◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第三十七話 命を懸けて

 マリアが一度目を覚ましてから数時間後、ようやく切歌と調の二人も目を覚まし、二課のミーティングルームにて一同が会する時がやってきた。広めのミーティングルームにいるのは、二課から弦十郎、フィーネ、藤尭、友里、クリス、『F.I.S.』からはマリア、切歌、調、そしてナスターシャ、ウェル博士、セレナである。

 この場にも、風鳴翼は姿を見せていない。

 

 既に眠っていたマリア達以外はお互いに顔合わせを済ませ、自己紹介も済ませた状態であるが、念のために改めてお互いに自己紹介を交わす。

 

「改めて、特異災害対策機動本部二課の司令をしている。風鳴弦十郎だ……そして、俺の隣にいるのが君達の要求したフィーネこと、櫻井了子君だ」

「体裁的に今は櫻井了子だから、そっちの名前で呼んでねん♪」

「その隣が二課のオペレーターである藤尭君と友里君。そして現状我々の唯一の戦力であるシンフォギア装者の雪音クリス君だ」

 

 弦十郎の紹介に対して声を出したのは櫻井了子だけであり、オペレーターの二人は頭を下げるだけで、クリスに至っては無反応で頬杖をついていた。

 それを見るだけでも、二課のチームワークはそれほど上手くいっていないことが見て取れる。主に二課の面々と装者の協調性が、だが。

 

 するとそれに対して車椅子に座っている初老の女性、ナスターシャが口を開いた。

 

「私は我々『F.I.S.』の中で指揮を執っています。本名ですと長いですし、ナスターシャと呼んでください。そしてこちらが私と共に『F.I.S.』にいた生物学者のウェル博士」

「ドクターウェルといいます。主に『F.I.S.』での装者のケアやギアのメンテナンスを行っています。お見知りおきを」

「そしてこちらが我々の保有する装者の四人です」

「マリア・カデンツァヴナ・イヴよ」

「セレナ・カデンツァヴナ・イヴです」

「月読調」

「暁切歌デス」

 

 四人の装者が順々に自分の名前を言うと、弦十郎たちは頷きを返す。

 ようやく此処に二課と『F.I.S.』の面々、それに装者が五人揃った。本来であれば此処に立花響や風鳴翼もいるはずだったのだが、それが叶わない状況であることは悔やんでも仕方がない。

 そうして自己紹介が済んだところで、早速話は本題へと入っていく。

 本題はやはり例のオートスコアラーと球磨川禊の話だろう。『F.I.S.』からしてみれば、球磨川と錬金術師の登場は未だに未知な部分が多い。なんにせよ球磨川一人に自分たちの保有している装者が全員やられたのだ、早急に情報を集めて対応策を練らないといけないと思うのは当然のことだろう。

 

「まず初めに、負傷した装者三名を治療してくださって感謝します」

「気にしないでほしい、こちらとしてもクリス君の援護に力を貸してくれたことを感謝している。困ったときはお互い様だ」

「そうですか……では本題に入りましょう。詳細はこれから伺いますが、まずは我々の意思として、今後二課と『F.I.S.』の同盟を結びたいと考えています」

「!」

「先日の戦いで現れたオートスコアラー、そして球磨川禊の存在は脅威です。そしてマリア達が昏睡状態の中で様々な事情を伺いましたが、その上錬金術師や神域の人外までが登場してくるとなると、正直我々にも無関係ではなくなってきます」

「だからこそ、装者同士で協力して戦う必要があると考えています」

 

 ナスターシャとウェル博士の二人が出した結論に、弦十郎も概ね同意だった。

 二課からすれば喉から手が出るほどに欲しい戦力が、向こうからやってきたのだ。これを受け入れない手はない。またシンフォギアをメンテナンスできる研究者がさらに一人、フィーネとこの場にはいないエルフナインと協力すれば、また新たな一手が生まれる可能性だってあり得る。

 そうでなくともクリス以外の四人の装者に『イグナイト』を搭載することが出来れば、一気に戦力は何倍にも膨れ上がるのだ。

 

 これ以上ない展開である。

 

「我々としても願ってもない話だ。そちらとの同盟は、心から歓迎したい」

「但し、こちらの目的はあくまでそちらに居るフィーネとの交渉です。先にこの件だけでも解消させていただきたい。交渉が決裂したとしても現段階で危害を加える気はありませんが、今回の錬金術師との一件が収束した後のことはしっかり決めておきたいと考えています」

「そうか……了解した。ただ一つ伝えておくと、現在フィーネである了子君が二課に協力しているのは、そちらと同様敵が強大であり、彼女一人では手に負えないと判断したからだ。安心院なじみや錬金術師との一件が無事に収束した後は、二課から離れると明言している……その際交渉の余地がないのであれば、こちらも全力で逮捕するつもりであるが」

「なるほど……事態の収束後、二課の庇護下からフィーネは外れるということですね。ではそうなった場合、我々も自由に動かせていただくということで」

 

 弦十郎の話を聞いて、ナスターシャは現在二課の状況がどういうものなのかを大方理解し、収束後の対応を決める。フィーネを二課が捕らえるのが先か、『F.I.S.』がフィーネを確保するのが先か、はたまたフィーネが両者を出し抜くのか、それはわからない。

 けれど、今はなさなければならないことがある。まずはそれに全力を尽くすのが先だろう。

 

 一先ずは後程フィーネとの交渉の場を設けるということで、弦十郎は話を進める。

 

「目下、我々二課が追っているのは、キャロル・マールス・ディーンハイムと名乗る稀代の錬金術師とその協力者である球磨川禊。そしてもう一人、宇宙創成から生きる神代の人外、安心院なじみだ。キャロル陣営が今は動きを活発化させているが、この安心院なじみは一手で状況を変えることが出来るだけの危険性を持っている。放置はできない」

「なるほど……では安心院なじみは一先ず置いておくとして、キャロル陣営について詳しい情報をいただけますか?」

「ああ……キャロル陣営から逃げてきたエルフナイン君の情報によると、キャロルは数百年の時を生きる錬金術師であり、チフォージュ・シャトーなる建造物を完成させ、この世界を錬金術に則って分解することが目的であるらしい。そして錬金術とは、聖遺物を介した異端技術とは別に、人類が知恵と叡智によって生み出した別の異端技術だということだ」

 

 ナスターシャの問いかけに、弦十郎が説明する。

 錬金術師という存在と、今回の敵であるキャロルの目的について。

 

「現時点で彼女らが見せているのは、シンフォギアすら分解する力を持つ新種のノイズ。こちらでは『アルカ・ノイズ』と呼んでいる存在を使役できる力。そしてそのノイズの力対抗する機能としてクリス君が実装している『イグナイトモード』を作ったのだが、その出力に対抗できるオートスコアラーを保有していること。最後に、球磨川禊という異質な存在が協力者でいることの三つだ」

「『イグナイト』に関してはこちらでも確認しましたし、事前に情報も開示していただきましたから把握しています。これをマリア達のギアにも実装していただけるということで、重ねて感謝します」

「ああ、これで『アルカ・ノイズ』とオートスコアラーに関しては対抗することが出来るだろう……だが、問題は球磨川禊とキャロル自身の力だな」

 

 弦十郎がキャロル陣営の力を説明していく中でやはり問題視されるのは、キャロル本人の実力と、球磨川禊という男のことだろう。

 キャロルがあのオートスコアラーを作ったというのであれば、キャロル自身にはその人形以上の実力があると見るのが当然の思考であるし、数百年を生きるというのであればそれ相応の錬金術の腕を持っている証明でもある。

 更に球磨川禊は現状キャロル陣営で最も脅威的な人物だ。

 武器は無骨な螺子であるが、なにせシンフォギアを纏っている状態の装者をただの螺子で殺すことが出来る実力を持っているのだ。

 シンフォギアには起動時装者を護る防御機能もしっかり備わっている。生身でただの銃弾を受けたところで、彼女たちは傷を負わないくらいには固いのだ。にも拘らず、あの無骨な螺子で一瞬で三人の装者を刺し殺すなど、普通ではない。

 

 しかも、死んだ人間を生き返らせるなどという明らかに埒外の力を扱うのだ。もっと言えば、聖遺物の反応がない以上、その生身でその奇跡を振るっているということになる。

 この時点で、球磨川禊はキャロル以上に脅威になりうる存在だ。

 

「現時点で球磨川の使う力の正体は分かっていない。聖遺物を介した力でもないのであれば錬金術かと思ったが、エルフナイン君の言では錬金術でも説明できない力らしい」

「第三の異端技術、ということですか……人の生死すらも自在に操ることのできる相手に、錬金術師……どうしてもこちらが後手に回ってしまうということですね」

 

 球磨川禊の脅威と、キャロル自身の脅威、組み合わさるとこれ以上ない恐怖を感じさせる。ナスターシャだけでなく、ウェル博士や装者の面々も、この事態を前に何をどうすれば勝つことが出来るのかと顔をしかめてしまう。

 結局頼りはシンフォギアであり、こちらが出来ることを最大限考えて体勢を整えることしかできないのだ。

 

 仮にこの場に立花響がいたとすれば、具体的な案よりも先に何をどうしたいのかを明言し、それに向かって士気を高めたのかもしれない。

 仮にこの場に風鳴翼がいたとすれば、装者の中で冷静に指揮を執り、方法は別として、何を順に為すべきかを明確にしたかもしれない。

 

 けれど、今この場に二人はいない。

 弦十郎も、ナスターシャも、ウェル博士も、櫻井了子も、装者の全員も、まずは何をすべきなのかは分かっている。けれど具体的な方法が思い浮かばないことで、絶望してしまいそうな自分を保つことで精一杯だった。

 『F.I.S.』はさておいても、二課は響が装者に目覚めた日からずっと、何もできずに色々なものを失って今に至っているのだ。無力感という意味であれば、これ以上なく打ちひしがれている。

 

「悩んでても仕方ねぇだろ、やるこた決まってんだ」

「クリス君……」

 

 だがそこで、クリスが初めて声を上げた。

 皆の心が折れそうな事態を前に、クリスだけは強い意思をもっている。彼女はもう決めているのだ、たった一人で戦わなければならない状況になった時に。

 

 戦わなければ、勝てないのだ。

 

 球磨川の力に対抗する手段を考える。

 キャロルの目的とその手段を考える。 

 アルカ・ノイズは片っ端から潰す。

 オートスコアラーも全部叩き壊す。

 安心院なじみの目的も阻止する。

 

 これだけのことをどうにかする方法がこの場で考えつくのならわけない話だ。考えつかないほどの脅威なのだから、とことんまで考え抜くしかないのだ。

 そして装者である自分には戦ってその時間を作ることしかできない。それぞれがベストを尽くすしかないのだ。

 

「戦って、勝つ……その為に考えつくことをやれるだけやるしかねぇんだ。降って湧いたような奇跡じゃなくて、アタシたちの手で、掴み取るしかねぇ」

「……私たちの手で……」

「へばんのは早すぎるだろ……アタシはお前ら全員が使い物にならなくたって、一人でも最後まで戦い抜く。そんで……」

 

 その先の言葉を、クリスは言わなかった。

 けれど、弦十郎はその先の言葉をなんとなく理解できた。クリスは未だ失ったものを諦めていないのだ。

 攫われた立花響も、小日向未来も、平和な世界に生きる優しい人を日常に帰す。その為にクリスは此処にいる。ここで戦っている。

 

 その果てに自分が地獄に落ちようとも。

 

「そうだな、その通りだ。俺達に出来る最善を尽くすしかない。ナスターシャ教授、ウェル博士は了子君とエルフナイン君と協力し、ギアの強化や錬金術に対する対抗策を出来る限り探してほしい。俺や二課の職員は過去の映像や資料を洗って、キャロルの次の行動と目的を探るぞ。装者の全員は、緊急時に備え各々力を磨いてほしい。二課の訓練室は自由に使ってくれて構わない、負傷やギアの不調があれば適宜報告するように」

 

 そんなクリスの言葉に、弦十郎たちは気を取り直す。

 まだ全てをやり尽くしたわけではない、ならば諦めている場合ではない。クリスの言葉にその通りだと自分に対して発破をかけた。

 弦十郎の指示に対し、ナスターシャやウェル博士も頷きを返し、装者の面々も気合い十分に了解の返事を返す。

 

 まだやれることがある。

 

「文字通り世界の危機だ……気を引き締めていくぞ!」

 

 世界の危機を救う、そんな大それたことが出来るのか? ……否。

 

 

 やるのだ――命を懸けて。

 

 




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