◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第三話 ノイズとシンフォギア

 ノイズという存在は、この世界において一種の特異災害として認定されている。

 自然災害と同じで人類の力ではどうにもできず、過ぎ去るのを待つことしか対処方法がない存在。今や世界共通で人類の天敵として恐れられている。

 彼らが出現してから、その存在は教育上教科書にも載るほどの脅威として教え伝えられているくらいだ。

 

 その特徴として、基本的に人間しか襲わない。

 

 物理攻撃、兵器による攻撃の効果がほぼない。

 

 人間に触れると触れた相手を炭素変換し、自身も崩壊する。

 

 時間が経つと自然と自壊する。

 

 様々な形状があり、人間大からビル程の巨大サイズまで様々なタイプのノイズがいる。

 

 こういったものが挙げられる。

 とどのつまり現代兵器では倒すことができず、触れられたら炭素に変換されて死んでしまう、大きいものならビルと同等の巨大なものまでいる存在だ。遭遇した場合逃げるしかないのだが、単体で遭遇してしまえば逃げ切れる可能性は少ないだろう。

 

 とはいえ、一生涯で彼等と遭遇する可能性など、一般的に生涯で通り魔に遭遇する可能性よりも低いとされている。ノイズの知識を頭に入れた上で、普通に生活を送っていればそんなに怯える必要もない。

 

 はずだった……。

 

 

 ◇

 

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 立花響は小さな少女を連れて走っていた。

 原因は後方から追いかけてくるノイズの集団。追いつかれれば死んでしまうのは考えるまでもなく明らかだ。

 彼女は二年前の事件で、ノイズの脅威がどれほどの物なのか実体験として知っている。彼らによって死んでしまう人を何人も見たのだ。その表情には、鬼気迫るものがあった。

 

 今日この日、ツヴァイウィングの片翼である風鳴翼の新CDを買いに響は走っていたのだが、CD店舗へと向かう道中で炭素と化した人々を発見。ノイズに襲われることとなってしまったのである。生涯で会う可能性の低さはどうしたと言わんばかりの理不尽さに、響は自身が呪われているんじゃないかと思った。

 そして逃げないといけないと思った矢先、母親とはぐれた少女を見つけ、彼女もノイズから助けるために手を引いて逃走を開始したのだ。

 

「おね、ちゃ……!」

「大丈夫! 私が守るからね……!」

 

 今にも泣き出してしまいそうな少女の声に、響は周囲を見渡しながら強く励ましの声をあげた。

 どんなに複雑に逃げ回っても、時に建物を乗り越え、時に透き通ってくるノイズを撒くことができない。そもそも彼らの数が多い。じわじわと逃げ場所を失っていく感覚に、響はどうすればいいのかと必死に頭を回していた。

 

 裏路地を駆け、川に飛び込み、建物の屋上へと上り、必死に逃げ回ったが、それでもノイズを撒くことができない。

 とうとう響は、逃げ場所の無い建物の屋上でノイズに取り囲まれてしまった。

 

「ひっ……!?」

「大丈夫……大丈夫だからね……!」

 

 諦めない、響はそれでも自分にできることを探す。

 それは二年前のあの日、自分を守ってくれた天羽奏に言われたからだ。どんな状況でも、どんなにどうしようもない怪我を負っても――

 

「生きることを諦めないで!」

 

 ――自分の命を、諦めてはならないと!

 

「!」

 

 その瞬間、響の胸に聖詠(うた)が浮かんだ。

 

「……"Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)♪"」

 

 その聖詠に突き動かされるように、響はその調を口にしていた。

 何故こんな状況で歌ったのかはわからない。けれどその歌には確かな力があると確信していた。

 

 その証拠に、響が歌い終えた瞬間――響の胸の中心から温かな光が生まれ、その光が響の身体を包み込む。

 

「ぐっ……ゥゥ……!?」

 

 響は自身の身体に起こっている変化に戸惑うが、それ以上に身体が内側から破裂しそうなほどの力の奔流に悶える。ガシャガシャと機械音のような音が背中から聞こえ、自分の四肢になにかが纏う感覚があった。

 そして体内を暴れまわる力が落ちついた時、響の姿は先程までの制服とは全く違うものに変わっていた。

 

 オレンジを基調としたインナーと手足に着いたゴツイアーマー。

 それはまるで、二年前に見たツヴァイウィングの二人が着ていた様なバトルスーツだった。なんだこれは、と思う響だったが、それよりもこの状況が変わっていないことに気付いてすぐに意識を切り替える。

 少女を抱き抱え、胸に次々浮かんでくる詩を歌い始めた。

 

 ‐撃槍・ガングニール‐

 

「(なんかよくわかんないけど、今はこの子を守らなきゃ!)」

 

 襲い掛かるノイズ、響は自身の感覚に従って屋上から跳ぶ。

 

「えっ!? ぅわわわわああああ!?」

 

 すると、自分の身体が思っていたよりも跳躍してしまう。自分の普段の身体能力からは考えられない程の跳躍力に驚き声を出してしまうが、どうにか転がるように地面に着地して、すぐさま背後を見る。

 やはりノイズは自分たちを追って屋上から飛び降りてきていた。

 

「っ―――……♪」

「きゃっ……!?」

 

 少女が何が起こったのかを理解する前に、響は駆け出す。

 少女を抱え、ノイズから遠ざかるために必死になって足を動かした。

 

『―――』

「(数が多いっ! どうしたら……!?)」

 

 それでもノイズはわらわらと数を増やし、行く手を塞ぐようにその姿を現してくる。

 そのバトルスーツのおかげか身体能力が向上した響は、ノイズの攻撃をオーバーな動きでどうにか躱す。身体を弾丸のように飛ばしてくるノイズの攻撃は、良くも悪くも直線的なので、戦闘経験のない響であってもどうにか逃げ回ることが可能だった。

 けれどその数の多さは、逃げ場所をじわじわと失くしていき、響の動きをどんどん鈍くしていく。

 

 そして遂に、逃げられない状態の響にノイズが飛び掛かってきた。

 

「あああっ!」

 

 しかし反射的に振り回した響の拳は、触れてはならないノイズを確実に捉え―――そして砕いた。触れれば炭素変換されてしまう筈のノイズを、響の拳は一方的に殴り倒してしまったのだ。

 響は目を見開いてその事実に驚愕する。

 

「(私が――倒したの……!?)」

 

 めまぐるしく変わるこの状況に、何もわからない。

 このバトルスーツはなんなのか、浮かんでくる詩は、この力はなんなのか、疑問に思うことが多過ぎて響の頭はパンク寸前だった。

 

 とにかく響は腕の中にいる少女を守ることだけで精一杯。

 

「くっ…――――♪」

 

 歌う、歌う、歌うことで力が漲るのを感じるから、とにかく歌い続けれなければならないと、響は焦燥感と使命感に突き動かされていた。

 ノイズの攻撃を避け、そして時に振り回した拳でノイズを倒す。

 

 けれど少しずつ自分の首が絞められていくのを感じていた。

 

「(このままじゃ―――……!!)」

 

 だがその瞬間、自分の歌とは違う、()が聞こえた。

 

 

 ――Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

 

 その歌が聞こえた時、響が見たのは……バイクの音と、光と、

 

 青く鋭い剣(・・・・・)だった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

天羽々斬(アメノハバキリ)、現場に到着! そのまま交戦に入りました!」

「正体不明のガングニール装者と民間人は無事です!」

「わかった……頼むぞ、翼!」

 

 特異災害対策機動部二課。

 認定特異災害ノイズに対抗するために設置された政府組織だが、一般人が特異災害対策機動部と聞いて想像するのは、一課の方だ。

 一課も二課も特異災害であるノイズに対抗するための組織ではあるが、その違いはノイズに対抗する武装手段(・・・・・・・・)を保有しているか、どうか。

 

 そう、つまり響が二年前に目撃したツヴァイウィングと、今響が纏っているバトルスーツがソレ。

 

 FG式回天特機装束――その名も"シンフォギア"。

 

「あの数であれば翼一人でもどうにかなるだろうが……あのガングニールを纏った少女は一体……」

「奏ちゃんを失ってから二年……突如現れたガングニールのシンフォギア、ですか」

 

 指令室から響のいる現場の映像を見ながら話しているのは、風鳴翼を出動させた二課の面々。大柄で赤いシャツを着た男性が、ここの指令である風鳴弦十郎。

 この状況下でも冷静であり、現場で交戦している響や翼の姿を見ながら頭の中で状況を整理している。とはいえ思考を回しても、響という存在の正体は掴めない。

 

「状況が終了次第、あのガングニールの少女を拘束し話を聞きたい……人員をそちらに回せ、悪いが緒川も現場へ急行してくれ」

「了解です」

 

 ならばまずは事情聴取が先だろう。正体不明とはいえ、映像を見る限りでは然程危険ではなさそうだったので、弦十郎はノイズ掃討完了後に確保することにした。

 だが、その前に翼と響、そして民間人の少女が無事に生き延びることが先決。普通の人間ではノイズを相手に戦うことができない。弦十郎は年端もいかぬ少女たちに戦わせることに歯噛みしていた。

 

「司令、まもなく交戦が終了します。翼ちゃん及び、ガングニール装者と民間人は無事です」

「……そうか、今回のノイズの被害者は?」

「確認できているだけでも、数十名規模の炭素化が見られています」

「くっ……出現後の出動故に後手に回ってしまうのはわかっているが……」

 

 交戦が終了し、響たちの無事が確認されたことで一先ずは安堵の息を漏らす弦十郎。

 だが、確認されているだけでも数十名の民間人がノイズの被害に遭って命を落としている。詳細に調査すればもっと被害に遭っている民間人は多い筈だ。

 ノイズに対して後手に回ってしまう現状にもどかしさを感じるが、ノイズの生態が明らかになっていない以上どうしようもない。

 

「仕方ないわよ、弦十郎君……今は、この手に残ったものを大事にしましょう」

「了子君……ああ、そうだな」

 

 そんな悔しさに拳を固く握りしめる弦十郎に、白衣を着た女性が声を掛けた。

 彼女の名前は櫻井了子。

 この特異災害対策機動部二課においてシンフォギアを制作した天才科学者であり、シンフォギアを作り上げた『櫻井理論』の提唱者だ。

 

 弦十郎は了子の言葉に意識を切り替える。

 

「司令、翼ちゃんの交戦とは別件ですが……こちらの少年(・・)についてはどうされますか?」

「ああ……そうだな、どうしたものか……」

 

 すると、交戦が終了したことで映像が切り替わり、今度は別の場所の映像が映し出される。それは現在進行形の映像ではなく、街の監視カメラが収めていた録画映像だった。

 そこには、ノイズが出現し街の人々が逃げ惑う中、一人異彩を放つ少年(・・)が映っていた。

 

 ノイズが人々を襲う中で何故か、その少年だけは見えていないかのように無視したのだ。

 

 といっても、少年は人々に危害を加えるわけでもなく、ノイズが襲ってこないのならばと避難誘導に務めている。至って善良で勇気のある民間人の振る舞いをしていた。

 二課の避難誘導が間に合わない中、彼のおかげで被害を免れた民間人も多い。真っ当な判断であれば賞賛こそされ、避難されるいわれは欠片ほどもない。

 けれど、ノイズに襲われない人間など過去一度も確認されていないのだ。

 

「……彼にも話を聞きたいところだが、現状我々が彼に同行を強制する権限はない……彼には申し訳ないが監視を付けて様子を見よう」

「……了解しました」

「了子君はどう思う?」

「そうね……ノイズの生態にまだ隠されている何かがあるのか、もしくは彼自身にノイズを退ける何かがあるのか……私にもまだ想像は付かないけれど、ノイズに対抗できる手段は現状『櫻井理論』に則って聖遺物の力を活用したシンフォギアのみ……だとするならば、彼は何かしらの聖遺物を所有している可能性もありうるかしら?」

「そうだな……後で緒川に彼の身辺調査を頼むとしよう」

 

 弦十郎はそう言って、未だ謎の多いノイズに襲われない少年を見る。映像の向こうでは勇敢にも民間人の避難誘導に務めていた彼の姿があったが、弦十郎はどこか薄ら寒いものを感じていた。

 まるで、異形の怪物が人間の形を取っているような……そんな直感でしかないが。

 

 とはいえ、今はこちらに連れてきているガングニール装者、立花響を歓迎する用意をすべきだろう。

 

 そう思い、弦十郎は大きく溜息を付いた。

 

 

 




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