◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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クリス回


第五十七話 繋いだ手だけが紡ぐもの

 アタシがかつて、両親と共に紛争地帯を巡り、歌と音楽で平和を齎せると信じていた頃。

 小さなアタシのいた環境には、音楽と、その地で暮らす人々の笑顔の裏に、きちんと悲劇と、銃声と、何かが壊れる音が存在していた。当然だ、そこには戦争があったんだから、誰かが傷を負い、誰かが何かを失い、誰かの心が砕かれる現実がある。

 

 両親が、持ち込まれた爆弾の誤爆によって亡くなった時、アタシは当時いた国……南米の小国で、軍事政権国家だったバルベルデ共和国で捕虜になった。当時バルベルデ政府軍のモラルはそれほど高くなく、子供の残虐性をそのままに大人になったような奴らばかり。

 人を撃ち殺すことに躊躇いなどなく、時にはそこに快楽を見出す奴もいた。

 幼い私は、何も知らない心で『戦争の火種を失くしたい』と強く願った。生活の中には悲劇と、涙と、死があって、銃声の音で目覚めることなんてザラだった。

 

 けれどいつしか、銃弾の音よりも……銃弾の音に必ず、肉を抉る音が続くことが、アタシの中で当たり前になっていたことが怖かった。

 

 だからだろう、その音が耳に届いた時、アタシの意識は反射的に覚醒する。

 目を開いた時に視界に入ってきたのは、赤くなった空。何故か昼間よりもずっとまぶしいと感じる夕日が目を焼き、身体を撫でる風が心地良い。寝惚け眼の中で、アタシは体を起こす。手のひらに伝わる地面の感触で、アタシは段々と思い出していく……何があったのかを。

 そしてハッとなる。

 アタシが聞いた銃声が、一体何を撃ったものなのかを。そして、その後に聞こえた肉を抉る音が、夢であってほしいと願って見た先に――……。

 

「なんで、だよ……」

 

 温かい夕日に晒されて尚、身体が冷たくなるのを感じた。

 スローモーションに見える景色の中に、ゆっくりと後ろへ倒れていくアイツの姿。ギアが砕けるように解除されて、制服に戻ったアイツが、頭から血を流していて……そこを何が通ったのか、アタシの経験は残酷なほどにすぐ教えてくれた。

 あの小さな頭を、額から後頭部へまっすぐに、弾丸が貫いたのだと。

 頭を撃ち抜かれた人間がどうなるのかなんて、子供でも分かる。治療の施しようもないほど、一瞬で、確実で、即死の致命傷。免れない死の烙印。

 

 つまり、それは、どうしようもなく、あれは、そんな、どうして、なにが―――

 

「―――さようなら、お前の犠牲をもって……我が悲願を果たす」

 

 ドサリと、倒れたアイツの身体は動かない。

 あれほどまでに元気で、殺されても死なないようなまっすぐさを持ったアイツが、それでも弾丸一つで動かなくなる。

 立花響が、死んだ……?

 

「ぅ、あ、あ、や、ああああああああああああああ!!!!!」

 

 気が付けば、私は錬金術師に向かって弾丸を放っていた。

 体の奥底から湧き上がる感情がなんなのかを理解するまでもなく、沸々と湧き上がる熱と共に、視界が涙で歪むのも構わずに、ただこの感情を晴らすためだけに弾丸を放った。

 錬金術師は当然、そんな我武者羅な弾丸にやられるわけがない。後方へと退くことで弾丸を躱し、アタシは無我夢中でアイツの傍に駆け寄った。

 

「ぅあ……おい、おい!! しっかりしろよ……! こんなっ、こんなことッ……おかしいだろ……おかしいだろぉぉぉおおおおお!!!」

 

 こんなことは嘘だ。こんなことがあっていいはずがない。こんなことが無くなるように、アタシは戦ってきたのに。

 優しい奴が悲劇に巻き込まれるなんて、あっちゃいけない。平和に生きていた何の罪もない奴が戦いで死ぬなんて、あっちゃいけない。戦いが平和を壊すことを正当化される世界なんて、間違っている。

 

 響が死ぬことが世界の平和のためだというのなら、そんな平和に何の意味がある。

 

「うわああああああ!!!」

 

 何度呼び掛けても、力を失った身体からどんどん熱が失われていく。貫かれた頭蓋から溢れる血が止まらない。コイツの命の喪失が、止められない。

 

「悲しみも、憎悪も、その涙も、この戦いで最後になる……この神の力で、人類の相互理解は達成され、この世から争いは消える」

「ああっ……! うあぁ、あああッ……あああああ!!!」

「立花響の犠牲、私がその罪を背負おう……これまでと同じように」

 

 悲しんでいるのか、怒りを覚えているのか、憎しみを感じているのか、分からないままとにかく――目の前で不快な言葉を放つコイツを黙らせてやりたかった。

 

「うるさいッッ!!!」

「なっ……くっ!」

 

 ノーモーションで放った弾丸は錬金術師の意表を突き、奴の方にヒットする。けれどファウストローブとかいう未知の衣装によって、ダメージはゼロ。どれだけ気合いで身体を動かしても、アタシのギアの出力はもうたかが知れている。消耗が激しく、私の弾丸に力はない。

 それでもアタシは、諦めない。諦めてたまるものか。

 

「くっ……ふー……! ふー……!!」

『クリス、やめなさいっ……それ以上は無駄に命を散らすだけだ』

「うるせぇ!! どいつもっこいつもっ、クズばかりだッッ!! この戦いで! 一番死なせちゃいけねぇのが、アイツだっただろうがぁッ!!!」

 

 通信でフィーネが止まるように言ってくる。おそらく二課の司令室でも、最早敗北を受け入れちまっているんだろう。無駄に命を散らすな、なんて今言うことじゃない。もう無駄に命を散らされてんだ――戦いの中で生きてきたアタシでも、元々二課で戦ってきた風鳴翼や天羽奏でも、戦う覚悟を持って組織にいた『F.I.S.』の奴らでもなく、平和な世界で生きていて、たまたま戦う力を持っちまっただけの響が死んだんだ。

 

 なにより守らなきゃいけなかった命を奪われておいて、なにを諦めてやがる。消耗が激しい? もう動けない? 対抗できる力がない? そんなことで諦めることが許されるものか。

 消耗が激しいなら絞り出せ、動けなくても動け、力が無ければ作り出せ、たとえ殺されたしても、死んだとしても、魂で戦えばいい。

 

 勝てない戦いだから、諦めることが許されるとでも思ってんのか。

 

 だから大人って奴はクソなんだ。

 

『クリス……』

「もう諦めたってんなら黙ってろこの腰抜け共!! だから大人は嫌いなんだ!! 戦いを引き起こしたのはてめぇらだろうが!! 真っ先に戦いから逃げるくせに、臆病者が高尚なことをほざいた結果がコレだろうが!!」

「雪音、クリスだったな……まだ私達と戦う気か?」

「当然だ……誰もが諦めて、たった一人になっても戦うと、アタシは決めたんだ……! アイツが夢見たこと、アタシも最後まで諦めねぇぞ……!!」

 

 そうだ、諦めてなるものか。

 

「ならばお前も犠牲の一つとしてやろう」

「上等だ……アタシの命を懸けて、もう誰も死なせない!」

 

 瞬間、力が湧いてくる。

 消耗なんて言い訳にしない、私の心に反応したギアが見せている力なのかもしれない。何でもいい、これがお前の意思だってんならアタシの心に応えてくれ。

 

「根性見せろよ―――イチイバル!!!!!」

 

 溢れ出てくる胸の歌が止まらない。

 リズムも、ビートも、メロディも、アタシの中にある心を映し出せ。最後の最後まで、アタシの覚悟を歌に乗せて、この戦いに勝つ力をよこしやがれ。

 

 ―――繋いだ手だけが紡ぐもの……♪

 

 叫ぶように歌って、叫ぶように泣いて、叫ぶように戦おう。

 

「いくぞ!!!」

「はぁぁあ!!」

 

 動きだす。

 一歩動くごとに、身体に湧き上がる力がどんどん強くなる。アイツの夢がアタシを突き動かしているようだった。

 ガシャ、ガシャ、ガシャン―――

 音が響く、アタシのギアから、何かが変わるような音が。

 

「ッ――!!」

 

 弾丸を放ちながら正面にいる錬金術師に向かって走り出す。

 遠距離ではなく、近距離へと近づいて、懐へと入り込んだ。今度放たれたアタシの弾丸は、傷こそ負わせられなかったが、奴の腕に当たった瞬間その腕を大きく弾いた。衝撃で胴体が空く。

 アタシはそこへ全力で拳を叩きこんだ。

 

「がっ……!」

「まだ、まだぁ!!」

 

 殴り抜いた拳の勢いに任せて回転、背を向けながら、背後に銃口を向けてブラインドショット。そのまま走ってきた方向へと地面を蹴って前転、逆立ちの体勢から更にもう一発放つ。

 放った弾丸は全て錬金術師の身体に命中し、今度はファウストローブに罅を入れた。

 

 瞬間、前転を終えたアタシの真横から迫る巨大な黄金の球体。もう一人、プレラーティとか呼ばれていた奴の武器か――そう認識した瞬間、アタシは地面を蹴って跳躍。その球体が足元を通過していくのを見ながら、空中でプレラーティに向かってミサイルを放った。

 当然のように躱されるが、それでも牽制にはなった。

 

 ―――ガシャ、ガシャ、ガシャガシャガシャガシャ!!!

 

 もっと、もっと、もっとだイチイバル、限界まで限界まで!!

 

「ぶっ放せぇぇぇぇ!!! 激唱、制裁、鼓動! 全部!!!」

 

 ギアの姿が変わっていく、アタシの心に応えるように。

 赤と紫紅で構成されていたギアは、赤と白へとその色を変えて、すっきりしていた腕にもプロテクターが付き、腰に付いていた武装もシャープな形へと変化していく。無駄を削ぎ落すように、力を加えるように、アタシの戦い方に沿った形へと変わっていく。

 

「いい加減大人しくしな、さいッ!!」

「フッ―――!!!」

「んなっ、さっきまでと動きが違―――ぇぅッ!?」

 

 背後から迫る青い髪の錬金術師の連打、近距離戦を得意としているらしく、一撃一撃の鋭さは技術の高さを伺える。けれど、ギアのせいか分からないが身体が動く、視野が今までの倍は広く感じた。

 その全てを躱して、アタシは背面蹴りでそいつの腹を蹴り飛ばす。

 

 身体が熱い、ギアも燃えているようだった。

 

「嗚呼ッ、二度と、二度と迷わない! 叶えるべき夢を、轟け全霊の想い……!!」

 

 歌え、歌え、そうだ――アタシが叶えたかった戦争の火種を消すという夢は、戦いではなくせないと気づかせてくれた。そして、誰も悲しまない方法はたった一つしかないのだと、アイツが示してくれたんだ。

 

 人と人は、きっと手を繋ぎ合えるという可能性を信じて。

 

 なぁおい、聴いてんだろ。聴こえてんだろ! 黙ったままか? そこで何もせず立ち止まったままなのか!? アイツの信じたことをさ、なんで誰も信じてやれねぇんだ。確かに戦場で語るべきことじゃないのかもしれないよ……甘いと罵られることかもしれないよ……事実アタシだってそう思ってた。

 けどさ―――最初からそれが出来ないなんて、悲しすぎるじゃねぇかよ。

 

 戦って戦って戦って、仮に戦いが終わった後で、手を繋ぎ合えないならそれは平和じゃないじゃないか。幸せなんてどこにもないじゃないか。戦うより前に、人と人が手を繋いで笑い合えるって証明することが、どうして出来ないなんて思っちまうんだ。

 

「やっと見えたと――気付けたんだ……きっと、届くさ――きっと……!!!」

 

 聴こえてんだろ……なぁ、聴こえているんだろ?

 耳を塞いでいたか? 聴こえないふりをしていたか? じゃあ今聴かせてやる、その耳じゃなくて、心に訴えかけてやる。

 

 今、お前達に問いかけてやる。

 

 

 

「―――アタシの手を、取ってくれよ」

 

 

 

 人は人を一方的に助けることは出来ない。アタシがそうだったから。

 人は助けようとする人と、助かろうとする人がいなきゃ救えない。助けられる側も精一杯頑張らなきゃいけねぇんだ。アイツが伸ばした手を、誰かが繋ぐ努力をしなきゃいけねぇんだ。

 だから、アタシもこの手を伸ばすから……お前らも手を伸ばせよ。出来るだろ……それくらいのことなら!!

 

 ぎゅっと、アタシの手を握る手があった。

 

「……悪いな、雪音……私は愚かだった。立花を殺されて、また折れるところだった」

 

 その上から、もう一つ。

 

「悪い……ちょっと、立ち上がるのに時間が掛かっちまってな」

 

 さらに、もう二つ。

 

「私達も、頑張るのデスよ……」

「伝わってきた……貴女の歌から」

 

 立ち上がっていた、装者である全員が。

 アタシの伸ばした手を取って、まだ戦う意思を見せていた。

 

「……おせぇよ、ポンコツ共……」

 

 今、アタシはどんな顔をしてるんだろうな。

 笑ってんのか? 人と手を繋ぐことを拒んできたアタシが、自分から手を繋いだことに、たまらなく可笑しさを感じる。

 

 仕切り直しだ。

 

 イグナイトは破壊された、アタシのギアは姿を変えて強力になったが、それでも不利なことに変わりはない。あのファウストローブを突破することは未だに出来ていない。

 それに、奴らの背後にいるあの巨大な異形のデカブツがいつ襲ってくるかも分からない。それでも大丈夫だ、アタシはそれでも諦めない。

 

「形勢逆転には程遠いぞ、シンフォギア」

「だとしても、諦めねぇぞ」

 

 構える。

 アタシの背負った罪も、お前らが背負った罪も、等しく大罪だ。等しく人を死なせてきた。いずれ報いを受ける日が来るだろう――それでも、アタシは今この時、正しいやり方で正しいと思ったことをする。

 

 アイツの死に、これ以上ない意味を与えてやる。

 復讐なんてしない、憎悪なんて抱かない、怒りになんて飲まれない。

 

「――そう……だとしても、だよクリスちゃん」

 

 瞬間、背後からそんな声が聞こえてきた。

 

「ッ……!? ひ、びき」

「……うん、私だよ……クリスちゃん」

 

 振り返った見たら……生きていた、アイツは生きていた。

 それこそ、嘘だと思った。頭を貫いた傷は確かにあった、それで死なない筈がない。一体何故―――そう思った時、振り向いたアタシのまた背後に足音がした。

 誰が、そう思ったアタシの疑問の答えは、再度振り向いたそこにあった。

 

 そこには複数の人物がいた。その中心、先頭に立っていたのは、癖のある黒髪を靡かせ、青黒い着物を揺らした男。

 

「やぁ響ちゃん……久しぶりだね」

「珱嗄……!」

 

 ゆらりと笑うそいつは、この戦いの中心人物……泉ヶ仙珱嗄だった。

 かつて感じた貫禄を超えて、今や格の違いが圧倒的に違うような存在感を放っている。何故行方不明だったコイツが今ここにいるんだ。そう思いながら他に視線を向けると、そこには錚々たるメンツが立っている。

 

 不気味に笑みを浮かべる球磨川禊。

 

 拳を掌に合わせて笑う逆廻十六夜。

 

 何故か成長した姿で拳を構える泉ヶ仙ヴィヴィオ。

 

 そしてアタシも知らない大柄の男。

 

 泉ヶ仙珱嗄がかつていたとされる異世界の怪物たちが、勢揃いしていた。

 球磨川禊がいるということは、つまり響が生き返ったのは……!

 

「『いやぁ』『到着したと思ったら響ちゃん死んでるし』『皆満身創痍なのにまだ出ていくなっていうから』『何があるのかと思ったら』」

「大丈夫だって言っただろ? きっと立ち上がると思ってたよ」

「『ま、いいけど』『あ、珱嗄さん』『ついでだから皆の消耗もなかったことにしといたよ』」

「気が利くじゃん、お前そんな空気読める奴だったっけ?」

「『え、酷くない?』」

 

 その会話を聞いて、アタシは不意に先ほどまであった疲労感が消えていることに気が付く。どころか『Elixir』やイグナイトを破壊されたことによる負荷すら消えている。正真正銘、万全の状態だった。

 やはり予想通り、球磨川禊の未知の力で響の死は打ち消されたということなのだろう。喜ばしい反面、こいつらに何のメリットがあるのかと考えてしまう。

 

「さて……それじゃあ一つずつ、なじみの思惑を潰していこうか」

 

 けれど、そう言って笑う泉ヶ仙珱嗄を見て不思議と―――どうにかなってしまうのではないか、とそう思ってしまった。

 

 




珱嗄シリーズ最終作、スタートです。



自分のオリジナル小説の書籍第②巻が発売となりました!
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今後とも応援よろしくお願いいたします。

また、珱嗄シリーズの更新報告や小説家になろう様での活動、書籍化作品の進捗、その他イラスト等々発信していますので、もしもご興味があればフォローしていただければ幸いです。

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