◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
結局、あの後弦十郎達もカリオストロとプレラーティの二人を取り逃がしてしまっていた。聖遺物『ヤントラ・サルヴァスパ』もみすみす持っていかれ、大ダメージを与えたは良いものの、転移結晶による逃亡を阻止するのは難しかったようだ。
時間稼ぎの戦いであることは間違いなかったのだろう。おそらくサンジェルマンが撤退したことによって戦う必要がなくなり、隙を見て撤退したのだ。
弦十郎たちとしてはどうにか聖遺物だけでも奪取出来なかったものかと悔やんだものの、それ以上に立花響と天羽奏の帰還は大きな収穫と言えた。
「お前っ、一体……っ……!」
「クリスちゃん……」
二課に戻ってきた弦十郎達が響と奏の二人に対面すると、クリスは突然消えた響が目の前に現れたことで上手く言葉が出てこなかった。一体何処に行っていたのか、怪我はないのか、精神的にもう大丈夫なのか、問いたいことは多くあったが、それらが一気に出そうになって言葉が喉でつっかえてしまっている。
そんなクリスに響は申し訳なさそうに笑みを浮かべ、わたわたするクリスを何も言わずに抱きしめた。
人と触れ合うことに慣れていないクリスは、突然の抱擁にビクッ、と身体を震わせる。だが、響の体温や心臓の鼓動を感じる内にテンパっていた精神が段々と落ち着くのを感じた。
「心配掛けちゃってごめんね、クリスちゃん……もう大丈夫、いっぱい、ありがとう」
「っ……そうか……良かった」
響の言葉を受けて、そこに嘘がないことを感じたクリスは、心の底から安堵するように小さくそう言った。本当に、無事で良かったと。
そうして安心すると、周囲から微笑ましい目線で見られていることに気付き、クリスは一気に羞恥で顔を赤くする。
「だぁあああ!? もっ、離れろ! いつまで抱き着いてんだバカ!」
「でぇえぇ!? 急にどうしたのクリスちゃん!?」
「うっさい! 聞くなバカ!」
ドン、と突き飛ばすように響から離れるクリスに、突き飛ばされた響は後ろにたたらを踏んで戸惑った声を上げた。感動の再会っぽい空気だったのに、急にクリスが態度を変えたのだからそれもそうだろう。
周囲の目線を気にしない響と、周囲の目線に敏感なクリスの差がここにあった。
そんな二人のやりとりを見て、空気が軽くなったのを感じたからだろう。
弦十郎が口を開いた。
「ともかく……錬金術師キャロルの陣営には、少なくとも三人の錬金術師がいることが分かった。さらにエルフナイン君によれば、オートスコアラーもあと二体おり、キャロル自身の力もまた無視出来ない……それに、イグナイトモードのシンフォギアを容易く撃破したヨナルデ・パズトーリなる力も気になる」
「まぁ、それを撃破した響ちゃんと奏ちゃんの力にも疑問が残るけどね」
「なんにせよ、錬金術師に対しイグナイトモードを搭載しているだけでは到底優位には立てないことは明白だ。装者諸君らの戦闘技術の向上、高いフォニックゲインを生み出す方法、適合係数の上昇といったあらゆる強化を目指す必要がある」
指令室のスクリーンに先の戦いの映像が複数映し出され、そこから得られる情報が開示される。現在マリアとセレナは医療室に入っているので、この場にはいない。
装者各位の最大フォニックゲイン値、戦闘時の動き、連携の質、精神状況、ありとあらゆる面でモニタリングされたデータ。そこにはやはり、装者によってムラがあった。
クリスや響の戦闘時のフォニックゲイン値はやはり装者の中では飛び抜けており、バイタルから汲み取れる精神状況も至ってフラット。対してマリアやセレナ、切歌や調のフォニックゲイン値はクリス達に比べれば低い。正当に適合できるセレナが多少高いフォニックゲイン値を見せているが、それでもパフォーマンスにその差が出ていない。
原因はやはりメンタル面での影響だろう。
マリアやセレナはヨナルデ・パズトーリに対し恐怖を覚えていたし、切歌や調も弦十郎とクリスの様子からかなりの不安を抱いていた。
恐怖は身体を竦ませ、不安は緊張を呼ぶ。
それは明確に歌にも影響を及ぼし、歌の質はフォニックゲインを左右する。戦おうにも上昇しないフォニックゲインにパフォーマンスは低下し、それによって更に不安や恐怖は高まる。これ以上ない悪循環だ。
「イグナイトを搭載していない響君に対し、イグナイトモードを発動したセレナ君のフォニックゲインが劣っている―――これはつまり、意図的に暴走状態の出力を引き出しても、まだ本来の力を発揮できていないということだ」
「シンフォギアの……本来の力」
「恐怖や不安は力を鈍らせる。戦場に立つことで感じる恐怖は確かに覚悟を塗りつぶすこともある……故に、戦場に立つ以上はそれに立ち向かう強い意思が必要だ」
弦十郎の言葉に、響はぎゅっと拳を握る。
覚悟はある―――この場にいる全員が、強い意思を持っている。しかし、戦場に立つことで感じられる恐怖はある。傷を負う痛み、相手を傷つける罪悪感、死ぬかもしれない恐怖、死なせるかもしれない不安、それは時に覚悟を揺らがせることにも繋がるのだ。
だからセレナとマリアは重傷を負った。
響と奏が現れなければ、あのまま二人は死んでいただろう。
「とはいえ、響君と奏君が戻ってきてくれたのは本当に良かった。特に奏君は殉職したとされていたからな……色々話を聞きたいところだが」
「ま、だろうな」
「だが、まずは諸々状況を整理したい。新たに分かったことや気付いたことがあれば、この場で報告してくれ」
天羽奏の復活は喜ばしいことだ。
だが、それも含めて今回の戦いでは新たな情報が多い。先にそれらを整理してから、奏の話を聞くべきと弦十郎は判断する。戦力は増えても、向こうの目的は達成されているのだ。時間は少しも無駄には出来ない。
すると、弦十郎の言葉を受けて、フィーネが一つ一つ新情報が述べていく。
「まず、今回現れた錬金術師三名とキャロルは別勢力……協力体制を敷いているだけの関係ね。響ちゃん達が撃退したサンジェルマンなる錬金術師の言葉によれば、彼女達には彼女たちの目的が別にあり、利害の一致でキャロルに協力していることが読み取れるわ」
「世界を分解するキャロルに協力する以上、その延長線上の目的なのか、もしくは全く別の何かなのか……それは未だに不明だな」
「ええ、でも彼女達の所属する組織から少しは予測もつけられる。今回現れたサンジェルマン達の所属する組織は、おそらく『パヴァリア光明結社』。かつてフィーネとも聖遺物の奪い合いで争い、歴史の裏で暗躍してきた本物の秘密組織よ」
パヴァリア光明結社―――この組織をフィーネが知っていたことが、今回の戦いに新たな光を生む結果に繋がっていた。
「この組織は統制局長アダム・ヴァイスハウプトをトップに、数々の錬金術師によって構成されている組織よ。明確な目的は不明だけれど、それでも異端技術を扱う以上はキャロルにも劣らない壮大な計画を立てているはず」
「なるほど……それで、君の推測ではサンジェルマン達の目的は?」
「錬金術師である以上は、錬金術の道理がある。つまり、『完全』を目指し『完成』に至ること――あのヨナルデ・パズトーリが神の力の再現だというのであれば、彼女達の目的には少なくとも、神の領域に人の身で到達する意図があるはず」
神の領域――それはつまり、フィーネがかつての先史文明時代で存在したカストディアン、アヌンナキの領域に足を踏み入れるということだ。人の身でありながら、その大罪とも、偉業ともいえることを成し遂げようと。
「なるほど……世界を分解しようとするキャロルも同様だが、そんな力を一組織、もしくは一個人が有するとなれば、それはそれで一大事だな」
「そしてその力を得て何をしようとしているのか、それが重要になってくる。ま、ここは調査を重ねるしかないわ」
「そうだな……他には?」
装者の能力アップの件、そして新たに出現したパヴァリア光明結社という組織とその目的の件、これだけでもやらなければならないことが多いが、まだ新情報はある。
フィーネは櫻井了子の口調を崩し、過去を思い出すように語り出す。
「先の錬金術師の神の再現――擬似神であるヨナルデ・パズトーリの力は確かに本物だった。並行世界の同一別個体にダメージを肩代わりさせることで、一切の負傷を無効化する力はその一端だ」
「確かに、あの力は脅威的だ。だがそれも響君と奏君の攻撃で打倒出来たということは、不完全なのではないか?」
「そこが肝……おそらくあの神の力の擬似再現はほぼ完全に再現されている。それでも今回それを打倒出来たのは、アレが不完全だったからではない」
「というと……?」
「今回アレに有効打撃を与えたのは立花響と天羽奏の二名、そのどちらもが同じガングニールを身に纏っていた……ならばガングニールにこそ、何か神を打倒しうる何か内包されている可能性があるだろう」
「ガングニールに……?」
フィーネは考えていた。
あの戦いの最中で、立花響と天羽奏の攻撃がなぜヨナルデ・パズトーリを打倒せしめたのか。立花響は聖遺物との融合症例だった、その特異性が神を打倒する要因になったのかと思えば、資質的には正反対の装者である天羽奏の攻撃が通っている。
資質的にも、戦闘経験的にも、戦闘スタイル的にも全くの正反対の二人。けれど同じようにヨナルデ・パズトーリへダメージを与え、どちらの攻撃も無効化されなかった。
であれば、それは資質ではない。
そこで、ガングニールという共通したシンフォギアだからこそのダメージだと考えた。
現に、イグナイトモードを使用したセレナのアガートラームでは、一矢報いることすらできていなかった。装者の実力もあるのだろうが、結果にあまりの差が出ている。
フォニックゲイン値の差を鑑みても、セレナの盾を数秒で突破するヨナルデ・パズトーリを打倒出来たという事実は、装者ではなくギアに原因があると考えた方がよほど現実的だ。
「ガングニールに関する調査を行うべきだと私は思う」
「ふむ……それが本当ならば、こちらの有するガングニール装者は三人。仮にパヴァリア光明結社が神の力を手に入れたとしても、対抗策になりうる。急ぎ調査を始めてくれ」
「了解した」
「他に、何かある者は?」
フィーネが頷き、続いて何か語ろうとしないことから、今回の戦いで出現した新情報は出尽くしたと見た弦十郎は、念のために他の面々にも同様の問いを投げかける。何もなければこのまま奏の話へと移行するつもりだった。
すると今度はそこで響が手を挙げる。
「響君か、どうした?」
「あの、実は私が姿を消していた時のことなんですけど……」
「! そうだな……その間のことも気になっていた。一体君に何があった?」
「えと、実は私もよくわかってなくて……師匠さえ良かったら、此処に私を攫った人を呼んでもいいですか?」
「なに……? それはその……敵である可能性はない、のか?」
「あ、そこは大丈夫だと思います。話を聞いた限りでは危険な人じゃなかったですし、私や未来……あ、未来も一緒だったんですけど、丁寧に対応してくれましたし」
響の言葉に弦十郎は訝し気な表情をするが、どうやら響自身はその人物に対して敵意を持っていない。ある程度の信頼もあるようにも見えた。
さらに言えば、小日向未来も共に攫われており、響がこうしてその人物と小日向未来から離れて戦場に赴いている段階で、小日向未来の安全が保障されていることも証明している。
また、自分たちプロを欺いて二人の少女を誘拐せしめるような相手だ。有力な情報を持っている可能性も高い。
「……良いだろう、だが念のため警戒はさせてもらう。それで、その人物は――」
「あ、ここにいますー!」
「ッ!?」
弦十郎が警戒心を高め、その人物を呼び出すように言おうとした瞬間、その言葉を遮るように幼い少女の声が部屋に響いた。
驚きに目を見開き、声のする方へと視線を向ける弦十郎達。それは響の真後ろから聞こえてきていた。そしてひょっこり顔を出したのは、金髪で両目の色が違う少女。
たはは、と少し居心地悪そうに笑みを浮かべながら姿を現したのは、この中で誰よりも幼い小学生くらいの少女だった。
「君、が……?」
「あ、はい、私が響さんと未来さんを攫いました。初めまして、ヴィヴィオといいます!」
「ヴィヴィオ……君か、よろしく頼む」
驚愕する弦十郎達だったが、礼儀正しいヴィヴィオの挨拶に毒気を抜かれたのか、呆気に取られたように挨拶を返した。
「だが……いつからここに?」
「たった今ですよ―――私、魔法使いなのでっ」
弦十郎の問いにそう答えたヴィヴィオの笑顔は、どこまでも幼気で、純粋だった。
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