◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
その後エルフナインは二課に受け入れられた。
そして彼女――正確には性別はないらしい――が持ってきたドヴェルグ=ダインの遺産。聖遺物『魔剣ダインスレイフの欠片』を用いて、フィーネとエルフナインのタッグでシンフォギアの強化改修を行う計画が進められることになった。現状が現状、リスクも高い可能性があるが、出来る限り安全な状態で実行できるよう急ピッチで二人の研究が開始されている。
錬金術師として十分な知識を持つエルフナインと、シンフォギアを始め聖遺物を活用する知識を持つフィーネ。これ以上ない組み合わせだ。
そうしてクリスの『イチイバル』と『魔剣ダインスレイフの欠片』を持ち、フィーネとエルフナインが研究室へと出て行った後、残されたクリスはそれはさておきとばかりに弦十郎に食って掛かる。
シンフォギアが強化されることも、今後熾烈な戦いが待ち構えていることも、クリスにとっては些事でしかない。そんなことよりも気になるものがクリスにはあった。
「そんなことより、アイツは無事なんだろうな?」
「響君か……それがな……」
「おい……まさかいねぇとか言うんじゃねぇだろうな!?」
クリスの問いかけに対して弦十郎が気まずい表情を浮かべる。クリスは勢いよく立ち上がり、弦十郎の胸倉に掴みかかった。
「君達が身を潜めていた廃ビルの一室にウチの者を向かわせたが、響君の姿はどこにもなかったらしい……周囲を入念に捜索したが、見つからない。無論、今も捜索中だ……」
「っ……そんな……なんでだよ」
「これはあくまで可能性の話だが……アルカ・ノイズの出現からそう時間は経っていなかった。遠くに行くことは出来ない筈なのに、何故か彼女の姿がどこにもない……となれば、何者かによる手が加わった可能性がある」
「! ……連れ去られたとでも言いてぇのか? 一体誰に!」
弦十郎も苦い顔をしているが、クリスの心は焦燥感に包まれている。急かす様に弦十郎に結論を求めるが、その答えが未だにわからないことは見て取れた。
胸倉から手を放し、気が抜けたように椅子に腰を落とすクリス。もう何度目になるのか、何もかもが手からすり抜ける感覚がクリスの心を引っ掻くようだった。
弦十郎は掴まれて乱れたシャツを直しながら、だが、と言葉を続ける。
「響君のこととは無関係かもしれないが……実は彼女の親友である小日向未来君も同時に姿を消している」
「!」
「君が響君を連れて身を隠した日に、君も見た少女だ……彼女は響君と決別してからずっと部屋に籠って出てこなかったんだが……先日何故か急に部屋を飛び出した。おそらく響君を探しに飛び出したのだと思うが……監視を目を振り切って姿を消している」
「アイツとその小日向未来って子は同じ奴に攫われたってことか?」
「可能性の話だ。現に聖遺物との融合症例であり、シンフォギアの装者である響君と、一般人である未来君では、二人とも誘拐するにあたって共通する価値が見えない……別々の人間に攫われた可能性もあるし、同じ人間に攫われた可能性もある」
その話を聞いて、クリスは頭をガシガシと掻きながらクソ、と吐き捨てることしかできなかった。
―――立花響を誘拐するなら、おそらくは異端技術関係の人物に違いない。
―――決別されていても、彼女が小日向未来を大切に思っていることに変わりはない。
―――ならば小日向未来は立花響に対する足枷か?
―――だとしたら立花響に何をさせたい? もしくは立花響そのものが狙いか?
クリスの頭の中で最悪なケースがいくつも浮かんでは消える。過去、醜悪な大人の思惑に振り回されてきたクリスだからこそ、そう言った考えが経験から考えついてしまう。
だが考えていても仕方がない。
今は考えつく限りの可能性を虱潰しに当たる他ないし、アルカ・ノイズや錬金術師の動きにも警戒しなければならない。
今二課はまさに、四面楚歌なのだ。
「……一先ずは休むことだ。情けない話ではあるが、今はクリス君が頼みの綱だ」
「わってるよ……ちくしょう……」
やらなければならないことが多い今、クリスは下手に動けなかった。
◇ ◇ ◇
―――目を覚ました時、そこにはいつだって未来がいた。
あったかいベッドの上で、お日様の光がチラついて、うっすら瞼を開けばいつだって、そこには私の日だまりがあった。未来がおはようって言ってくれる日常があった。私はそれが凄く幸せで、二人でご飯を食べて、登校すればそこに珱嗄も加わって、あったかい日常が壊されるなんてこれっぽっちも思わなくて。
いや違う、私が壊すなんて思わなかったんだ。
私にガングニールが埋まってなければ、珱嗄に特殊な力がなければ、未来にきちんと真実を打ち明けていれば、私がもっと強ければ、壊れなかったかもしれない。
今、そんな私の日常は夢の中にしかない。
現実にあったはずのそれが、今や夢現の彼方に夢想するしかできないなんて、逆に笑ってしまう。
ずっと夢の中に居られたらいいのに。
「……ここは」
泡沫の微睡みから目を覚ました時、私は知らない場所にいた。
生活感のある一室、私はベッドに横たわっていて、見渡してみればそこは小学生が使っているような可愛らしい部屋だった。勉強机や少女漫画、良い所の学校なのかランドセルではなく学生鞄と制服も飾ってある。
一体ここは何処なんだろう。
そう思って起き上がって足をベッドから降ろすと、部屋の扉が開いた。
「!」
思わずそちらへ視線を向けると、そこには―――
「響……」
「……未来……?」
――私が目覚めた時、いつも其処に居てくれていた人がいた。
私が目を覚ましたのを喜ぶように目尻に涙を溜めて、両手を前に向けながらゆっくり、おそるおそる近づいてくる。
「響……ごめんなさい、私……貴女に酷いこと言っちゃった」
「っ……!?」
そうして私の目の前まで来ると、私に触れようとしていた両手を引っ込めて胸の前で組んだ。そのまま膝を着いて、ポロポロと涙を零しながら未来は謝ってきた。
私に酷いことを言ったと、許してほしいと。
私はどうして未来がそんなことを言うのか分からなかった。未来の方がつらかった筈だ、珱嗄を失って、私に嘘を吐かれていたんだから。未来が私を拒絶することは当然の反応だった。
それでも、未来は。
『――大人しくここで仲直りの方法でも考えてろ!』
不意に、クリスちゃんの最後の言葉が頭に響いた。
仲直り……出来るんだろうか、私と未来はもう一度親友に戻れるだろうか。
「……未来……顔を上げて」
「ぐすっ……うん゛」
「私の方こそ、ごめんなさい……珱嗄がいなくなって、未来にとって辛い時に傍に居てあげられなかった……あまつさえ未来に嘘を吐いて、隠し事をして、未来を裏切ったと思われても仕方がないことをした……私の弱さが、未来を傷つけちゃった……本当に、ごめ、ごめんな、さい……!」
顔を上げた未来の表情はぐしゃぐしゃで、目が赤くなっている。よく見たら、かなり痩せているし、髪もいつものリボンがない。ボロボロだった。
私はそんな未来に、懺悔するように謝る。私のやったこと、弱かったこと、謝りたいことを全部告白して、私は未来に謝った。最後、堪え切れない涙に言葉が途切れ途切れになってしまったけれど、それでも謝った。
未来は私の謝罪を聞いて余計に涙を溢れさせて、ベッドに座る私を抱きしめてくれた。
「いいの……! 響、響は悪くない……! 私がもっと強かったらよかったの、響の苦しみを背負えるくらい……強かったら……! 全部響に背負わせちゃった……本当にごめんなさい……ごめんなさい……!」
「みぐ……っ……ぅ……うぁぁあ……! みくぅ……!!」
「ひびきぃ……! ぅぇぇぇん……!!」
抱きしめる力が強くなって、私も未来の身体を抱きしめ返した。
私たちは弱い。戦う力も、心も、弱かった。
だから全てを粉々に破壊してしまった。
それでも、まだこの命がここにある。未来の命がここにある。
強くなりたい、この手に残ったものを全て守れるくらいに、強く。
きっとお互いにそう思いながら、私たちは仲直りをすることが出来た。
◇
一頻り泣いて、お互いにぐしゃぐしゃになった顔を見て笑えるくらいに落ち着いた時、開かれっぱなしだった扉がコンコンとノックされた。
二人してパッとそっちに視線を向けると、そこには金色の髪に両目で色の違う女の子がいた。見た感じでは小学生くらいの年の子で、浮かべている笑顔からは本人の優しさが伝わってくるような温かさを感じる。そしてどこか、懐かしいような雰囲気を纏った子だった。
女の子は部屋に入ってくると私と未来に話しかけてくる。
「えっと、お取込み中だったからタイミングを見計らってたんですけど……そろそろいいかなって」
「あ、ぁあっ……はい、すみません」
そういえば見知らぬ人の部屋でわんわん泣いてしまっていた。おそらくはこの子の部屋なんだろうと思って、申し訳なさに姿勢を正す。なんというか、目の前のこの子には年下って感じがしない。妙な貫禄があるような感じがあった。
私の様子に苦笑した女の子は、勉強机の椅子を引いてそこに座る。
「まずは自己紹介ですね、私の名前はヴィヴィオです」
「ヴィヴィオ、ちゃん?」
「二人のことは知ってますよ、立花響さんと、小日向未来さんですよね?」
「なんで、私たちのこと……」
「響、私もまだわからないんだけど……どうやらこの子が私たちをここに連れてきたみたい」
「この子が?」
未来はこの部屋の外にいた。ということはある程度この子とも話していたんだろう。
と言っても、こんな小さな子が私と未来の二人をこんなにも簡単に攫えるとは思えないんだけど―――そうなると、この子も何らかの特殊な力を持っているってことになる。
私は静かに警戒心を高め、未来をいつでも守れるように体勢を調整した。
するとそれに気が付いたのか、ヴィヴィオちゃんはくすくす笑いながら、なにもしませんよとばかりに両手をひらひらと振る。
「安心してください、私は別にお二人に危害を加える気はありません」
「じゃあ、私たちはなんで攫われたの?」
「協力して欲しいことがあるんです」
「協力……?」
ヴィヴィオちゃんはそう言うと、どこからか兎のぬいぐるみが出てきた。ふわふわと宙を浮いて、明らかに普通ではない代物。意思を持っているか、ぴょこぴょこと身体を動かしていた。
「クリス、お願い」
「クリス……?」
兎の名前なのか、ヴィヴィオちゃんがそう呼ぶ。不意にクリスちゃんの顔が浮かんだ。
大丈夫だったかな、ノイズとの闘いで怪我をしていないといいけれど……何も言わずに姿を消しちゃっているし、心配掛けているかもしれない。
そんなことを考えていると、ヴィヴィオちゃんの指示で兎のぬいぐるみがキラリと光った。瞬間、空中にいくつかのディスプレイが現れた。
凄い。現代科学でもこんな色々な機材が必要になりそうな現象を、ぬいぐるみ一つで展開するなんて。
「見てください」
「これは……」
ディスプレイに映っているのは、私達装者とノイズとの戦闘映像や、知らない人たちの姿、あとは珱嗄や未来、珱嗄のお母さんの姿もある。
「現在、特異災害対策機動本部二課は深刻な危機的状況にあります。先日現れた新型のノイズに加え、錬金術師や別の聖遺物研究組織の登場で手が足りていないからです」
「新型のノイズ?」
「アルカ・ノイズと呼ばれる、錬金術によって作られたノイズです。解剖器官と呼ばれる発光する部位を持ち、それで触れたものは生物であろうと無機物であろうと、シンフォギアであろうと分解して破壊することの出来る力を持っています」
「シンフォギアも……!?」
ヴィヴィオちゃんの映像に映るノイズには、確かに今までのノイズとは違う部位が備わっており、説明通りの現象が起こっている。最後まで見ると、どうやらクリスちゃんは無事らしい。師匠が保護したようだから、おそらく悪いようにはされていない筈。
でもそこには私と同じガングニールを纏った別の装者が映っていた。この人は一体誰だろうか?
私のそんな疑問を察してだろう。
ヴィヴィオちゃんは映像を一旦消すと、私と未来を見る。
「お二人には現在の状況を一から説明します。その上で、私に協力してもらいたいんです」
「協力……何をするっていうの? 私はともかく、未来に危険な真似はさせられない」
「響……」
「危険かどうかはさておき……無理強いするつもりはありません。ただ、お二人の力が必要なんです」
ヴィヴィオちゃんの目は真剣だった。
見た目は小学生らしく可愛らしいのに、その瞳から伝わる迫力は凄まじく大きい。まるで王様を前にしているような、そんな覇気すら感じられた。
未来も私も、その空気に飲まれて唾を飲む。
ヴィヴィオちゃんはゆっくり立ち上がると、両手を私たちの方へと差し出しながら告げる。
「全ての元凶―――安心院なじみを止めます。協力してください」
弱さから全てを失った私達がもう一度立ち上がるために差し伸べられたのは、私達よりもずっと小さく、柔らかな手のひらだった。
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