◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第三十九話 動く戦況

 クリス達とオートスコアラー達の戦闘が始まってから、状況は切迫していた。

 アルカ・ノイズとの闘いは比較的優位に進めることが出来、五人もの装者が力を振るえば容易く掃討することが出来た。解剖器官による分解も強化されたギアの防御フィールドによって防ぐことに成功しており、最早よほどのことがない限り、装者達がアルカ・ノイズに敗北することはないと言っても過言ではない。

 今回も戦い方の基本は先日の戦いと同じく、『F.I.S.』所属の装者の連携に対してクリスが援護する形を取っている。前回はいなかったセレナ・カデンツァヴナ・イヴも、『アガートラーム』という聖遺物を用いたシンフォギアを纏っているが、その攻撃手段は大体近距離、もしくは中距離での戦闘向き。

 クリスのポジションに影響はない。

 

 そうして掃討されたノイズの赤塵が吹き荒れる中で、ガリィともう一体の人形と対峙する装者達。

 

 緑色のオートスコアラーは、優雅な美人といった風貌の人形で、ドレスの裾を広げながら大剣を構えている。不敵な笑みには自分の実力に対する自負が伺えた。

 

「お初にお目に掛かります、偉大なるマスター、キャロル・マールス・ディーンハイムが作りしオートスコアラーが一体、ファラ・スユーフです」

「……一体あと何体いるのかしら、オートスコアラーっていうのは」

「ご安心を、我々オートスコアラーは私達を含めてたったの四体。アルカ・ノイズほどの脅威ではありませんわ」

「謙遜にしては行き過ぎね……」

 

 ファラの言葉に対して嫌な顔をするマリア。

 互いに剣と槍を構えてお互いの様子を伺いながら、隙を探る。両者で違うことがあるとすれば、それはマリアの左右に切歌と調が構えていることだろう。三対一、ガリィよりも未だに未知数な方に人員を割いたのは、マリアの判断だろう。ガリィをクリス一人で撃退したという事実を鑑みた結果でもあった。

 

 逆にガリィに対して向かい合うのはセレナ一人。クリスは二つの戦いを同時に援護する形になる。ガリィの手札が幾らか知れていること、そしてある程度の予測を立ててきたことを考えてのこの陣形。

 欠点あるとすれば、クリスに負担が大きいことと、未だに実践で『イグナイト』を起動したことがないメンバーばかりなことだろう。確実ではない力をぶっつけ本番で試すことほど、自滅に繋がる可能性の高い選択はない。

 

 しかし、今はこれがベストである。

 

「何アンタ? 前はいなかったけど」

「切り札、と言えたら良いんですけど……まぁ、隠れ装者です」

「出てくるのがお早い隠れキャラだこと……というか、私は後ろの赤いのに用があるんだけど?」

「でしたらお通りください、私は退きませんけど」

「ナマイキ……ねっ☆」

 

 戦闘が始まる。

 

 最初に動いたのはガリィだった。

 錬金術によって生み出された水の弾丸がセレナを襲う。セレナはアームドギアである短剣を結び合わせた盾を作り上げると、水の弾丸を防いですぐにガリィに肉薄した。短剣を使い捨てるように攻撃しては手放して、また新たな短剣で攻撃する。所謂ヒット&アウェイ。

 ガリィの近接戦闘能力は全装者と比較しても高い。氷の剣を生み出してセレナの短剣を防ぎ、時に人形独特の動きでぬるりと懐に入ってくる。

 二度、三度と剣戟を交えれば、明らかにセレナが競り負けているのが見てとれた。しかしそれでもガリィは一手セレナに攻めきれない。

 

 クリスの援護がそれを邪魔していた。

 

「チッ……!」

 

 両手に持った短剣をクロスし、両手を広げるようにして斬りかかるセレナ。ガリィはそれをしゃがむことで回避し至近距離から水の弾丸を放つが、セレナは身を捻ることでそれを躱し、上段から斬りかかる。

 だが無理な姿勢からの斬り下ろしには威力はなく、ガリィが氷の剣で払えば簡単にセレナの姿勢が崩れる。立て直そうとするセレナではあるが、どうしても隙が生まれてしまう。

 

「―――ッ!」

 

 そこを突くべく氷の剣で斬りかかるも、その動線には予想していたようにクリスの弾丸が飛んでくる。この正確な援護射撃がガリィがセレナを打ち取れない原因。

 その憎たらしい射撃にガリィは舌打ちをする。

 チラリと視線を送れば、鋭い眼光でこちらを見ているクリスがいた。両手に持ったハンドガンの片方が、常にガリィに銃口を向けている。しかもファラの方にも同時に弾丸が飛んでいるのが見えた。

 

 二つの戦いを同時に援護し切っている――まさしく、理想の後衛の姿だ。

 

「厄介ね……」

 

 ガリィもファラも、目の前にいる装者は大して問題視していない。

 彼女たちが最も難敵と認識しているのは、後衛にいるクリスだ。彼女だけが、今この状況で自分たちに迫る力を持っていると。

 

 故に、ガリィとファラは一瞬のアイコンタクトで次の一手を決めた。

 

「邪魔よ、退きなさいッ」

「まだまだ、攻撃の手が甘いですわ」

 

 そのアイコンタクトにより彼女たちが作った意図的な隙(・・・・・)に、マリア達は攻撃を仕掛けてしまう。

 セレナの振りかぶった腕を掴み、ガリィは彼女をマリア達の方へと投げ飛ばす。同時にファラは目の前にいた切歌の大鎌の柄を掴み、人形の膂力を以って、切歌を飛んでくるセレナへと投げ飛ばした。

 すると調がその衝突を防ぐべく持ち場を離れ、その結果一人になり動揺したマリアをファラは一息に蹴り飛ばす。

 

 瞬間、二体のオートスコアラーの前にクリスまでの道が開けた。

 

「厄介な方から片付けるのが定石、でしょう?」

「前回の借りは倍にして返してあげる☆」

 

 こうなればクリスは無防備。ガリィだけでも苦戦したというのに、二体同時の攻撃に対処できるとは思えない。散らされたマリア達はしまった、と思ったが、既に間に合う距離ではなかった。

 

 しかし、クリスの表情は欠片も動かない。

 

「クリスッ―――ッ!?」

 

 マリアが大きな声でクリスの声を呼んだ時、クリスと一瞬だけ目が合った。

 そして驚愕する。

 クリスはその一瞬の合間に、マリアに笑みを見せていた。

 

 

抜剣(バッケン)

 

 

 ガチン、という音と共に漆黒のオーラが吹き荒れる。

 そしてそのオーラの中から二つの弾丸が射出され、迫りくるガリィとファラを正確に襲った。至近距離故に躱すことが出来ず、それぞれ氷の剣と大剣で受け止めざるを得ない。

 結果、その反動でガリィとファラは若干後方へと吹き飛ばされた。一瞬の奇襲が失敗に終わり、ガリィは不機嫌に漆黒のオーラに包まれたクリスを睨む。

 

 そしてオーラが霧散した時、中からは漆黒のギアを纏ったクリスが出てきた。

 

「そう簡単にアタシを散らせると思うなよ……アタシ一人でも、お前ら程度なら簡単に撃ち抜ける」

「随分な自信だこと……お仲間は頼りないみたいね」

「どうかな? 後ろの奴らも、まだまだてっぺんには程遠かったみたいだけどな」

 

 クリスの言葉と同時、蹴散らしたマリア達の方からもガチンという音と、ギアからの起動音声が聴こえてきた。

 

 なんの起動音声か―――当然、『イグナイトモード』である。

 

 一気に上昇するフォニックゲイン。

 そして漆黒のオーラが晴れた瞬間、そこにはクリス以外の装者全員が漆黒のギアを纏って立っていた。明らかに先ほどまでとは違う出力に、ガリィ達も余裕の笑みを引っ込める。

 こうなると少々状況も変わる。流石に高性能なオートスコアラーと言えど、先ほどまでの優位性は保てない。逆に、劣勢であるとも言えた。

 

 だが、二体の表情に決して焦りはなかった。

 敗北する可能性を感じられていないのか、はたまたこの戦いにおける目的の達成には何の障害もないのか、それは分からない。それでも、二体は優雅にポーズをとって構えた。

 

「まぁこちらにとっては好都合ですし、良しとしましょう」

「と言っても、やられた分くらいはやり返すけどね☆」

 

 カランコロン、とカカンッ、という小気味良い音が鳴った時、ガリィとファラは一気に敗色の濃くなった戦いに身を投じる。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 久しぶりにリディアンの地を踏んだ時、懐かしさと共に何処か不穏な気配を感じた。

 平穏に見えるけれど、どこかピリついているような――そんな感覚。

 俺がこの地を去ってからしばらく、未来との電話からも事態が急変していることは分かっていたけれど、此処まで空気が変わっているとは思わなかったな。

 

 ああ、だめだな。やっぱり、こんな状況で尚……面白そうだと感じている。

 

 やはりこの感覚が鍵なんだろう。

 おそらく俺が俺であった時、最も自身の根幹となっていた感情がコレだ。そしてコレがあったから、今の自分をおかしいと感じている。

 さて、この予感が正しいのなら……この地に俺の記憶の種が集まってきているのかもしれないな。

 

「『やぁ』『元気かな?』『泉ヶ仙珱嗄さん』」

「お前は……」

 

 すると、不意に後ろから声を掛けられた。

 振り向いてみれば、そこには学ラン姿の少年がいる。今の俺とおそらくは同年代なんだろうが、見たことのない少年。だがどこか、懐かしいような感覚があった。

 

「『僕の名前は球磨川禊』『ただの高校生さ』」

「高校生ね……にしては、大分異質な空気の持ち主だな」

「『よく言われるよ』『けど、これが僕だからね』」

「そう、それで? 何の用だ球磨川君? なじみに何か言われたか?」

「! 珱嗄さん、記憶が……っ!」

「ああ、やっぱりか……お前、過去の俺を知ってるな?」

 

 しまった、球磨川はそんな顔をした。

 ちょっとカマを掛けてみたら、括弧付けたような話し方を止めるほどに動揺している。これはどうやら予想は当たっていたようだ。俺の過去に一番近い存在は、きっと俺の母親――なじみという名の女性なのだろう。

 思えば俺は彼女を母親と認識していたけれど、彼女の名前を正確に認識出来ていなかったようにも思える。なじみ、という名前なのは漠然と知っていたけれど、その苗字は俺と同じだったか? 否、違った気がする。どうにもしっくりこない。

 

 そして、目の前のこの少年が俺の母親のことを知っていて、俺の記憶がないことをたった今証明してくれた。どうやら俺の記憶喪失は確定事項のようだ。

 

「『……やられたなぁ』『珱嗄さんならそういうこともありえそうだから』『つい

引っ掛かっちゃったよ』」

「まぁ、俺の中の違和感と今あるだけの情報を鑑みて、俺の過去に辻褄が合わないってだけの考えだったが……記憶喪失は間違いないってことが分かれば十分だな」

「『あはは』『記憶を失っても』『底知れなさは流石だね』」

「それで? 君は何をしに俺に会いに来たのかな?」

 

 問いかける。

 球磨川禊という人物が過去の俺にどう関係していて、どういう関係だったのかは分からないが、今のこの俺に接触してきたということには意味があるんだろう。だとしたら、そこから過去の記憶を取り戻す糸口が見つかるかもしれない。

 

 感情に従って口端が弧を描く。

 

 長年染みついた癖の様に、ゆらりと首が傾いて。

 

 面白くなりそうだという期待を込めた視線を送る。

 

 すると、球磨川禊は一瞬ブルッと肩を震わせながら、嬉しそうに笑みを浮かべて一歩、俺の方へと近づいてきた。両手を軽く広げて、少々の興奮を抑えながら口を開く。

 

「『恩返しだよ』『珱嗄さん』『僕は貴方の力になりにきたんだ』」

 

 おかしな話だろう。

 だが、球磨川禊のその言葉に嘘はないと、何故か俺は知っていた。その言葉に込められた意図を感覚で理解していた。それが俺の知らない出来事であっても、確かにあったのだと。

 

 だから自然と言葉が出た。

 

 

「期待以上だ―――球磨川君」

 

 

 




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