◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
抜剣、と言って私達にはないシンフォギアの形態を起動させたクリスを見た時、クリスの言っていた私達がメインでは勝てないという言葉の意味が分かった。ガリィと名乗ったあの青いオートスコアラーは、ただでさえ私達とは段違いの出力を引き出しているクリスと同等に戦っていたから。
私と切歌と調の三人で掛かり、クリスに援護して貰ったとしても、三人とも蹴散らされて終わっていたに違いない。
だからこそ、ここで私達が考えて、クリスを援護しなければならないと思った。
クリスが三人分の援護を一人でやってのけたのだから、三人で一人の援護が出来なくてどうすると自分を奮い立たせる。クリスという人物を私たちは全く知らないけれど、彼女に並々ならない覚悟があることは戦っている姿から
彼女の歌には、力強さと、悲しみと、燃え盛るような情熱があったからだ。
「クリスとあの人形とじゃ得意とする
「つまり、私達で人形に距離を詰めさせない様に中距離攻撃で援護するってことだね」
「合点デス!」
私の言葉の意図を調が汲み取って、それを理解した切歌がやる気満々に大鎌を一回転させる。二人ともまだまだ若いというのに、人を思いやる心は人一倍強い。お互いを信じ、仲間を信じ、そのために出来ることを全力でやろうとする。
切歌にとって難しいことは調が理解して、調が折れそうなときは切歌が引っ張って、そうやって二人とも生きてきた。この二人のユニゾンには、ソロ以上の力がある。
これ以上に頼もしい仲間もいない。
「じゃあ行くわよ、三方から包囲して援護する」
「「了解(デス)」」
そうして駆け出そうとして、そこで私の意識は突然ブラックアウトした。
気を失ったのだろうか、直前のことで覚えているのは――私の目の前に駆け出していた切歌と調が鈍色の何かが貫かれて倒れようとしている瞬間だった。
一体何が、と思うまでもなく、そこで私の意識は消え去っている。
◇ ◇ ◇
ハ、と目を覚ました時、私は見知らぬ医療室らしき場所のベッドに寝ていた。左右を見れば、等間隔に並んだ両隣のベッドに切歌と調も横たわっている。どうやら意識を失った後に運ばれてきたらしいけれど、どうもここは『F.I.S.』の拠点ではないようね。
拘束されているわけではないし、どちらかと言えば丁重に扱われている雰囲気だから、おそらくは二課の施設内ということかしら。あの場にはクリスもいたし、希望的観測で言うのなら、オートスコアラーを打倒して気を失った私達を連れ帰った、という所かしら。
単身であの人形を打倒したとするなら、クリスの実力は想像以上に高いということになるけれど……無事かどうかはわからない。とにかく現状を確認しなければ。
「……二人はまだ眠っているわね。二課の施設内なら危険はないでしょうし、私一人で行きましょうか」
胸にギアペンダントもある。『LiNKER』は手元にないけれど、いざという時は無理くりシンフォギアを起動することもできそうだ。
医療室のドアを開いて廊下に出る。
すると、丁度というべきか、部屋から出たところでクリスに出くわした。病人服らしき服を着て歩いているから、何か治療を受けていたのかもしれない。
「ああ、起きたのか」
「え、と……ええ、状況は理解できていないけれど……とにかく無事な様でよかったわ。あのオートスコアラーは、ええと……勝ったのかしら?」
「微妙なトコだな……まぁ撃退は出来たって感じか。アタシも多少無理したけどな、だからこうして検査を受けてきたってわけだ」
「そう……ここは二課の施設内で合ってるかしら?」
「合ってるよ。チビ二人も一緒にいただろ? ま、詳しい話は二人とも目覚めた後にきちんとするらしいから、今は休んどけよ……『LiNKER』で適合率を無理に引き上げてたんだろ? 体内洗浄は済ませたらしいけど、負荷による蓄積ダメージは残ってるからな」
「!」
クリスの言葉から、どうやら私達のドーピングはバレているらしい。まぁ、此処には『LiNKER』のレシピを制作したフィーネもいる。シンフォギアとの適合率や出力をモニターする機材も揃っているだろうから、当然戦闘中の私達もモニターされていたはず。
ならばバレていてもおかしくはない。
一先ずはマムやドクターに連絡を取りたいところだけれど、まずはコンディションを整えてからかしら。
すると、クリスは溜息をつきながら頭を掻く。ガシガシと髪を掻く姿は、見た目の可愛らしさに反して酷く粗雑だった。
「そんなに焦らなくても、もうあの戦闘から既に三日が経ってんだ。お前たちの組織の人間だって、それだけあればこっちに接触してくる」
「え?」
「つまり、お前ら以外の『F.I.S.』の人間も此処に来てるってことだ」
「マム達が此処に……!?」
驚きの事実だった。
確かに私達装者三人の身柄を保護している以上、マム達も黙っているわけにはいかないだろうけど、まさか二課の施設内にやってくるとは正直驚いている。
けれどクリスの言葉は嘘ではなさそうだった。あの戦いから三日も経っているというなら、私達は気を失っただけではなかったのかもしれない。身体を見ても大きな怪我はないし、気絶だけなら三日も目覚めないなんてことはありえないからだ。
何が起こったのか、状況が理解できない。
ともかく、私が思っている以上の深刻な事態が起こった結果、マム達が動かざるを得なかったということだ。
「ふぅー……とにかく、状況を理解しないことには始まりそうにないわね」
「だろうな。まぁなんにせよ、お前が目覚めたなら後の二人も今日明日には目覚めるだろ……そしたら二課と『F.I.S.』で顔を突き合わせて諸々詳しい話をするって話だ。だから、今は大人しく休んでろ」
「ええ……わかったわ」
クリスの言葉に頷くと、クリスは伝えることは伝えたという感じで歩き去っていく。
ダメージがあると言っていたけれど、足取りは乱れていない。両手足に傷はなさそうだし、どっちかというとあの漆黒のギアを使ったことによる反動があったのかもしれないわね。
感じた通り、私達の背負っているものとクリスの背負っているものとじゃ重みが違う気がする。
聞いた限りじゃ、風鳴翼も二課の装者として所属しているらしいけれど、あの戦いには姿を見せなかった……そのあたりも後々聞けるかしらね。
医療室へと戻り、自分が寝ていたベッドに腰掛ける。
考えても分からないことを考えても仕方がない。ならば今は自分の身体を万全にすることを考えましょう。
二課の面々と会うということは、近々フィーネと対面するということだしね。
私は気持ちを切り替えて、一先ずベッドに身を沈めたのだった。
◇ ◇ ◇
二課と『F.I.S.』がそうして錬金術師の出現に接触を取っている中で、此処まで鳴りを潜めていた安心院なじみは優雅に喫茶店でティータイムを楽しんでいた。
リディアンの地にあるありふれた喫茶店のテラスにあるソファ席。テラスにソファを向かい合わせに設置し、間にガラス製のテーブルが置かれた洒落た席である。
安心院なじみが座っているそのテーブルに着いている人物は、他に三人いた。
『F.I.S.』のメンバーと共に来日した黒瀬徹、錬金術師キャロルの協力者である球磨川禊、そしてパヴァリア光明結社に居た逆廻十六夜である。
それぞれ人知を超えた力を扱う強者であり、全く方向性の違う面々だ。そんな三人を前に悠々とお茶を飲む安心院なじみは、テーブルの上にティーカップを置くと居住まいを正す。
「さて、君達も色々と動いてもらった結果、想定通りに事態は進んでるよ」
「つってもあまり気は乗らないけどな……まだ小さい奴らを戦場に立たせるなんてよ」
「『と言っても』『僕の方は』『およそ数百歳だけど』『見た目ロリだからなぁ』」
「こっちは男だか女だかわかんねぇ奴もいるし、年齢においてはコイツ以上の桁外れはいねぇだろ」
「確かに」
安心院なじみの言葉に反応する黒瀬だったが、球磨川と十六夜の言葉で今更かと溜息をつく。小さかろうが、年齢が数百歳だろうが、安心院なじみという例がいる以上それは容赦する要因にはならない。
本来チームとして機能するようなメンバーではないこのメンツを前に、安心院なじみはそれでも不敵に笑う。かつて無敵を誇った娯楽主義者、泉ヶ仙珱嗄に宇宙創成から終末まで寄り添った人外だ。
そんな彼女であれば、彼らをチームとして機能させることも造作もない。
といっても、黒瀬達はチームとして機能しているわけではなく、それぞれが安心院なじみの指示に従って仕事をしているだけだ。安心院なじみがどのような計画を立てていて、どのような展開を作ろうとしているのかは、彼らも知らない。
つまり、彼らはそれぞれの組織に自分なりに協力しているだけなのだ。これと言って特別なことはしておらず、ただそれぞれの組織の目的に沿って力を貸しているだけ。
かつて
かつて珱嗄の弟子として、親友として共に戦った黒瀬徹であっても、
かつて全知と言わんばかりの知識と計略で修羅神仏に喧嘩を売ってきた十六夜であっても、
安心院なじみという人外の思惑を見抜くことが出来ない。
ただ一つ、分かっていることがあるとすれば、これは今記憶を失っている泉ヶ仙珱嗄の記憶を取り戻すための計画であるということだけだ。
それに賛同しているからこそ、この三人は力を貸している。
「つっても、アンタの言うこの世界の主人公は戦える状態じゃないんだろ? それに伴って二課の戦力は激減してる。球磨川も装者を精神崩壊に追い込んだっていうし」
「『やっちゃったよねー』」
「これもお前の想定内なのか?」
「そうだよ。この状況で特に問題になるようなことは何もない……寧ろ、球磨川君の行動すらナイスだと言わざるを得ないね」
安心院なじみの言葉に三人は怪訝そうな顔をする。
球磨川すら、自分が風鳴翼を精神崩壊に追い込んだことは失敗だったかもしれないと思っていたのだ。それがファインプレーだったというのなら、ますます安心院なじみの思惑が分からなくなる。
それもそうだろう。自分たちは自分たちが生きてきた世界がフィクションの世界だなんて思っていないのだから、そういう視点で世界を見てきた安心院なじみの考えなんてわからない。
いい加減焦れったくなっている三人を見て、安心院なじみは続ける。
「この世界にも、君たちの世界にも、いわゆる主人公と呼ばれる人物は必ずいる。その世界が日常系であれ、熱血バトル系であれ、ファンタジー系であれ、ドシリアスな鬱系であれ、そこには主人公と呼ばれる人物が存在し、世界はその人物を中心に動いていく」
「……」
「例えば、RPGってあるだろ?」
「ああ」
「勇者に選ばれた君は、いろんな敵を順に倒して、クエストをクリアしていって、レベルを上げて成長し、最終的に魔王を倒してハッピーエンド……主人公が必ず勝てるように世界は進んでいくようになってるよね?」
安心院なじみが何を言いたいのか、三人はますますわからない。
主人公と呼ばれる人間がいるとして、この世界の主人公は立花響だろう。その主人公を中心に世界が回るとするのなら、安心院なじみが今やろうとしていることはそのルールに則った行動なのか? この状況は、ストーリーを崩壊させかねない展開ではないのか?
安心院なじみはなにをしようとしているのだ?
「じゃあ問題、RPGにおいて主人公は絶対にクリアできない展開って何だと思う?」
「……あー、なんだ?」
「決まってんだろ」
「『はじまりのまちにいるレベル1の勇者に』『魔王が襲撃を掛けてくることでしょ』」
RPGというより、ゲームに馴染みのない黒瀬が首を傾げる中、球磨川と十六夜はシンプルな回答を出す。主人公がレベル1の状態でラスボスが襲い掛かってくれば、当然勝ち目など一切ないだろう。物語的に破綻している。
「そういうことだよ。この世界において、僕という人外は主人公になりえない……かといって、既にあるストーリー通りに進めれば僕という登場人物は主要人物になりえない……なら、ストーリーを破綻させるしかない」
「つまり……お前がラスボスになって、主人公を成長させずにストーリーを進めようってか?」
「さぁね、なにはともあれ……ここまで来たらあと一息だよ。既に物語は始まっている……どういう結末であれ、エンドクレジットが流れるまでは止まらないよ」
十六夜の言葉に安心院なじみはハッキリとは答えない。
ティーカップを手に取り、優雅にお茶を飲みながら淡々と答えるだけだった。
その言葉を聞いて、三人が思うことはなにか。
この場には泉ヶ仙珱嗄はいない。それでも、彼女たちは泉ヶ仙珱嗄によって紡がれた縁だ。かつて様々な世界を渡って生きてきた彼の人生の終着点が、少しずつ近づいていた。
珱嗄シリーズの更新報告や小説家になろう様での活動、書籍化作品の進捗、その他イラスト等々発信していますので、もしもご興味があればフォローしていただければ幸いです。
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