◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第四十七話 懐かしのとっきぶつ

 天羽奏―――二年前に戦場にて絶唱を歌い、死亡した筈の歌姫。

 

 非適合者でありながら、過酷な人体実験とLiNKERの過剰投与を繰り返し、血反吐を吐きながら遂にはガングニールを身に纏い、シンフォギアを纏う奇跡を体現した少女。

 風鳴翼と共に、ツヴァイウィングという名で日本中を轟かせたアーティスト。翼にとっての相棒であり、親友であり、自身の一部であった人。

 

 そんな彼女が何故生きているのか、正直それは誰にも分からなかった。

 

 あの二年前の事件の時に現場の対応をしていた二課の面々ですら、あの時天羽奏の死亡する瞬間を確認している。遠距離からのバイタルチェックでも生命反応は消失していたし、なんなら彼女は風鳴翼の腕の中で炭素に変わり、風の中に散っていったのだ。肉体すら残さず、魂に準じて死んだはずなのだ。間違いなく。

 生は死へと転換する―――そこに不可逆性はない。

 けれど天羽奏は生きている。

 二課の面々が見ている目の前で、かつてのようにガングニールを身に纏って。

 

「奏ちゃん……!」

「生きて……」

 

 藤尭と友里がそれを見て思わず泣きそうになる。

 何故生きているのかは分からない、けれど生きていることが素直に嬉しかった。信じられない光景であるからこそ、もう一度天羽奏の元気な姿を見られたことが胸を打った。

 

 だが、フィーネは映像を確認して更に驚愕していた。

 

 奏の纏っているガングニールのシンフォギア、それが以前のものと少し見た目の変化を遂げていたからだ。三億個以上の制限を持つシンフォギアは、装者の能力やバトルスタイル、性質によってその制限を少しずつ外し、それに適した形へとリビルドされていく。

 天羽奏のシンフォギアには、その現象が起こっていた。

 

「(彼女の適合係数ではLiNKER無しになんども起動出来るはずがない……なのに何故シンフォギアを纏えている? ウェル博士の言う愛とやらか? くそ、最近はなんだ? 奇跡のオンパレードか?)」

 

 奏が生きていることも謎だが、その彼女が纏うシンフォギアも謎だった。

 何故適合係数の低かった彼女が、LiNKERも無しにガングニールを身に纏っているのか。そしてそのガングニールが何故進化を遂げているのか。何故今まで姿を現さなかったのか。たった二年姿を隠していただけで、謎だらけの存在になって帰ってくるとは予想外すぎた。

 それでも奏が今生きていて、こちら側で戦っていることには変わりない。

 

 であれば、こちらも出来る限りのサポートをすべきだろう。

 

「ウェル博士、撤退したマリアとセレナの回収を頼む。二人とも重傷だ、早めの治療が必須だ」

「そのようですね……立花響の力には驚かされましたが、天羽奏……此処で彼女が出てくるとは想定外でした」

 

 フィーネは周辺探査を行っていたウェル博士に、響によって撤退させられているセレナとマリアの回収を頼む。ウェル博士は即座に回収へと人員を回した。

 そしてフィーネはガングニールのヘッドセットを通じ、奏に通信を試みる。元は自分が作ったシンフォギアに変わりはない――であれば、繋がるのも道理だ。

 

「……奏ちゃん、聞こえるかしら?」

『―――おう、久々だな。了子さん』

「生きていたのね……どうやって、とか色々聞きたいことはあるけれど、今は貴女が生きていて嬉しく思うわ。それで、また私達と戦ってくれるかしら?」

『ま、積もる話はあとでな。サポート頼むぜ、皆』

 

 フィーネとしてではなく、了子として奏に連絡を取ると、奏は以前よりもどこか吹っ切れたような身軽さを感じさせる口調で、そう返してきた。

 以前と同じ、奏が戦い――二課でサポートする。

 一度死なせてしまった自分たちに、奏はまた背中を預けてくれている。それがどれほど藤尭達の胸を打ったか、彼女は知らない。

 

 全力で、奏のサポートをするに決まっていた。

 

 もう死なせない、二度と。そんな強い思いを抱き、一同改めて気合いを入れる。

 

『つってもまぁ、すぐに終わると思うけどな』

 

 軽く笑いながらそう言う奏の言葉に、変わらぬ彼女の自信を感じて。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 奏とサンジェルマンの戦いは、響の時と違ってかなり静かだった。

 奏が歌い、サンジェルマンが銃を放ち、時にヨナルデ・パズトーリが襲い掛かる。故に様々な音が重なりあう戦場ではあったけれど――その戦いの中で激しさを感じさせるような衝突は少なかったのだ。

 

 奏のアームドギア、撃槍が振るわれる。

 サンジェルマンのエネルギー弾が奏に向かって放たれる。

 時に距離を離して、時に超至近距離で、目まぐるしく状況が変化し、それでも尚互いに決定打が入らない。槍を躱され、弾丸を躱され、竜の突進も掻い潜り、槍に溜まったエネルギーの斬撃が飛び、至近距離で拳に蹴りにとせわしなく攻撃が交わされる。

 

 奏とサンジェルマンの戦いは、超感覚や超集中を用いて爆発的な力を発揮する響やクリスとは全く逆だった。

 経験と修練によって培った高い戦闘技術と予測からなる、互いの手の読み合い。相手の目線、手元、足捌き、呼吸、表情から、相手の動きを読み、手を読み、そのスタイルから汲み取れる攻撃手段を想定し、それに対処する攻防戦だ。

 

「フッ―――!」

「ハァッ……!」

 

 無呼吸運動の中で、一瞬の呼吸音が重ねられる。その隙を互いに見逃さず、撃ち込まれる攻撃に対して互いに的確な対処をする。

 読み違えた方が負ける――そういう高いレベルにいる者同士だからこそ成り立つ戦い。

 

 奏が片足を軸に回転し、その勢いのまま横薙ぎに槍を振るう。

 サンジェルマンはそれを体勢を低くすることで躱し、低い姿勢のまま斜め上に銃口を向けて二発発砲。それに対し奏は横薙ぎの回転のまま横へと身体を移動させることで射線から外れ、弾丸をやり過ごす。

 そしてその勢いのまま今度は斜め上段から振り下ろし。しゃがんだままのサンジェルマンの首を狙うが、サンジェルマンは冷静に、回転したことで体幹がぶれた奏の足を払う。

 

「ッ!」

「フッ!!」

 

 足を払われたことで一瞬宙に浮く奏。振り下ろしの軌道もサンジェルマンから逸れ、空振りの勢いで更に体勢を崩す。

 そこへサンジェルマンが更に弾丸を撃ち込むが、撃槍の隙間からエネルギーが噴射し、奏の身体を上空へと打ち上げることでその弾丸を躱す。

 

 サンジェルマンが地に、奏が空に。

 

 空中なら避けられない、その考えを打ち崩す撃槍のエネルギー噴射による空間移動。それでもサンジェルマンは、その噴射移動によって動く軌道を予測して弾丸を連射。

 

 ガン、ガン、ガン、ガン、と何発も空中の奏に向かって弾丸が放たれるが―――

 

「ちッ……!」

「ハッ……!」

 

 奏は上空で刃の広い撃槍の刃上に足を乗せた。まるでスケートボードの様に撃槍の上に乗ったかと思えば、奏はそのままジェット噴射の要領で空を翔けてみせた。

 自由自在に空を滑り、空中での高速機動を可能にしている。

 これでは地上で戦っているときの方が弾丸を当てやすいと思わされてしまう。

 

「だが―――!」

「!」

 

 しかし上空を翔けるのなら、更にその上から攻撃を仕掛ければいい。

 移動する奏の下へと、巨大なヨナルデ・パズトーリが牙を剥く。その巨体に似合わぬ速度で噛みついてくるヨナルデ・パズトーリの攻撃を、奏はエネルギー噴射を強くして躱した。

 空を翔けるのは機動力が上昇するが、ヨナルデ・パズトーリが上昇移動を許さない以上サンジェルマンへの攻撃に思考を割く余裕が削られる。

 

 どうにかしてサンジェルマンかヨナルデ・パズトーリかどちらかの突破口を見つけなければならない。しかしヨナルデ・パズトーリは神の力の擬似再現――いくらダメージを与えても即時再生されてしまうのであれば、現状対策の立てようがなかった。

 であれば、奏がどうにかすべきはサンジェルマンの方。

 

 しかし、

 

「ったく隙がねぇな……! ならッ!」

 

 撃槍のジェット噴射でサンジェルマンへと突っ込む奏。迫りくる弾丸を躱しながら、懐に入り込むと、撃槍から飛び退き、ジェット噴射して直進する撃槍だけをサンジェルマンへと放つ。

 サンジェルマンは予想外の攻撃にその撃槍を銃身で受け止め、火花を散らす。数秒の拮抗の後、サンジェルマンは後方へと撃槍を弾き飛ばした。奏が槍を持って押し込んでいたなら分からなかったが、エネルギーの噴射で直進するだけの槍であればそれが可能。

 

「!」

 

 だが、サンジェルマンは無事でも、その銃はそうもいかなかった。

 

「へっ、使いもんにならなくなったな」

「……狙いは私の武装破壊か」

 

 サンジェルマンの持っていた銃は、そもそも普通の銃だ。錬金術によって多少の改造がされてはいるものの、その強度はいわば使い捨て。攻撃においてシンフォギアに匹敵していたのは、錬金術によって製造された弾丸の方だったのだ。

 しかし弾丸も銃が破壊されては意味をなさない。サンジェルマンは己自身での攻撃手段を失ってしまった。

 

 だが、それでもまだ負けたわけではない。

 

「まだヨナルデ・パズトーリを超えたわけではないぞ!」

「やっぱ、退いちゃあくれないか!!」

 

 奏との戦いで思考のリソースを自身とヨナルデ・パズトーリの指示に割いていたサンジェルマン。だが己の攻撃手段がなくなった以上、ヨナルデ・パズトーリへの指示に思考リソースを全て注ぎ込むことが出来る。

 奏の体感では、ヨナルデ・パズトーリの速度が今までの倍になったような気さえした。

 

「くっ……!」

「たかがシンフォギア……その程度で無辜の民は救えない!!」

「ガァァァァアアアアア!!!」

 

 あまりの速さに撃槍でのジェット噴射で上空に逃げる奏。

 空中を翔けるように逃げても、追随する速度で追いかけられていた。この状態ではサンジェルマンに攻撃することはおろか、近づくことすら容易ではない。

 舌打ちを入れながら滑空するが、今の奏であっても突破口は見えなかった。このままでは均衡状態――否、先にシンフォギアの限界がくる。奏でなくとも、無限に歌い続けられるわけではない。スタミナには限界が来るし、高出力を続けていれば身体への負荷だって無視できなくなる。

 

 そうなった時、やられるのは奏だ。

 

 しかし、そこへ通信が入る。

 

『奏ちゃん!! 二メートル進んだら真上へ逃げて!!』

「!!」

 

 了子からの指示―――奏の身体は反射的にその指示に従って動いた。

 背後から迫るヨナルデ・パズトーリの牙を躱し、上空へとジェット噴射。その身を天高くへと運んでみせた。

 そして了子の指示の意図は、と視線を下へ向けた瞬間、その意図を奏は察する。不意に笑みが浮かび、ならばとその穂先を真下へと向けた。

 

「そりゃそうだよな……回復されるっつっても、やらなきゃジリ貧だもんな」

 

 そこには、腰のギア装備からエネルギー噴射でヨナルデ・パズトーリに迫る―――

 

「ガングニィィィィィィィイイイイル!!!」

 

 ―――立花響の姿があった。

 

「オラァァァァアアアア!!」

 

 ズガン、と大きな音と共にヨナルデ・パズトーリの顎をかちあげる響の拳。

 更に、それによって真上を向かされたヨナルデ・パズトーリの大口の中へ、奏は撃槍で突っこんだ。ガシャンガシャンガシャンと機械音を立てて巨大になっていく撃槍の刃は、ヨナルデ・パズトーリの体内を切り裂き、奏の雄叫びと共に破壊していく。

 

 そしてアッパーの勢いのまま、奏と入れ替わるようにヨナルデ・パズトーリの上を取った響は、上空でクルリと一回転し、その引き締まった右足を高く掲げた。

 

「ハァァァアアアア!! 撃槍―――」

 

 拳のギアナックルが回転する。

 まるで竜巻すら起こすのではないかと思うほどの回転は、響の身体をまるでハンマーの様に真下へと落とした。

 それにより響の足はまるでギロチンのように降り抜かれ、ヨナルデ・パズトーリの顔面へと叩きこまれる。

 

「―――蹴打!!!!」

 

 まるで隕石の如き橙の光が落ち、中身を奏に破壊されつくしたヨナルデ・パズトーリの顔面がぐしゃぐしゃに潰されながら地面に沈んだ。

 ズガァン!! と地面に余剰なエネルギーが罅割れを起こし、クレーターを作る。あまりの衝撃にサンジェルマンの足元がぐらつくほどだ。

 

 そしてヨナルデパズトーリの背中を切り裂いて飛び出してきた奏と、地面に着地した響が姿を見せる。奏が響の隣へと着地すると、二つのガングニールがサンジェルマンを見た。

 

「フン、だがヨナルデパズトーリはすぐに―――なに?」

 

 それでも余裕を崩さなかったサンジェルマンの表情が、此処で初めて歪む。

 即座に回復するはずのヨナルデ・パズトーリが、ダメージの無効化で多数のフィルターが通りぬけた後、変わらぬ無残な姿でそこにいたからだ。回復しない、そのまま光となって消えていくヨナルデ・パズトーリ。

 神の力の再現は完璧だった。事実再生機能は十全であったし、どれだけ破壊されようと意味をなさないはずだった。にも拘らず、響と奏の与えたダメージが一切再生しない。

 

 どういうことだ―――?

 

「……今日は此処までか……」

「! 待て!」

「さらばだ、今日のところは……お前たちの勝ちだ」

 

 だがそれを考えるより先に、サンジェルマンは撤退を選んだ。

 転移結晶を叩きつけ、奏の呼びかけも無視してその姿を消す。この戦いでの敗北を悔やむように奏たちを睨みつけながら。

 

 残された奏と響は、消え去ったサンジェルマンと戦いが終わったことを感じ、ふと一息、吐き出す。

 

「……はぁ……ま、勝ったからいいとするか」

「はい……あの、奏さん……生きていたんですね」

「ま、色々あってな……事情があって身を隠してたんだ。翼にはしんどい思いさせちゃったけどな……なんにせよ、此処からはアタシも一緒に戦う。よろしくな、響」

「は、はい!!」

 

 とはいえ勝利には違いない。

 奏の言葉に響は心が高まるのを抑えきれなかった。ずっと憧れだったツヴァイウィングの片翼にして命の恩人である天羽奏が目の前にいて、これから共に戦おうと言ってくれているのだ。高揚しないわけがない。

 そしてなにより、翼が喜ぶ顔が見られるのだと思うと、これ以上なく嬉しかったのだ。

 

「あー、じゃ、久々に帰るか……懐かしの二課に」

「はい!」

 

 響も奏も、互いに二課から離れていた身だ。

 少し帰りづらい気もするけれど、二人でならそれも幾分マシに感じる。

 

 同じガングニール装者、同じ二年前の事件で人生を変えた者同士、同じはぐれ者。

 似た部分の多い二人は、それこそ先輩後輩以上に、前を行く姉と必死に追いかける妹のように、仲良く懐かしの二課へと向かうのだった。

 

 

 

 




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