◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
再開致します。今後ともよろしくお願いいたします!
逆廻十六夜が二課に合流し、改めて対策会議が進められる。
話の中心はやはり十六夜という新たなメンバーから齎される情報についてだろう。彼の持つ安心院なじみや泉ヶ仙珱嗄に関する情報は、まさに現状を打破する一石足りうるのだ。
全員が十六夜の言葉に集中して、新たな情報への理解に努めていた。
「さっきも言ったが、安心院なじみや俺らの目的はあくまでかつての泉ヶ仙珱嗄を取り戻すこと。それ以外のことは正直どうだっていいんだ」
「かつての、ということは泉ヶ仙珱嗄には普通の人間以上の何かがあるということか? 我々も彼については血縁まで遡って調べたが、おかしな点は一つもなかったぞ」
「ああ、ある。調べたって出てこねぇよ、なんせアイツの過去はこの世界とは別の世界での話だからな」
十六夜の言葉に反応したのは弦十郎。
安心院なじみや十六夜ほどの桁外れの強者が、それほどまでに執着を見せる泉ヶ仙珱嗄とはなんなのか、それが目下最大の謎である。彼の出生、出自、過去遡れるだけの先祖まで調べ上げたとしても、そこに何かしら得体の知れないものを見つけられない一般人。二課としてはそれ以上のことを泉ヶ仙珱嗄に見いだせないのだ。
だが十六夜の口から飛び出してきたのは、自分たちの想像を遥かに超えた超次元の話だった。
自分たちのいるこの世界とは全く別の世界での話――つまり異世界である。
「まぁ俺も安心院なじみも、珱嗄について全てを知っているわけじゃない。何処から来たのか、何処で生まれたのか、そのあたりのことは誰も知らねぇ……けど、アイツはかつて様々な世界を渡ってきた。聞いた限りじゃ人類と別種族との戦争を終わらせたり、魔法の存在する世界で数々の次元世界を渡ったり、安心院なじみの存在する世界で無敵を誇ったりしたらしい。その後に幾つ世界を渡ったのかは知らねぇけど、俺と出会った世界でも、数々の修羅神仏を相手に負けなしの存在だった……つまり、この世界で一般人として過ごしている珱嗄って奴は、昔神や人外をも超えた最強の男だったってことだ」
「神様よりも強いなんて、規格外すぎるのデスよ……」
「でも、安心院なじみなんていう人外が関わってくるなら、それくらいの相手でもおかしくない……」
泉ヶ仙珱嗄の正体を知って、その場にいる全員に衝撃が走る。
かつて神すらもが恐れた無敵の人外――泉ヶ仙珱嗄。
弦十郎はそれを聞いて数秒考えると、再度十六夜に問いかける。
「安心院なじみと泉ヶ仙珱嗄の関係は? 彼がかつてそれほどの存在だったとして、安心院なじみが彼に執着する理由はなんだ?」
当然、疑問として浮かぶのはそれだろう。
安心院なじみは宇宙創成から生きる究極の人外だ。そんな彼女が同格以上の存在である泉ヶ仙珱嗄とどういう関係だったのか、仲間だったのか、敵だったのか、友人だったのか、それによって彼女への対策方法も変わってくる。
「ま、所謂恋人だよ。かつて珱嗄と安心院なじみは互いに愛し合う恋人として、宇宙の終末まで添い遂げた、添い遂げ抜いた二人だ……俺の知る限り、アイツらが離れたことは一度も無かったくらいだしな」
「恋人……」
十六夜の答えに、フィーネがぽつりと呟く。
「安心院なじみは珱嗄がこの世界に生まれるずっと前、かつての自身の出生と同じく宇宙の創生以前よりこの世界に誕生していた。奴に比べりゃ俺達が生まれたのはつい最近のことだが、俺たちは生まれた時から過去の記憶があった……珱嗄のことも、自分がやってきたことも、全て知っていた」
「つまり、安心院なじみは宇宙創成よりも前から動いていたということか? 泉ヶ仙珱嗄がこの世界に誕生すると知っていたと」
「その辺は定かじゃねぇが、奴ならあり得る話だ」
その返答に、弦十郎達の心中に浮かんだのは恐怖だった。
安心院なじみという存在が泉ヶ仙珱嗄の奪還を目的としており、それを誕生した瞬間から計画していたのだとすれば。
現在自分達が相手にしているのは、およそ数百億年以上の年月を掛けてお膳立てされてきた計画だ。
かつて孫氏と呼ばれた人物は、戦わずして勝つという結果を最善のものとして後世に伝えた。そして、戦いは始まる前から勝敗が決まっているという言葉も。
相手を知り、状況を知り、己を知り、あらゆる情報を手中に収め、その対策を練り、万全の準備を欠かさなければ戦に勝てる。
ならば安心院なじみのこの計画は――破ることなど出来ないのではないか?
そう思わされてしまう。
泉ヶ仙珱嗄を取り戻すために、彼女はおそらく無数の策を張り巡らせてきたはずだ。数百億年以上の年月を費やしてきたはずだ。ならばノイズという存在も、聖遺物という存在も、この地球上での今も、自分達の組織の成り立ちすらも、彼女の手の内で操作されている可能性すらある。
「愛する者の為に、此処までのことをするか……」
「おそらく並び立つ者のいない安心院なじみにとって、永遠にも等しい孤独を埋めた唯一の存在だからな……それくらいのことをするくらい、好きなんだろうよ」
「……そんな想いに、私たちは勝てるのデスか……?」
「そもそも、阻止しなければいけないモノなの……?」
安心院なじみのやろうとしていること、その過去を知って、切歌と調がそんな疑問を抱く。安心院なじみのやろうとしていることは、泉ヶ仙珱嗄を取り戻すこと。であれば他人を殺そうというわけではないし、人類を脅かすようなことをしているわけでもない。
安心院なじみを止めなければならない理由は、正義は、自分達にあるのかと。
それに対する答えを、弦十郎達は出せない。
安心院なじみも、球磨川禊も、目の前にいる十六夜も、結果だけ見れば何もしていない。誰も殺していない。
「……それでも、アタシたちが戦わないといけねぇ奴らがいて、そこにそいつらが関わってんなら進むしかねぇよ。戦う理由があるのかどうかは、その先でわかる」
「……そうだな、その通りだ。まずは錬金術師キャロルの目的を阻止することが先決だ。十六夜君だったか、君はどの程度我々に協力してくれる気がある?」
「キャロルとおたくらの喧嘩に手を出す気はねぇ。ただ、安心院なじみの関与する件に関してであれば、俺も手を貸すさ」
「了解した……では、一先ずキャロルの目的とされる聖遺物の保管区画、『竜宮の深淵』の警護を行う。装者の諸君は再度身体検査の後、二チームに分ける。アルカ・ノイズによる攪乱がないとも限らない、有事の際に動ける戦力を残しておく」
『了解!』
弦十郎の指示に、装者全員が了承を返す。
十六夜からの情報はさておき、止めなくてはならない相手がいることは確か。そして今まで散々後手に回されてきた二課が、ようやく先手を取る時がやってきたのだ。
ここで敵の目的を阻止し、首魁であるキャロルを引きずりだす。
「尚、十六夜君や球磨川禊が安心院なじみの関係者である以上、その動きを悟って彼女が動く可能性も十分にある。現場での状況が目まぐるしく変化するかもしれないことを念頭に置き、あくまで冷静に判断することを心掛けてくれ……優先すべきは敵目標聖遺物の守護だ」
「目標聖遺物は、いざとなれば破壊してもいいのか?」
「最悪の場合は、それもやむなしと考えていい。世界の分解と天秤に掛ければ、些細な損害だ」
「了解した」
クリスの問いかけに、弦十郎は頷きを返す。
「では、諸々の準備を整え、一時間後に『竜宮の深淵』に向かう。行動開始!」
そして質問がないことを確認してから、弦十郎のその言葉で全員が行動を開始した。
◇ ◇ ◇
二課とキャロル陣営がそうして動きだしている最中、珱嗄もまた、動きだしていた。
リディアンの地に戻ってきてから、珱嗄は球磨川禊を連れて身を隠しながら情報を集めていた。球磨川禊から齎された情報を元に、ひっそりと。
やってきたのは、墓地だった。
人の姿はなく、珱嗄は球磨川を連れて数々の人が眠る墓石の中を歩いていく。球磨川自身は何も聞かされていないのか、周りをキョロキョロと見回しながらも珱嗄の一歩後ろを付いてきていた。
「確認だけど、俺の母親……安心院なじみと球磨川君はかつて、俺と関わりのあった人物だってことだよな? で、多分だけど、そういう奴がまだ数人いる」
「『うん』」
「ま、面白くないから詳しくは訊かないけど……君達の目的は多分俺だろ? それも今の俺じゃなく、かつて君達といた『俺』だ」
「『まぁ、そうだね』『その為に安心院さんも僕も動いている』」
歩きながら球磨川と話す珱嗄。
笑みを浮かべながら、目まぐるしく変わる事態に気分を良くしているようで、珱嗄の足取りも軽くなっていた。
珱嗄が球磨川から聞いたことは、大体が登場人物を聞いた程度のことだった。現在二課とキャロルという錬金術師が戦っていること、シンフォギアと呼ばれる武装のこと、安心院なじみという人外がいること、などである。特にこれといった詳細は訊いていないが、それでも何が起こっているのかくらいは知っているといったところだ。
「『それで』『これは何処に向かってるの?』」
「これから人と合流する、ほら……あそこに居る奴だよ」
「『?』」
珱嗄が顎で示した先、並ぶ墓石を抜けた先にある木の下に、フードを被った人影が立っていた。シルエットから女性だろうが、その顔は陰になっていて見えない。
珱嗄が近付いていくのを見て、球磨川も遅れて付いていく。
「リディアンに帰る最中に出会ったんだ、それで今回俺の協力者として付いてきてもらった」
「『一体……?』」
人影の前までやってくると、珱嗄はその人物に対して片手をあげて挨拶する。
すると、その人物はフードに手を掛けその顔を露わにした。
「そいつは仲間か? 珱嗄」
「うん、まぁそんなところ」
「『!?』『まさか、その人って』」
そしてその顔を見て、球磨川禊は驚愕に目を見開く。
そこにいたのは、本来いるはずがない人物だったからだ。フードを取り、服の中に入っていた髪の毛を出す彼女は、シニカルに笑って球磨川を見る。
赤い髪と強気な瞳は炎のようで、そのシニカルな笑みからは彼女自身の人柄が伺えた。
「俺も驚いたけどね、どうやら生きていたらしいよ」
「どーも、知ってるかもしれないけど、アタシは
その名前は、二年前に立花響がノイズ襲撃を生き残った代償に支払われた命の名前。かつて風鳴翼と共にツヴァイウィングとして日本中に名前を轟かせた歌姫。
熱烈で、苛烈で、熾烈だった少女。
天羽奏。
死んだはずの人物の登場に、不死身の球磨川が呆気に取られる。
「てことで球磨川君、これから横槍を入れに行くよ」
「撃槍だけにな」
「『横槍って……』『一体何をする気?』」
球磨川の問い掛けに、珱嗄と奏は一層の笑みを深めた。
「決まってるじゃん、俺をハブって勝手に遊んでる奴らの頭をひっぱたく」
「アタシも会いたい奴がいるしな」
そして一拍置いてから、
『手伝ってもらうぞ、球磨川君?』
二人の言葉が、ユニゾンして球磨川禊の耳に響いた。
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