◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第三十五話 未来への億劫さ

 シンフォギアの新たな決戦兵器『イグナイトモード』。

 これを起動することに不安がなかったと言えば嘘になる。アタシの精神状況はきっとかなり脆かっただろうし、ツギハギだらけのハリボテで何でもないように見せかけているだけだったから。

 それくらい、アタシの過去には後悔や罪が多すぎた。

 パパやママの夢、音楽で世界を平和にしたいという夢物語にも程がある理想の為に、アタシは幼いながら色んな国を巡った。戦争が起きている国にも平気で向かい、音楽を奏で続けたパパとママ。今思えば、幼いアタシを連れて国々を巡るのには大変な勇気が必要だっただろうと思う。

 それでも、その結果が爆弾の誤爆に巻き込まれて死亡。

 アタシを残して、二人とも死んでいった。馬鹿な夢を抱いて、愚かな活動をして、無残に死んだんだ。何が歌だ、何が平和だ、そんな簡単なことで人と人が手を取り合えるものかよ。

 

 だからアタシは、歌が嫌いだ。

 

 けれど、歌を歌わないと敵を倒せない。シンフォギアはそう言うものだからだ。奇しくもパパとママがやっていたことをアタシもやっているのかもしれない。まぁ、歌そのもので何かが変わるわけじゃねぇけど、実際に敵を撃っているのはアタシの弾丸だからな。

 だから、アタシは嫌いな歌でも戦場で歌を歌う。

 今、この瞬間が分岐点なんだ。

 アタシがやるべきことを、やるべき時に、やれる日が来たんだ。今ここで立ち向かわないでいつ立ち向かうんだってくらいに。

 

 だから起動した――この呪いの旋律を。

 

「『イグナイトモード』抜剣!!!」

 

 ガチン、と胸のギアクリスタルのスイッチを入れる。

 するとギアが煌めき、光の針のようなものが飛び出した。おそらくこの針を受け入れることで呪いの力がギアの出力を引き上げるというのだろう。

 

 ズブリ、とギアクリスタルに重なるようにその光の針が胸に突き刺さり、同時に首の後ろから物理的な針がブスッと刺さったのを感じた。おそらくこっちは『Elixir』の投与だろう。

 胸から広がっていく呪いの力が全身を覆うけれど、内側で温かい力がアタシの心を守ってくれる。そして数秒の後、アタシのギアは漆黒を身に纏うような形状へと変化していた。

 

 かつてないほどの全能感と、暴走した場合と同等の高出力を感じる。高まった集中力と相まって、何でもできそうな気持ちだった。これはマズイな、腹を括ってなかったらこの全能感に飲まれていたかもしれない。

 『ダインスレイフの欠片』が呪いによって装者の心を壊そうとするように、『Elixir』はあまりの全能感に滅茶苦茶に力を振るいたくなっちまう。後で言っとかないとな。

 

「すぅー……ふぅー……」

 

 深呼吸しながら、意識を整える。

 この全能感に飲まれてはいけない。アタシは未だ弱いままのアタシだ。強い武器を持ったからといって、それでアタシが強くなったわけじゃない。

 

 今は、

 

「それがアンタの切り札ってわけね☆」

 

 目の前のコイツを倒すことに集中しなければならない。

 青いオートスコアラー、ガリィ。コイツの実力はおそらくアタシよりもずっと高い。『イグナイト』を起動し、『Elixir』を投与してようやく勝てるかってところだろうか。あとはコンディション次第だが、アタシのコンディションは絶好調だ。

 

 疲労と反動で軋む身体も、今は『Elixir』のおかげでいつも以上に動かせる。まぁ、あとの反動が怖いけど。

 

「行くぞ!」

 

 漆黒に染まり、少しごつくなったハンドガンの引き金を引く。威力の上がった弾丸はまっすぐに人形の方へと迫るが、当然素直に受けてはくれない。生み出されていた水の渦が弾丸を飲み込み、それを防いだ。

 同時に水が分裂し、アタシへの仕返しか弾丸の形を取って迫ってくる。

 

 その場から跳躍しハンドガンで奴を狙うが、半透明の青い壁の様なものが弾丸を全て弾いていた。水を超えても、奴を守る盾が存在するらしい。下手な攻撃では傷一つ付けられそうにない。

 であれば、高火力で押し通すまで!

 

「食らえ!」

 

 ――MEGA DEATH PARTY

 

 空中で大量のミサイルを撃ち放ち、その反動を利用してアタシは後方へと着地する。奴も流石にこの火力は面倒だと思ったのか、氷の道を作って滑るようにそれを躱していた。どうやらこの火力であれば多少なりともダメージを与えられるらしい。

 

 思考を回す。

 

 ミサイルの乱れ撃ちであれば攻撃が通る?

 ならばゼロ距離ならば弾丸も通るか? 

 奴の動きを誘導――

 水の対処はどうする?

 奴は接近戦も出来る、ならば不要に近づくのは危険か?

 

 様々な思考が脳内で流れていく。

 有効な手を探り、それを実行するための作戦を練る。

 

「考えてる余裕があるのかしら?」

「ッ……チッ!」

 

 警戒していたというのに、凄まじい速さで懐に入り込んでくる人形。単純な身体性能が違いすぎる。『イグナイト』の出力についてくるほどの高性能人形など、敵の戦力が末恐ろしいな。こんな奴があと何体もいるのだとしたら、アタシ一人じゃかなり厳しい。

 そんな未来を想定をしながら、奴の振るう氷の剣を後ろに反ることで躱す。反り返ったせいで奴の姿が視界から消えるが、見えずとも通り過ぎていく氷の剣は捉えている。奴のいる方へと反り返ったままに弾丸を連射した。

 発砲の反動を利用してそのままバク宙、着地と同時に連射した弾丸を躱して斬りかかってくる奴の姿を捉える。両手のハンドガンをクロスさせてそれを受け止めた。

 

「ッ……!」

「流石に反応が早いわね、けどお腹ががら空きよ!」

「うぐっ……!」

 

 両手が塞がった瞬間、奴は白い足でアタシの胴を蹴り飛ばした。鈍い痛みに呼吸が乱れるが、『イグナイト』のおかげかそれほどダメージはない。一呼吸吸って呼吸を整えれば、再度歌を歌うことが出来た。

 近接戦闘においてはやはり向こうに分がある。どうしても一撃食らわせるには一歩足りていない。ミサイルの乱れ撃ちも距離があればすぐに避けられてしまうし、水に飲まれれば勢いを殺される。かといって高火力にすればこっちも巻き込まれてしまうからな。近距離射撃は言うまでもない。

 

 どうにか隙を作る必要がある。

 

「ならっ……!」

 

 両手にマシンガンを生み出し、連続射撃。弾幕を張って追い詰める。

 氷の道を滑るようにそれを躱す奴は、時折水の弾丸を撃ってくるが、アタシはマシンガンの弾幕でそれを全て撃ち落としていく。単純な火力であれば、こちらとて向こうに力負けはしていない。

 あの人形はまさしく、守りが固いタイプの相手だ。攻撃力も無論高いが、厄介なのはその防御力――あれを破るには一筋縄ではいかない。

 

 だからこそ、狙うはゼロ距離での攻撃。

 

 こちらが近づけば接近戦の分の悪さでこちらがダメージを負う。ならば、向こうに近づいてきてもらって、躱せない状況を作り上げるしかない。

 

「オラッ!」

「っと!」

 

 弾幕を張って追い込んだ先に手榴弾を投げ込み、即座にハンドガンにスイッチ。手榴弾を撃ち抜いて即爆破させる。奴はそれを半透明の青い盾で防御しながら慌てて横へと飛ぶが、その先にミサイルを撃ち込んだ。跳躍している故に急な方向転換はできない筈。

 奴の着地と同時に地面へミサイルが着弾―――爆発する。

 

「ッ――!」

 

 砂煙と火薬の煙が舞い上がったのを見て、アタシは即座に駆け出した。

 もしも今のミサイルを防いでいたとして、奴が移動する先はミサイルの熱が残る方ではなく、その逆の方。つまり手榴弾の爆発地点とミサイルの着弾地点を結んだ線の垂直方向。その前後まではわからないが、奴の性根の悪さからしてこの状況を機と見てアタシに攻撃を仕掛ける可能性は高い。

 

 ならば、必ずやってくる。

 

「―――なっ……!」

「チェックメイトだ……!」

 

 アタシのいるであろう前方に。

 砂煙の中から飛び出してきた人形は、既にアタシの銃口の目の前。用意したのは銃身の長いライフルの様な形の銃。弾丸ではなくエネルギーを圧縮して撃ちだすレーザー砲の様なものだ。チャージ時間が数秒掛かるが、既にそのチャージも終わっている。

 

 あとは引き金を引くだけ。

 

「食らえッ!!」

 

 ズガンッ、という音と共に放たれた紫電のエネルギーは、正確に奴の身体に直撃する。奴は後方へと吹き飛ばされ、放たれたエネルギーは衝撃波と共に地面にまっすぐ引かれた焼け跡を残す。

 

 確実に捉えた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 出力の負荷に加え、マシンガン、手榴弾、ミサイル、そしてレーザー砲と連続してスイッチして使ったことで、息が切れる。反動による負荷もそうだが、こう立て続けに違う銃を使って攻撃するとなると、休憩なしで一時間いろんな筋トレをし続けたような疲労感が襲ってくる。どっと体が重い。特に腕や肩、背中はジンジンと筋疲労による熱を訴えていた。

 これでやれていればいいが、どうだろうか。

 

 視線を向けてみると、そこには胴体に大きな穴が開いた人形が転がっていた。僅かに動いているので完全に壊れてはいないのだろうが、それでも立ち上がれそうにはないらしい。倒した、と見てもいいだろう。

 

「ふぅ……これで」

「『うわー』『ガリィちゃん酷い目に合ってるなぁ』『可哀そうに』」

「ッ!?」

 

 後ろから、不気味さすら感じる声が聞こえた。

 勢いよく振り向けば、そこには気配に気づくことが出来なかったのがおかしいくらい異質な存在が立っていた。学ラン姿に無骨な螺子を持った男だった。

 

 なにより驚いたのは、そいつの足元に援護に来ていた三人の装者が倒れていたことだ。無骨な螺子に貫かれるようにして、三人とも倒れている。明らかに致命傷、音もなく殺されてしまっていた。

 周囲への警戒は怠っていなかったというのに、いつの間に現れて、いつアイツらを殺したってんだ!?

 

 動揺に思考が乱れる。

 

「『あれ?』『何か勘違いしてない?』『もしかしてこの三人を殺したのは僕だって思ってる?』『それは誤解だよ』」

「誤解、だと……?」

「『僕が来た時には既に彼女たちは死んでいたんだ』『こんな凄惨な現場』『一体誰がこんなことをしたんだろう』『酷すぎる!』」

「……嘘つくな、テメェがやったんだろ」

「『証拠はあるの?』『偶々歩いていたら』『偶然人が死んでいるところに出くわす』『なんてことがないとでも?』『真実は僕が今言った通りだよ』『だから』」

 

 ――『僕は悪くない』

 

 目の前の男は平然とそう言ってのけた。

 間違いない、この身の毛がよだつような悍ましさ、二課の連中が言っていた球磨川禊はコイツだろう。確かに、人の弱さを凝縮して集めたような奴だ。

 直視していたくないような、そんな気持ち悪さがある。

 

 油断してはいけない。

 

「何をしにきやがった」

 

 銃口を向けて問い詰めると、球磨川は肩を竦めて見せる。

 

「『何も?』『僕はそこに倒れているガリィちゃんを回収しにきただけだよ』」

「なに?」

「『大方の目的は達成出来たからね』『これ以上の戦闘は無意味だ』」

 

 瞬間、球磨川の姿が消える。

 驚きに目を見開いて周囲を見渡せば、球磨川は一瞬にしてアタシの後ろに転がっていた人形の傍に移動していた。一体何をしたのか、理解出来ない。移動したにしては速すぎるし、瞬間移動にしては何の予備動作も無かった。

 まるで時間を止めて移動したかのような錯覚すら感じる。

 

「『無事かな?』『ガリィちゃん』」

「……アンタの顔、本当気持ち悪いわね」

「『あはは』『じゃあ帰ろうか』」

 

 球磨川はそう言って何やらクリスタルを地面に落とすと、そこから魔方陣が生まれて二人を光が包む。かと思えば、一瞬でその姿が消えていた。

 どうやら本当に帰ったらしい。とりあえずは、撃退ということでいいだろうか。

 

 実感が湧かずに立ち尽くすも、ハッとなって殺されていた三人の元へ近づく。

 

「……はぁ……肝が冷えるな、本当に」

 

 見ると、三人を貫いていた螺子は消えており、全員気を失っているだけという現実がそこにあった。確実に死んでいたし、血も大量に出ていたのに、まるで無かったかのように現実が改変されている。

 これが二課の言っていた球磨川の力。死すらも覆す超常の力か。

 

「クソ……」

 

 これから先、どうやって戦うべきかを考えて……億劫になる。

 『イグナイト』を解除し、アタシはその場に座り込みながら天を仰いだ。

 

 




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