◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第四十四話 復活のG

 クリス達が『深淵の竜宮』にて敵勢力との戦闘を開始した時、二課の司令室では新たな存在の登場に動揺が走っていた。

 登場したのはキャロルとは違う二人の錬金術師。オートスコアラーしかり、アルカ・ノイズしかり、キャロルの用いる戦力にはキャロル以外の人間がいないことから、錬金術師はキャロル一人だと考えられていた。

 しかし、その予想は此処で大きく覆される。登場した二人の錬金術師の存在は、キャロル陣営の戦力がより強大なものであることを証明するからだ。

 

 クリスと弦十郎、そして切歌と調もいるとはいえ、シンフォギアと錬金術は全く異なる異端技術だ。そこには互いに知りえない未知の領分があり、どのような手を打ってくるのか予想が付かない。

 もっと言えば、こちらの手札は知られているのだ。仮にイグナイトを使った所で、対処されてしまう可能性は十分にある。

 

「想像以上に大きな組織が裏に付いているみたいですね」

「確かに、錬金術師という存在について詳しくはありませんが……これほどの実力者が個人で続々と登場するとなると組織だった動きを感じざるを得ません」

 

 映像でソレを確認するナスターシャとウェル博士は、同じような見解で錬金術師の組織がより巨大なものであることを悟る。

 そしてそれはフィーネも同じだった。

 違うのは、その組織に心当たりがあったことである。

 

「チフォージュ・シャトーなんて大層な建造物を作る計画、複数の錬金術師、オートスコアラー……ここまで錬金術の粋を集めたような行動、どう考えても国組織ではない。となれば、やはりパヴァリア光明結社か」

「パヴァリア光明結社? なんなのそれは」

 

 フィーネの零した言葉にマリアが反応する。

 パヴァリア光明結社、マリアからすれば見たことも聞いたこともない正体不明の組織だ。けれど、フィーネは知っている。かつて聖遺物を取り合い争った相手だからだ。

 

「先史文明時代、私は今と変わらず聖遺物の研究を進めながら目的の為に行動していた。その際、私と聖遺物を取り合い争った組織がいたのだ。それがパヴァリア光明結社……錬金術師によって構成された組織。創始者であるアダム・ヴァイスハウプトを筆頭に、遥か昔より歴史の裏で暗躍してきた正真正銘の秘密組織だ」

「そんな組織が……組織の目的はなんなの?」

「さぁな……私も詳しくは知らないが、これほどの組織を作り上げるくらいだ……生半可な目的ではないだろうな」

 

 フィーネから出る情報に対して、マリアたちは新たな勢力の登場に眉を顰める。

 

「無論、今起こっている計画がキャロル主導で行われている以上、パヴァリア光明結社が黒幕としている可能性は低いだろうが、協力しているのは間違いない。それも、結社の錬金術師が直接援護に来るくらいだ……かなり密接な関わりがある」

「フィーネ……貴女はその結社と争ってきたと言いましたね……危険度でいえばどの程度の勢力なのですか? 現状、その統制局長が前線に出てきた場合の勝算は?」

「危険度か……かつてのパヴァリア光明結社はまだ出来てそれほど時間も経っていなかった。今となっては、私と争っていた時よりもずっと大きな組織になっている以上、真っ向勝負になった場合の勝算は正直低いと思わざるを得ない……それに、統制局長アダム・ヴァイスハウプトの力は未知数だ。彼一人でもシンフォギア装者全員を蹴散らせる可能性は十分ある」

「勝算はほぼない、と……キャロルだけでも現状厳しい戦いですが、厄介な存在が出てきましたね……」

 

 ナスターシャの問いに答えるフィーネに、指令室にピリッとした緊張感が走る。

 とはいえ、そもそも安心院なじみという怪物を筆頭に、化け物染みた敵はもう散々出てきているのだ。緊張感は走るものの、それで臆するような者はいなかった。寧ろ、まだ出てくるのかと溜息が出るくらいには余裕がある。

 諦めなければ何ごとも何とかなるとは言わないが、それでもクリスのやるしかないという言葉が根深く心に刻まれているらしい。

 

 動揺するよりも、対策を練ることに一秒でも時間を割く。それが今の二課に出来ることだ。ゲームオーバーにはまだ早い。

 

「風鳴司令、地上では現状なにも起きていません……焦らず、目の前のことに対応してください」

『了解した……そちらで何かあった場合は、すまないが頼む』

「ええ、問題はありません」

 

 ナスターシャは通信で風鳴弦十郎に短くそう伝えると、一度通信を切る。

 そしてモニターを切り替えて、リディアンの街外れにある道路の映像を出した。そこには一匹のアルカ・ノイズと一人の女性が立っている。街頭カメラからこちらが見ているのを知っているのか、冷たくキリッとした目でカメラ越しにこちらを見ていた。

 

「明らかに挑発、ですね」

「ウェル博士、どう見ますか?」

「アルカ・ノイズの反応を出して我々に気付かせ、それ以上の行動はしない……余計な犠牲を出すつもりはないということでしょう。街外れを選んでいることも、人気のない場所を選んだとみて間違いないでしょうね」

「なら放置していてもいいと?」

「いえ、あの女性の目は本気です。あの一体のノイズは、こちらが何もしなければアルカ・ノイズを街中で暴れさせる準備があるという意思表示でしょうね」

「やはり……」

 

 弦十郎にはああいったが、実際のところこれから何か起きるという意味では嘘でもある。あくまで戦闘状況を見て、懸念事項を減らす意図でああ伝えたのだ。

 そして、そう言ったからにはこちらはこちらでやるべきことをやる必要がある。

 

 ナスターシャとウェル博士はお互いの見解を確認し、これからすべきことを的確に撃ちだしていく。

 

「誘いを掛けている以上交渉の余地がある可能性は捨てずにいきましょう。マリア、セレナ、二人で現場に向かってください……到着後、所属と目的を問いましょう。必要であれば、その場で交戦です。『LiNKER』を忘れずに」

「了解」

「わかりました」

「敵は未知数の錬金術師です。どんな手を使ってくるか分からない以上、油断はしないように」

 

 ナスターシャの指示に頷き、マリアとセレナが現場へと急行する。

 相手は錬金術師だ。イグナイト搭載のシンフォギア装者が二人いたとしても、オートスコアラーと同様にはいかないだろう。

 マリア達のいなくなった後で、指令室内での緊張感がより強くなるのを感じたフィーネ。

 

「オートスコアラーが出てこないとも限らない。二ヵ所同時襲撃とはいえ、さらに別の場所での襲撃がないともいえないのだ……気は抜けないぞ」

「そうですね……オートスコアラーはノイズと違って反応を捉えられません。職員の役割を分けます、現場指揮とその支援を少数で行い、残った職員で街全体の監視を。何か怪しいものを見つけた場合は即時ウェル博士に報告を……『竜宮の深淵』の方は私が対応します。フィーネ、マリア達の現場指揮をお願いできますか?」

「良いだろう、シンフォギアや決戦機能についても最も詳しいのは私だからな。エルフナイン、協力しろ」

「僕に出来ることがあるなら!」

 

 二課の強みは、現状指揮を取れる人材が豊富な所にある。弦十郎、フィーネ、ナスターシャ、ウェル博士の四人と、そのサポートにエルフナインという錬金術に精通する優秀な人材もいる。現場での戦闘では一歩劣るかもしれないが、サポート体制は十全に整っているのだ。

 

 それぞれがそれぞれの担当に集中し、的確かつ迅速に指示を出していく。

 今日まで、これから起こりうる全ての可能性を考え、そのサポートの準備を整えてきた。キャロルや安心院なじみ、アダム・ヴァイスハウプトという首魁級の存在達が出てきていない以上は決戦というわけではないけれど、それでも一度の敗北が後にどう響く変わらない以上、気を抜くことは出来ない。

 

「(さて……こうなってくると泉ヶ仙珱嗄の動向が気になる……記憶喪失の状態でここまで予想外の行動を取る人物だ、安心院なじみや球磨川の動機が彼に依存する以上……出来る限り彼の動向を把握しておきたいのだが……)」

 

 そうして動く中、フィーネは泉ヶ仙珱嗄という不安要素を考えて、密かに一筋の冷や汗を流した。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 そうして二課とキャロルたちが動く中で、異世界よりやってきた者たちが呼ぶところの主人公――立花響は廃ビルの屋上からリディアンの地を見下ろしていた。

 その手にはクリスや翼の持っているものと同様の赤い結晶があり、響はそれを見て密かに溜息をつく。

 

 立花響と小日向未来を連れ去った少女―――ヴィヴィオ。

 

 魔法使いだと名乗った彼女は、まず最初に響の体内に埋め込まれていたガングニールの欠片を取り出して見せた。話によれば響の体内にあったガングニールはシンフォギアとして展開する度に響の身体を侵食していたらしく、取り除かなければいずれは響の命を脅かしていたのだそうだ。

 フィーネによって融合症例と呼称されてはいたが、その融合には相応のリスクがあったということだろう。

 

 ヴィヴィオは体内のガングニールのことを、聖遺物ではなく『ロストロギア』と呼んだ。そして魔法により封印処理をすることで取り除くことが可能だとも。

 

 つまり響の手にある結晶は、ヴィヴィオが封印魔法で封印処理をして響の体内から取り除いたガングニールなのである。

 

「私の中にあった、ガングニール……」

 

 だが、それはつまり響はもう融合症例ではないということだ。

 ガングニールと融合していたからこその適合係数を捨てた今、ガングニールと適合してシンフォギアを纏うことは出来ない――けれど、響の胸には未だ聖詠が浮かんでいた。

 

 未来を仲直りし、憎悪の対象だったクリスの印象が変化し、未来から珱嗄の無事を知った今―――響には戦う理由があった。

 

「私には守りたいものがある……失ったと思ってたけど、全部まだ生きててくれた」

 

 ガングニールを握りしめ、ガングニールに語り掛けるように響は一つ一つ思い出すように言葉にする。

 未来も、珱嗄も、まだ生きている。そして生きているのなら、まだ幾らでも繋がれる。響は珱嗄の教えを思い出していた。

 

 ―――いいか響ちゃん……人は簡単に殺せる。だからこそ力はきちんと制御できないといけない。力を持つということには、ソレを振るうだけの責任を持つってことだ。

 

「うん、今ならわかるよ……珱嗄」

 

 ―――響ちゃんが何のために何と戦うのかは訊かない……けれどもしも手に入れた力を人に向ける時が来ないとも限らない。

 

「うん……それがとても恐ろしいことだってことも、身をもって知った」

 

 響は思い出す。

 雪音クリスの命を一度は奪ってしまった、あの日の罪を。珱嗄に前以って教えられていたのに、それを理解できないまま、覚悟もないままに闇雲に暴力を振るった自分の弱さを。

 

 ―――この拳で何をしたいのか、そしてそれを貫く強い意志を持つこと……それが"覚悟"を持つってことだ。

 

 ―――覚悟……私が何をしたいのか。

 

 ―――そう、響ちゃんは自分が戦うことで……どうなって欲しいんだ?

 

 

「……分かったよ珱嗄」

 

 立花響は一度、全てを失った。

 小日向未来に拒絶され、泉ヶ仙珱嗄を失い、風鳴翼にも見放され、挙句の果てには雪音クリスに拾われた。

 二課にも、リディアンにも、家にも、自分の居場所などないと思うくらいに絶望し、死んでもいいとすら思った。一度は全てを投げ出したのだ、響きは。

 

 それでも手遅れではなかった。

 

 小日向未来が手を取ってくれて、珱嗄の無事を知ることができて、まだこの拳を握ることができる。まだ胸に聖詠が浮かんでいる。

 

「私は諦めない、未来が取ってくれたこの手……握れば固い拳になるこの手を、誰かと繋ぐことを恐れない……!!」

 

 ―――Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)……♪

 

 胸の聖詠を歌う。

 応えてくれると信じている。このガングニールが、立花響の想いに応えてくれると。

 

 輝き、響の身体を見慣れたシンフォギアが纏う。

 

「最短最速で、まっすぐに、一直線に!!」

 

 ガシュン、という機械音を唸らせ、響は飛び上がる。

 自分が出来ることを、繋ぐべき手を引くために、己の全身全霊を込めて、戦うべき場所へと向かう。戦場から取り残された彼女が、再度戦場へと、今度こそ覚悟を持って。

 

 

「ガングニィィィィル!!!!」

 

 

 響の雄叫びに、ガングニールが応えるように煌めいた。

 




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