◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第四十五話 ヨナルデ・パズトーリ

 『深淵の竜宮』にて弦十郎達と邂逅した二人の錬金術師は、その名をカリオストロとプレラーティといった。アルカ・ノイズを召喚し、また二人ともが錬金術を駆使して襲い掛かってくる。

 錬金術の基礎は、理解、分解、再構成の三工程。けれど、錬金術を行う上で用意しなければならないエネルギーはやはり必要である。

 キャロルやそのオートスコアラー達はそれを自身らの想い出や他人の想い出―――つまり記憶を焼却することで捻出しているわけであるが、カリオストロとプレラーティはそれを生命力を用いることで捻出していた。

 

 想い出や生命力、どちらも人が生きる上では欠かせない構成要素ではあるが、恐ろしいのはそれを他者から奪い取って利用することが可能であるということ。

 

 現に、オートスコアラーであるガリィには他者から口内接触にて想い出を蒐集する機能が付いており、カリオストロ達もまたその生命力に相当するだけの命を奪ってきている。

 歌から捻出されるフォニックゲインをエネルギーとして利用する聖遺物と違い、本当の意味で人類の到達した異端技術。それが錬金術。

 

「はぁあああ!!!」

「ちょ、こいつシンフォギア装者でもないのに超厄介!」

「なワケだ!!」

 

 聖遺物という異端技術に対抗する、錬金術という人類の異端技術。

 それは確かに相当な力を秘めており、シンフォギアですら打倒できる可能性を秘めている。どちらも使い手次第ではこの世界の常識をひっくり返すことの出来る力だ。

 

 けれど、人間が本来秘めている可能性とて、捨てたものではない。

 

 カリオストロ達は、クリスや切歌、調というシンフォギア装者だけであれば、イグナイトを持っていたとしても抑え込める自身があった。誤算があったとすれば、それは『ネフシュタンの鎧』という完全聖遺物を身に纏った風鳴弦十郎がいたこと。

 彼はフィーネがノイズを用いてリディアンの地で暴れだした時から、様々な指示を出してそれに対応してきていたが―――現場にその姿を現したのは、アルカ・ノイズが初登場した時の一度だけ。それも数秒の間ネフシュタンの鞭を振るっただけだ。

 

 つまり、彼の実力自体はフィーネを除き、敵勢力には正確に知られていなかったということ。

 風鳴弦十郎――彼は強い、単純に。

 己の拳、肉体、それを駆使して振るう武術、気力。その強力な一つだけで、彼は軍隊すら相手に出来る男だ。ノイズという究極の対人間兵器すら出てこなければ、彼はシンフォギアに頼らずとも現場で戦える人間なのだ。

 まさしく人類最強と呼ぶに相応しい強さ。

 そんな彼が、聖遺物として最高位の完全聖遺物を身に纏っているのだ。その力は、クリスや響という超感覚や超集中を備えた装者であっても圧倒的。

 

「やんなっちゃうわ、ねっ!!」

「甘い!!」

 

 鞭という中遠距離の武装に対し、生命エネルギーを拳に纏わせてインファイトを仕掛けるカリオストロだが、弦十郎はその拳を軽々と躱し、超至近距離の位置からカリオストロの腹に掌底を添える。

 腕を引き、突き出す距離がないほどの至近距離が災いして添えるだけになってしまった掌底。カリオストロはそれを脅威ではないと判断して続く攻撃を加えようとするが、弦十郎は彼女の予想を遥かに超える。

 

 ―――"発頸"

 

「フッ!!!!!」

 

 ズドン!! という強打音と共に、添えられた掌底から腹部を貫く衝撃を諸に食らうカリオストロ。拳を振るうのには振りかぶりというものが必要になる筈なのに、添えられて運動エネルギーはゼロの状態だった掌底から、まるでハンマーを叩きこまれたような衝撃が生まれるなど、誰が想像できようか。

 

「ガッ、ハッ……!?!?」

「カリオストロ!」

 

 くの字になって吹き飛び、転がるカリオストロ。

 体内の空気が一気に吐き出され、転がる最中に全身を走る激痛を理解した。筋肉から生み出される物理的な打撃ではなく、体内の気功エネルギーを練り上げ、足元から筋肉を連動させて最小限の動作で放った掌底に、その全エネルギーを乗せたのだ。

 常識外れもいいところ。どういう理屈なのかも理解出来ず、理解出来たとしてもそれが実現出来る意味が分からなかった。

 

 転がるカリオストロにクリス達の相手をしていたプレラーティが駆け寄る。

 意識はあるようだが、全身を走る衝撃に肉体が悲鳴を上げているのをカリオストロは理解していた。なんとか立ち上がるも、弦十郎という人間がいる以上敗色は濃い。

 

「はぁ……はぁ……! これは予想外」

「二課にこれほどの怪物がいるとは、思わなかったワケだ……」

「本来なら、此処で君達に交渉し投降してもらうのが俺のやり方だが……すまないな、現状我々には余裕がない。君達には悪いが、死なない程度に痛めつけて強制連行させてもらう」

 

 弦十郎は容赦をしなかった。出来るはずもなかった。

 彼は現在、世界規模で脅威となりうる敵が複数いて、それらと戦う組織の長なのだ。人情と仁徳に厚い彼のやり方を貫くには、既に危機的過ぎる状況であることを、彼はしっかりと理解していた。

 クリスの覚悟も、響の絶望も、翼の弱さも、弦十郎は自分の甘さが原因だったと思っている。大人として、だなんて言葉を使ってきた自分が、大人として子供を導けず、挙句の果てに心に傷を負わせてしまった。これは誰が許そうと、己自身を罰さずにはいられない無様だ。

 

 故に弦十郎は、もう二度と後悔しない。

 

 一つの組織の長として、その拳で、その背中で、その在り方で示す。

 己の信念に厳しく、己の道理に熱く、己の正義に全霊を懸けるのだ。

 だからこそ、彼はもう過度な甘さを許さない。敵に情けを掛けるのも良いだろう、理不尽な力を振るうこともしたくはないし、相手の正義への理解も示そう。

 

 しかし、それは戦いで勝利してからだ。

 戦いの中でソレが出来るほど自分が強くないことを思い知ったからこそ、もう彼は順番を間違えない。

 

「まずは『ヤントラ・サルヴァスパ』を渡してもらおうか」

 

 最早―――風鳴弦十郎に付け入る隙はない。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 マリアとセレナが現場に到着した時、そこにいたのは映像で見た通り男装の麗人と言わんばかりの美しい女性だった。二人の到着と同時にアルカ・ノイズを消し、特殊な装飾のされた銃身の長い拳銃を胸の前にもってくる。

 即戦闘に入る気はないのかと思っていたが、どうやらそういうわけでもないようだった。身構えるマリア達は、両者ともアームドギアを強く握りしめ、相手の出方を伺っている。ナスターシャの言った通り、錬金術は未知の領域だ――初見殺しの可能性も十分にあり得た。

 

「来たな、シンフォギア……二人か……期待より少ないが、まぁいい。我々の目的のためにも、此処で沈んでもらう」

「貴方達の目的はなに? キャロルの協力者の割には、少し行動の毛色が違うようだけど」

「キャロル・マールス・ディーンハイムの計画は彼女のものだ、協力はしているが……我々には我々の目的がある。利害の一致という奴だ」

 

 相手の言葉に対し、ゴクリと唾を飲みながら静かに問いかけるマリア。相手の対応は、無駄に情報を開示する気はないというような、端的なものだった。

 キャロルとの協力は認めるが、それとは別の目的があるという事実が分かったのは良いことなのだろうが、それはそれで厄介な問題が増えたことの証拠でもある。

 

 錬金術師という存在の厄介な点は、その魔法とも呼べる異端技術によって、条件さえ揃えばどんなことでも実現出来る汎用性と、総じて頭の切れる人間ばかりであるということ。

 人間の到達点の異端技術―――そしてそれを扱う人間は、歴史に学んで弱者の知恵を培ってきた存在。

 その知恵によって生存競争の頂点に立った以上、更に錬金術なんて異端技術を持てば鬼に金棒どころの話ではない。

 

「その目的は?」

「それを教える理由はない」

「……でしょうね!」

 

 バン、と錬金術の銃口が火を噴いた。

 物理的な弾丸ではなく、錬金術により構成されたエネルギー弾。シンフォギアの防御フィールドであっても、コレを防ぎ切るのは厳しい。

 マリアとセレナは左右へと飛び退き、その弾丸を躱した。

 するとその隙に女性はアルカ・ノイズを大量召喚して、戦力を増やす。

 

「今更ノイズ!!」

「はぁっ!」

 

 歌いながら、マリアとセレナは姉妹での連携でアルカ・ノイズを掃討していく。イグナイトの搭載されたギアである以上、アルカ・ノイズであろうとただのノイズと変わらない。シンフォギアであれば、さほど倒すのに苦労はしない。

 だが、マリアとセレナがノイズとの交戦を開始して数秒後、女性は弾丸を放つ。ノイズという壁を用意することで見えない位置から放たれたその弾丸は、時にアルカ・ノイズを数体撃ち抜きながら、マリア達に迫る。

 

 そして、その弾丸は正確にマリアの太ももを貫いた。

 

「あああッ!?」

「姉さん!」

 

 シンフォギアの防御フィールドを貫通して肉体を穿つ弾丸。錬金術によって防御フィールドを分解したのだろう。マリアは片足に力が入らず、その場で転倒してしまう。そこへアルカ・ノイズが襲い掛かってくるが、それをセレナが蹴散らしてマリアへと駆け寄った。

 太ももから多少血が流れているが、シンフォギアの身体強化のおかげか見た目ほど酷い怪我ではない。とはいえ、立つことは出来てもガングニールの敏捷性は喪失しているだろう。

 

 この状況では致命的なダメージを受けていた。

 

「くっ……!」

「時間を掛けてもいられないのだ……だから、早々に消えてもらうぞ」

 

 そう言って女性が取り出したのは、何らかの像。

 彼女はそこになにやら光り輝く小さな塊を触れさせると、錬金術特有の魔法陣が浮かびあがった。錬金術によってなんらかの錬成をしようとしていることは分かるが、その知識がないマリアとセレナはそれに対する理解が及ばない。

 またそれを邪魔しようとしても、マリアは負傷、セレナも周りのアルカ・ノイズに邪魔されて動くことが出来なかった。

 

 そして、

 

「これが錬金術……ヨナルデ・パズトーリの力だ」

 

 生み出されたのは、元の像とは似ても似つかない巨大な竜の様な生物だった。ノイズよりも強大な威圧感を持っており、同じ世界の生物とは思えないオーラを纏っている。

 その竜に対してマリア達が抱いたのは、純粋に恐怖だった。圧倒的に不利な状況、逃げようにもマリアは動けず、どう頑張っても追いつかれる。

 

 まして、錬金術師の彼女が逃亡を許してくれるとは思えなかった。

 

 絶体絶命、しかしセレナは動けないマリアを庇うように立ち塞がると、両手の小剣を構える。どうすれば勝てるのかは分からないけれど、それでも諦めるわけにはいかないという気合いがあった。

 

「……イグナイトモード……抜剣!!!!」

 

 そして自分の出来る限りを、とギアを抜剣――漆黒のギアへと変化した彼女のシンフォギアは、先程よりも桁外れの出力を弾き出し、その能力を大幅に上昇させる。フィーネたちの作り上げた『Elixir』のおかげもあって、更に適合係数やギアの能力を向上させていた。

 すると、そんな彼女の変化に気付いたのか、錬金術師がヨナルデ・パズトーリと呼んだその竜がセレナに襲い掛かる。勢いよく突進してくる竜に迎え撃つように、セレナは浮遊する小剣で三角形のエネルギーシールドを生成、それを受け止める。

 

 ドガァァァ! という轟音と共に衝突した竜とセレナ。

 

「うっ……ぐ……ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

『ガァァァァァァ!!!』

 

 だがその力は歴然――イグナイトの出力を以てしても、竜の突進を止められたのは数秒だった。

 

「セレナぁ!!」

「きゃああああああッッ!!!」

 

 マリアの叫びと同時、粉々に砕け散ったシールドを貫き、竜はセレナの身体を大きく吹き飛ばす。シンフォギアを纏っているとはいえ、その身体に走る衝撃はかなりのもので、セレナは宙に浮かびながら意識を失っているようだった。

 そのまま地面に墜落し、跳ねるように転がっていく。そして三度、地面をバウンドした彼女の身体―――シンフォギアも解除され、生身のままコンクリートの壁に衝突してしまいそうになったその瞬間、マリアはセレナの死を予期した。

 

 動かない身体に鞭を打つが、それでも間に合わない。

 

「いやぁぁああああ!!」

 

 目を見開き、涙すら浮かんで吹き飛ぶセレナに手を伸ばす。

 

 そしてセレナが壁に衝突するその瞬間―――橙色の輝きが視界をよぎった。

 

「ッ!!」

 

 衝突音はなかった。

 

「……何者だ?」

 

 セレナの姿が消え、マリアは動揺に視線を動かして彼女を探す。

 すると、自分のすぐ後ろに、一人の人影が立っていた。その人物の両腕の中にセレナが抱えられており、その人物がセレナを助けたことを理解する。

 

 其処に居たのは、マリアも初めて会う少女だった。

 

 話には聞いていた、けれど会うことはないと思っていた少女。

 橙色のギアを身に纏い、拳には大きなナックルギア、癖のあるベージュ色の髪、強い意思の感じられる瞳は話に聞いていたのとまったく違った。

 

「間に合って良かった……」

 

 少女はそう呟き、マリアに気を失ったセレナの身体を引き渡す。

 拳を掌にパンと叩きつけ、大きく息を吸い込みながらズン、と踏み込んで構える少女。

 

「……立花、響」

 

 自分と同じ、ガングニールを身に纏う少女。

 

「私の名前は立花響―――貴女の所属と名前、目的を教えてください」

「立花響……そうか、だが教える義理はない。お前もシンフォギア装者ならば、ここで消えて貰う」

「どうしても話を聞いては貰えませんか?」

「この状況でそれが叶うとでも? そのギアで、ヨナルデ・パズトーリを倒せると思っているのか?」

 

 立花響が、そこにいた。

 彼女は錬金術師と言葉を交わし、交渉を持ちかけるが、それを錬金術師は一蹴する。話をしたい響であるが、錬金術師はあくまで冷徹だった。

 

 まして響のギアにはイグナイトモジュールは搭載されていない。

 アルカ・ノイズの相手ですら、彼女のギアではリスクが大きすぎる。

 マリアは危機的状況が変わっていないことを理解し、どうすればいいのかと歯噛みした。

 

 しかし、立花響はもう迷っていない。

 

 ヨナルデ・パズトーリが脅威であろうと、自分のギアが圧倒的に不利であろうと、錬金術師が自分の言葉を拒絶しようと、立花響にはもう確固たる覚悟があった。

 

 

「だとしても―――私は貴女と話がしたい!」

 

 

 その拳は、もう誰かを傷つけるためのものではないのだから。

 

 




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