◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
かつて、私は数十年の時をパパと共に過ごした。
魔法があって、ストライクアーツがあって、聖王の血統だとか、そういったいざこざも色々あって、多くの人と繋がって、辛いことも悲しいこともいっぱいあったけれど、それでも幸せな人生だったと思う。
友達もいっぱい出来たし、成長して、素敵な人と出会って、お付き合いして、素敵な職場で働くことが出来て、結婚して、子供を作って、年老いて、友達の死を見送って泣いて、最後は子供たちに見守られながら、私が見送られて―――ありふれた、でも誰もが手に入れられるわけではない幸福な人生を終えた。
そしてその人生の中で唯一、私が経験しなかったのは、親の死に目に会うということだ。
パパは死ななかった。
いつまで経っても年老いることはなく、私が出会った頃の姿のまま、私の人生が終わるその時までずっと一緒にいてくれた。周りからは不気味に思われることもあったけれど、パパはどこまでも自由で、何も囚われることなく自分らしく生きていた。
強く、どこまでも強く、年老いて弱る姿なんて見せることなく、ただの一度だって敗北のない存在として、私の親で居続けてくれた。
―――ねぇパパ、私のこと、愛してる?
―――ああ、当然だろう
ある日、私がパパに聞いた質問に、パパは即答でそう返した。
反抗期だったと思う。高等部に入学して少し経った頃、私は遅めの反抗期を迎えた。といっても、キレ散らかしたり、物に当たったりという感じではなかったけど。
なんとなくパパと一緒にいるところを見られるのが恥ずかしくなったり、洗濯物をパパと分けたくなったり、パパにそっけない態度を取ったり、そんな程度だった。
酷いことを言ったことはなかったし、喧嘩をしたこともなかった。
パパはいつだって、私のありのままを受け入れてくれていたから。そんな態度を取っていても私はパパが大好きだったし、友達のコロナやリオにはお父さん大好きな子として扱われていたしね。
そんな時、あまりにそっけない態度を取る自分をどう思っているのかが気になって、不意に出た質問だった。
パパは私のことを娘としてとても大切にしてくれていた。
私はそれが嬉しくて、その日から私の反抗期は終わった。翌日からはそっけなかった距離を埋めるように、私はパパに甘えたのを覚えている。
―――卒業おめでとー、もうすっかり大人モードの見た目になってきたな
―――内定決まった? やったじゃん、寿司でも取る?
―――え、彼氏できたの? うわー、なんかショックー
―――……良い人を見つけたなぁ。うん、良いよ……幸せになりな
―――おお、久しぶりー……え、そのお腹、子供出来たの? 早くない?
―――無事生まれたか……頑張ったな、もう立派なお母さんだ
―――しわ増えたんじゃないか? わはは、おばちゃんになったね
人生の節目節目で、パパはいつも私の傍にいた。
子供もパパに懐いていたし、優秀で正義感の強かった夫も、パパの前じゃ頭が上がらないようだったし、パパもそんな私達を最後まで愛してくれて、大切にしてくれて。
―――もうお別れか……どうだった? 今までの人生?
最後に子供や孫たちに見守られている中で、パパはそう聞いた。わかり切った質問をして、優しく笑みを浮かべて、鮮やかな金色もすっかり白んだ私の髪を、子供の時と同じ様に撫でて、少しだけ悲しそうな声だった。
私はその言葉に対して、たった一言だけ。
―――愛おしかったよ、とっても
そう返して、その数秒後に安らかに眠った。
その後のことは、死んだあとに見ていた。どうやら人は死んだら幽霊になるらしく、私はパパのその後の人生を見守った。私の子供、孫、その子供、そのまた子供―――私の血で繋がった子孫が途絶えるその時まで、パパはずっと生き続けた。
孫が死ぬときも、その子供が死ぬときも、パパは私と同じ質問をした。その全ての答えに、不幸な回答はなかった。
パパは私の残した全てを幸せにした。
そして、生涯独身で過ごした最後の子孫が死んだ後―――パパはようやく私という枷から解放された。退屈だっただろうに、私は自由だったパパの人生に唯一の枷を嵌めたのだ。パパがそうしたかったから、きっとそうしてくれたんだと思うけれど……これでようやくパパは自分の人生を送ることが出来ると内心では喜んだ。
私はパパがこの世界の住人じゃないことを知っていた。
生前、神崎零さんからソレを聞いていたから。元の世界で死んで、パパは異世界を渡る存在になったこと、転生者の存在を。
だから自由になったパパが、違う世界に渡った時、私は幽霊らしくパパに取り憑いて一緒に世界を渡った。
いろんな世界を見た、パパに恋人が出来た時も、パパがアイドルグループを作った時も、パパが修羅神仏と戦っていた時も、パパが超能力者の学園で無茶苦茶している時も、私はずっと傍で見ていた。
何故か、私の存在はどの世界のどの存在にも認識されなかった。神様にも、魔神にも、幽霊を使役する存在にも、誰にも。
そこで私は気が付いた。
別々の世界のキャラクターは、どんなに高位な存在であっても干渉し合うことは出来ない。私は既に死んでいて、意識だけがパパにくっついている状態だったからそもそも干渉できないし、向こうもそれを認識出来なかったのだと。
だから驚いた、安心院なじみが生きたまま世界を渡ったことに。
それは絶対に出来ない筈なのに。
そして、パパが最後の世界に渡った時―――私は何故かその世界に生まれていた。ヴィヴィオとして、また。転生した、とすぐに理解出来た。かつて研鑽した魔法も、知識も、ストライクアーツも、そのまま全盛期の力が宿った身体で、私は転生していた。
―――パパが、この世界にいる
目覚めた瞬間確信していた。
何故なら、私の母親は安心院なじみだったからだ。彼女の腹から生まれたわけじゃない、私は彼女が作った仮初の家庭に、最初からそうだったように生まれたのだ。
それでも、安心院なじみはパパや私をその身で産んだと思っているし、私は彼女の腹から産まれたということになっている。
そういう"設定"で、私は生まれているからだ。
安心院なじみにはかつての記憶があった。私にあるように、彼女にもパパの記憶があった。そして私は、パパの娘だったと彼女に伝えた。結果、彼女はすぐに違和感に気が付いた。
パパだけを愛していた彼女が、何故違う男を夫にし、あまつさえ子供を産んでいるのか。その狂気じみた違和感に、彼女は気が付いた。何か自分よりも上位の存在の干渉を受けていることに気が付いた。
そう、彼女はこの世界には文字通り神がいると思っている。
かつて彼女自身が気が付いていた筈の、この世界がフィクションの世界であるという可能性を考えずに。そしてその存在がパパの記憶を消したと、そう思っている。
だから彼女は行動を起こした。
パパの記憶を取り戻すための行動を。私もそれに協力し、魔法を使って色々な手助けをした。そして今こんな状況になっている。
予想外だったのは、彼女が生まれたのは宇宙創成よりずっと以前で、彼女はこの世界にパパがやってくることを確信していたこと。つまり、彼女は地球が生まれるよりずっと以前から、パパの為に様々な計画を練っていた。パパの人生に面白いことが起こるように、色々な手を巡らせていたのだ。
神がいると確信した彼女の行動は、それらの手を綿密に組み合わせた計画となっていた。
そしてそれを知った私は、彼女の計画では多くの人が犠牲になることを度外視していることに気付き、それを阻止するために動きだした。
なのに、
「なにやら皆色々と勝手に動き出したと思ったら、どうするつもりなのかな」
「パパの記憶を取り戻すのは、皆一緒ですよ……でも、その過程に求めるものが貴女と違うだけです」
「ふーん……君は珱嗄の娘だから、きっと珱嗄のことを考えて色々やってるんだろうけど……それでも僕は僕のやりたいようにやるよ」
アルカ・ノイズとオートスコアラー達の襲撃を受けて、私が転移魔法で拠点に戻ると、拠点にあったテーブルに安心院なじみが座ってお茶を飲んでいた。
私や十六夜さんたちの動きもしっかり把握しているらしい。流石は一京を超えた超常のスキル保持者――この人を出し抜くことは出来ない。
けれど、彼女はあくまで
私の記憶を覗き見ることや他人の思考を読みとるようなスキルを使うことはせず、あくまで平等な条件で動く。かつて彼女が自身を定義した際の絶対的価値観だ。
彼女の中で平等でない対等なものなんて、パパ以外には存在しないのだから。
「貴女のやり方じゃ、パパはきっと戻ってきませんよ」
「それはやってみなければわからない。君が彼の娘であるように、僕は彼の恋人だ……どちらか彼のことを理解しているのか、結果が示してくれるよ……どちらにせよ、珱嗄が戻ってきてくれるならどちらでも良い」
「……」
安心院なじみのやり方は、パパと会う前の彼女に戻っている。
この世界を現実のものとして見ていない。どこまでも平等で、人物と背景の区別すらついていないほどの『悪平等』―――だからこそ、こだわっていない。
パパが戻ってくるのであれば、どんな方法でもいいのだ。
私のやり方でパパが戻ってきて、私の方がパパを理解していたという結果になっても、別にいいと考えている。結果、パパは戻ってくるのだから、彼女はその過程にこだわらない。
ただ、自分のやり方が一番パパを呼び戻す可能性が高いと考えているから、実行しているだけだ。
だからこそ、この人は危険なのだ。
「これから何をする気ですか?」
「わはは、僕はもうやるべきことはやったよ……あとは、ミジンコ共が勝手に騒ぐだけさ」
「……」
「それに、君こそ大丈夫なのかな? このままなら、何も出来ないまま終わるよ?」
「!」
彼女が指差した窓の外、傍に行って外を見てみると、そこには空を砕くように大穴が開いていた。まるでガラスを砕くように空が割れ、その奥から天空の城のような巨大な建造物が現れている。
かつての世界でも似たような感覚を抱いたことがある――あれは『聖王のゆりかご』に匹敵するロストロギアの塊だ。
チフォージュ・シャトー。
けど、現在アレを起動させるためにオートスコアラーが行動を起こしていた筈。どうしてこんなに早くに姿を現して、しかも起動しているなんて、どういうこと!?
「どうしたんだい、そんな青い顔をして……まさか、錬金術師に僕が干渉していなかったとでも思っていたのかな?」
「っ……!?」
いや、違う。球磨川さんや十六夜さんをそれぞれ送り込んでいるからこそ、そこへの干渉があったことは知っている。けれど、キャロル・マールス・ディーンハイムもパヴァリア光明結社も、それぞれきちんと目的があって動いていて、あくまでその手伝いをしていただけだ。
であれば、こんなに早くチフォージュ・シャトーを起動出来るのはやはりおかしい。球磨川さんも十六夜さんも、今はもうそれぞれの組織に協力していない。であれば、これを引き起こしたのはキャロルさんだけで実行された策ということになる。
どうして―――?
「わはは、珱嗄の娘と言っても……権謀術数には疎いみたいだね、よほど恵まれた温かい環境で育ったと見える」
「くっ……一体何を……!?」
「考えるより先に行動した方が良いんじゃないかな? チフォージュ・シャトーは起動している―――ワールドデストラクター、世界を分解する城が」
安心院なじみの言葉を受けて、私は歯噛みしながら外へと飛び出していく。
このままでは世界が分解され、地球そのものが消滅してしまう。
一体、どこまで彼女の手のひらの上なのか……!
「クリス! セットアップ!!」
阻止しなければならない。
この世界に泉ヶ仙珱嗄が――パパがいる限り、別世界のキャラクターに過ぎない私でも、この世界を守る。
自分のオリジナル小説の書籍第②巻が発売となりました!
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また、珱嗄シリーズの更新報告や小説家になろう様での活動、書籍化作品の進捗、その他イラスト等々発信していますので、もしもご興味があればフォローしていただければ幸いです。
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