◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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本日二度目の更新です。
前回を読んでない方は、そちらからどうぞ。


第五十四話 再起

 オートスコアラーであるレイアとその妹、そして戦闘特化のミカを下し、アルカ・ノイズを掃討し切った今、二課側の戦力はかなり消耗させられていた。

 マリアとセレナは未だ重傷故に動けない。残った装者も全員イグナイトを一度使用しており、二度目の使用は負荷が大きすぎる状態。

 残された手段としえ、『Elixir』を使用した場合のイグナイト起動はある。通常状態でのイグナイト起動であれば『Elixir』による負荷はない。ただ、暴走状態の衝動を耐える必要があるが。

 故に響とクリスであれば、まだイグナイトを起動出来る可能性はある。

 

 ただ、切歌と調に関しては別だ。

 ミカの絶唱級決戦兵器をイグナイトで迎え撃った結果、彼女達のイグナイトも解除されてしまっている。LiNKER頼りの適合係数である彼女達は、最早通常起動でのイグナイトも危うい。『LiNKER』と『Elixir』の同時注射を既にやっているのだ――これ以上は過剰投与によって身体を壊す。シンフォギアがどうこうではなく、薬の多量投与はそもそも危険だからだ。

 

 既にチフォージュ・シャトーが動き出している今、そこへ乗り込んでキャロルの相手をするのなら、イグナイトを使える者であることが必須だ。

 

「立花!」

「つ、翼さん……良かった、復帰したんですね」

「ああ……心配を掛けたな……けどもう大丈夫だ。奏も戻ってきたし、もうあんな無様は晒さない」

「なんだ翼、後輩の前だからってまたそんなおかしな口調続けてんのか?」

「ちょっ、奏!? そういうことは言わないでよ!」

「ハハハッ! 空気を和ませただけだ……さて」

 

 あとから追いついてきたツヴァイウィングの二人も合流し、今後の作戦を練る。

 現状とりあえず通常状態のシンフォギアであれば全員動くことが出来ているが、イグナイトを起動出来るのは正規の適合者である響、クリス、翼の三名くらい。奏、切歌、調の三人はLiNKER頼りである以上、イグナイトの起動は危険だ。

 

 となれば、役割分担は簡単である。

 

「全員であの城に乗り込んで、響、クリス、翼はキャロルを……アタシとチビッ子二人はそのサポートだ。中にはおそらくアルカ・ノイズもまたいるだろうし、翼たちの邪魔になるものの排除をする必要がある……それに、例の錬金術師たちがいないとも限らないしな」

「了解です……でも、あのチフォージュ・シャトー、もう動き出してて……いつ世界の分解が始まってもおかしくないです」

「じゃあ急がねぇとな」

 

 全員でシャトーを睨み、行動を開始しようとする。

 だが、そこへ不意に声が掛かった。

 

「待て、無茶な行動は禁止だ」

「! おっさん?」

 

 現れたのは弦十郎だった。しかも完全聖遺物である『ネフシュタンの鎧』を身に纏った完全戦闘形態である。これ以上ない味方であるが、指揮を執っていた彼が此処に来たということは、別に作戦が練られたということだろうか。

 奏達は未だ小さく息切れの絶えない重い身体を動かしながら、弦十郎に向かい合う。司令室からの指揮ではなく、前線に出ての現場指揮を執るとなれば、やはり今は瀬戸際なのだろう。

 

「まずあのチフォージュ・シャトーだが、既に起動している以上今乗り込んでキャロルと交戦した所で、まず間違いなく世界の分解が始まる方が早いと推測される」

「それは……まぁ、そうだろうな」

「故に、了子君が切り札を切ることにした。本人は渋々といった様子だったがな」

「切り札?」

 

 翼が首を傾げた瞬間、リディアン音楽院の方から地面を揺らすような音が聴こえてきた。驚いて全員がそちらを向くと、そこには学院の正面から地面を押し上げるようにして現れた巨大な塔が姿を見せている。

 リディアンの地下から現れたそれは、天空に浮かぶチフォージュ・シャトーに匹敵する威圧感を放っていた。

 

「なんだありゃあ!?」

「俺も先ほど聞いただけだが、以前俺達と敵対していた時に密かに制作していた計画の要……曰くバラルの呪詛から人類を解放するための最終兵器……名前を『カ・ディンギル』というそうだ」

「あんなの作ってたのかよ、フィーネの奴……!?」

 

 天を仰げばチフォージュ・シャトーが、地を見ればカ・ディンギルが、二つの巨大な異端技術の塊が頂上決戦の様に対峙している。

 まさに最終決戦と言わんばかりの光景だ。

 

「とにかく、カ・ディンギルを用いてチフォージュ・シャトーの世界を分解する一撃を相殺する。何度も出来ることではないらしい故、了子君が時間を稼いでいる間にキャロルを叩き、チフォージュ・シャトーを破壊しなければならない」

「なるほど……アレでシャトーの一撃を相殺出来る保証はあるのか?」

「カ・ディンギルのエネルギー源は完全聖遺物であり、無尽蔵のエネルギーを持つ『デュランダル』だ。制御できるエネルギーには限りがあるだろうが、力負けすることはないだろう」

「なんとも頼もしい限りなのデス……」

 

 ともかくチフォージュ・シャトーに対抗できるだけの手が味方してくれている今、自分たちのやるべきことをやるべきだろう。

 

「くれぐれも無茶はするな……行くぞ!」

 

 弦十郎を先頭に、装者全員がシャトーへと急いだ。

 

 

 ◇

 

 

 弦十郎達がシャトーへと向かった後、先ほどまで弦十郎達がいた場所へと珱嗄はやってきていた。後ろには球磨川禊、黒瀬徹、逆廻十六夜、そしてヴィヴィオの四人がいる。

 珱嗄が動いたことで、ついに彼の下へ安心院なじみ以外の異世界人が集結していた。

 全員が珱嗄のことを見て、少し複雑そうな顔をしている。

 それもそうだろう、既にヴィヴィオの話したこの世界の真実を全員が知っている。自分たちが物語の登場人物に過ぎなかったと聞かされれば、今までの自分の人生全てに意味がなかったのかと思えてしまう。

 

 球磨川禊の勝利も、逆廻十六夜の修羅神仏との戦いも、黒瀬と珱嗄の友情も、全てが物語の設定に沿って決められていたストーリーだったなんて、どんな不幸より不幸だ。

 

 けれど珱嗄もそんな球磨川達の顔を見て、少しだけ気まずさを感じていた。

 珱嗄には記憶がない。彼らと過ごした記憶が。

 それでも彼らにとって自分と共に過ごした時間こそ価値があったのだということは、わざわざ異世界にまで来ていることを考えれば理解できる。

 

 真実を知ってなお、珱嗄の記憶を取り戻そうとしているのは、その真実を覆して欲しいからだろうか。それとも、単純に引っ込みがつかなくなったからだろうか。

 それとも――――……否、それを考えるだけ無駄なことだろう。

 

「……記憶はないけれど、それでも俺はお前らに会えて嬉しいと感じている」

「『珱嗄さん?』」

「多分、俺は今までお前らの世界で色々なことをしてきたんだと思う。けどあくまでそれはお前たちの物語で、そこに俺という異物が添えられただけに過ぎない……安心院なじみは俺を主人公だと思っているみたいだけど、俺が物語の中心になることは多分、どの世界でも無かったと思う」

 

 珱嗄は記憶がなくとも、自分がどんな風にどんな世界を生きてきたのかを想像して、それでも尚、その原作において自分が主人公だったことはなかったと思った。

 その世界のその物語において、やはり主人公はその世界に生きる者たちだ。異物である自分はどうやってもオリジナルの中には入れない。

 

「だから、この世界での主人公は間違いなく響ちゃん達だ……それでも今、この世界の物語の中心は俺になっている。安心院なじみがそう仕組んだから」

「お前は、それをどう思うんだ……珱嗄」

 

 黒瀬の声に、珱嗄はふと苦笑を浮かべた。

 

「面白いと思ったよ……でも、お前らの顔を見る限り……これは間違ってるんだろうな」

「パパ……」

「俺が記憶を失っている理由が、なんとなくわかった気がする。俺はどこかできっと飽きたんだ、強い力を持って物語に干渉し、あたかも登場人物の様に生きることに」

 

 珱嗄はかつて、強すぎる力を持って異世界を渡り歩き、行き着いた世界で己の力を捨てた。それは強すぎる力を持つことが、様々なスリルを失わせていると思ったから。弱さを手に入れて新しい世界を楽しもうと思った。

 

 だがそこに矛盾が生じている。

 

 珱嗄の娯楽主義という在り方は、あらゆるものを娯楽として楽しむ狂気的思考だ。

 強過ぎてスリルがない―――その現実すら楽しめるように生きるのが彼の掲げる娯楽主義の神髄だったはず。

 なのに、彼はそれを楽しめないと放棄したのだ。矛盾している。

 しかも、強さを放棄して弱さを手に入れたのなら、この世界を最後にする意味がない。これからはその弱さと共にずっと楽しんでいけばいい。なのに次を最後にする意味は?

 

 その意味は簡単……珱嗄は最初から理解していたのだ、自分が主人公になることはできないと。

 

 ハンター×ハンターの世界を終えた時から、今までずっと。彼はその世界にとって確実に異物であり、本来いなくても世界は回る程度の存在でしかない。誰よりも強さを持っていたとしても、誰より自由であっても、誰より個性的なキャラクターだったとしても、彼はその物語の一部にはなれない。

 つまり彼の居場所は、どの世界にもありはしなかったということ。

 だから彼は彼の個性全てを捨て去って、この世界の平凡な人間として生き、物語の中で命を終わらせようとした。

 

「俺に恋人がいたことも、娘がいたことも、親友がいたことも、そう考えれば説明が付く。俺は無意識に繋がりを求めたんだ……構ってちゃんみたいに、その世界で輝いて生きるキャラクターに羨望を抱いたんだ。そしてそれを愛した」

 

 珱嗄はそう言って自分の胸に手を当てた。心臓の鼓動を感じ、そしてそこに全く別の何かがあることを感じ取る。

 

「確かなことは言えない……俺は記憶を失っているからな。けれど、きっとそうだ」

「珱嗄……」

「つまり、俺の掲げた"娯楽主義"は―――最初から砕かれていたんだよ」

 

 それを正解だと言わんばかりに、パキン、という音と共に珱嗄の胸から光の針がずるりと出てきた。そしてそれを手にした瞬間、珱嗄の身体に変化が起こる。

 

 青黒かった髪が黒くなり、瞳も黒くなった。

 そして薄青い光と共に彼の服装が変わる。

 

「!?」

「『何が……!』」

「パパっ!?」

 

 急な変化に驚く黒瀬達だったが、カメラのフラッシュの様に一瞬視界を白く染め上げる光と共に、珱嗄はその姿を見せた。

 それは、かつて球磨川達が見てきた彼の背中だった。

 

 

 ―――青黒い着物に、黒いインナー。

 

 ―――腰を薄緑の腰布で締めて、

 

 ―――黒い袴が風に揺れる。

 

 ―――口の端が緩やかに笑みを浮かべて、

 

 ―――その瞳は悪戯に世界を見据えている。

 

 

 数々の世界で無敵を誇り、多くの存在と絆を繋ぎ、そしてその世界の最後を見届けてきた唯一の男。彼らが世界を渡って尚追い求めた男の背中が、そこにあった。

 

「……はぁ、全く予想外だ」

 

 泉ヶ仙珱嗄の姿が、そこにあった。

 

「まさか最後の世界でこんなことになるとは思わなかったよ」

 

 球磨川達は唖然としながら、懐かしい雰囲気を纏う珱嗄の姿を見る。

 

「『珱嗄さん……なの?』」

「そうだよ……してやられたけどな」

「パパ……記憶が戻ったってこと?」

「おうヴィヴィオ……懐かしい姿だな」

「……全く、手のかかる奴だなお前は」

「お前に世話をされたことはないぞ、クロゼ」

「ヤハハッ!」

「誰だお前」

「逆廻十六夜ですが!?」

 

 それぞれと一言ずつ言葉を交わして、最後に十六夜を弄って、珱嗄は楽し気に笑う。

 そして手にある光の針を見つめて、この転生人生を始める前、神との最初の会話を思い出した。これは珱嗄が普通の人間として生きていた頃、彼を転生人生へと導いた原因。

 

 ―――神様の世界には人間界に干渉できる物質がまぁ色々有るんだ。それが君の胸を刺し貫いたあの針だ。

 

 ―――ふむ

 

 ―――で、あの針は別に誰が投げたとか、使ったとかそういう訳で君の世界に行った訳じゃない。本当に偶然、針を取り巻く環境が針の効果を発動させたんだ。結果、君は死ぬことになった訳だ。

 

 彼が死んだ原因となった針だ。

 つまり、珱嗄の今の肉体はかつて彼が人間として生きていた、元々の肉体であるということ。泉ヶ仙珱嗄であり、仙道桜であった肉体ということだ。

 

「……十六夜ちゃん、針に関する神話と言えば?」

 

 その針を抜いたということは、珱嗄は転生人生を始める原因を抜いたということ。正真正銘、神の齎した最後の恩恵であり、もう転生をすることは出来なくなる最後のトリガーでもある針だった。

 そして神の世界に存在する針の伝承は何があっただろうかと考えた時、珱嗄は専門家がいるじゃんとばかりに十六夜に話を振った。現在恩恵を全て返した珱嗄は『人類の会得し得る全技術』の副次能力である全知を失っているからだ。

 

「なんでそんな…………まさか、その針……"トルニチェライカの針"だとでも言いてぇのか?」

「『トルニチェライカの針?』『って何?』」

 

 十六夜は説明する。

 

 トルニチェライカの針―――それは、古の死を禁じられた神キュトスが死んだときに生まれた、71人の姉妹の中核を担う36番目の姉妹トルニチェライカの髪の毛から作られたとされる針。

 水に浮かべれば、コンパスの様に世界の中心に存在するとされる『紀元槍』を指し示すとされる、世界の中心を指し示す神話の針である。

 

 そしてその説明を聞いた珱嗄は、なるほどと頷いた。

 

「『紀元槍』――世界の中心にして全ての存在をその上に支える根元的概念だったか? それを指し示す針が俺を殺し、転生させたわけか」

 

 神はそれを偶然といった。世界の中心を示す針が、偶然珱嗄の世界に落ち、偶然珱嗄の心臓を刺し貫いたのだと。

 だが、神の世界に偶然があるだろうか――否、そんなものはない。

 

 であれば珱嗄の心臓を刺したこの針は必然だった。

 

 

「つまりそうか―――そういうことだったのか」

 

 

 珱嗄は今まで感じたあらゆる全ての現実より、今この瞬間の真実に感謝した。

 

「サンキュー神様……あんたやっぱ俺のことよく分かってるわ」

 

 かの神は珱嗄の理解者であった。

 それは珱嗄が強さを捨てた理由も理解していたということであり、いずれそうなると言うことを最初から理解していたということであった。

 

 珱嗄は針をその手で弄ぶ。

 そしてこの全ての人生の中で一番と言っていいほどに楽しそうに、ゆらゆらと笑う。その背中を見つめる球磨川達は、かつて散々見てきた珱嗄の姿の中で、一番今が恐ろしいと感じた。

 何のしがらみもなく、何の迷いもなく、何の憂いもない、正真正銘最初で最後。

 

 心の底から嬉しそうな、泉ヶ仙珱嗄の姿を。

 

「いくか、ハッピーエンドまで散歩しよう」

 

 そんな言葉が、どこまでも楽しげに。

 

 

 




自分のオリジナル小説の書籍第②巻が発売となりました!
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また、珱嗄シリーズの更新報告や小説家になろう様での活動、書籍化作品の進捗、その他イラスト等々発信していますので、もしもご興味があればフォローしていただければ幸いです。

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