼吸をする。ずっと寝転がっていたからか、急にたくさんの空気を吸い込んだ肺が痛かったけれど、おかげで身体に血も酸素も通ったように感じられた。
ベッドから降り、着替える。
制服はしわくちゃのまま脱ぎ捨てられていたので、新しい服を取り出して雑に着た。コーディネートがどうとかは関係なく、近くにあった服を取ったような感じだった。髪もぐちゃぐちゃだったけれど、着替えてすぐに部屋を飛び出す。
一分一秒を無駄にできない。こうしている一秒で、人は簡単に死ぬのだから。
珱嗄は生きていたけれど、そうなっていたかもしれないのだ。
響は―――
「響っ……!!」
響は、私の大切な――
走る、向かう先はリディアンの地下。二課の本部がある場所へ。
「響ぃっ……!!」
親友なんだ。
そう、響は、私のたった一人の、親友なんだ。
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