◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第五話 ガングニールとは違う、異質者

 ノイズに襲われない少年を見た時、私は内心穏やかではなかった。

 

 そういう類の聖遺物を所持しているか、何かしらの能力を持っているかなど、可能性としてはないわけではない。けれど単純に、ノイズが敵として認識していない存在である可能性の方がシンプルにあり得ると思ってしまった。

 つまり人間ではないということ。

 どんなに特殊な力を持っている者であっても、人間である以上はノイズに襲われる。

 シンフォギアのようにそれに対処できる力があるわけでもなく、ノイズと敵対しない存在など私は一つしか思いつかなかった。

 

 失われしかつての先人――カストディアン。

 

 ノイズを創った者たちのアヌンナキの一柱であるのなら、ノイズに襲われないことも説明がつく。自分がこの時代まで生き永らえている以上、彼らの一人がこの時代まで密かに生きている可能性は十分に考えられる。

 

「……だとしたら、確かめる必要があるな」

 

 その結果……我々人類との繋がりを断ち、人と人とを繋いでいた統一言語を奪い取った存在であるのなら―――

 

「その行動のツケを支払って貰う……!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ノイズの襲撃があった翌日の朝、珱嗄はリディアンの地下――特異災害対策機動部二課へと赴いていた。

 昨晩思わぬ形で自分を尾行していた男から――名前を緒川慎次というらしい――ノイズに襲われない自分の映像を見て、身辺調査をしていたと説明を受ける。

 その際二課の存在とその組織の活動内容についてもある程度説明を受けていた。珱嗄自身、ノイズに対抗するべく設立された組織ならば、自分のような存在を見て調査をすることも当然だと納得している。

 

 昨晩は夜も遅いということで、翌朝二課に来てほしいという提案をしてきた緒川。強制力はないので嫌なら断って貰っても構わないとのことだったが、珱嗄はすぐに首を縦に振った。

 

「! お待ちしていました。ご案内します」

「うん、よろしく」

 

 まだ生徒が登校してきていない早朝故に、うっすらと空が白んできた頃だ。

 リディアンの校門前で、件の緒川慎次が珱嗄を出迎える。

 響や未来の通っている学校が対策本部になっているというのは少々驚きではあったが、珱嗄の胸中はこの時点で中々に上機嫌であった。日常の中に訪れた非日常の展開に、珱嗄は意図せずワクワクしてしまっているのだ。

 

 自分が人間ではないかもしれないということなど、些末なことだと思えていることに気がつかずに。

 

「こちらです」

 

 緒川に連れられ、地下へと下る仰々しいエレベーターに乗せられる。

 ガシャン、という音と共に手すりが出てきたのでそれに捕まると、ゴゥンという機械音と共に普通とは少し違う速度でエレベーターが急降下し始めた。かなり地下深くに本部があるようで、降下中には妙な模様の描かれた壁が広がっている光景が見える。

 

 珱嗄はその壁を見て、自分の直感が何かを訴えかけているような感覚になった。

 

「……この壁、興味深いな」

「そうですか? この地下本部を創った時からあるので、僕にはピンときませんが……ご興味があるようでしたら、創設に関わった櫻井了子さんという方もいらっしゃいますので、お話を伺ってみると良いかもしれませんね」

「櫻井了子、ね……覚えておくよ」

 

 今まで、珱嗄はこの直感に従って悪いことになったことがない。

 自分の直感が示したものは、例外なく自分が面白いと思えたものばかりだったからだ。それほど頻繁に働くわけではないが、最近ではよく働くようになっている。

 二年前の事件しかり、ノイズしかり、この壁しかり、最近では珱嗄の身の回りに何か変化が起こり出しているように思えた。

 

 そうしてエレベーターから見える景色が暗くシャットアウトされて数秒後、ようやく目的地へと辿り着いた。

 そしてエレベーターを降りて少し歩いた先、大きめの扉の部屋に入ると、

 

「ようこそ! 人類防護の砦、特異災害対策機動部二課へ!」

 

 そんな声と共にクラッカーがパンパンと鳴らされた。

 

「……」

 

 まるでパーティでも始めるかのような光景に珱嗄は愛想笑いを浮かべていたが、その笑みに若干の嘲笑が混ざっている。

 珱嗄が無駄に緊張しないように緩い空気を作ろうとしてくれているのだろうが、そもそも緊張などしていない珱嗄からすれば空回っているようにも見えたからだ。

 

「ん?」

「……」

 

 すると見覚えのある顔に気がつく。

 賑やかな空間の隅の方で、一人不愛想な顔をして立っている少女がいたのだ。

 メディアや芸能界に然程興味がない珱嗄でも知っている有名人、響が大ファンであるアーティスト"風鳴翼"だ。何故此処に彼女がいるのか、疑問に思う。

 

「突然のことなのに出向いて貰ってすまないな、俺は風鳴弦十郎……この二課で責任者をしている!」

「私は櫻井了子、よろしくね♪」

 

 首を傾げる珱嗄に、大柄の男性と白衣の派手目な女性が話しかけてきた。

 風鳴弦十郎と櫻井了子、片方は先程名前を聞いたので、珱嗄は一先ず翼から視線を切って二人と向き合う。二課の責任者である風鳴弦十郎の名前を聞けば、翼と何かしらの関係があるのだろうと予想もついた。

 

 自己紹介されたので、珱嗄も自己紹介を返す。

 

「俺は泉ヶ仙珱嗄、まぁ……ただの高校生だよ。よろしくね」

「急にこんな場所に連れてこられて平然としているなんて、肝が据わってるわねぇ」

「命の危機って訳でもないし」

「そして年上でも臆することはない、と……中々の大物だな! ハッハッハ!」

 

 敬語を使わない珱嗄に気を悪くすることもなく、弦十郎と了子は人の良い笑みを浮かべてソレを受け入れた。元々来なくてもいい所にわざわざ来てもらった手前、珱嗄に気を遣っているのかもしれないが、ソレを除いても二人の人が良いのは珱嗄も理解できた。

 

「さて、用意したものは好きに飲み食いしてくれて構わない! 朝食になるだろうからメニューは軽めだが、味は保証するぞ」

「それはどうも……それで、本題は?」

「ああ、そうだな……君も登校時間があるからな。すまない、早速本題に入らせてもらおう……まぁ、これでも飲むと良い」

「ありがとう」

 

 弦十郎からオレンジジュースを渡され、珱嗄はソレを受け取る。

 本題に入る為、部屋に設置されていた長ソファに弦十郎と了子、珱嗄の三人が腰掛けた。緒川も話を聞くためかソファの後ろに立っている。

 

 自白剤などの可能性も考えたが、だとしてもやましいことは特にないので珱嗄は普通にジュースを飲んだ。

 

「翼、お前も来い」

「……はい」

 

 すると弦十郎が離れた所にいた翼を呼ぶ。

 この時点で、珱嗄は翼がノイズ対策において何らかの重要ポジションにいることを察した。弦十郎や了子の人が良いのがわかったので、翼の様な年端もいかぬ少女が、ノイズなんて危険な存在に対抗する組織にいることを良しとする筈がないと思ったからだ。

 翼が近づいてきた瞬間、珱嗄の直感がまた働いた。

 

 翼の首に掛かっているペンダントに付いている赤い結晶(・・・・)に、視線がいく。

 

「名前くらいは知っているかもしれないが、風鳴翼だ。わけあって、俺達と共にノイズ対策に動いてくれている」

「風鳴翼だ…………なに?」

「あらあら、珱嗄くんってば思春期なのはわかるけど、そんなにジッと翼ちゃんの胸を見ちゃ駄目よ?」

「なっ……!? 貴方……!」

「違う、そこじゃない」

 

 ジッと見ていたのが悪いのだろうが、珱嗄をからかってくる了子とそれを聞いて自分の身体を隠して睨んでくる翼に、珱嗄は淡々と否定を返した。

 そして珱嗄が翼の首に掛かっているペンダントを指差すと、全員が少しだけ緊張したのが伝わってくる。まさしくソレは、この二課が抱えている機密中の機密なのだ。

 

 それに初見で目を付けてくる珱嗄に、若干の警戒を覚えてしまう。

 

 そして珱嗄はその警戒をすぐに見抜いた。

 

「……ふーん、そのペンダント何か秘密がありそうだね」

「珱嗄君……君は何者だ?」

「ただの高校生だよ、そのペンダントにも直感的に興味を引かれただけだしね」

「ノイズに襲われていなかったのは、君がなにかしたのか?」

「いいや? ノイズに会ったのは初めてだったけど、俺自身なんで無視されたのかはわかってない。だから此処に来たんだけど……そんなことより面白そうなものが隠されてそうだね」

 

 一気に珱嗄の空気感に持っていかれたことで、弦十郎含めこの場にいる面々は若干やりづらそうにしている。

 政府機関として普通より交渉に長けている筈の自分達が、たかだか一高校生にやりこまれている現状に、驚愕を隠し得ない。本来なら、先程のペンダントへの指摘で動揺したことだって隠せたはずなのだ。

 なのに全員が動揺を隠し切れず、また警戒したことを瞬時に見抜かれた。

 

 これは予想していなかったが、緊張させないようにパーティを催した反面――珱嗄がきてからは、弦十郎達の方が緊張していたのかもしれない。

 

「まぁ、詳しくは訊かないよ。面倒くさそうなものに関わる気もないし」

 

 けれど珱嗄はこれ以上の追及をしない。

 面白そうなものを見つけたけれど、それでも機密事項であれば今後の生活に面倒な要素が増えそうだからである。それに、珱嗄の直感では今関わらなくとも今後より面白い展開で関わる気がしているのだ。

 

 この直感に従って外れたことは一度もない。

 であれば今急いで干渉する必要もない。

 

「そうか……そうしてくれると助かる。いやはや、俺達もまだまだ未熟だな」

「珱嗄君って、高校生にしては何処か貫禄があるというか、無意識に恐縮しちゃう雰囲気の持ち主よねぇ」

「そう? まぁ、昔から同級生にも敬語を使われることが多かったけど」

 

 珱嗄が攻め手を緩めたからか、弦十郎も了子も少し肩の力が抜けたらしく、わかりやすく溜息をついた。やられたとばかりに苦笑する弦十郎だったが、了子の珱嗄に対する分析は珱嗄以外の三人が共通して同意する。

 

 珱嗄はどこか自分達よりも年上というか、格上のような貫禄と雰囲気があるのだ。映像では伝わらなかったものの、実際に対面してみると思わず圧倒されてしまうほどに。

 

「とりあえず、ノイズに襲われなかったことに関して君は心当たりはないということだな?」

「そうだよ、まぁあの時は都合が良かったけど」

「君のおかげで助かった命も多い。その件に関しては、全面的に感謝させてくれ」

 

 弦十郎が頭を下げた。他の面々も深々と感謝を伝えるために頭を下げていた。

 珱嗄はそういう感謝をされたくて避難誘導をしていたわけではないので、早々に頭を上げさせる。

 

「とりあえず、もう登校時間も近いし……そろそろ帰ってもいい?」

「ああ、朝早くに時間を取らせてすまないな。帰りは車で送らせる」

「好待遇じゃん、じゃあよろしく」

 

 そうしている内に時間も経って、そろそろ高校生は登校し始める時間だ。

 弦十郎も訊きたいことは訊けたのか珱嗄の帰宅を認め、送迎の準備を指示する。車を運転するのは緒川なのか、立ち上がった珱嗄に対し、来た時同様緒川が案内を務めるようだ。

 

「それじゃ、またね」

 

 珱嗄は次があることを確信しながら、先行する緒川に付いてその場を去っていく。

 弦十郎は珱嗄のその言葉に、やはり薄ら寒いものを感じてしまうのだった。

 

 

 




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