◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
突如姿を現したヴィヴィオに呆気に取られた弦十郎達だったが、ここ最近球磨川といい、十六夜といい、見た目以上に化け物染みている者たちを散々見てきた。ヴィヴィオが小学生並の見た目をしていたとしても、そこで油断するほど間抜けではなかった。
ヴィヴィオもそれを理解したのか、満足そうに頷いて笑みを浮かべる。
響はヴィヴィオがどのようにして登場するのか知っていたのか驚いてはいないが、それでもヴィヴィオが得体の知れない力を持っていることにはやはり、相応の驚きがあるらしい。錬金術師達が転移結晶なんてものを使っている時点で、今更瞬間移動に驚きはしないが、そもそもが別系統の力だというのだから驚きだ。
そして彼女が自身を形容した言葉――魔法使い。
シンフォギア装者、錬金術師、埒外の人外に加え、魔法使いまで出てきた。最早何が出てこようと弦十郎達は驚かない自信があった。
「魔法使い、か……それで、ヴィヴィオ君。君の目的はなんだ? 何故響君達を誘拐した?」
「そんなに警戒しなくても、私別に皆さんと戦う気はないですよ? 寧ろ全面的に協力したいと考えています」
「……悪いが、それを信用するにはまだ君を知らない」
「ええ、なので信用していただくために此処に来たんです」
そう言うと、ヴィヴィオの髪に隠れていたのか、襟元から小さな兎のぬいぐるみが出てきた。どういう理屈かは分からないが、浮遊し意思を持っているように動いている。
「クリス、お願い」
「? アタシか?」
「あ、違います。この子の名前、セイクリッドハートっていうんです。愛称がクリスっていって……貴女のことはクリスさんって呼ばせてもらいますね」
「んだ、紛らわしいな……」
クリスと呼ばれてクリスが反応したが、そういえばとヴィヴィオは慌てて訂正する。紛らわしいなと唇を尖らせるクリスだったが、セイクリッドハートの方はヴィヴィオの指示に応えて空中ディスプレイを幾つも展開する。
それを見て、二課の中でどよめきが生まれた。
そこにはリディアンではない見知らぬ場所での映像が映っていた。内いくつかは戦闘の映像なのか、激しい攻防を繰り広げている。しかも、弦十郎達の見知らぬ力を用いて。
「コレらはこの世界の映像ではありません。私達がそれぞれ元居た世界での映像です」
「安心院なじみ……こっちは泉ヶ仙珱嗄も映っているな……これは球磨川禊……」
「見ての通り、私は安心院なじみを含め、この世界にいる異世界人についての知識を持ってます。皆さんには信頼の証として、これらの情報を提供します。もちろん私のことも」
「……破格の申し出だが、それで君は我々に何を求める?」
「私の目的は安心院なじみを止めることです。それを協力していただきたいです」
「……なるほど」
降って湧いたような好都合な展開。
立花響が戻り、天羽奏が戻り、ガングニールが神殺しになりうる可能性が生まれ、そこに安心院なじみたちの手の内を教えるという少女が現れる。都合が良すぎる、そう考えてしまうのも仕方がないことだろう。
それに、この場には逆廻十六夜もいる。ヴィヴィオのことは知っているのか、静観を決め込んでいるが、表情を見るに予想していた展開ではないのだろう。考え込むような表情で壁に寄りかかっている。
現状、この世界で何が起こっているのかを理解しなければならない。弦十郎はそう考えていた。
「……まず、それらの情報を提供してくれるというのなら願ってもないことだ。しかし、その前に教えて欲しい……其処に居る十六夜君も含め、安心院なじみや君達がどのような立ち位置で行動しているのか」
「……そうですね、確かにこちら側の状況が把握出来ない以上、判断がつけにくいですよね。わかりました」
ヴィヴィオはクリスに目配せすると、まずはと前置く。
「私達のことを知るためには、泉ヶ仙珱嗄という人物を知る必要があります。元々は彼を通じて私たちは繋がっていますから」
「ああ」
空間ディスプレイが一旦全て閉じ、改めて大きく珱嗄の画像が映し出される。
「……安心院なじみ、私、そこにいる十六夜さん、私たちも、元はそれぞれ別の世界の住人であり、そこが交わることなんてありえませんでした。けれど、それぞれの世界に何故か、同一人物が登場したんです……本来交わることのない世界を唯一渡ることが出来る存在が、私達に関わる歴史に登場した。それが―――泉ヶ仙珱嗄という人物」
「別々の世界を渡る、か……」
「彼はそれぞれの世界の未来を知っていました。いえ、正確には私達に関係する歴史の行く末がどうなるのかを知っていました。彼は意図して私達に干渉していたんです」
「未来を知っていた……それは未来予知とかそういう類の力をもっている、ということか?」
ヴィヴィオの説明に弦十郎は問いかけるが、ヴィヴィオは首を横に振った。
そうではない、珱嗄という人物がその歴史の先を知っていたのは、そういう力があったからではなく、そもそも知っていたからだ。
「彼は別々の世界を渡く―――では、彼が本来生まれた世界は何処か分かりますか?」
「!」
「少し複雑ですが、とりあえず最後まで聞いてください」
空間ディスプレイがいくつかの図形が描かれた画像を映し出す。そこには横並びに配置された四角形が並んでおり、その配列の上に三角形が一つ置かれている。
「私達の世界がそれぞれが干渉できない、横並びに存在している複数の世界です。彼が生まれたのはそれらの世界とは階層が違う世界……分かりやすく言うのなら、建物の一階と二階のように、存在している階層が違う世界です」
「つまり、我々が存在している世界よりも、より上位に位置する世界の住人ということか?」
「そうです。そして、その世界では私達の世界はそれぞれ物語として扱われています。私の世界も、安心院なじみの世界も、十六夜さんの世界も、この世界も、泉ヶ仙珱嗄の元居た世界ではフィクションの物語として描かれている……私達をキャラクターデザインした何者かがいて、登場するお話を書いた何者かがいて、そのお話は気軽に読まれているんです」
「なっ……そんな、馬鹿げた話が……!?」
「つまり、泉ヶ仙珱嗄は私達の物語を読んだ読者の一人だった。当然、私達の物語の行く末を知っている……逆を言えば、読んだことのない物語の未来は知らないということですけど」
「それは安心院なじみも、知っているのか?」
この話を安心院なじみが知っているのであれば、それは話の根底を覆す。
泉ヶ仙珱嗄の記憶を取り戻すということは、つまり自分達よりも上位の世界に干渉するということだ。それは神の力を手に入れるとか、世界を分解するとか、錬金術師たちのやろうとしていることのスケールを大きく超えている。
弦十郎達の世界がフィクションだというのなら、シンフォギアも聖遺物も錬金術師も神の力も、全ては誰かが考えたお話の設定であり、必然性もなにもないデザインされた世界の一構成要素でしかない。
物語は勝手に完結に向かうし、その結末は既に決定されているのだから。
「いいえ、この事実を知っているのは私だけのはずです」
「何故? 君が知っているのなら、彼女が知っていてもおかしくないだろう? 何故君は安心院なじみが知らないことを知っているんだ?」
「それが私の世界だけに起こったイレギュラーだったからです」
そう、ヴィヴィオの世界『魔法少女リリカルなのは』の物語の中に本来泉ヶ仙珱嗄は登場しない。彼が登場したことは、安心院なじみや十六夜たちと同じだった。
だが、彼女の世界にはもう一人本来登場しない人物がいた―――転生者である。
神崎零と名乗る、珱嗄と同じく上位の世界からやってきた転生者がいたのだ。
彼は珱嗄と戦い、敗北し、その原作知識を珱嗄に譲り渡した。それでもチートと呼ばれる特典能力を保有し、ヴィヴィオの世界では珱嗄を除き最強の魔導士としてその名を轟かせた人物だった。
だからこそ、ヴィヴィオは知ることが出来た。
神崎零という人物から聞いたのだ、珱嗄達の元居た世界のことを。自分たちが物語の中の登場人物でしかないという真実を。
ヴィヴィオ曰く、これは安心院なじみが知ることの出来なかった真実。
安心院なじみの世界に渡るより前に珱嗄が存在していた世界であり、珱嗄と同じ転生者が複数登場し、ヴィヴィオが珱嗄と誰よりも親しい関係を築けていたからこそ知ることが出来た真実だ。
「私の世界は泉ヶ仙珱嗄以外の転生者がいた世界でした。だから私は知ることができたんです……まぁ、当時はショックでしたけど」
「だろうな……我々も正直事態を飲み込めていないくらいだ」
「でもだからこそ、泉ヶ仙珱嗄は……パパは、私たちを物語のキャラクターではなく、その世界で現実に生きる存在として認識していることも理解できたんです」
当然だ、自分たちがフィクションの世界のキャラクターであると言われたら、その生になんの意味も感じられなくなってしまう。自分達は意思を持って生きているのではなく、創造主の考えた通りに動かされているだけの人形。自分の人生も、性格も、能力も、思考も、全てが誰かの考えた虚構であるのなら、絶望すら覚えてしまう。
しかしヴィヴィオは、それでも泉ヶ仙珱嗄を愛した。
泉ヶ仙珱嗄が父として己を愛したことは、けして嘘ではないと信じていたから。
彼は物語が終わっても尚、ヴィヴィオたちが死ぬまでその世界に居続けた。世界を渡ることが出来るのなら、そんなことをする必要はない。どんなフィクションだろうと、登場人物全てが死ぬまで描かれるストーリーなど無い。
泉ヶ仙珱嗄は、その全ての世界をしっかり生き抜いている。物語のキャラクターの人生を全て見届けるまで、捨てることなく生き抜いてから別の世界へと渡っている。
あれほど娯楽に飢えている男が、精々数十年程度の物語が終わった後、退屈だったであろう世界を何百、何千年と生き続けることの意味を、ヴィヴィオは理解していた。
「彼は私を娘として育て、共に生き、私がその人生を全うし、死ぬまで傍に居てくれました。そして全ての登場人物の死を見届けた後、誰の記憶からも忘れ去られるまでその世界を生き、ひっそりと次の世界に移っていった」
「……信じられない精神力だな」
「彼は上位の世界から来た転生者――けれど、物語以上にその世界に生きる私達を愛していました。物語としてではなく、その世界の現実として生きたんです」
そして、ここからが本題です。とヴィヴィオは指を振り、空間ディスプレイに安心院なじみを映し出す。
「そして世界を渡った彼の前に現れたのが、彼女――安心院なじみです」
「!」
映し出された安心院なじみの姿を見て、全員が息を飲む。
画像の中の安心院なじみの表情は、何処までも冷たく、全てを路傍の石のように見ているような目をしていたからだ。
「彼女は全知全能でした。何でも知っていて、何でもできる存在……そして、出来ないことがないという事実から、自分の生きる世界が漫画の中のフィクションであると気づいていました」
「なっ……」
「まぁ、それすらもが物語の設定だったんですけどね……そんな彼女が、泉ヶ仙珱嗄と出会えば、恋に落ちるのは必然だったでしょう……二人は恋人になりました。ここが全ての始まり……安心院なじみという埒外のキャラクターは、物語が終わった後、フィクションという枠組みを超えて、世界を渡った泉ヶ仙珱嗄を追いかけた……結果、十六夜さんの世界に移動した彼を追いかけて、彼女も世界を渡りました」
「本来干渉できない筈の世界の登場人物が、別の世界に干渉したということか」
「いわゆるクロスオーバーって奴です。でもその際、安心院なじみの行動によって世界の仕組みにちょっとした歪みが発生しました。彼女はいくつかの世界を破壊し、強引に彼のいる世界へと渡ったんです……それが、不干渉だった世界の在り方を変えてしまった」
安心院なじみの力は、フィクションの中に収めておくにはあまりに強力すぎたのだ。安心院なじみのいた世界『めだかボックス』の中で彼女を殺すことが出来たキャラクターも、物語上の設定において勝利を約束された主人公属性を持っているという理由で、彼女を殺すことができていた。
つまり、彼女は設定上のメタ表現によってしか殺せないキャラクターだったのだ。
それはイコール、フィクション世界のキャラクターであるにも関わらず、彼女はその在り方にメタフィクション性を組み込まれたキャラクターであるということ。
メタ発言をするキャラクターどころではない、物語の枠組みの外へと干渉することが出来るという設定のキャラクターなのだ。
だからこそ、彼女は強引にでも珱嗄を追いかけて世界を渡ることが出来た。
「彼女は泉ヶ仙珱嗄と永遠に生きたいと考えています」
「えと、それはいけないことなんデスか?」
「いけないことです。私達は既に物語を終えています……泉ヶ仙珱嗄と共に生き、そして死にました。他の世界で永遠の続きを求めてはいけないんです」
「……」
「私の世界は、次元世界と呼ばれる複数の世界が存在する設定の世界でした。その次元世界の中には、ロストロギア―――皆さんでいうなら聖遺物、がいくつも存在し、それが悪用されることで時に次元世界同士の接触や、いくつもの次元世界の崩壊させる『次元断層』と呼ばれる災害が引き起こることがあります。世界が別々に存在する理由は、別々でなければ存在出来ないからです……私達フィクションの世界も、それは同じです」
ヴィヴィオとて、安心院なじみの願いが叶えば素敵だと思う。
好きな人と、そうまでして一緒にいたいと願うことの何が悪いのだと、そう言いたくなる。
それでも、フィクションの世界のキャラクターが別のフィクションの世界に移ることは出来ない。それを描こうとする作者がいない限り、キャラクターが現実を超えて別のフィクションに登場することはあり得ないのだ。
それこそ、物語が破綻してしまう。
「だからこそ、私は安心院なじみという人をちゃんと終わらせてあげたい」
「……君の意思は分かった……だが、十六夜君や球磨川禊とは目的が違う、その辺はどうするつもりだ?」
「どうもしませんよ。十六夜さんも球磨川さんも、パパの記憶を取り戻したいだけなら問題はありません。私としても、安心院なじみを止めるためにはパパの記憶を取り戻すことが必要だと思いますし」
弦十郎はヴィヴィオの考えを聞いて、正直どうしたものかと思っている。
言っていることは分かったし、正直安心院なじみなんていう埒外の存在がいる以上真実だと理解も出来る。しかしこの世界がフィクションであると言われ、それをはいそうですかと受け入れるには、あまりに残酷な真実だ。
見渡せば、この場にいる全員がショックを受けている。
装者の面々も、ウェル博士も、ナスターシャ教授も、フィーネも、十六夜でさえも顔を青くしていた。
それもそうだ――自分のすべてが唯の設定と言われて、ショックを受けない筈がない。
「…………はぁ……」
弦十郎は溜息を吐いた。
何も言葉が出ず、何をするべきかもわからず、ただ息を吐くことしか、出来なかった。
「……全員、聞いてくれ」
それでも、弦十郎は涙を流したくなるほどの衝撃を堪えながら、ぽつぽつと口を開く。
「ここまでの話を聞いて、正直俺は絶望している。お手上げも良い所だろう」
「……」
「俺も、君達も、フィクションの設定で作られたキャラクターだっていうんだから、当然だ……それでも、俺は最後まで戦おうと思う」
弦十郎の言葉に、全員が顔を上げた。
「フィクションであっても、この言葉や意思が紛い物だとしても、俺はこの生き方が好きだ。この仕事が好きだ。この人生に誇りを持っている……この世界が仮初の物語だとしても、全てがフィクションならやはりこの世界が俺たちの現実だ」
フィクションである―――だが、現実である。
この世界がフィクションであるのは、それこそ上位の世界の中の話だと、弦十郎は思った。結局のところ、此処が自分たちの現実であり、誰かの想像通りの物語を歩むのだとしてもそれが自分たちの決めた未来なら不満はない。
「だから、俺と一緒に、最後まで戦ってほしい……どうせこの世界が物語だというのなら、やっぱりハッピーエンドじゃなきゃあな!」
弦十郎のその言葉を受けて、立ち上がることの出来る者は果たして――
超壮大な伏線回収でした!!(こじつけました)
◇
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