◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
そして二課と『F.I.S.』とが同盟を結んだ一週間後、二課本部内に鳴り響いたアラートが、次なる襲撃を知らせた。
今までの襲撃は全て牽制であったかのように、今度は人通りのある場所でのアルカ・ノイズ召喚。そこには先日クリスが撃破したとされたオートスコアラーのガリィに加え、もう一体、緑色のオートスコアラーがいた。新たな戦力の登場に、本部内でも緊張が走る。
『イグナイト』を起動したクリスでさえギリギリの勝利だったのだ。今回もそう上手くいくとは限らない。
けれど、それでも弦十郎の表情に欠片ほどの暗さはなかった。
寧ろ、二課指令室で現場の映像を見つめる全ての人間の顔には、かつてないほどの覚悟と決意があった。
今回の襲撃に対するキャロルの目的はわからない。もしかしたら大した理由ではないのかもしれない。けれど襲撃するからには何らかの目的があるのは確か。
そして、同盟を組んでから万全のコンディションを整えた初の戦闘で勝利を手に出来なければ、『次』はない。
だからこそ、装者だけでなくこの事態にあたる全員が全神経を以って、この戦闘に全力を尽くしている。
ノイズ出現から即座に全装者が出撃し、クリスを筆頭に五人の装者が既に現場に到着していた。フィーネ、エルフナイン、ウェル博士の三名の活躍により、全員のギアに『イグナイト』は搭載済み――アルカ・ノイズが相手でもギアが破壊されることはない。
あとはオートスコアラー二体と同時に無数のアルカ・ノイズを掃討出来るかどうか、そこに掛かっている。
「頼んだぞ……!」
弦十郎達は装者達に全てを託し、あらゆる可能性を探る。
この襲撃が囮である可能性、他の場所で異変が起こっていないか、この襲撃の意味、前回までの襲撃の意図、ありとあらゆる可能性を探って、一刻も早い事件解決を目指す。
だからこそ命を懸けて戦うと決めたのだ――ここにいる全員が。
◇ ◇ ◇
クリス達とアルカ・ノイズとの戦闘が始まった時、キャロルが拠点としている地、チフォージュ・シャトーでは別の出来事が進行していた。
否、寧ろキャロルの本題はこちらである。
数百年という時を生きてきた錬金術師であるキャロルは、その錬金術の腕とは別に、権謀術数に長ける頭脳を持っている。今までの襲撃にもそれぞれにちゃんとした意図があるのだ。
そして今回の襲撃には、目的が二つある。
一つは、『魔剣ダインスレイフの欠片』によって強化されシンフォギアの持つ呪いの旋律を蒐集すること。
もう一つは、そのための襲撃によってシャトーにある人物達を招き入れるためのカモフラージュを行うこと。
「『彼女たち来たよ』『キャロルちゃん』」
「ん……そうか、通せ」
玉座に座し、目を閉じてその時を待っていたキャロル。
球磨川の声でその時が来たことを知り、ゆっくりとその瞼の奥の瞳を空気へと晒す。いつになく真剣な表情で立ち上がったキャロルの両脇には、赤と黄色のオートスコアラーが控えていた。
そして球磨川が手招きしたのを見て、玉座の対面の暗闇より数名の足音が近づいてくる。陰から姿を現したのは四人の人影だった。
「よう、来たぜ球磨川」
「『やぁ十六夜君』『待っていたよ』」
現れた四人の先頭に立っていたのは、球磨川と同じく学ランを着た金髪の少年。彼は球磨川と気軽に挨拶を交わすと、ポケットに両手を突っ込んでキャロルの方へと視線を向けた。
錬金術師と男子高校生の対峙は、どうにもミスマッチなように見えるが、傍から見ればどちらの方が優位に立っているのかは明確だった。その証拠に、キャロルの表情は何処か気圧されているような色すら感じられる。
少年―――逆廻十六夜は、数々の神話を相手に戦ってきた人間なのだ。
キャロルの反応は当然のものである。
だが両者は別に敵対しているわけではない。寧ろ目的の上では仲間と言っていい関係だ。その為か、十六夜の後ろに居た三名が不意に前に出る。
「お初にお目に掛かる、キャロル・マールス・ディーンハイム殿。既に話は通っているだろうが、改めて挨拶を……私はパヴァリア光明結社幹部、サンジェルマン」
「同じくカリオストロよ」
「プレラーティだ」
其処に居たのは錬金術師で構成された秘密組織、かつて数々の歴史の裏で暗躍してきたパヴァリア光明結社が幹部三名だった。
同じ錬金術師として、キャロルもこの組織とは無関係ではない。今回キャロルが引き起こしている一連の事件、そして目的であるチフォージュ・シャトーの完成の為、この組織からの支援を受けているからだ。
考えてみれば当然だろう。個人で持ち得る資産を活用した所で、世界を分解する建造物を作りあげることはほぼ不可能だ。それこそ、組織レベルの支援が必要になる。
「キャロル・マールス・ディーンハイムだ。無事に此方に来られたみたいだな」
「まぁ、アレだけの目晦ましがあれば、我々の存在を隠すことも容易い。最初のアルカ・ノイズの出現でも我々の入国から厄介な目を逸らせたからな」
「状況的にはどうなってんだ?」
キャロルの言葉に頷きを返すサンジェルマンと、本題に入ろうとする十六夜。
キャロルはフン、と鼻を鳴らして口を開いた。
「準備は整っている。後は呪われた旋律を蒐集し、シャトー完成に努めるだけだ」
「だがこのチフォージュ・シャトーを起動させるための聖遺物はまだ手に入っていないのだろう?」
「ああ、シャトーの起動に必要な聖遺物『ヤントラ・サルヴァスパ』は、二課の管理する聖遺物管理特区『深淵の竜宮』にあるらしいからな。こちらも同時に回収する必要がある」
チフォージュ・シャトー、エルフナインの言葉が正しいのであれば、世界を分解するための装置であり、ワールドデストラクター。完成すればこの世界を文字通り分解し尽くすことが出来る。その完成がもう間近に迫っているというのだ。
あとは必要なものを集めるだけでいい。
「ならそちらは我々がやろう」
するとサンジェルマンがその一つの回収を自分達がやると提案した。
少々意外な表情を浮かべたキャロルだったが、その提案に対してやってくれるのなら是非もないという思惑で頷く。
キャロル同様、目の前の錬金術師達も数百年の時を生きる錬金術師なのだ。パヴァリア光明結社という巨大な秘密組織の幹部というだけで、十分実力の証明足りうる。
「何事も効率的に進めるに越したことはないだろう? まして我々は錬金術師だ、理を追求してきた者ならば、最後まで突き通す」
「今の二課はそれこそ崩れかかったお城、あーし達の敵じゃないわ」
「それに、そもそも我々は二課を敵としてみなしてすらいないワケだ」
二課も、シンフォギアも、自分たちの敵としてはあまりに役不足、そう言い切る三人の錬金術師に、キャロルはなるほどと思いながら、ならばとその役目を任せることにする。
「では頼んだぞ、オレは残りの装者から呪われた旋律をさっさと回収することに努める」
「了解した」
それを最後に、キャロルは再度玉座に座り、サンジェルマン達は再度暗闇の中へと姿を消していく。残されたのはキャロルとオートスコアラー二体のみ。
ふと見れば、球磨川と十六夜の姿が消えていた。いつの間に姿を消したのかは分からなかったが、キャロルは動揺することなく先ほどの様に目を閉じた。
まるで眠りにつくように瞳を閉じた主人に対し、両隣のオートスコアラーは静かに、ただ静かに傍についているのだった。
◇
シャトーの内部、球磨川に与えられた一室で球磨川と十六夜は向かい合って座っていた。キャロルのいるこの場所へ、パヴァリア光明結社の幹部であるサンジェルマン達を連れてくるのが一つの目的でもあったが、十六夜の目的もまた別に存在していたのだ。
それが球磨川と二人で話をすることである。
不自然に球磨川に接触を持とうとすれば、その行動は即座にバレてしまう。ならば如何に自然な形で球磨川と接触を持つかが重要だった。
そしてそれは今が絶好の機会である。
「随分と汚い部屋を与えられたもんだな、虐められてんのかお前」
「『そう?』『僕は結構気に入ってるけどね』『適度に狭くて天井も低め』『何もないけど、ミニマリストの僕からすれば快適そのものだよ』」
「ああ、お前はそういう奴だったな」
「『それで?』『話したいことはやっぱり?』」
球磨川に与えられた部屋を軽く見回して出た十六夜の感想に、球磨川はヘラヘラと笑って見せる。十六夜はそんな彼の態度に、そういえばこういう奴だったと思い直す。
そして球磨川が本題に入ると、十六夜はいつになく真剣な表情を浮かべる。球磨川も、今だけはヘラヘラした表情を引っ込めて真剣に向き合っていた。
それだけこの二人にとって、これから話す内容が重要だということを示している。
いつだって快楽主義に生き、自身の我儘と傲慢を拳で貫いてきた十六夜と、いつだって
そんな二人が、自分自身の生き方に背いてまで見せる真剣さだった。
「お前はどう思うんだ、この状況を」
「『勿論気に入らないね』『これじゃまるで弱いものイジメだ』」
「同感だな、珱嗄の記憶を戻すってことで協力してたが、やり方が気に入らねぇ」
「『十六夜君は』『人の命令聞くのも嫌なタイプだもんね』」
話の内容は、現状自分たちが置かれている状況への不満だった。
安心院なじみという人外の先導の元、泉ヶ仙珱嗄の記憶を元に戻す手伝いをしていた二人であったが、どうやら今の彼女のやり方では賛同出来ないらしい。
元々十六夜は自分の快楽を優先するタイプであり、人の指図を素直に受ける人物ではない。それでも安心院なじみの言うことを聞いていたのは、自分よりも力のある存在と認めていたこともあるが、珱嗄と再度戦うことが出来るかもしれないと思ったからだ。また、彼は認めようとはしないだろうが、珱嗄という大事な仲間のためでもある。
対して球磨川も、元来敗北の星の元に生まれてきたと言っても過言ではないほどの運命を背負いながら、人生の中で全霊を懸けて勝ちたいと思った勝負に勝利を齎してくれた珱嗄と安心院なじみに恩がある。だからこそ、そんな二人のためならばと力を貸していた。
しかしだからこそ、彼はいつだって弱いものの味方だった。恵まれた奴に恵まれないまま勝ちたいと、幸せな奴に不幸なままで勝ちたいと、そう思って戦ってきたからこそ、今回の安心院なじみのやり方にはどうしても賛同出来なかった。
「そもそも、珱嗄の記憶を戻すためにどうしてこの世界の人間を巻き込む必要がある? なんでアイツは珱嗄の記憶を戻す方法を知っている? 謎なことが多すぎる」
「『確かにね』『安心院さんは長い付き合いの僕でも未だ底知れないから』『正直彼女が負けた回数なんて』『宇宙創成から終末までの間で考えても片手で足りるんじゃないかな?』」
「けどゼロじゃねぇ、アイツは絶対勝てない存在ってわけじゃない」
「『……何が言いたいのかな?』」
「俺は安心院なじみを裏切る、お前はどうだ?」
十六夜は堂々と言い切る。安心院なじみを裏切り、今後は自分のやり方で珱嗄の記憶を戻すつもりなのだ。方法は今のところ思いついているわけではなさそうだが、それでもこのまま安心院なじみのやり方に協力する気はないと、腹が決まっている。
球磨川はその言葉に対して、数秒の間沈黙を返した。
球磨川にとって、安心院なじみはいつだって、珱嗄を除いて無敵の存在だった。初恋の人でもあったし、珱嗄と共に自分に初めての勝利を齎してくれた恩人だ。
そしてそんな彼女が珱嗄のことをどれほど想っているのかも知っているし、そんな彼女のただ愛しい人に会いたいという願いを叶えてあげたいとも思う。
しかし自分はいつだって弱者の味方だった。
人の生き死にも掛かっているこの戦いで、この世界の罪なき弱い人々が無意味に死んでいくのは、力を持っている
葛藤。
それでも球磨川禊は、しばらく悩んだ末、十六夜に手を差し出した。
かつて珱嗄や安心院なじみに教えられたように、こういう時だけは括弧付けずに、自分が決めたことを。
「いいよ。但し――安心院さんも必ず幸せにする」
十六夜は球磨川の本心を始めて受けて、思わず笑みを浮かべる。
「それも
問いかけられたその言葉に、球磨川禊もいつも通りの薄ら笑いで返す。
今度は括弧つけて。
「『そうだよ』『こんな
不幸な奴でも、幸せになれる。
それが、彼がかつての世界で思い知らされた真実なのだから。
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