◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
動き出しの速かったのは、響の方だった。
ヨナルデ・パズトーリ、そして銃口を向けている錬金術師、大量のアルカ・ノイズ、後方に動けないマリアと気絶中のセレナ―――戦力差は歴然だ。これを一人で捌かなければならないというのであれば、僅かなミスが命取り。
というより、先のマリアの喰らった弾丸を見ていれば、一撃貰うだけでもアウトだ。
だからこそ、響の集中力、直感は極限まで高められていた。
脳裏に浮かぶのは、風鳴弦十郎から教わった武の記憶と、泉ヶ仙珱嗄から教わった覚悟の記憶。
大きく呼吸を一つ入れて、静かに歌い出した響の瞳はまるで波の立たない水面の様。錬金術師は思わず背筋に走る悪寒を堪えられなかった。
―――♪限界突破G-beat
歌うのは、もう迷いはない自分の心。まっすぐ、最短最速で、一直線に、守りたいものを守るための拳を歌う。
想像以上に高められていくフォニックゲインに警戒した錬金術師はアルカ・ノイズを動かし、ヨナルデ・パズトーリにも指示を出す。
しかし、最初に述べた通り――最初に動いたのは響の方だ。
「はぁぁぁああああああ!!!!」
アルカ・ノイズの動き出しより早く、アルカ・ノイズの懐に体勢を低くして潜り込み、斜め上へと突き出した拳で一体を破壊する。以前のノイズと違って炭化せずに赤い塵となることを確認した響は、その塵を通り抜けるようにもう一歩―――両の掌底で更に二体のノイズを破壊する。
そこへヨナルデ・パズトーリの顎が迫るが、その時響は既に跳躍し、地面を抉るヨナルデ・パズトーリの頭の上へと身体を移動させていた。そしてその巨体の上へと着地すると、頭とは逆の方へと一直線に駆ける。腰のブースターが火を噴き、ナックルギアが超回転――歌のリズムに乗せて爆発音を響かせながら、響は一瞬で錬金術師へと迫った。
「くっ……ちょこまかと!」
だが一直線にくるということは、狙いがつけやすいということ。
錬金術師は真正面から迫る響に対して銃口を向け、即座に連射。ガン、ガン、という連続音と共に放たれた複数の弾丸が、響を襲う。
しかし、
「なに!?」
響の超感覚は、まるで来る場所が分かっているかのようにその弾丸を全て躱してみせる。左右へ、上下へと身体を移動させ、速度を落とさぬままに最低限の動きで躱す響に、錬金術師は驚愕した。それもそうだ、弾丸の速度を超えて動く人間など普通はいない。
だがシンフォギアの身体強化と、獣のごとき危機感知を備えた立花響であれば可能。極限の集中状態、単体である以上の視野の広さ、そして珱嗄の教え、弦十郎の教えがそれを支えていた。
そして目の前まで踏み込んできた響の拳。顔面を的確に抉ろうというその拳を、錬金術師は紙一重で首を傾けることで躱す。あまりの鋭さに掠った頬がスパッと切れた。
「離れろ!!」
「ッ!」
苦し紛れに放たれた蹴りを躱すように、大きく飛び退く響。
着地と同時に周囲をアルカ・ノイズに囲まれる。背後にはヨナルデ・パズトーリも体勢を整えていた。
「すぅーーー……」
だが息を大きく吸った響は、更に旋律を重ねる。
「なっ……このフォニックゲイン……まだ上昇するというのか!?」
鋭く、速く、風を斬るように――それは、響が憧れた戦場の歌姫の戦い方。
自分は剣ではない、あるのは拳一つ。アームドギアすら碌に具現化出来ない自分が、戦場に立つ価値はあるのかと迷ったこともあった。
けれど、勘違いしていた。
よく考えてみれば、己は甘い。クリスや翼からすれば、戦場には相応しくない甘さの持ち主であり、抱く理想は理想に過ぎないと切り捨てられて当然の一般人。力はあっても、それを他人に向けることの恐怖に耐えられないような、そんな甘ちゃんだ。
仮に天羽奏のように撃槍を手にしていたとして、それを満足に扱えただろうか?
答えは否だ。
そうではない、珱嗄も言っていた――自分はこの拳で何をしたいのかと。その問いの答えは、けして槍にはないのだ。
だから、
「―――高鳴れ!!!」
歌に乗せろ、ハートの全部を響かせて、拳を握るしかない。
誰もが誰かを傷つけなくてもいい結末はあるはずだ。そんな理想を抱くことは間違いだろうか? 手を取り合うことが出来ると信じることは甘いだろうか?
そんなことはない!!
「この両手で! この歌で!! 守り切ってやる!!」
「そんなことが出来るのなら―――この世に悲劇などありはしない!!」
響の歌を聞いて、錬金術師は響の心を感じ取らされた。
彼女が何を為そうとしているのか、自分に何を訴えかけてきているのかを、理解させられた。甘い理想と優しさと歌で何かを変えようとしているのだと。
だからこそ、彼女は激昂する。
そんな理想が罷り通るのなら、この世に悲劇などなかったのだと。バラルの呪詛なんてイカれた呪いが人類を引き裂くことだってなかった。
戦いの中で平和を叫ぶなど、矛盾している。
響が一層大きく踏み込み、駆ける。
「貫け―――♪」
歌え、歌え。
正面のアルカ・ノイズを拳で砕き、背後に迫るアルカ・ノイズを後ろ蹴りで薙ぎ払い、飛び掛かる複数のアルカ・ノイズをナックルギアの回転で生んだ破壊力で一気に打ち抜いていく。
そこへ隙を突くように迫りくるヨナルデ・パズトーリの突進。
「危ない!!」
マリアが思わず叫ぶも、響にはそれが見えている。
「限界なんて―――いらない! 知らない!!」
ズン!! 地面が砕けるほどの踏み込み、あまりの勢いに一瞬地面が揺れたのではないかとすら感じた。
ガシュンガシュンとまるでカートリッジをリロードするようにナックルギアが唸りを上げる。そして響の歌に呼応して拳にエネルギーが送られ、超回転と共に橙色の火花をバチバチと生み出した。
―――バチチチチチチチヂヂヂヂヂィ!!!!
あまりの摩擦に炎が生まれたのではないかとすら思うほどの勢い。その火花を身に纏うように仰け反った響は、その両手を全力で前へと突き出した。
「絶対ッ!!!」
衝突―――!
ヨナルデ・パズトーリと響の両の掌底がぶつかり、衝撃波を生んだ。錬金術の輝きから生まれた光と響の雷の如き火花が、一際大きくフラッシュして辺りを照らす。
先ほどイグナイト状態のセレナが受け止めきれなかったヨナルデ・パズトーリの突進を、響はその両手で受け止めていた。
そして、
「繋ぎィ、は、なさな、ぁぁぁぁあああああああああああい!!!!!」
雄叫びと共にソレを押し返した。
ヨナルデ・パズトーリの身体が大きく後方へと押し飛ばされ、響の掌底は果たして降り抜かれる。悲鳴のように声を上げて仰け反るヨナルデ・パズトーリを見て、錬金術師は信じられないといった顔で目を見開く。
「なんだそれは……ただのシンフォギアで、一体何を束ねた力だ……! お前は一体何なのだ!!」
「はぁ……はぁ……! フッ……!!」
ガシュン、火花を散らしていたナックルギアが開き、排熱の煙が噴き出される。
流石に消耗しているようだが、響の瞳の奥に燃える熱は戦闘開始直後よりもずっと熱い。まるで燃え盛る太陽の様な威圧感すら覚える。
「私は、貴女の受けてきた悲劇なんて知りません。どれほどの何を抱えて、今戦っているのかも、何も知らない……」
「っ……」
「だから知りたいんです。貴女がどんな悲しみを消し去りたくて、何を為そうとしているのかを……知ることができたなら、それを手伝えるかもしれない。もしかしたら、誰も傷つけなくても成しえることかもしれない」
「戯言を……! お前一人に何ができるものか」
「だとしても―――私はもう誰かと手を繋ぐことを恐れない」
覚悟としては、あまりに理想に溺れた甘さ。
だがそれでも、本気で言っていることを疑えない。響の瞳は何の嘘も言っていなかった。
当然、錬金術師とてそれが可能であればどれほどいいだろうかと思う。その理想が実現出来るのであれば、どれほどの幸福が生まれるのだろうかと夢見ない日などない。
それでも、世界は残酷なのだ。
「……アルカ・ノイズは今の衝撃で消し飛んだか……立花響、といったな」
「……はい」
「私の名はサンジェルマン……お前が理想を実現出来るとのたまうのであれば―――私もまたお前に試練を与えよう。その理想は結局、理想でしかないのだと!」
銃を掲げる錬金術師――サンジェルマンの言葉と同時、ヨナルデ・パズトーリが同様に唸り声をあげた。
「見るがいい、人類の辿り着いた極地は――神の力へと至るのだ!」
ズガン、と放たれたサンジェルマンの弾丸はヨナルデ・パズトーリの身体を穿つ。
何をしている、と思った響だったが、その意図はすぐに事象として現れた。サンジェルマンの弾丸で抉られた傷が、ヨナルデ・パズトーリから生み出された多数のフィルターを通すことで完治したのだ。
まるで傷を受けたことなど無かったかのように。
「どんな傷であろうと、ヨナルデ・パズトーリは無数の並行世界に存在する同一別個体に肩代わりさせることで即座にダメージをなかったことに出来る……お前にコレを打ち破ることが出来るのか?」
「……だとしても、私が戦いを諦める理由にはなりません!」
「愚かな、シンフォギア!!!」
互いに互いの信念を握りしめ、構える。
覚悟を決め、譲れない思いがある者同士が向かい合えば、あとはぶつけるしかない。お互いが納得出来るまで、その思いを押し通し続けるしかない。
そして再度ぶつかろうとしたその時、新たな存在が登場した。
響とサンジェルマンの間に飛び込んできたその人影は、地面に穂先の大きな槍を突き刺し長く烈火の如き赤い髪を靡かせる。
響はその人物を見て驚愕に目を見開いた。
何故ならその人物は、死んだはずだったから。自分の命を救い、絶唱を歌い、死んだはずの人物だったから。あり得ない光景に言葉が出ない。
「なんだ……お前は」
「ハハ、そう邪険にすんなよ……派手な喧嘩してるから、つい割り込みたくなっただけさ」
対照的にサンジェルマンは、戦いの出鼻をくじかれたことに不満げな顔をしながら飛び込んできた人物を睨みつけている。
自分がアウェイな空間であることを察しながらも、その人物はカラカラと笑い、ズッと槍を引き抜き肩に担いだ。
「奏、さん……?」
「おう、奏さんだぞ。二年ぶりか……生きててくれて嬉しいよ、立花響」
「! ……はい!」
天羽奏、その人だ。
ニカッと笑いかけてくる奏に、響は自分を覚えてくれていたことを理解し、喜びに破顔した。何故生きているのか、今まで何をしていたのか、聞きたいことはいっぱいあれど、一先ずは彼女が生きていることが嬉しかった。
それに、此処はまだ戦場である。敵を前に隙を見せることはできない。
「ふーん……同じガングニールが、三人とは、こりゃまた変な感じだな」
「私と立花響の戦いを止めにきたということは、立花響の応援か?」
「ま、そういうことだ。後輩が頑張ってる以上、先輩も気合い入れないとだろ?」
「良いだろう……どちらにせよシンフォギア―――いずれは戦うのだ」
構えるサンジェルマンとヨナルデ・パズトーリ、そして響と奏。二対二の構図だが、後方にいるマリアとセレナが危険だ。このままでは戦いに巻き込まれて更に怪我を負う可能性もある。
であれば、と奏は全体を見て判断した。
「響―――と、そう呼ばせてもらうぞ? まずは後ろの二人を安全な場所へ移動させてくれ。その間、こいつらはアタシが食い止める」
「!? そんな、でも!」
「大丈夫だ……アタシを信じろ」
「!」
奏の指示に反発する響だったが、奏が自信たっぷりに笑みを浮かべてそう言い切る。響は奏にどんな策があるのかは分からなかったが、それでも簡単にやられるつもりはないという強い意思を感じた。
「わかりました……すぐに戻ります!」
「おう、任せたぞ」
結果、何も言わずに首を縦に振った。
即座にマリアとセレナの下へと駆け寄り、二人を抱えて走り去っていく響。跳躍し、木や建物の屋根を使って遠くへと二人を運んでいく。マリアは負傷、セレナも意識不明の重体だ、すぐにでも治療がいる。
響はシンフォギアの通信機能を使い、本部へと連絡を取るのだった。
「さて……じゃあ、やろうか」
「ふん、望むところだ。立花響よりは、幾分やりやすそうだからな」
そして、天羽奏とサンジェルマンは響の後ろ姿を見送りながら、互いに笑みを浮かべた。
自分のオリジナル小説の書籍第②巻が発売となりました!
興味のある方がいらっしゃいましたら、詳細はTwitterにて!
今後とも応援よろしくお願いいたします。
また、珱嗄シリーズの更新報告や小説家になろう様での活動、書籍化作品の進捗、その他イラスト等々発信していますので、もしもご興味があればフォローしていただければ幸いです。
《Twitterアカウント》
こいし:@koishi016_kata