◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
ウェル博士が結論を急ぎすぎたせいでよく理解できていない全員に、改めてウェル博士は掻い摘んで説明をする。シンフォギアの適合率と、生み出されるフォニックゲインについての見解を。
ウェル博士曰く、シンフォギアとの適合性に奇跡なんてものはないという。そこには適合するだけのメカニズムがあり、それをクリアしてやればシンフォギアを身に纏わせることは可能なのだと。
そのメカニズムとは。
「僕の専門は、聖遺物と生物とを繋げる生化学。そして櫻井了子の作り上げた『LiNKER』を改良し、負担の少ない『改良型LiNKER』を作り上げました。その中で、何がシンフォギアと装者とを繋ぎ、その力となっているのか……それを突き留めたんです」
「それが愛だと?」
「その通り! 正確には人間の脳の一部分の働きがギアに対して大きく影響を及ぼしている。その一部分こそが、人が愛を感じる時に働く場所なのです……つまり、聖遺物と人を繋ぐ鍵は、人の抱く強い愛情なのです」
ウェル博士の言葉に驚いたのは、弦十郎達だけでなく、シンフォギアや旧型の『LiNKER』を作ったフィーネも同様だった。愛、それこそがシンフォギアを纏う装者の強さであり、生み出されるフォニックゲインの強さであるなど、フィーネは思いもしなかったのである。
だが、だとすれば説明のいくことも多い。
立花響は大切な幼馴染を傷つけられたからこそ、憎悪を抱いた。
憎悪とは、愛情とは正反対の感情―――だから彼女のギアはそれに応え、暴走した。
雪音クリスは残酷な運命を生きてきたからこそ、優しい人が平和に暮らせる世界を願った。
それはいわば、人の幸福を願う慈愛の心だ。そして今のクリスはそれを成し遂げるために命を懸ける覚悟を持っている。だからこそ、それに応えたギアは強いフォニックゲインを生み出し、彼女の力となった。
これだけの事例があれば、それを説明出来るウェル博士の論理は間違っているとは言い切れない。
「事実、その理論で作られた改良型の『LiNKER』を使うことで、マリア君達がギアを纏うことが出来ているのは間違いない。奏君の使っていた旧型とは比べ物にならない性能だ」
「確かにね、私の作ったものを遥かに凌駕することは間違いないわ。けれど、だからといって今の皆が『イグナイト』に匹敵するフォニックゲインを生み出せるかと言ったら難しいのも事実……そこをクリアする方法が愛と言われても、すぐに解決できるものでもないでしょう?」
「その通り、ですがこれを踏まえて戦うのとそうでないのとでは、こちらの取れる選択肢の数が変わります。シンフォギアを纏って戦う以上、戦いに迷いやマイナスな感情は返って装者を危険に晒します。だからこそ、何が装者のケアになるのかが理解出来ていることがどれほどの価値を生むのか、分からないわけではないでしょう?」
ウェル博士の言葉に、弦十郎達はグッと言葉を飲む。
確かにそうだと思ったからだ。
装者の迷いや恐怖心、苦しみを自分たちが理解し、大人として支えてあげられていたのなら、立花響はまだ此処にいたかもしれない。風鳴翼も球磨川によって心を折られることはなかったかもしれない。雪音クリスがたった一人、自分の身を犠牲にしてまで戦おうとする覚悟を決めなければならない状況を、作らずにいられたかもしれない。
子供たちが戦う以上、それが出来なければならないと、分かっていたというのに。
けれど、ウェル博士の理論を踏まえれば、最大限のフォローが出来る。恐怖があると判断したのなら、戦場には意地でも出さない。迷いがあるのならとことんまで共に向き合って、最後まで装者達と共に戦う。
それが大人としての責任である。
「僕から言わせてみれば、適合係数がどれほど高かろうと、装者の意思が弱ければ意味がないんですよ。それはシンフォギアに限った話ではありません。戦いにおいて全てを決定するのは人の意思です……覚悟のない人間は、戦場に立つべきではない」
「……確かに、その通りだな」
自分の話は以上だと、ウェル博士が席に座る。
具体的に装者の強化に対して何か方法があるわけではなかったが、それでも彼が齎した新事実は弦十郎達に与える影響が大きかった。少なくとも、より一層気は引き締まった。
「では、次の議題に入ろう。エルフナイン君。今後キャロルの行動で予想されることはあるか?」
続いて、弦十郎はエルフナインにキャロルの次なる目的について問いかける。
すると、エルフナインはそれに対して頷きながら話し始めた。
「チフォージュ・シャトーを動かすためには、どうしても必要になってくる聖遺物があります。それは『ヤントラ・サルヴァスパ』という聖遺物で、調べたところ今は二課の聖遺物管理区域である『深淵の竜宮』に保管されています」
「ではキャロルはその聖遺物を狙うと?」
「確実に狙ってくると思います。であれば、『ヤントラ・サルヴァスパ』を他の場所へと移動させ、厳重に保管するべきではないでしょうか」
「うむ……では次の襲撃が起こる前に装者諸君の警護の下、該当聖遺物を移動させよう」
エルフナインの齎した情報から、次のキャロルの目的を先回りして潰すことにした弦十郎。ようやく、敵に対して先手が取れる時がやってきたのだ。
それでも戦力的には未だに敵の方が強大。
装者全員で掛かってようやくオートスコアラー二体を倒せたくらいだ、油断はできない。二課はようやく戦えるラインに立っただけに過ぎないのだ。
此処からは頭脳戦だ。
どれだけ相手の情報を掴み、先に手を打つかどうかの勝負。そしてあらゆる不足の事態に対し、対応する手を多く用意出来るかで戦いの優位性が変わってくる。
更に言えば、二課にとって敵となりうる相手はキャロルだけではないのだ。
安心院なじみも、球磨川禊も、無視することのできない強大な存在である。キャロルと同時に何かしでかす可能性だってゼロではない。
それを理解した上で、全員が今後二課がとる行動に了承を返す。
そして具体的な作戦を話し合おうとした時、その場に今までいなかった人物の声が響いた。
「―――まだまだ甘いな、そんなんじゃ勝てねぇぞ」
「!?」
その声がしたのは、弦十郎の真後ろからだった。全員の正面に立っていた弦十郎の真後ろに、先ほどまでいなかったはずの人物がいる。これは、弦十郎一人の意識の問題ではない。この場にいる全員の目を掻い潜って、弦十郎の背後を取ったということだ。
振り返れば、そこには金髪にヘッドホンを付けた少年がいた。
逆廻十六夜である。
「確かに数はいる、良い目をしてる奴もまぁいるようだし、頭も回る奴も揃ってるようだが……それじゃ足りねぇ、お前らはもっと徹底した危機感を持つべきだぜ。でなきゃ、安心院なじみはおろか、錬金術師にだって負ける」
「……何者だ?」
「見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜様だ。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれ」
十六夜はどこかのお嬢様に対して名乗った様に、そう名乗った。
だが弦十郎達が知りたいのはそういうことではない。十六夜もそれは理解しているのだろう、弦十郎の影からスッと出てきて、全員の視線を受けられる場所へと移動する。
「そんなに警戒せずとも、何者なのかくらいちゃんと教えてやるよ。さっきも言ったが、俺の名前は逆廻十六夜……安心院なじみの協力者だった者だ」
「!?」
「安心院なじみの協力者……だった? 今は違うみたいな言い方ね」
「その通りだよ、俺は奴を裏切って敵に回ることにしたのさ。奴のやり方が気に食わなかったんでね」
「……詳しい話を聞きたいところだが……まずこれだけは訊かせてほしい。君は我々の味方か? それとも、敵か?」
弦十郎達は突然現れた未知の相手に対し、警戒心を抱かずにはいられない。
クリス達はいつでもギアを纏えるように構えているし、弦十郎も戦闘態勢、オペレーターの二人も拳銃を構えて十六夜を狙っていた。
だが十六夜はそんな状況で尚余裕の表情を崩すことなくポケットに手を突っ込んで立っており、弦十郎の問いかけに対しても淡々と答える。
「敵ではないってのが正しいか? 良く言うだろ、敵の敵は味方ってよ……俺にも俺なりの目的がある。別にその為に安心院なじみを倒さなきゃならないわけじゃねぇが、奴に先をこされんのは少々癪に障るんでね。それに、安心院なじみを負かすのも面白いと思った……だからこの際だし、お前らに協力してやろうと思ってな」
「協力……つまり」
「そう、安心院なじみを打倒するに当たって、お前らに力を貸してやるってことだ」
あくまで傲慢、自分が力を貸してやるのだというスタンスで話を進める十六夜に対し、弦十郎達はその傲慢さに苛立ちを覚えることはなかった。なにせたった今、自分たちの目を掻い潜って弦十郎の背後を取ったのだ。
それはつまり、その気になれば、この場にいる全員を気付かれることなく殺すことも可能だったということである。
どんな力を持っているかは定かではないものの、その傲慢さに見合うだけの力を持っていることは、この一瞬で証明されたも同然だった。
「君の目的はなんだ……そして安心院なじみは何をしようとしている?」
弦十郎は慎重に問いかける。
前回、球磨川禊も同じように突然現れ、二人の命を奪って姿を消した。結果的には全て何も無かったかのように死んだ人間も生きており、ありとあらゆる痕跡が消えていたが、その凶悪な所業は全て覚えている。
だからこそ、今回は何の油断もなく、あくまで慎重に話を進める。一挙手一投足に気を配り、張り詰めた緊張感と集中を途切れさせないようにしていた。
それでも、十六夜はなんのことはないとばかりに答える。
「俺もアイツも、目的は一緒だ」
安心院なじみと逆廻十六夜、その両者の目的は一緒。それはそうだ、元々は協力していたのだから、その目的が同じなことはわかりきっている。問題はその方法が合わなかっただけの話。
だが十六夜は此処でこの状況における重大な真実を告げた。
「安心院なじみと俺だけじゃない。球磨川禊もそう……俺達と同じ目的をもって動いている人間は、もっといる……そしてその全員が今、このリディアンの地に集まってる」
「なっ……!?」
「安心しろよ、全員もれなくバケモンだ。お前らが相手してるノイズや錬金術師なんかより、ずっとデカい力を持った奴らが何人も潜んでる」
その真実は、二課にとって衝撃以上に戦慄を与えた。
安心院なじみも、球磨川禊も、そして目の前の逆廻十六夜も、繋がっている。今体感しただけで一人だけでも敵わないと思ってしまう怪物が三人。それもこの話が確かなら、この三人以外にも何人も怪物が潜んでいるなどという。
絶望してしまうほどの真実に、弦十郎は思わずふらついてしまい、テーブルに手を着いて身体を支えた。
「司令っ……!」
「っ……大丈夫だ……ふー……それで、その目的とはなんだ?」
「へぇ……これを聞いても諦める気配は無しか、それも全員ときた……いいな、お前ら」
十六夜は今の真実を聞いて尚、この場にいる全員の心が折れていないことに笑みを浮かべた。あまりのスケールの大きさについてこられていないだけかもしれないが、それでも戦うことを諦めていない全員に、気分を良くする。
これならば、まだ使い物になるだろうと。
「俺たちの目的はただ一つ」
逆廻十六夜は告げる。
今世界で起こっている全ての事件、全ての登場人物が誰を中心に、動かされているのか。当然だろう、弦十郎達は知らない。知る由もない。
この世界は物語であり、主人公と呼ばれる存在がおり、そしてそこに干渉している枠外の存在がいるなど、誰も思わない。誰もが現実を生きているのだから。
「かつての泉ヶ仙珱嗄を取り戻すことだ」
誰も分かっていない。
全ては、泉ヶ仙珱嗄という人物が始めたことなのだと。
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