◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第五十五話 ラピス・フィロソフィカス

 天空に浮かぶチフォージュ・シャトーに座する、錬金術師の女王。

 キャロル・マールス・ディーンハイム。

 このシャトーを完成させるにあたり、今まで一度たりともシンフォギアの前に姿を現さず、己が動くことなく目的を完遂させた稀代の天才錬金術師だ。

 

 レイアの敗北によって全てのパーツが揃い、起動したチフォージュ・シャトーを動かし、ついに世界の分解という最終目的を達成すべく立ち上がった彼女は、何かを待つようにシャトーの操作空間にて佇んでいた。

 手のひらは既に操作水晶に添えられており、エネルギーのチャージも完了。後は引き金を引くだけでこのワールドデストラクターは世界を分解する一撃を解き放つだろう。

 

「―――……来たか、シンフォギア」

「貴女が……キャロルちゃん、だね」

 

 そこへ現れたのは、弦十郎を含む装者六名、響、クリス、翼、奏、切歌、調だった。

 本来であればシャトー内部にいるアルカ・ノイズを奏達時限式の装者で掃討している間に、響達がキャロルを叩く作戦だったのだが、何故かシャトー内部には一切の敵がおらず、全員でまっすぐにキャロルのいるこの場所まで辿り着くことが出来たのだ。

 此処まであれほど用意周到に計画を進めてきたキャロルが、最後の最後で詰めのあまいことをするとは思えない。弦十郎達の警戒心はより強くなっていた。

 

 響が前に出て、キャロルと向き合う。

 

「警戒せずともいい……此処にはオレ以外の戦力など元よりいないのだからな」

「ねぇキャロルちゃん……本当に世界を分解するつもりなの? どうしてそんなことを……理由を教えて欲しい」

 

 キャロルの言葉に更に怪訝な表情をする装者達だが、その中で響は変わらずキャロルに語り掛ける。今回の行動の理由を問いかけていた。

 するとキャロルはそんな響が滑稽に思えたのは、鼻で笑う。まるで哀れな者を見るように響達を見下ろすと、悠々と語り出した。

 

 まるで追い詰めた気になっているような、そんな彼女たちに。

 

「お前たちは本当に哀れだな……まるでオレを倒せば全てが丸く収まるとでもいいだけな顔でこんなところまでやってきて―――全て奴の手のひらの上で転がされていることにも気づかない」

「……どういう、こと?」

「どうしてオレがレイラインの詳細なマップデータを持っていると思う? どうしてガリィがすぐに復活したと思う? どうしてサンジェルマン達という別の組織の錬金術師がオレに協力していたと思う? お前達がエルフナインを欠片も疑わなかったのは何故だ? 球磨川禊が姿を消したのは何故だと思う?」

 

 響の問いかけに、何倍もの問いが返ってくる。

 キャロルはこの城を一度たりとも動いていない。オートスコアラーの行動は逐次二課でも追っていた。なのにレイラインマップを手に入れていたり、強力な錬金術師達が協力していたり、彼女にとって都合のいいことが起こっている。確かに、おかしいと思わなかったわけではない。

 それでも、キャロルという存在がそれほどの強大な錬金術師であるから、という理由で無理やり納得していた。そこには確実に理由があったというのに。

 

 キャロルには安心院なじみが干渉していることは、球磨川禊が協力していたことで分かっていることだったのに。

 

「オレは別に世界を分解したいなどとは思っていない」

「なっ……!?」

「オレの目的の為に、このチフォージュ・シャトーで世界を分解する必要があっただけだ。いわばこれは通過点に過ぎん……とどのつまり、目的を達成出来るのならこんなことをする必要すらない」

「ならば君の目的とはなんだ!? 世界を分解することがついでだというのなら、その先に君が求めているものとは、一体何なんだ!?」

 

 キャロルの述べる驚愕の事実に、弦十郎達の動揺は計り知れない。

 世界を分解しなくてもいい、けれど必要だからやる。

 そんな曖昧な理由でこれほどのことを起こしたというのだ。その果てに求めるものとは一体何なのか、想像もつかない。響もまた、キャロルの瞳に映る悲しみの色を理解して、その理由が気になった。

 

 どうして、そんなにも悲しい瞳をしているのか。

 

「……ある視点で見るのなら、オレもお前達も変わらない。結局は物語の上で弄ばれているだけの石ころに過ぎない」

「……キャロルちゃん、貴女は何に突き動かされているの?」

「さぁな……そんなもの、何百年と昔に忘れてしまったよ。パパと再会するために、この身を錬金術にくべた時に。オレの願いはたった一つ、パパともう一度会いたい……それだけだ」

 

 父との再会、それがキャロルの願いだった。

 だが余計に意味が分からない。父との再会の為に世界を分解する、そこが一切結びつかなかったからだ。そもそも彼女の父親は生きているのか、世界を分解したとしてどうやって再会するつもりなのか、錬金術に疎いかどうかなど関係なく、響達には一切理解出来ない理由がキャロルの中にはある。

 

 そして響達が絶句している中で、キャロルはもういいだろうとばかりに水晶に翳していた手で指示を出した。

 

「!? ……これは!」

「世界を分解する一撃を放つ―――そのトリガーを引いた」

「キャロルちゃん!」

「最後に教えてやる……此処まで全て、安心院なじみの計画通りだと」

 

 キャロルがそう言った瞬間、大きな揺れと共に緑色の閃光が地球に向かって放たれた。ズガンッ!!! という巨大な音と共にそのエネルギーが地上のレイラインに沿って、地球を覆っていく。

 

 世界の分解が始まろうとしていた。

 

 しかし、

 

「了子君!!!」

『やってるわよ―――止めるッッ!!』

 

 そこへ地上に現れた破滅の塔――カ・ディンギルからの砲撃が放たれた。

 地上を分解するエネルギーを断つべく、チフォージュ・シャトーに向かって放たれてその膨大なエネルギーレーザーは、正確に放たれる緑色の閃光を射出している場所に衝突する。

 錬金術によって生み出された膨大なエネルギーと、完全聖遺物『デュランダル』によって生み出された膨大なエネルギーの衝突により、混ざり合ったエネルギー同士が膨れ上がっていた。

 

 このままではいずれ、シャトーを巻き込んで超巨大な大爆発を引き起こす。

 

 そう判断してキャロルを見た弦十郎は――そこで笑みを浮かべているキャロルを見た。

 

「だから言っただろう……此処まで全部、安心院なじみの計画通りだと」

「どこまで……だ……一体何処から!?」

「全てだよ……フィーネがお前たちの組織に協力するように仕向けたのも、オレたちの計画が進めばいずれかのカ・ディンギルを切るしかないことも、そして世界を分解する一撃を放てば、カ・ディンギルを使用し、膨大なエネルギーを放たせられることも、全ては何百何千年も前から決められていたシナリオだ」

 

 キャロルは遂に目的を達成したとばかりに、清々しい表情で笑っていた。

 全て決められていたこと――誰によってだ? 無論、安心院なじみしかない。

 であれば、キャロルの行動は全て安心院なじみによって指示されたことだということになる。オートスコアラーを動かしたのも、エルフナインを二課に逃がしたのも、シャトーを作ったのも、世界を分解するという目的でさえも、安心院なじみによって用意されたものだったということに。

 

 つまり、キャロルは安心院なじみに父親を人質に取られている?

 

「気付いたようだな……そうだ、俺は数百年前、偉大な錬金術師である父と共に暮らす平凡な子供だった。けれど父は疫病に悩まされていた村を、その研鑽によって齎される叡智で救った時――それを理解出来ぬ愚物共によって、不当な奇跡の行使者として処刑された」

「そこで絶望した君の前に現れたのが……安心院なじみだというのか?」

「そうだ。奴は俺の父を蘇らせた……だが、父の身体は眠ったまま目覚めない状態で奴の手にある……そこで奴はこう言った、自分の目的に協力してくれたら、父を返し、平穏に一生を過ごすことの出来る環境を与えようと」

「そんな……きゃあっ!?」

 

 キャロルの告げた悲劇に、響達は更に動揺した。同時にシャトーが少しずつ起爆していき、その振動で足元がぐらつく。

 

 安心院なじみによって仕組まれた運命を受け止め、いつの日かまた父と出会う日を夢に見て、キャロルは今日まで生きてきた。世界を分解するという目的を達成出来たのなら、今度こそそれが叶う。

 やりたくもないことを強いられ、無理やり生き永らえてきた数百年という人生は、今この時の為に。

 

「そしてお前達は大きな失敗をした……本当に警戒するのであれば、全員で来るべきではなかったな」

 

 キャロルが更に不敵に笑みを浮かべると、空中にいくつかのディスプレイが現れる。

 そこに映っていたのはシャトーの真下の映像――サンジェルマン達が立っていた。三人の錬金術師の隣には何やら新たなオートスコアラーがおり、サンジェルマン達が何か歌を歌っているのが見える。

 

 明らかに、何かをしようとしていた。

 

 響はその優れた直感で、それがチフォージュ・シャトーによる一撃よりも恐ろしいことであることを瞬時に悟る。あれは、このままにしておくのはマズイと。

 

「師匠!!」

「ああ、装者諸君で彼女達を止めに行け!!」

『了解!!!』

 

 響の切羽詰まった声に、弦十郎はすぐさま指示を出す。装者達は即座に反転、シャトーを飛び出すべく走り出した。起爆してどうせ壊れるシャトーだ、壁を攻撃して大穴を開けることで外へと飛び出していった。

 残った弦十郎がキャロルに向き合う。

 

「一体何を始めるつもりだ……!?」

「さぁな、オレが知らされているのは此処までだ。奴らが何をしようとしているのかなど、皆目知りもしない……だが、此処には今チフォージュ・シャトーから放たれたエネルギーが走ることで浮かび上がったレイラインと、カ・ディンギルから放たれた無尽蔵のエネルギーが集中している」

「まさか、彼女らもレイラインを利用しようとしているというのか?」

「どちらも惑星を破壊出来る極大エネルギーだ……それを利用しようというのだから、錬金術の最奥が見られるのかもしれないな?」

「くっ……!」

 

 錬金術師キャロルの目的は果たされた。

 あとはこの世界の成り行きを見守り、父との再会を待つのみ。一時でも父と言葉を交わせるのならば、最早この世界が滅びようとどうでもいい。そんな絶望と希望の入り混じった感情の中で、キャロルは笑っていた。

 

 涙は流さない―――やりきったのだから。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ―――解放の歌が、命を燃やす……♪

 

 歌う錬金術師、サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロの三人。

 錬金術もシンフォギアも、起源を辿れば元は同じもの。

 七つの惑星、七つの音階、先史文明気バラルの呪詛によって統一言語を失った人類が、失われた意思疎通の術を取り戻すべく作り上げたもの。万象を知ることで世界を識ることを目的としたのが錬金術ならば、言葉を超えて世界と繋がろうとしたのが歌。

 

 起源を辿れば、全く同じ目的をもって生まれたもの。

 

 であれば、錬金術師が歌を歌うのはなんらおかしなことではない。

 そして彼女らの歌をチフォージュ・シャトーに共振させ、更に膨大なエネルギーを生み出している。更にそこへ惑星規模のエネルギーが二つ……そのエネルギーを利用することでどれほどのことを出来るか、想像すらできないだろう。

 

 ―――漆黒の闇に、炎穿つために……♪

 

 彼女たちの傍にいたオートスコアラー、アン・ティキ・ティラが歌に反応してエネルギーの中央へとその身を投じ始めた。

 

「私の役目は――記録された星図情報から、儀式に定められた座相で天地のオリオン座が照応するタイミングを図ること―――そして」

 

 ―――解放の鐘が、終焉を奏でる、自由に勝ち鬨を上げよ……♪

 

 そして最後の歌が調を奏でる。

 サンジェルマン達の歌が地上を走るレイラインに沿うエネルギーを束ね、カ・ディンギルから照射されるエネルギーすら上乗せしてアン・ティキ・ティラへと注ぎ込む。

 

 ―――曠劫たる未来を、死で灯せ……♪

 

「そして……星を砕くエネルギーにティキの持つ従順なる恋乙女の概念を付与することで……!」

 

 収束されたエネルギーが七つに分かれて別々の方向へと飛翔していく。

 ズン、と各地に降り立ったエネルギーがオリオン座に照応して地上に門を描いた。空は未だに青いが、それでも星は空に存在している。ティキはその場所とタイミングを正確に観測することが出来るオートスコアラーなのだ。

 

 そして、アダム・ヴァイスハウプトに従順に盲目な恋をしているティキの概念を、神出ずる門の力に付与することで―――――錬金術は神の力を手中へと収める。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」

「来たかシンフォギア!! 立花響!!!」

 

 だがそれを邪魔する者だって、当然いる。

 誰かを犠牲するやり方であれば、それを許すわけにはいかないと拳を握る者が。立花響を筆頭に、シンフォギア装者が全員やってきた。

 

 響の拳とサンジェルマンの拳銃が衝突し、火花を散らす。

 

 分かりあうことなど出来ない――犠牲を許さない響と、犠牲を生んで今ここに立つサンジェルマンは、最早決定された現実の上で敵である道しか残されていない。

 しかも此処までが全て安心院なじみの手の上だと言うのなら、猶更これ以上の横行を許すわけにはいかない。響達は焦っていた。

 

「以前の私達と思うなよ……!! 既にシンフォギアでは、この身は止められない!!!」

「うぐあぁッ!?!」

 

 弾き飛ばされた響を、クリス達がキャッチして救う。

 だがサンジェルマン達の様子が今までと全く違うことに気付く。以前は小手先の錬金術を使用するだけの戦い方だったのに、今回は何か別のものを用意してきたような万全さすら感じさせる。

 

 そうして彼女達が出してきたのは、以前ヨナルデ・パズトーリを生み出した際に使用していた赤い結晶だった。

 それは膨大な生命エネルギーを使って作り上げた錬金術の最奥。

 

 ―――完全なる物質『賢者の石(ラピス・フィロソフィカス)

 

 更にその結晶を錬金術によって再構成、その形はシンフォギアにも似た姿へと変化していく。サンジェルマン達の身に纏う衣装が変化していき、そしてその形を決定した時に現れたのは、黄金を身に纏ったバトルローブだった。

 

 

「……来い、シンフォギア……これがラピス・フィロソフィカスのファウストローブ。錬金術の最奥――打ち破れるものなら、やってみせろ!!」

 

 

 ファウストローブ……錬金術師の全てが込められた力が、イグナイトの使えない響達の前に牙を剥いた。

 

 

 

 




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