◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第五十話 娯楽主義者が笑う

 珱嗄の過去、ヴィヴィオ達の過去、そして現在安心院なじみが何をしようとしているのか、それが明らかになった二課を置いて、それでも時間は流れていく。

 キャロルの陣営はそんなことはさておいて、自分たちの目的を達成するための行動を進めていた。

 弦十郎達が取り逃がしたカリオストロ達によって、キャロルの目的である聖遺物『ヤントラ・サルヴァスパ』は無事にキャロルの手に渡っている。世界を分解するためのワールドデストラクター、チフォージュ・シャトーの完成は目前だった。

 

 とはいえ、サンジェルマン達も先の戦いで消耗したのは事実。

 頼みのヨナルデ・パズトーリも何故か立花響と天羽奏によって破壊され、その原因を彼女達も探っていた。

 

「今更どこから湧いて出たのか、装者が増えたようだな」

 

 キャロルの言葉に、サンジェルマン達は頷きを返す。

 元々いた筈のクリスとマリア達四人に加え、立花響と天羽奏が加わり、戦闘不能の風鳴翼を除けば装者の数は七人になった。戦隊物でも二人余る。

 とはいえキャロルにとっては、それでも好都合と言えた。

 確かにデータを見る限りでは、装者の数はそのまま力だが、それでも自分たちの脅威になりそうな装者は限られる。特にマリア達『F.I.S.』組の力は、クリスや響に遠く及ばない。ギアを纏うことが出来ているだけで、その本領を発揮していない。

 

 ならばキャロル本人が前線に出れば、容易く蹴散らすことが出来ると考えていた。

 

「シャトーの完成は近いワケだ……次はどうするつもりだ?」

「決まっている、残るは呪われた旋律を蒐集するのみ。ミカ、レイア、出番だ」

「待ちくたびれたゾ!」

「派手に出番だな」

 

 プレラーティの問いに、キャロルは遂に残るオートスコアラーの投入を指示する。既にガリィとファラの撃破によって、二つの呪われた旋律が回収され、『ヤントラ・サルヴァスパ』も手に入った今、あとはもう二つの呪われた旋律を手に入れるだけ。

 それだけでチフォージュ・シャトーは起動し、ワールドデストラクターの役割を果たすだろう。

 

 キャロルの目的が達成されるまで―――

 

「レイア、ミカ、それぞれレイラインの解放を行え。アルカ・ノイズは幾ら投入しても構わない……レイアは最初から妹を使っても構わん、最大戦力で目的を達成しろ」

「了解した」

「合点ダゾ!」

 

 ―――あと少し。

 

「レイライン解放に必要な情報を持っているのか? 地球上を流れるエネルギーの軌跡をどうやって?」

「それを話す意味はない……オレはただ目的が達成されるのなら、それでいい」

「……そう」

 

 レイライン―――それは地球上を流れるエネルギーの流れ。人によっては龍脈と呼ぶその流れは、地球を覆うように流れる巨大なエネルギーの流れである以上、人一人で把握することは出来ない。それこそ宇宙から地球を観測し、長い年月をかけてエネルギーの流れを確認しない限りは不可能だ。

 その正確なマップをキャロルは持っているという。

 サンジェルマンはその出所が気になったが、キャロルはそれを口にしなかった。少々疲れたように頬杖を突く彼女は、何処かようやく仕事が終わる、と言いたげな印象をサンジェルマンに与えた。

 

 世界の分解――それは、キャロル自身の悲願だ。

 

「……それでは我々は此処から別行動をとるが、いいな?」

「ああ、協力感謝する」

 

 サンジェルマンは、何か妙な違和感を感じながら、そう言ってシャトーから去る。背後から投げかけられたキャロルの言葉に、また違和感を感じながら。

 そうして消えていったサンジェルマン達を見送った後、ミカとレイアも黙って命令を実行するべく姿を消す。

 

 残されたのはキャロル一人。

 天井から差す光の中で、キャロルは天を仰ぐ。

 

「……ワールドデストラクター、チフォージュ・シャトー……世界を識ることを望んだパパの……オレの……私の願いの行きつく果て」

 

 キャロルは呟き、目を閉じる。

 そしてふと口元が笑みを作り、何処か憑き物が落ちたような清々しさを感じながら、閉じられたキャロルの目尻から一筋の涙が零れる。

 

「もう少しだよ……あとちょっとで――」

 

 キャロルの願いが叶う時が、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 巨大な爆炎を上げて、オートスコアラーが暴れ回っていた。

 何の制限もなくなったとばかりに、オートスコアラーレイアとミカは、リディアンの街中にアルカ・ノイズを召喚し、そして混乱を引き起こす。

 

 そしてその勢いのまま、ミカは風鳴の本邸にある、龍脈の抑制装置でもある要石を破壊。レイアはリディアン音楽院にある二課本部を急襲すべく動いていた。

 何をすべきなのか、それを明確に捉えて動き回る。海の中からはレイアの妹である、巨大なオートスコアラーも登場し、最早一ヵ所どころか数ヵ所で爆発と人死が起こっている。

 

 驚天動地―――人々は逃げまどい、建物は破壊され、アルカ・ノイズによる恐怖が街を支配していく。

 

 しかし、

 

「出てこない……どうしたシンフォギア、このままなら全てが赤き塵と化すぞ」

 

 そこまでやって尚、シンフォギアが姿を見せなかった。

 これは予想外、あまりにも動きがなさすぎる。今までの彼女たちを鑑みれば、それがどれほど愚かな選択なのかは理解していると思っていたのに。

 

 レイアが堂々、正面からリディアン音楽院に踏み込んで尚、誰も出てこない。

 

「諦めたか?」

 

 彼女らに何があったのか、レイアには分からない。

 しかし、それでもやるべきことは変わらない。呪われた旋律の回収は絶対の命令である。戦う意思を持ってもらわなくては困るのだ。

 

 すると、本部からぞろぞろと装者が姿を見せた。

 ギアを纏ってはいるが、それでもその表情に覇気はない。フォニックゲインすら微弱に感じる程度にしか生まれていない。

 

「……なんだ? その地味な顔は……覇気もない、戦う意思すらない、そんな体たらくでよくもまぁ出てこられたものだ」

「っ……」

 

 この世界の真理―――奇しくも錬金術師の追い求めたもの以上の真実を知った響たちの絶望は、彼女達からありとあらゆる覚悟と戦意を根こそぎ削り取った。

 弦十郎の言葉でなんとか戦いに赴く程度の再起は可能だったが、それでもそこにかつての強い意思は感じられない。

 

 意思の強さ――愛がギアの力であるのならば、それは今失われたも同然だった。

 

「さて……どうするか。一人ずつ殺せば戦う気になるか? 此方としては、装者二人程度がいればいいのだから」

 

 砕かれた覚悟に意味はない。

 奇跡も、強さも、力も、そこには存在しない。

 何もしない者に、何かが起こることはない。

 

 レイアの言葉に反応した響たちだが、それに阻むだけの意思がない。

 

 しかし、

 

「はぁ……アタシがやる、アンタらは街のアルカ・ノイズを掃除してきな」

「奏さん……」

 

 そこで前に出たのは、天羽奏だった。

 彼女だけは絶望したような顔も見せず、いつも通りの強気な態度で佇んでいる。アームドギアをその手に、レイアの前へと立ち塞がった。響も奏も、そのギアには既にイグナイトが搭載され、錬金術に対抗するだけの力を備えている。

 

 奏はクルリと槍を振るって、構えた。

 

「……確かに、真実ってのはいつも残酷さ。でもな、お前らにとって大切なものはこの世界の在り方なのか? この世界で生きてきた今まで、世界にとってはフィクションかもしれないが、お前らにとっては偽物なのか? 偽物のためには、戦えないか?」

「!」

「戦え! この瞬間にも、お前らの守りたいものが殺される前に!」

「っ……!!」

 

 咆哮の様な奏の言葉に突き動かされるように、響たちは駆けた。

 街の人々を救うために、戦うために。

 奏とレイアを残し、装者が一斉に動きだす。まるで手遅れなタイミング、動き出しが圧倒的に遅すぎるけれど、それでもやるべきことをやるために動き出す。

 

 絶望を払拭出来ない今、イグナイトモードを起動するのは『Elixir』を以てしても危険かもしれないが、それでも戦わなければ全てを失うのだ。

 

 残された奏は、去っていく装者を見逃すレイアに槍の穂先を向ける。

 

「お前一人で、私を止められるとでも?」

「なんとかするさ、アタシはアイツら全員の先輩だからな」

「……そのギア、イグナイトも積んでいるようだな。だが、敵は私だけではない」

「ゥォォォオオオオオオオオオ!!!!」

「んなっ……!」

 

 リディアンから見える海から、分厚い水の膜を打ち破るように浮上した、超巨大なオートスコアラーが姿を見せた。レイアの妹であり、その巨大さから甚大なパワーを秘めた超火力型オートスコアラー。

 流石に奏も一人じゃこの状況を打破できるとは言い切れなかった。

 

「さぁ、どうするシンフォギア」

「……すー……ふぅー……全く、ベッドが過ぎるぜ。じゃあ見せてやるよ、アタシも本来は一人じゃないんだ」

「何?」

 

 それでも、奏は不敵に笑う。

 この状況を奏一人では打破できない―――しかし、奏は知っている。彼女はいつだって一人ではない。いつだって信じた絆で繋がっている。

 

「知っているか? かつてツヴァイウィングと呼ばれ、双翼でどこまでも羽ばたこうとしていた歌姫がいたことを」

 

 奏のギアが、奏の意思に応じてか、赤い光と共に出力を上げる。

 

「知っているか? こっちには、かつてたった一人で国を防る剣がいたことを!」

 

 そして、それに呼応するように曇り空を割いて降り立つ青い輝きが、奏の隣に降り立った。

 

「そいつはアタシの一部で、アタシはそいつの一部だった」

「……奏っ」

 

 赤と青、その二つのシンフォギアの煌めきが並び立つとき、彼女達はどこまでも高く、遠くへと飛ぶことが出来る。両翼揃ったツヴァイウィングに、行けない場所などどこにもない。

 信頼と、確信。

 

 

 風鳴翼が、そこにいた。

 

 

 天羽奏と風鳴翼、かつて二人で戦い抜いた歌姫。

 その二人が二年の歳月を超えて、再び並び立つ。

 

「いくぞ翼……アタシの熱に、お前の熱を乗せな!」

「無論―――この剣は、奏と羽ばたくための翼なのだから!」

 

 レイアと妹、そして翼と奏、互いに二対二の戦いが始まった。

 

 

 ◇

 

 

 そしてその様子を見守る三つの人影が、リディアン音楽院の屋上にいた。

 件の泉ヶ仙珱嗄と球磨川禊――そして、黒瀬徹の三人である。

 

「『翼ちゃんを攫って何をするのかと思ったら』『まさかこんな展開にするなんて』」

「まぁ、心の折れた翼ちゃんを復活させるなら、天羽奏の力は必須だったからね。一旦攫って復活させるのはわけなかったよ」

「それで球磨川に俺を連れてこさせたのはなんでだ?」

「俺も戦力が欲しいんだよ、この先の展開を予想するなら、こっちにはあまりに戦力が少なすぎるからね。だから球磨川君に頼んで、俺に力を貸してくれそうな人材を連れてきてもらった……安心院なじみより、俺に付いてくれそうな人をな」

 

 黒瀬の問いに対する珱嗄の答えは、単純だった。

 球磨川によって折られた翼を元に戻すことも、天羽奏が生きている事実があれば容易い。そうして二課の強化をすると同時に、珱嗄は自身の戦力を整えることを優先していたのだ。

 そして天羽奏を二課に潜入させ、二課の中に居るであろう異世界人の情報を探ろうとした。

 

 その結果、珱嗄もまたヴィヴィオの話を盗み聞きしていた。

 

 この世界の真理を知り、珱嗄がかつてどのように生きていたのかも知ることが出来た。記憶は戻っていないが、それでも納得出来る部分が多い。

 

「さてさて、面白くなってきたぞ……全く俺に内緒でこんなことになっていたなんてなぁ」

「『珱嗄さん……?』」

「うわ、超楽しそう……こんな珱嗄初めて見るぞ」

 

 泉ヶ仙珱嗄は娯楽主義者である。

 記憶を失って尚その生き方の片鱗は現れていた。そして今の珱嗄は記憶も無しに娯楽主義者としての狂おしい在り方を歩き出している。

 

 笑っていた。

 不敵にでもなく、余裕そうにでもなく。

 

「ハハッ……! 楽しいに決まってるじゃん、こんなフィクションとノンフィクションの枠を打ち破って現実に喧嘩を売るような祭だぞ、しかもその中心が俺ときてる」

 

 楽しい、面白い、そして幸せだ。

 

「こんなに面白いこと、隅々まで楽しみ尽くさなければ意味がないだろ!」

 

 笑う、非常に楽しそうに。

 

 ――娯楽に飢えた、退屈に枯れていた無敵に人外が、笑う。

 

 この物語、最後の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 




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