◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第三十二話 Elixir

 翌々日、フィーネとエルフナインを含めた二課の全員で対策会議が行われていた。

 議題は勿論アルカ・ノイズの襲撃に関すること、そして新たな装者のいる『F.I.S.』との会談についてである。先日のアルカ・ノイズの出現から三日が経った今、いつ次なる攻撃が行われてもおかしくはない。

 まずは現在進行形で進められているシンフォギア強化計画についての報告から話は始まった。フィーネとエルフナインが前に出て、モニターに資料を表示する。

 

「まず、シンフォギアの強化の具体案について説明します。今回フィーネさんと僕で話し合いをした結果、目を付けたのは立花響さんが過去二度見せた暴走状態です」

「響君の暴走状態?」

「データを拝見したところ、通常時ですら融合症例である立花響さんの出力は非常に高いものになっていましたが、特に暴走時の出力は通常時の比ではなく高くなっています」

 

 エルフナインの説明に合わせて、フィーネが当時の映像資料をモニターに映し出した。そこには漆黒のオーラに包まれ理性なく暴れ回る響の姿がある。

 当時はそれを翼の絶唱で気絶させたり、『デュランダル』の破壊力の余波で気絶したり、おおよそ自分の意思では暴走状態を跳ねのけることはできていなかった。制御のできない力はどれだけ巨大な力であっても、使い物にならない。

 

 だが、エルフナインは説明を続ける。

 

「僕の持ってきたドヴェルグ=ダインの遺産は、『魔剣ダインスレイフの欠片』です。最初はこの聖遺物の呪いの力を使用し、意図的な暴走を起こし、制御システムを組み込むことでその出力を理性的に扱うことを可能にする、という計画でした」

「なるほど……だが、呪いの力というからにはそう簡単にはいかないのではないか?」

「はい。比較的安全性の高い強化が可能ですが、この意図的な暴走状態――呼称名『イグナイトモード』を使用する際には、装者を一種のマイナスな心理状態へ引きずり込むことがあります。なので、それを跳ねのけるための強い精神力が装者に求められるんです」

 

 エルフナインの説明に、弦十郎たちの視線がクリスへと向く。

 クリスはその視線に対し、眉間に皺を寄せる。噛みつくような言葉が出てこないのは、彼女自身も自信がないからだろう――自分の心が、その呪いを跳ねのけるほど強くないと。

 フィーネと行ってきた活動が全て間違いで、自分の手で様々なものを傷つけて、壊してきたことを今もなお悔やんでいるクリス。そしてほんの罪滅ぼしに響の世話をしていたのに、少し目を離した隙に攫われる始末。

 クリスの精神状況は滅茶苦茶だ。

 こんな状況で敵と戦い、その中で少しでも精神を揺さぶられることがあれば、すぐに折れてしまうことが簡単に予想できた。

 

 そうしてクリスに集まった視線を再度戻すように、フィーネが口を開いた。この先はエルフナインでは言いづらいだろうと考えたからだろう。

 

「貴方達の懸念はわかる。今のクリスではこのまま『イグナイトモード』を実装した所で使いこなせない。寧ろ起動させた段階で呪いに飲まれて戦闘不能になるでしょうね……まぁ起動しなくてもアルカ・ノイズの解剖器官から身を守る程度の恩恵は通常時でも得られるでしょうけど」

「では……」

「だから、今回の『イグナイトモード』をより安全なものにするべく『デュランダル』を使用することにした。完全聖遺物で"不滅不朽"の性質を持つ代物だから本体を傷つけることはできなかったが、抽出した莫大なエネルギーをエルフナインの持つ錬金術の知識を用いて結晶化することに成功した」

 

 そうしてフィーネが取り出したのは、試験管に入った黄金の液体だった。結晶化とはいったものの、その実態は固形物ではなく液状である。

 無尽蔵のエネルギーを持つ聖遺物から抽出したからか、試験管内の少量であるにも関わらず膨大な量のエネルギーを感じさせる輝きを見せていた。

 

 フィーネはその液体の入った試験管を十本ほど取り出して見せる。

 

「錬金術の神髄は理解・分解・再構築の基礎を用いた異端技術だ。私の持ちうる『デュランダル』と聖遺物に関する知識を与えることで解析にそう時間は掛からなかった……あとは『デュランダル』から常に生み出されている無尽蔵のエネルギーと共に"不滅不朽"の性質を抽出し、液状に再構築したのがコレだ。名称は『Elixir(エリクサー)』」

「『イグナイトモード』を起動した際、同時にこちらの『Elixir』が自動投与されるようにシステムを構築しますが、厳密には『イグナイトモード』と『Elixir』は別々のものになります」

「『イグナイトモード』の起動時同時投与されるこの『Elixir』は、『デュランダル』の膨大なエネルギーと"不滅不朽"の性質を装者の肉体に一時的に付与することが可能……それにより、『イグナイトモード』を起動しても装者の肉体と精神は呪いの影響を受けず、シンフォギアの出力のみが暴走状態へと移行する」

 

 フィーネとエルフナインが交互に説明するのを聞いて、弦十郎たちは頷きながら遅れて諸々理解していく。

 つまり今回二人の作り上げた『Elixir』を投与することで、装者の肉体を『イグナイトモード』に耐えうる状態に強化するということだ。シンフォギアの強化改修と同時に、装者の肉体そのものを強化するという発想には驚きだったが、聞く限りでは完璧に安全なように思える。

 

 しかし、弦十郎には一つ懸念があった。

 

「だが……その『Elixir』は一種の聖遺物と同様の代物ということだろう? それを装者の肉体に投与するということは、副作用などもあるのではないのか?」

「流石、賢しいな……そう、簡単に言えば『LiNKER』と同じく体内汚染の洗浄が必要になってくる。これは『イグナイトモード』同様、立花響という聖遺物との融合症例から着想を得ている……つまりこの『Elixir』は投与時、一時的に装者の肉体を聖遺物との融合状態にする代物なのだ。まぁ『LiNKER』と違って効果時間と効力は桁違いに高いことで、過剰投与する意味がないのが救いといえば救いか」

「……それは『イグナイトモード』を使う度に投与する必要があるわけだろう? 仮に体内洗浄を毎回やったとして、投与し続けた場合の副作用はあるのか?」

「毎回体内洗浄を行えば然程影響はない筈だが、一度の戦闘の中で二度三度イグナイトを発動し、連続投与した場合は間違いなく体内洗浄しきれない部分が出てくる。そうなれば、肉体を蝕む可能性も当然出てくるだろうな」

 

 フィーネは淡々と事実だけを述べる。

 適合係数を引き上げる薬品『LiNKER』ですら、体内洗浄を行わないと肉体に重い負荷が掛かる。一時的とはいえ聖遺物と融合させる『Elixir』であれば、その扱い方はより慎重に行わなければ危険極まりない。

 だが、弦十郎はそれを使用しないという選択を即座に取ることが出来ない。本来装者の精神状態が万全であれば『イグナイトモード』そのものがかなり安全に作られた機能である。それを百パーセント安全にする必要があったのは、装者のケアが出来ていなかった自分たちの責任なのだ。

 

 フィーネとエルフナインは出来る限りのことをやっただけ。この短い期間でここまでの代物を作り上げてきたというのは、当たり前にはいかない所業だ。

 

「……まぁ、クリスが選択すればいい。投与するにしろ、使わないしろ、戦うのはクリス自身だ」

 

 だがフィーネは弦十郎たちのその葛藤を理解した上で、一つ溜息を洩らしながらクリスに選択権を委ねた。連続投与した場合は肉体に異常を引き起こす可能性はあると言ったが、そもそも正しく扱い体内洗浄をきちんと行えば問題はないのだ。

 あとはクリスが無茶な行動をしないようにできるかどうかだ。

 

「……いいよ、そいつがあればアタシ一人でも大きな戦力になるってこったろ? 正直、アタシ自身心がまいってることは認める……だから、使うよ」

「クリス君……すまない。我々の力不足で」

「そうだ、お前らの力不足だ……そんで、アタシの過ちのせいだ。けど今は何処に責任があるとか、そんなことを言ってられる状況じゃねぇだろ……やるしかねぇんだ」

 

 クリスは腹を括っていた。

 攫われた響を取り戻し、アルカ・ノイズを全て掃討し、件の錬金術師キャロルや球磨川禊もぶっ飛ばす。手に余ると理解していても、その全てを、自分一人でも成し遂げると。

 だからこそ、力がいる。

 全てを薙ぎ倒す強い力が。

 それが手に入るというのなら、仮に人の身でいられなくなったとしても構わない。平和に暮らすべき人の平和な日常を取り戻し、ノイズに苦しめられている一般人を救い、人類の脅威になりうる存在を打倒できるのなら。

 

 それが罪深い自身の行いの報いであると、覚悟を決めて。

 

「アタシにしかできねぇことだ」

 

 雪音クリスの覚悟に、二課の意見は一つになった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 リディアンの地である程度人通りのある住宅街の一角、一つの建造物の上で青いドレスに身を包んだ色白の人形が立っていた。キャロルから指示を受けてきたオートスコアラー、ガリィ・トゥーマーンだ。隣には球磨川禊の姿もある。

 カランコロンと心地いい音と共に下を見下ろせば、賑やかというわけではないが、相応に人の姿がちらほらと見えた。キャロルの指示を実行するには都合がいいかと判断し、ポケットから小さなクリスタルをいくつも取り出す。

 

「『それがアルカ・ノイズを召喚するっていう』『なんとかジェム?』」

「そうよ、なんならアンタにもノイズをけしかけて塵にしてあげましょうか?」

「『キャロルちゃんの命令違反じゃないの?』『それ』」

「アンタが消えたところで戦力の低下にはならないわよ、マスターだって許してくれるでしょ☆ ま、アンタは死なないんでしょうけど」

 

 そう言いながら、ガリィはポイッと小さなクリスタルを豆を撒くようにばら撒いた。地面にぶつかって粉々になるクリスタルは魔方陣を生み出し、そこから大量のアルカ・ノイズが姿を現す。

 その数はかなりの量で、奇妙な音を鳴らしながら歩いていた人々に襲い掛かりだした。

 

「うわぁあぁああああああ!! ノイズだぁぁ!!」

「きゃああああ!!」

 

 アルカ・ノイズに気が付いた人々は悲鳴を上げながら逃げていく。逃げそびれた者たちが次々に赤い塵へと分解されていき、時間と共にその被害者数を増やしていく。

 

「さて、と……あとは適当に暴れさせながら装者の到着を待つとしましょうか」

「『それじゃあ』『さながら少年漫画の様に』『屋上で思い耽るシーンに入るかな』」

「勝手にやってなよ、ガリィは行くから」

「『え』『別行動?』」

「アンタと一緒に居たくないの☆ さよ~なら~♪」

 

 ガリィの言葉を受けて屋上の隅に腰掛けて格好つけたポーズを取る球磨川だったが、ガリィはそれに付きあう気はないとばかりに去ろうとする。球磨川がそれに対して驚いたような声を漏らした。まさかキャロルの同行しろという命令を無視して、早々に別行動をするとは思わなったからだ。

 そんな球磨川に対しなんの感情もない笑顔を浮かべながら、ガリィは屋上から飛び降りていく。

 

 取り残された球磨川は、えー……と孤独を感じながら、しばらく呆然としていたのだった。

 

 




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