◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
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時は少し戻って、崩れ行くチフォージュ・シャトーの中、弦十郎はキャロルと共に城の中から脱出していた。通信で装者達の戦闘の様子を伺っていたが、劣勢であることを知り歯噛みする。
キャロルは今回の一件で安心院なじみがどこまで何を企てていたかの詳細を知る人物だ。このまま逃がすわけにはいかない。彼女を確保した状態で、響達の応援へと向かいたいところだが、途中で逃げられても後々不味いことになる可能性だってある。
だが話を聞く限りでは、既にキャロルの目的は達成されており、本来なら世界に対して脅威となるようなことをする必要も理由もないらしい。であれば、そこを交渉材料にすることは出来ないだろうか、弦十郎はそう考えた。
地面へと着地し、シャトーの崩壊に巻き込まれない場所へとキャロルを運びながら、弦十郎は最早何かをするつもりもないらしいキャロルに声を掛ける。
「キャロル君、君の力がどれほどのものかは知らないが……もしも安心院なじみが君の御父上を返さなかったらどうするつもりだ?」
「……その程度のこと、考えなかったわけがない。それでもオレはこの時に賭けたんだ、これでパパと再会出来ないのであれば、オレに生きる意味など最早存在しない」
「……御父上は、間違いなく蘇えらせられたのか?」
「間違いない、俺の目の前で死は覆され……俺もこの手でソレを確認した。俺が唯一信じた奇跡だからな」
「であれば、御父上と再会出来た暁には、俺達が確実に君達に平穏な環境を提供しよう。例え再会できたとしても、安心院なじみが約束を反故にした場合の保険程度にはなると思うが? どうだ?」
弦十郎の言葉に、キャロルは訝し気な顔をする。
「ハッ、それでお前はオレになんの見返りを求めるつもりだ? 確かに保険を掛けておくに越したことはないが、その気になれば俺は自力で環境を整えることだってできるんだぞ」
「安心院なじみの計画を止める……それに協力して欲しい。現在我々と敵対しているのはパヴァリア光明結社の錬金術師達だ……優れた錬金術師の頭脳を頼りたい」
「フン、そんなことだろうと思ったよ……割に合わないな、オレにメリットが少なすぎる」
キャロルは弦十郎の意図を知り、嘲るように笑いながらそれを拒否した。
既に目的を達成し、父親との再会さえ果たせれば最早その他との繋がり全てを切り捨ててもいいキャロルからすれば、これ以上二課の戦いに干渉することは無意味以上に損でしかない。唯一エルフナインが二課にいることくらいがキャロルの関わっている部分といえるが、それも元々廃棄躯体の出来損ないだ。キャロルからすれば大した価値もない。
「……そうか、ならば抵抗も逃亡もせずに付いてきてもらうことは出来るか? 一応、それが俺達の仕事なのでな」
「まさかお前達、あの奇跡の体現者に勝てるとでも? 安心院なじみは錬金術もシンフォギアも超越した次元の存在だぞ……そんな存在に勝つだなんて、それこそ奇跡だ」
「ならばその奇跡を味方に付けて勝つさ―――それが大人の役目だ」
「……は、ハハハハ! 良いだろう、見届けてやる。奇跡を打ち破れるというのなら、これ以上ない傑作だ」
キャロルは父を不当な奇跡の行使者として処刑されたことを未だに許していない。奇跡は研鑽の積み重ねであり、そこには確かな努力と血の滲む様な試行錯誤があった。だからキャロルは奇跡を忌み嫌う。憎むほどに、奇跡という単なるラッキーを許さない。
必然を引き寄せるのが錬金術であり、理を行使するということ。
そんなキャロルをして奇跡と言わしめる安心院なじみを、ただの凡庸な人間が打ち破れるというのなら、こんなに爽快な話はない。
良いだろう、破ってみせよ―――奇跡という存在を。
キャロルは弦十郎の呼んだ回収班を待つように言われ、その場に転がる瓦礫に腰掛けてそれを待つことにした。そして逃げる気はないと言うキャロルを信用し、弦十郎は現場へと急ぐ。
その最中で響が撃ち殺されたという報告を聞いて、絶句したものの、その足を止めることはない。
「はっ―――はっ―――はっ―――!!」
そして急ぎ現場へと辿り着いた時、そこには弦十郎の想像していた光景とは全く別の光景が広がっていた。
ラピス・フィロソフィカスのファウストローブを纏った錬金術師達が三人と聞いていたのに、その三名が地に伏せている。響達は何故か無傷であり、死んだとされた響も無事に立ち尽くしていた。
一体何が、そう思った弦十郎が視線を送った先、そこには一人の男が立っている。
泉ヶ仙珱嗄が、立っていた。
◇ ◇ ◇
「コレは一体、どういうことだ……?」
「師匠……実は、珱嗄がやってきて、サンジェルマンさんたちを一気に倒してしまって……」
到着した弦十郎に気付いた響が、掻い摘んで状況を説明する。
だがその説明で理解できるほど弦十郎は聡くない。
しかも道中、フィーネたちからの説明を受けていた故に知っているが、彼女達はラピス・フィロソフィカスのファウストローブというシンフォギア以上の異端技術を身に纏い、イグナイトすら一撃で退けたというではないか。そして響にとどめを刺し、一度は殺したということも。
響達が無傷の状態に戻っていることもそうだが、そんな彼女達を泉ヶ仙珱嗄はたった一人で倒したというのか?
錬金術も、シンフォギアも、聖遺物を持たない彼がどうやってファウストローブの防御フィールドを突破したというのか。そもそもシンフォギアの防御フィールドだって、弾丸やミサイル程度では突破できないだけの防御力を誇っており、同じ異端技術でなければ傷つけることは出来ないほどだった。
そのシンフォギアに勝ったファウストローブを素手だけで打倒するなど不可能だ。
「ああ、やっと来たのか弦十郎さん……遅かったね」
そうして慄いている弦十郎に気付いた珱嗄が、ゆらりと振り返って気さくにそんな声を掛けてくる。足元に転がっているサンジェルマン達などまるで敵ではないといったように、珱嗄は笑っていた。
「泉ヶ仙珱嗄君……久しぶりだな…………君のことはヴィヴィオ君や十六夜君から多少聞いている……過去の記憶が戻った、とみていいのか?」
「うん、まぁ、そういうことだね。記憶喪失は正直予想していなかったけど、それならそれで丁度良かったんだけどな。どうやらそうも言ってられない状況らしいから、思い出すことにしたよ」
対峙して改めて分かる――泉ヶ仙珱嗄の圧倒的な格の違い。
こうして前にするだけで、彼には永遠に勝つことは出来ないとはっきり理解させられてしまった。それは一対一だけに限った話ではない。どんなに卑怯な手を取っても、どんなに策を練っても、どんなに意表をついても、どんな勝負を仕掛けても、彼に勝つことが出来ないという意味だ。
彼は必ず勝つように仕組まれているような、そんな運命すら納得できる。
「とりあえず錬金術師云々は片付けたけど、そもそもパヴァリア光明結社なんて組織自体がなじみの駒に過ぎないだろうな。そこにある神の力ってやつも今は黙らせているけど、正直この程度の存在で俺をどうこうできるなんて、なじみも思ってないだろ」
「な……」
確かにこの場に来てから、珱嗄よりも奥に聳え立っていた異形の怪物が動かないことに疑問を抱いていたが、まさかそれすらも珱嗄が抑圧しているという事実に驚愕を隠し切れない。
装者の全員が一斉に掛かっても打倒出来ない存在達を、たった一人で、かつこれほど短い時間で容易く制圧してしまうなど、想像出来るはずがない。
しかも安心院なじみはこの程度では終わらないと言う。
分かってはいたが、まるで次元が違いすぎる。世界が違うだけで、これほどまでに実力に差が生まれるものなのか。
「クロゼ、ヴィヴィオ、あっちの準備は出来てるか?」
「ああ、俺の方は既にお前の娘に渡してる」
「私の方でも準備は終わってるよ、あとはあの子次第」
「りょーかい……ま、あっちには
珱嗄がそう言って何かの準備が整ったことを確認すると、今度は珱嗄が弦十郎達二課組の方へと歩み寄ってくる。
以前よりもずっと大きく見える彼が近付いてくることでごくりと息を飲んでしまうが、それでもこの戦いにおいて彼が参戦したことは、一種の希望にもなりうるのかもしれない、そう思ってしまう弦十郎。
近づいてきた珱嗄は、弦十郎達に向かって口を開く。
「さて、俺のせいで色々迷惑掛けたみたいで悪いね。正直悪かったとは思ってるんだ、俺が意図して迷惑掛ける分には全然罪悪感とはないんだけど、今回は俺の身内が俺の為に色々やらかしたっぽいからな」
「『迷惑掛けた自覚はあったんだね』『なんか逆に安心した』」
「俺らより珱嗄の方が絶対無茶苦茶やってきたよな」
「いや自覚ある方が性質悪くないか?」
「あ、あはは……でもパパも悪気があったわけじゃないので」
「「「『お前本当に珱嗄(さん)の娘?』」」」
「お前らあとで首から上だけ生き埋めな」
「俺らはつくしか?」
何を言い出すのかと思って緊張していた弦十郎達に、やや気まずそうに謝ってきた珱嗄。そんな彼はとても珍しいからか、球磨川達がここぞとばかりに珱嗄を弄り出したが、珱嗄の制裁が確定したことで強制的に口を閉ざす。
「いや、まぁ……なんと言うべきか分からないが……ともかく、君たちは我々の味方、ということでいいのか?」
「まぁ、元々俺達はこの世界の異分子だ。ましてや俺の身内の暴走で滅茶苦茶になってるからな、身内の後始末くらいはするさ」
「そうか……いや、君達が協力してくれるというのなら非常に心強い」
弦十郎と珱嗄が握手を交わしたことで、現場の緊張感が若干緩むのが全員に伝わった。これ以上ない味方を得られたのだから、当然の安堵だろう。
なにせ話の通りならかつて無敵を誇った頂上の世界の住人だ。安心院なじみが相手でも彼さえいればどうにかなると思ってしまっても仕方のないことだろう。
「それで、これからどうするの? 珱嗄」
「ん、まぁなじみのことだから今の混戦状態を利用しない手はないだろう。多分アイツの手札は全部切られたわけじゃない……俺の知らない情報もきっとまだあると思うぜ響ちゃん」
「例えば……どんな?」
「まあ異世界の奴らがまだいる可能性は捨てきれないが、この世界の中だけで言うのならパヴァリア光明結社のトップがまだ出てきていないだろ? こいつらが幹部っていうなら、神の力の完成にトップが出てこない筈がない……それに、今のこの状況だってなじみが企てた計画で作られた状況だからな。仮に俺が記憶を取り戻した時、俺対策だって当然用意してきてるはずだ」
珱嗄の言う通り、神の力が顕現したというのに、パヴァリア光明結社のトップである統制局長アダム・ヴァイスハウプトが現れていない。幹部三人もやられてしまった今、神の力を放置して様子見に徹している現状は違和感を覚える。
また安心院なじみが敵として未だにこの場に現れていないということは、まだ全ての手札が切られたわけではないことを示している。もっと言えば、珱嗄が二課側に付くことを想像していたのなら、彼への対抗策とて用意しているはずというのは、尤もな考えだった。
珱嗄は考える。
敵は今までで最大最強の相手だろう。珱嗄相手であれば、その公平性という制限すら取り払って、その膨大な量のスキルを惜しげ無く使用するチート使い放題の安心院なじみが相手になる。
かつて恋人であった彼女こそ、泉ヶ仙珱嗄が最も苦戦するであろう最強設定キャラだ。
恋人として宇宙の終わりまで添い遂げた二人だからこそ、お互いの手の内は知り尽くしている。
否、この世界で珱嗄が出現するまでの三兆年以上を安心院なじみは一人過ごしているのだから、その間に珱嗄の知らないスキルを覚えていたとしても不思議ではない。
そして安心院なじみが死んでから珱嗄と再会するまでの間、珱嗄が渡った世界のことを知らない以上、そこに安心院なじみの知らない珱嗄の力があっても不思議ではない。
つまりお互いのことを知り尽くしてはいるが、お互いの新たな力があるという可能性を捨てきれないことは確か。
「ひょっとして、珱嗄が居ても勝てないの……?」
思案する珱嗄を見て不安に思ったのか、響がそう問いかけてくる。
珱嗄はそんな響を見て苦笑し、その頭をポンと撫でた。慣れた手つきで慣れるその手の温もりは、響が共に過ごしてきた珱嗄と何も変わらない。
珱嗄はそれでも面白そうに笑みを浮かべながら答える。
「さぁ? でも勝てないかもしれないっていうのも、面白いだろ?」
「……なにそれ、ふふ」
勝てないかもしれない。でもそんな状況で勝とうと一生懸命になるから面白い。
珱嗄はゆらりと笑い、さて、と一つ前置きながら腕をぐいっと伸ばす。今まで記憶を失っていた時期にそれほど動き回らなかったからか、はたまた普通の肉体になったからか、パキパキと凝りを解す様な音が鳴る。
手をふらふらと揺らして、軽く足首を回しながら珱嗄は考えをまとめた。
「俺がなじみなら、この状況で神の力を放置する理由はたった一つ……コイツを放置することで俺達を此処に釘付けにして、他の目的を達成しようとしているってところか」
「!? 他の目的……とは?」
「さぁな? 俺もこの世界に詳しいわけじゃない、ただパヴァリア光明結社のトップもそっちに協力してると見た方が良い。安心院なじみとパヴァリア光明結社のトップはグルってことだな……まぁ、どうにかなるだろ。ともかくこっちの手札が知りたい、戦力を教えてもらえるか?」
珱嗄の説明に弦十郎達もなるほどと頷きつつ、二課内の戦力を説明する。
マリアとセレナが現在負傷中であること、それを除けば装者はこの場にいる者で全員であること、イグナイトモードとそのデメリット、二課内にある完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』『ソロモンの杖』『デュランダル』のこと、そして現状その中の一つ『デュランダル』をエネルギー源として使用したカ・ディンギル、LiNKERとElixirについて、隠すことなく全てを伝えた。
そしてそれを受けて珱嗄はまた何かを考えるようにんーと唸る。
すると、今度は十六夜が珱嗄に問いかけた。
「というか、珱嗄は今何が出来んだよ。身体能力は以前のそれじゃねぇんだろ?」
「ん、今までの世界で得た力の全て」
今度は珱嗄以外の全員が、んーと唸った。
これが珱嗄さん。
◇
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