◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第五十六話 弾丸

 ―――この世界で僕が始まった時、僕は何故生きているのか不思議だった。

 

 かつて僕は、珱嗄に恋をした。

 初めて出会った、僕と同種の人外。初めて僕と同じ目線で、僕と同じ力で、僕と共に生きてくれた唯一の人。何十どころじゃない、何億、何兆年という時を共に過ごし、そして不老不死の人外であった僕の最期を看取った最愛の人。

 僕は彼が好きだった。

 球磨川君じゃないけれど、彼がきっとどんなに醜悪な見た目をしていたとしても、僕は彼を、彼だけを愛したと思う。例え彼と出会うのが世界が終わる直前だったとしても、僕は彼に初めて恋をしたと確信している。

 

 それくらいに、僕は彼に首ったけだった。

 手を繋いだ時は、心が躍った。

 頭を撫でられた時は、自然と笑みを浮かべた。

 抱きしめられた時は、永遠に離れたくないと思った。

 キスをした時は、この時の為に生まれてきたと思えた。

 そして、彼の腕の中で死を迎えた時は―――まだまだ一緒に居たいと思った。

 

 何十年、何百年、何億年、何兆年……どれだけの時を一緒に過ごしたとしても、まるで足りなかった。僕は本当に、永遠の時を彼と共にいたかったんだ。

 それでも終わりがあることは幸せなことだと思う。

 始まったことには必ず終わりがある。限りある人生だからこそ意味がある。寧ろ何兆年……宇宙が終わるその時まで生き続けた僕の人生に、彼という意味がそばに居てくれたことは、本当に幸せなことだったんだ。

 

『好き、好きだ、好きだよ……』

 

 いろんな言葉で、好きと言った。

 いろんな言葉で、愛していると伝えてくれた。

 だから僕は最期の時に気付いてしまったんだ。

 

 ―――珱嗄はこれから、ずっと孤独になるんだろうって。

 

 宇宙が終わって、僕が死んだ後も彼は生き続ける。長い長い人生の中で出会った全ての人の死を見届けて、誰もいなくなった世界で彼はそれでも生きる。珱嗄がいなかったのならば、確実に僕がそうなっていただろう人生を、それでも彼は笑って生きる。

 

『嫌だ――嫌だ―――嫌だ――――!!!』

 

 死んでしまうその時、珱嗄の優しい笑みを見て、心の中でそう叫んだ。

 嫌だった、珱嗄が、最愛の人が、そんな地獄の苦しみの中で生き続けることが、どうしても受け入れられなかった。僕の永遠の人生に意味を持たせてくれた彼に、どうか意味のある人生を与えたかった。

 神様でもなんでもいい、人外である僕にすら出来ないその願いを、たった一つ叶えてくれたっていいじゃないか。

 

 特別なことなんて何もいらない、だから彼の生にせめて人並みの幸福を与えてくれてもいいじゃないか。彼の永遠の居場所がどこかにあったっていいじゃないか。

 

 …………お休み、なじみ。愛してるぜ、これからもずっと

 

 そんなことを言わないでほしかった。

 彼から地獄の『これから』を奪い取らせてくれ、僕の死と共に彼の人生に終着点を生み出してくれ。

 

 そう願って、願ってやまなくて。

 目を覚ました時、周りには無の世界が広がっていた。

 

 ―――なにが、どうなってる?

 

 見覚えのある世界だった。

 かつて僕が三兆年という時を待って過ごした、宇宙創成以前の何もない世界。死んだ記憶も、今までの人生の記憶も、スキルも、全てこの手の中にある。

 最初は僕の死後、消滅した宇宙の後に残った無の世界なのかもしれないと思った。

 

 けれど、僕は珱嗄を追いかけて一度世界を渡った経験がある。この世界が僕の知っている世界とは別の世界である可能性もあった。

 だからスキルで確認したんだ、此処が一体何処で、僕に何が起こったのかを。

 

 それが、僕の心に罅を入れた。

 

 なまじ全知である僕は全てを理解してしまった。

 この世界が別の世界であり、これから同じく三兆年という時の後で同じように地球と人類が生まれること、そしていつかの時代に珱嗄が現れること、そしてこの世界が……フィクションの世界であることを。

 

 ―――ふざけるな

 

 何もかもがフィクションの世界だった。

 僕たちがいた世界も、僕が珱嗄を追いかけて渡った世界も、僕達自身も、何もかもがフィクションだった。僕がかつての世界で考えていたことは正解だったのだ……この世界はフィクションの世界で、読者のいる漫画の世界に過ぎないのだという考えは。

 珱嗄だけが、リアルだったのだ。

 けれど僕が怒りを覚えたのは、この世界がフィクションだったからではない。

 全てがフィクションの世界だというのなら、唯一リアルである珱嗄が最強無敵の存在だったのも納得出来るし、そんな彼に僕たちが惹かれたのも理解できる。非実在である僕たちが、実在している珱嗄に惹かれるのは当然のことだ。

 それに、彼が僕を愛してくれていたのは真実であるし、彼がリアルの存在である以上その愛情だけはノンフィクションなのだから、僕にとってはそれだけで十分だ。

 

 けれど、それなら彼が受け取るものは全てフィクションであることの証明でしかない。

 

 僕が彼に捧げた愛も、彼が今まで紡いできた絆も、フィクションの世界で得た全ての記憶、傷、経験、人、会話、その全てが彼にとってはフィクションであるということだ。

 彼に居場所を与えてくれという僕の願いの、なんと的外れなことか。

 唯一のリアルである彼に、フィクションの世界で居場所があるはずがない。どれだけ精巧なVRゲームの中で過ごしたとしても、周りにある景色も、人も、生き物も、全てがデータとAIで作られたNPCであるのなら、そこに混じることは出来ない。

 

 ―――なら、僕が彼に与えよう。

 

 そう、だから僕は決めたのだ。

 彼に、紛れもない現実を与えようと。このフィクションの世界にいるキャラクターが死のうが生きようが、どれだけ不幸な目に遭っていようが関係ない。彼らの人生は全て偽物で、漫画の中に描かれた線でしかない。僕を含めて、この世は全て偽物だ。

 

 それでも彼が感じることだけは全て現実。

 だから偽物の僕が、現実の彼に人生の全てを感じさせてあげよう。

 

 幸せも、痛みも、悲しみも、喜びも、愛も、友情も、親愛も、決別も、再会も、戦いも、仲直りも、忘却も、覚醒も、変化も、苦しみも、焦燥も、辛さも、苦労も、感動も、達成感も、悩みも、慣れも、発見も、興味も、裏切りも、大切さも、初めても、飽きも、思い出も、郷愁も、尊敬も、嘲りも、笑顔も、涙も、贅沢も、無力さも、無垢も、汚泥も、快楽も、疑問も、理解も、拒絶も、許容も、幸運も、不運も、好きも、嫌いも、無関心も、退屈も、憂鬱も、不理解も、恐怖も、憎悪も、憤怒も、嫉妬も、虚脱感も、反抗も、羨望も、欲求も、背徳感も、罪悪感も、満足感も、不満も、空虚さも、夢も、劣等感も、争いも、喧嘩も、微笑ましさも、温もりも、恋愛も、敵対も、孤独も、悲劇も、喜劇も、謎も、信頼も、不信感も、信仰も、崇拝も、堅苦しさも、窮屈さも、困難も、絶望も、仲間も、希望も、正しさも、誤りも、歪さも、勝利も、敗北も、接戦も、競い合いも、意地も、弱さも、不条理も、理不尽も、日常の尊さも、その全てを―――

 

 

 そして、最後の最期……君が終わりを迎えるその時に、今度は僕が教えてあげる。

 

 

 愛を。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 チフォージュ・シャトーとカ・ディンギルから得た惑星衝突級のエネルギーと、シャトーの一撃で浮かび上がったレイラインから吸い上げた地球のエネルギーを利用した錬金術により、サンジェルマン達が開いた神出ずる門。

 そこから抽出されたのは、神の力。

 それにオートスコアラーであるアン・ティキ・ティラの持つ、従順なる恋乙女の概念を付与することで、彼女達は神の力を手中に収めた。

 

 その計画を阻止するためにやってきたシンフォギア装者達。彼女達こそ唯一の障害であり、彼女達の打倒こそ、最大の問題だった。

 しかし、サンジェルマン達はそれをキャロルを利用することで解決する。

 

「―――結局、お前の歌では何も救えない」

「ぐっ……ぅ……!」

 

 長い時間を掛けて蓄えてきた、多くの犠牲の上に成り立つ生命エネルギーを使うことで作り上げた錬金術の最奥、『賢者の石(ラピス・フィロソフィカス)』。

 その性質は『完全な物質』であり、あらゆる不浄を焼き尽くすとされる力を持つ。

 そのラピス・フィロソフィカスを用いて作り上げた、錬金術によるファウストローブを身に纏った彼女達と、イグナイトを使用出来ない響達との戦い。

 

 それは、当たり前のように、響達の敗北を現実のものとした。

 壮絶な戦いであったのには変わりない。

 イグナイトを使えずとも、連携とユニゾンによる高いフォニックゲイン、研鑽してきた戦闘技術、その全てを使って響達は戦った。それでもファウストローブ無しで響達と同等に戦った実績のあるサンジェルマン達だ―――響達は最初から劣勢を強いられた。

 そして最後の最後、追い詰められた挙句彼女たちは負荷を無視して二度目の『イグナイト』を起動。『Elixir』無しで呪いの衝動に打ち勝ち、どうにかギアの強化に成功した。

 

 が、それが命取りだった。

 

 先に述べた通り、ラピス・フィロソフィカスは完全な物質であり、あらゆる不浄を焼き尽くす力を持つ。それをファウストローブとして再形成した武装には、当然のごとくその力が宿っていた。

 その力はイグナイトの核である聖遺物、『魔剣ダインスレイフの欠片』の持つ呪いの力の天敵だったのだ。

 

「もはや頼みの綱であるイグナイトも破壊され、通常状態のシンフォギア……ましてや消耗し切ったお前達に勝ち目はない」

 

 たった一度、打ち合っただけでイグナイトの機能は破壊され、そのバックファイアによって戦闘不能に追い込まれた響達。

 倒れ伏す響達の姿が、絶体絶命であることを証明していた。絶唱の消耗のせいかクリスは気を失っており、切歌と調は意識はあっても指一本動かすことが出来ずにいる。響、奏、翼は、多少動く力はあるようだが、立ち上がることは出来ていない。

 

「だ、としても……私は……!」

「その諦めの悪さは認めよう……だが、最早遅い――神の力が今、完成した」

 

 それでも這いずるように足掻く響だったが、サンジェルマンはトドメとばかりに背後でエネルギーの柱の中に浮かぶアン・ティキ・ティラを見てそう言った。 

 瞬間、アン・ティキ・ティラの身体が赤い結晶に包まれていき、その結晶を核にするように巨大な女性を模した異形の存在が現れる。叫ぶような声を上げて、圧倒的な力の奔流を感じさせながら、既に死に体の響達の前に立ち塞がっていた。

 

 ヨナルデ・パズトーリと似ているが、ヨナルデ・パズトーリよりもずっと強大な力を感じさせる。

 

「そんな……!」

「どうやら、神の力の負荷に耐えられなかったようだな……チフォージュ・シャトーも限界か」

 

 その存在に恐れ慄く響の背後で、立て続けるようにチフォージュ・シャトーが大爆発を引き起こし、天空の城が瓦礫となって地に落ちていった。キャロルと弦十郎を残してきたが、弦十郎はネフシュタンを纏っているので、どちらも無事だろう。

 だが、あれほどの巨大な建造物が崩壊していく様は、まるでその力の根幹を全て奪い取られたような無残さを感じさせ、より現状の絶望を示しているようでもあった。

 

 響はこの状況をどうすればいいのか、必死に考えるが――……答えは出ない。

 

「(どうすれば……どうすれば……皆も動けない……ギアも……身体が動かない……どうしたら、どうすれば……今を打破できるの……!?)」

「さようならだ、立花響……願うのなら、私もお前の理想が叶う世界を夢見ていたかったよ」

「どう、すれば……!!」

 

 焦る響、考えはいくら考えても答えは出てこなくて、そんな彼女に終止符を打つように、今まで積み重ねてきた犠牲の中に数えるように、サンジェルマンの持つ銃口が響の顔を向く。

 死ぬ―――その事実だけが、はっきりと響の目の前に立ち塞がっていた。

 

「(これで…………終わり……? そんな……)」

 

 そして放たれる弾丸。

 既に消耗し、ギアの出力もほぼ失われていた響の防御力――そんな心もとない防御フィールドを、サンジェルマンの弾丸は容易く突破する。

 

 そして、

 

 

「(―――未来、珱嗄……!)」

 

 

 絶望を前にした立花響の頭蓋を、一直線に貫いた。

 

 

 

 




本作はハッピーエンドです。





自分のオリジナル小説の書籍第②巻が発売となりました!
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今後とも応援よろしくお願いいたします。

また、珱嗄シリーズの更新報告や小説家になろう様での活動、書籍化作品の進捗、その他イラスト等々発信していますので、もしもご興味があればフォローしていただければ幸いです。

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