◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
新たなアルカ・ノイズの襲撃に対し、二課の動きは迅速だった。
即座に強化改修済みのシンフォギアを持たせたクリスを現場へと急行させ、付近住民の避難誘導に人員を割く。幸いまたも人通りが多くない場所での出現なので、ゼロとまではいかないが、被害者も最小限に抑えることが出来るだろう。
同時に、弦十郎はマリアから渡されていた連絡先へ連絡を取った。
クリスが『イグナイトモード』を起動してなおピンチに陥った時、援護してくれる装者がいてくれる方がいいと考えたからだ。
コール音が数回響いた後、電話が繋がる。
『……こちらマリアよ、ノイズの件かしら?』
「! 気づいていたか、すまないが協力を要請したい。無論会談の用意も進んでいるので、現在出現しているアルカ・ノイズをどうにかした後で詳しい日程を擦り合わせたいと考えている。虫が良いかもしれないが、協力してはくれないだろうか」
『まぁ、こちらとしても無意味な被害を許すつもりはないわ。こちらの戦力を示す意味でも良い機会だしね……現場に急行するわ。詳細データを送って頂戴』
「恩に着る……!」
通話が切れると同時、弦十郎の指示でマリアの渡したアドレスに現場の座標や映像が送られる。アドレスから『F.I.S.』の拠点場所が割れるのだろうが、二課としてはそれをしない。装者が四人いるというのなら戦力さは歴然、敵に回してしまえば手に負えなくなるのは自明の理だ。
ならば、拠点場所を割り出したり情報を引き出したりといった、敵対とみなされてもおかしくない行動を取るべきではない。
そうしているとクリスが現場に到着したらしく、交戦が開始していた。
「『イチイバル』、アルカ・ノイズと交戦を開始! 強化改修による解剖器官への防御機能も機能しています!」
「できれば『イグナイト』の起動をせずに済めばいいのだが……あの数では難しいか」
「『F.I.S.』からの応援の到着がいつになるか、といったところですね」
藤尭の報告を聞き、現場の映像からクリス一人では厳しいと判断する弦十郎。
不幸中の幸いなのは、クリスが一対多数の戦闘に向いたシンフォギアを扱っているということだろう。重火器による面での殲滅が可能であるクリスであれば、ノイズの質量に対して押し負けるということもない筈。
時間を稼ぐことが出来ればそれでいい、マリアの戦闘能力と同等の装者が何名来るかは分からないが、二人以上来てくれれば道は開ける。
「頼むぞ、クリス君……!」
弦十郎は最悪の場合、ネフシュタンを持って自分が現場に出ることも視野に入れていた。
◇ ◇ ◇
発砲音と火薬の炸裂する音が連続して響く。
クリスの手にあるハンドガンから、腰に着いているミサイルから、時に巨大な爆弾を撃ち放ったり、マシンガンから何千発もの弾丸が壁のようにノイズ達を攻撃していた。
前回と違って、多少なりとも一般人が存在する場所での交戦であること。そして陸空両方から襲い掛かるアルカ・ノイズの量が前回よりも多いこと。これらが関係してクリスの全方向への弾幕攻撃も若干の鈍りを見せており、時折ノイズからの攻撃が弾幕を抜けてくることもある。
とはいえ、フィーネ、エルフナイン両名の強化改修は上手くいっているようで、解剖器官による攻撃を受けてなおシンフォギアは無事。致命的なダメージを負うことなく今のところは均衡を保てていた。
「数が多いな……!」
だが一人で受け持てる量にも限界がある。
前回はマリアというシンフォギア装者が援護にきてくれたから無事で済んだものの、このままでは前回の二の舞だ。いずれは物量で押し切られてしまうだろう。
そうなった場合は――
「(っ……『イグナイト』が使えるのは一回の交戦につき一度だけ……『Elixir』を使用する以上制限時間はないって話だが……それでも使うべきタイミングにどうしても慎重になっちまう……!)」
独りだ。
クリスのギアであれば超質量の相手であっても戦うことは可能だが、それでも単身で戦っている。二課の戦力が本当に万全であれば、後ろは響が守ってくれていたかもしれない。頼れる先輩として風鳴翼が地上のアルカ・ノイズを一掃してくれていたかもしれない。
そうだったらどんなにか。
それでも今、クリスは独り。誰の助けも期待せず、自分独りでこの状況をどうにかしなければならない。
ならば、この瞬間に強くならなければ道はない―――!!
「んのぉぉぉ!!! もってけダブルだぁぁぁ!!」
ガシャン、と一際大きな音と共に腰の左右に何十発ものミサイルが姿を現し、ノイズ達へと放たれる。一発一発が直撃と同時に爆裂し、同時に何体ものノイズを消し飛ばしていく。連続する破壊音、赤い炎と閃光が視界一面を染め上げていく中でクリスは思考を回す。
次は何を――
あと何体――
周辺の一般人は――
幾つもの事柄を一度に捉え、同時に脳内で処理していく。
その場から駆け出し、飛び上がり、シンフォギアの効果で引き上げられた身体能力で姿勢制御を行いながら、的確に打ち漏らしたノイズをハンドガンで打ち抜いていく。それと同時に着地した地点にいた一般人を抱えてノイズからさらに距離を取った。
「早く逃げろ!」
「っ……!」
クリスの必死の声に逃げ遅れていた女性が大きく頷きながら走り去っていく。
クリスはそれを確認する間もなく、ミサイルの閃光が収まった後に現れたノイズ達を視認した。かなりの量が減ったが、それでもまだまだ次から次へと湧いてくる。
それでもクリスの思考は鈍ることなく研ぎ澄まされていた。
「(考えろ―――次に何が起こるのか、アタシがやるべきことの優先順位は、最悪のケースは、アタシが死んだら、全てが終わるぞ!!!!)」
間違いなく瀬戸際、背水の陣、クリスの背中に今、このリディアンの全ての命が掛かっている。その自覚がクリスの思考能力の上限を大きく引き上げていた。
火事場の馬鹿力と言えばそういうことなのかもしれない。追い詰められているからこそ、逆に思考がクリアになっているのかもしれない。
それでも、クリスは自らが置かれている状況、自分自身の戦力的価値、敗色が濃い事実、その全てを理解した上で腹を括っている。
だからこそ、限界などいくらでも超えてみせるのだ。
「ッ!」
ガシャン、と空薬莢がハンドガンから排出され、クリスの歌と共にリロードされる。
同時にノイズ達が一斉に襲い掛かってきた。
クリスは右に片手側転をしてそれを回避、同時に空いた左手で二体のノイズを打ち抜き、空中にハンドガンを放る。そして一回転したのち右手で空中のハンドガンをキャッチして先ほどまで自分のいた場所へ襲い掛かっていた三体のノイズを打ち抜いた。
その隙に左手にもハンドガンを作り出し、その場で回転しながら周囲のノイズを一気に打ち抜いていく。僅か数秒の内に十数体のノイズを塵に変えたクリスだったが、その動きは止まることはない。
「ッらぁっ!!」
バックステップで距離を取りながら生み出したマシンガンで弾幕を張る。ズガガガガガガガガッ、と連続して響く炸裂音がノイズを一気に打ち抜き、地上のノイズの数を一気に減らしていく。
だがその隙に上空にいたノイズがクリスを襲い掛かってくる。マシンガンの反動で掃射中に動けないクリスだったが、限界を超えて広がっていた彼女の視野は確実にその動きを捕らえている。
撃ち続けている間は動けない。撃つのを止めても反動で確実に隙が出来る。
どうすればいいのかと一瞬考え、すぐに答えを出した。
驚くべきことにクリスはマシンガンの反動に耐えながら、強引にマシンガンを上空に放り投げたのである。撃ち続けている状態で放り投げられたマシンガンは上空から迫るノイズ達の前に迫るが、そこから途中まで発射されていた弾丸は見当違いの方向へと放たれノイズを傷つけない。
しかし、
「こっちが本命だ!!」
重いマシンガンを放り投げたことで反り返った体勢になったクリスだが、その状態のままノイズの前に放り投げたマシンガンをミサイルで打ち抜いた。
ミサイルの爆裂とマシンガン内の火薬が同時に炸裂し、その熱と衝撃で目の前にいたノイズを消し飛ばし、砕けたマシンガンの破片が周囲にいたノイズの身体を貫くことで塵へと変えていく。
その結果を見ずに反り返った身体の勢いのままにバク転。さらに後方へと飛び下がることで、自分がいた場所へと襲い掛かってきていた地上のノイズ達を回避する。
瞬間、クリスを捕らえ損なった複数のノイズ達の中心で爆発が起こり、さらにノイズ達が塵へと変わった。
「プッ……ざまぁみやがれ」
着地したクリスの口から何かが地面に吐き捨てられる。
見ればそれは手榴弾のピンのようなものだった。クリスは後方へバク転しながら自分のいた場所へ手榴弾を放っていたのだ。それがノイズたちを巻き込んで爆散したのだろう。
僅か数分の間に地上のノイズのほとんどを掃討したクリスは、時間が経つほど自分の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じていた。銃の反動で身体に疲労が溜まっていくが、同時に動きに無駄がなくなっていく。最小限の動きで、最大限の行動を完了させることが出来ていた。
重火器を扱うシンフォギアだからこそ、視野に入るあらゆる情報に対して最大効率で最多の行動を取ることが更なる武器になると、感覚で理解したのである。
「はぁ……はぁ……」
だがそれでも、ノイズの姿はまだ残っている。
最初にいた数をあらかた片付けてはいるが、まだ十数体のノイズがいた。今のクリスならば『イグナイトモード』を起動しなくても掃討し切れる数だ。
「ふぅー……」
ガシャン、再度ハンドガンを握り、弾丸をリロードする。
そしてアメジスト色の瞳で空間内の情報を全て見逃さない様に視認した。残り十数体であろうと油断はできない――このノイズ達を使役している何者かが隙を突いてくる可能性も、クリスは頭の片隅でしっかり考えていた。
最悪のケースを想定し、今の問題を優先順位の高い順に片付ける。それも、最も効率的に、最も少ない手数で、最も消耗の少ない状態を保ちながら。
故に、クリスは反応した。してみせた。
「ッ―――!」
両手のハンドガンで残り十数体のノイズを、時に二体同時に貫き、時に手榴弾を投げて一掃しながら、背後から降り抜かれた
そしてその剣を持っていた人物の足を払い、前のめりに倒れるその人物の顎をハンドガンの銃口でかちあげる。
「ゥグッ!?」
「フッ……!!」
「ぁうッ……!」
そして『デュランダル移送計画』の時に自身が響に食らったように、かちあげられて蹈鞴を踏んだその人物の無防備の腹部を回し蹴りで蹴り飛ばした。
ガシャン、と人体から聞こえるようなものではない音と共に地面を転がるその人物は、青いドレスに身を包んでおり、肩口で切りそろえられたショートヘアの青白い肌をした少女だった。見るからに人間ではなく、信じられないことに人形であることが分かる。
クリスは警戒心を高めながらハンドガンをリロード、いざという時は『イグナイトモード』の使用も手札に加える。
「誰だ、てめぇ」
「あーん、隙を突いたと思ったんだけど、存外やるのね」
「誰だって聞いてんだ!」
ジャキッと銃口を向けて語気を強めるクリスに、青いドレスの人形はギザギザな歯を見せて悪戯に笑うと、優雅にポーズを取りながらバレリーナの様に頭を下げる。
「私は敬愛なるマスター、キャロル・マールス・ディーンハイムによって作られた
「……ついに錬金術師の手下が登場かよ……アルカ・ノイズをけしかけたのもてめぇだな?」
「そうよ? アンタが来るのが遅いから何人か一般人が死んじゃったみたいだけどね。アハハ☆」
「性根が腐ってやがんな、てめぇ」
「さ・て、大分疲弊したみたいだけど、あの数を一人で掃討したのは褒めてあげる☆ でも、第二ラウンドといきましょうか。まだまだ踊ってもらうわよ、ガリィの手の上でね!」
そう言うが否や、ガリィはポケットから数十個のクリスタルを取り出し地面にばら撒いた。警戒するクリスだったが、砕けたクリスタルが魔方陣を生み出し更なるアルカ・ノイズを召喚したのを見て驚愕する。
その数は先ほどよりは少ないが、それでもかなりの数だ。加えてガリィという未知の敵がいる中で、疲弊した自分がコレを相手にできるかと言われたら厳しい所だろう。
胸についている赤いギアクリスタルに手を掛ける。
「……っ」
『イグナイトモード』、ここでやるべきかと逡巡するクリス。
ガリィという少女の戦闘能力も未知数である以上、大量のノイズを前に出し惜しみはしていられない。
そうしていざ起動ワードを口にしようとした瞬間、大量のノイズ達が何らかの攻撃を受けて一気に数を減らした。
一体何が、と思うクリスだったが、すぐにその答えはわかった。
「遅くなって悪いわね……助太刀するわ」
「状況はわからないけど……」
「悪そうな奴はニオイで分かるのデス!」
クリスとガリィの間に現れた、マリアと二人の見知らぬ装者がその答えだった。
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