◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
オートスコアラー四体による呪われた旋律の蒐集。
それは、キャロルがエルフナインを利用して二課に持ち込ませたドヴェルグ=ダインの遺産、『魔剣ダインスレイフの欠片』をシンフォギアに組み込んだ決戦機能『イグナイトモード』の攻撃を、オートスコアラー達がその身に受けることで譜面を記録するというものである。
必要な譜面の数は、オートスコアラーと同数の四人分。
だからキャロルは最初クリスしか二課に装者がいない状況を危惧したし、イグナイトモードが搭載されているのを確認するまでは、下手に人気の多い場所にアルカ・ノイズを投入しなかった。
そして今、使用すればあらゆる機械装置を思いのままに操ることの出来る聖遺物『ヤントラ・サルヴァスパ』を手に入れたキャロルたちは、最早余計な手間を踏む必要がない。
適度に装者を追い詰め、イグナイトを発動させた後、その身に攻撃を受けて退場すれば役目は終わる。
故に、リディアン本部前にてツヴァイウィングと戦っていたレイアとその妹は、天羽奏と風鳴翼にイグナイトを発動させ、早々にその身に攻撃を受けることで役目を果たしたのだ。
戦いの終わりはとても早かった。
レイアと妹のパワーによるごり押しにジリ貧になった奏と翼は早々にイグナイトを発動、反撃開始とばかりに攻撃を仕掛けた結果、突如無抵抗になったレイアと妹をその出力によって撃破―――あっけない終わりであった。
「どういうことだ……?」
「奏……これは明らかにおかしい」
「ああ、まるで自分から死のうとする動きだった……もしかして、コイツらの目的は敗北することにある……?」
そしてオートスコアラーは残り一体、全オートスコアラー中最強―――戦闘特化のミカ・ジャウカーンのみ。
しかしそれでもレイアとその妹がやられた瞬間、困惑する奏達の視界の中、空が割れた。現れたのは罅割れた空の大穴から出てきた巨大な機械の城、圧倒的な威圧感と迫力を放つキャロルの城であった。
「んなっ……!?」
「なんていう出鱈目……!」
オートスコアラー達の目的を知っていたのなら、ここで更に困惑したことだろう。
何故なら、オートスコアラーのミカがまだ残っているにも拘らずのシャトーの起動なのだ。足りないパーツがある中で、どうしてシャトーが起動したのか、その矛盾を無視することは出来ない。
だが、全員忘れているのだ。
オートスコアラーガリィは、
最初はクリスの強力な一撃を貰って、そして二度目は切歌と調のトドメの一撃を貰って。どちらも全壊に相当する攻撃を受けている。
ガリィはその二度の戦闘で、呪いの旋律を二つ蒐集することに成功していた。
二課の面々は、破壊されたガリィがすぐに復活して戻ってきたのを、球磨川禊の力によるものだと思っていた。破壊されたガリィが機能停止寸前で球磨川に連れ帰られたからだ。しかしそれは誤りである。
彼の現実を虚構にするスキル―――『
この力によって、ガリィが破壊されたということをなかったことにしたのならば、その回収された譜面もなかったことになる。であればこの現状に対する説明はつかない。
「とにかく向かうぞ翼、今の響たちじゃ全滅もありえる!」
「分かった!」
駆け出すツヴァイウィング。
アルカ・ノイズの掃討だけなら問題はない。イグナイトを積んだギアであれば、イグナイトモードの起動無しでも早々やられることはないからだ。
だがあちらにはオートスコアラーのミカがおり、その上敵の親玉であるキャロルまでもが動き出している。状況は最悪と言えた。
何故、どうして――そんな思考を巡らせる奏、歯噛みしながらイグナイトの全速力で駆ける。
二課の面々は理解していなかった。
本当に恐ろしいのは、目に見えない所で動いている影であることを。球磨川禊を送り込んだ安心院なじみが、それ以上の干渉をキャロルにしていた可能性に気付かなかったことを。
安心院なじみはキャロルに手を貸していた。
一つ、全壊したガリィの身体を、呪いの旋律を消さないままに修復したのは彼女である。
一つ、球磨川禊は彼女が裏で動くための囮であり、目晦ましである。
一つ、安心院なじみは誰も信用しておらず、全ては駒である。
球磨川禊、逆廻十六夜という二人の規格外キャラを目に見える場所に配置したのは、彼らに何かをしてほしいという意図があったわけではなかった。
単に、安心院なじみが動きやすくなるように、注目を集めるインパクトを持つ彼らがそこにいることが重要だっただけだ。
ツヴァイウィングの二人が去っていった後、先ほどまで戦場だったその場に安心院なじみが現れる。
彼女はどの時間、どの場所にだって存在出来る。あらゆる時代の刹那に存在するフィーネの様に、ありとあらゆる時代、ありとあらゆる瞬間に、ありとあらゆる場所で存在することが出来るのだ。
「さて、始まったよ珱嗄」
なじみはそう言って笑みを浮かべながらリディアンの屋上を見上げる。
そこには戦闘を観戦していた珱嗄と球磨川、黒瀬の姿があった。
なじみの笑みに対し、珱嗄もまた笑みを浮かべる。距離が離れている以上、互いに何を言っているのかは聞こえていないが……それでも言いたいことは理解していた。
「僕の手を読み切って、ハッピーエンドを迎えてごらんよ――今までのように」
彼女は敵だった。彼女は泉ヶ仙珱嗄の敵であろうとしていた。
泉ヶ仙珱嗄はかつて存在した全ての世界で、あらゆる物語の中で、ハッピーエンドをその手にしてきた。原作キャラクターと親しくなり、敵味方問わずに考えうる限り最高の結末を掴み取ってきたのだ。
泉ヶ仙珱嗄はハッピーエンドが好きだ。
バッドエンドも良いだろう、ビターなエンドも時には趣深い、けれどやはりハッピーエンドでなければ最高ではない。彼は無敵の存在であったけれど、やはり自分のいる環境は幸せなものであってほしいと行動する人間でもあった。
安心院なじみはそれを理解している。
だからこそ、彼が全ての記憶と力を失っている今。
泉ヶ仙珱嗄という人外にではなく、珱嗄という人間に問いかけている。
このまま記憶を取り戻さないままならば、全員死んでお終いだぞ――と。
「いつまでも平穏な村で安穏としていられる勇者はいない……そういうことだよ」
かつて球磨川達に提示した問いの答え。
――RPGの勇者は、初めから世界に定められた戦いから逃げられない。
ゲームがスタートされた瞬間から、エンドロールを迎えるまで走り続けなければならない。珱嗄もそうであると、安心院なじみは言っているのだ。
珱嗄もそれを理解したのだろう。
数秒安心院なじみと見合った後、屋上から去るべく姿を消した。
「今度こそ期待しているよ―――珱嗄」
悲しげに呟く安心院なじみの目は、酷く淀んでいた。
◇ ◇ ◇
街中で蔓延るアルカ・ノイズを掃討して回っていた響達は、奏の想像していた以上によく戦っていた。奏の発破が効いたのかもしれないが、人々が殺されている様を見て彼女たちのスイッチが入ったのは確か。
元々無辜の民が死ぬことを良しとしない善性を持っている少女たちだ。この世界がフィクションの世界だとしても、目の前で殺されそうになっている人を見逃すことは出来なかった。
イグナイトを発動するまでもないアルカ・ノイズを殴り、斬り、撃ち抜いて、どうにか数を減らしていく。中でもクリスの力が大きいだろう。遠距離から制圧射撃ができる彼女のギアがあることで、アルカ・ノイズの数が減る速度も段違いに変わってくる。
だが大量のアルカ・ノイズを半分ほどまで減らした時、ついにオートスコアラーミカが現れる。
「見つけたゾー!! 此処までずーっと退屈してたから、最後くらい派手に楽しませて欲しいんだゾ!! アハハッ!」
そして身構えた瞬間、ミカの背後の空が割れる。
現れるチフォージュ・シャトーに、響達は更に警戒心を強めた。巨大な聖遺物の機械城、空中に現れたその圧倒的存在感を受けて、これがエルフナインの言っていたチフォージュ・シャトーであることを瞬時に悟る。
奏と同様に、この城の起動の為にオートスコアラー達が動いているのだと思っていたので、目の前のミカが暴れていたというのに城が起動していることが疑問だった。
「……仕方ねぇ、おいチビ二人……アルカ・ノイズは任せるぞ。アタシとコイツであの赤いのを片付けて、早いとこあのデカい城をどうにかしないと不味いことになる」
「……分かったデス」
「気を付けて……」
クリスは即座に指示を出す。
目の前の敵は一体――だがクリスは、今までのオートスコアラーとは一線を画す力を感じとっていた。そして響も、クリスのその指示に賛成しているのか何も言わない。彼女もまた、その優れた直感で戦況を正しく認識しているのだ。
別段、切歌と調を足手まといだと言いたいわけではない。
単純に二手に分かれるのであれば、連携の取りやすいペアで別れた方が良いという判断だ。切歌も調も、自分達が『LiNKER』による時限式の装者であることのデメリットは、イグナイトを発動すれば『Elixir』によって消える以上、その意図を正しく受け取っている。
対等な条件で比較してなお、クリスと響の実力は装者全員の中で頭一つ抜きんでているのだ。
「んん? お前達二人が相手か? 歯ごたえのありそうなのが残って嬉しいゾー!」
「悪いがお前に構ってる暇はねぇんだ……ササッと終わらせてもらうぞ」
手から赤い結晶体を生み出し妙な構えをするミカに、響とクリスはアイコンタクトだけで互いの役割を理解する。
響は元々単純であり、余計な策を張り巡らせることに向いていない。だが融合症例となり、二度も暴走したこともあってか、彼女には獣の如き直感が宿っている。クリスの超集中状態と組み合わせれば、これ以上ないコンビとなるだろう。
故に、響は複雑なことは全てクリスに任せて、とにかく突貫した。
響が前衛、クリスが援護――それが最良の形である。
「はぁぁぁ!!」
「盛り上がってきたゾ!!」
響の拳とミカの赤い結晶が衝突し、固い音を響かせる。
そしてそこから連続した打撃音と共に、赤い結晶と響の連打が衝突を繰り返し、その全てが互いの身体を傷つけない。
たった一合で分かった―――このオートスコアラーが一番強いと。
イグナイトを起動したとしても、響は自分が勝てるかどうかわからない。かなり本気で撃ち込んだというのに、その全てを対処されてしまったのだ。しかもミカにはまだ余裕があるように思える。
底知れない力を感じて、響は冷や汗を流す。
「それが全力か? 早く本気出して欲しいんだゾ」
「っ……ふー……」
結果、響は早々に全開で挑むことにした。
大きく息を吐き出し、己の心を深く冷たい水の底に落としていく。感覚が鋭くなっていき、視野がぐっと広がっていく。
かつて響が憎しみに囚われて会得した、いわば戦闘スイッチを入れる。
剣の様に鋭く、弾丸のように速く、雷の様に強い拳へと、自身を変化させて、そのイメージを正しく再現できるように。
「いくよ……!」
「アハッ!」
二合目――ミカの接近、響は冷静に前蹴りを繰り出す。
だがミカはその足に巨大な手を乗せて飛び上がることでソレを開始、逆に目の鼻の先まで接近したことで、その結晶を響に叩きつけようとするが―――響は軸足飛び上がり、空中で回転、ミカの横っ面を空中二段蹴りの要領で蹴り飛ばした。
接近していたからこそ、死角からの蹴りに反応できなかったミカ。ガシャンと転がりながら体勢を立て直すが、距離が離れたことで容赦なく放たれるクリスの弾丸が、ミカの手にあった結晶体を打ち砕いた。
反射的にクリスを見るが、クリスの目が鋭く自身を射抜いているのを見て、ミカは響から距離を取るのは危険だと瞬時に理解した。
クリスも既に超集中状態に入っている。切歌たちと違い、接近戦での響の動きが読めず、またその戦闘速度の速さで援護射撃が出来なかったが、響から少しでも離れようものなら即座に撃ち抜ける腕がクリスにはあった。
再び接近、ミカは少々本気で響とクロスレンジでの戦闘を繰り広げる。
「これならどうだー!?」
響の目の前で地面に両手を付き、逆立ちの要領で前転。響の両肩に腿を乗せるようにして逆肩車の状態へと移行する。そのまま足で響の頭を締め上げながら、前転の勢いで響の後方へと押し倒し、回転の勢いのまま響を地面へと叩きつけた。
人形故のトリッキーな動きに響も対応が遅れる。
だが、叩きつけながらも響はミカの足首を掴んでいた。
「はぁぁぁああ!!!」
「ぬぉっ!?」
片手でミカを持ち上げ、お返しとばかりにミカを投げ飛ばす。ギアを纏っているからこその怪力が、人形であるミカを軽々と投げることを可能にしていた。
まさかそこからの反撃があるとは思わなかったミカは、目を白黒させながら地面を転がる。だが同時にしまったと思う―――クリスの援護射撃がくると。
その考えを正解だと言わんばかりにクリスから正確な援護射撃が来る。どうにか躱すものの、確実に急所となりうる場所を掠っていくのを感じ、ミカは人形でありながらゾッとする。
本来であれば呪われた旋律を回収するのが役目ではあったが、レイアに先を越され、チフォージュ・シャトーが起動した以上、呪われた旋律を蒐集する意味はもうない。ミカは今単純に、敵戦力を潰すために戦っているのだ。
だが、イグナイトを起動していない出力で此処までやる響とクリスに、ミカは正直驚いていた。
そして同時に、
「おっもしろいゾーーー!!」
楽しくなってきた。
戦闘特化であるミカという人形は、その性質上戦闘を好んでいる。最強が自分であるという自負と共に、強敵との戦いを求めている。
そして此処までずっとお留守番であった自分がようやく派手に戦う機会に恵まれ、現れた敵が装者内でも飛び抜けた実力を持つコンビ。
人形であるけれど、人間の様に―――心躍らないわけがない。
「最初っから全開で! ちゃぶ台をひっくり返すのは、いつだって、最強のアタシなんだゾ!!」
響とクリスという強敵を相手に、オートスコアラー最強のミカ・ジャウカーンに火が付いた。
自分のオリジナル小説の書籍第②巻が発売となりました!
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