◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
そうして、珱嗄達の協力を得た二課と、安心院なじみとの最後の戦いが始まった。
神の力が顕現し、そして珱嗄がそれを抑制した後、結局のところ安心院なじみは姿を現さなかった。パヴァリア光明結社の統制局長であるアダム・ヴァイスハウプトも同様であり、珱嗄は此処までの全てが全く別の目的のための目晦ましだと言う。
その目的がなんなのか、また安心院なじみが未だに残している策とその手札が如何なるものか、それはだれにも分からない。
それでも珱嗄はどうにかなるだろ、だなんて言い切った。
とはいえ、珱嗄の保有している力は今までの世界で得た全ての力だという事実が発覚したことにより、この不利な状況が一気に覆る。今まで世界を渡る度にその力は全て神によって回収されたというのに、何故珱嗄に再びそれらの力が宿ったのか、その真実は珱嗄にしか分からない。
だが最早断言できることがあるとすれば、これから先の戦い、二課は珱嗄の指揮で動くことになったということだろう。
「さて、一先ず錬金術師キャロルにまつわる全ての事件が解決したということで、残る敵がなじみだけになったわけだが」
そして現在―――珱嗄達は二課の司令室に集まり、今後の対策会議を行っていた。
すっかり人数が増えた今日、見慣れたミーティングルームではなく、専ら現場への指示を出す指令室でなければ手狭になってしまった。
結局神の力の前に現れなかった安心院なじみとアダム・ヴァイスハウプトを待つことなく、珱嗄達は一度リディアンに戻った。神の力を放置するわけにもいかないので、アン・ティキ・ティラの変化した巨大な異形はヴィヴィオがロストロギアとして封印処理をすることで、アン・ティキ・ティラの姿へと戻すことに成功している。
現在は神の力を封印された状態で二課の監視下に置かれていた。
シャトーから放たれた世界を分解する一撃は、そのエネルギーの全てを神の力の召喚に使われたが、それでもレイライン上に這ったエネルギーは正確にその大部分を分解している。そこに巻き込まれた人や建造物、生き物は確実に消滅した。
まぁ、その消滅も球磨川禊の『
「なじみの目的は俺の記憶を元に戻すこと……らしいが、それが叶っている今、アイツが未だに敵として立ち塞がっている状況がそれを否定している。俺の記憶を取り戻すという目的は、アイツにとって通過点に過ぎなかったってことだ」
「通過点……じゃあ一体何をしようってんだ」
「それは今のところアイツにしか分からないよ十六夜君。永遠の命を知っている者にしか分からない感情から生まれている目的……とどのつまり、アイツは俺に焦がれすぎたんだろう」
珱嗄の見せた一瞬の切なげな顔に、十六夜も何も言えなくなる。
誰もが理解した、誰よりも強大な敵である安心院なじみの目的は、本当にちっぽけなものだということを。たった一人の男の為に、何かをしようとしているということだけを、理解した。
珱嗄は気を取り直して、話を進める。
「おそらく、だ。今更だから遠慮なく話すが、まず俺はこの世界の物語について何も知らない……フィクションの世界だとしても、かつて色々な世界を渡ったからといって、その先々の世界の全ての物語を知っているわけではなかったしな」
「そうなのか」
「それ踏まえて考えて、だ。其処に居るフィーネちゃん然り、ノイズ然り、突如現れた『F.I.S.』然り、拘束中のキャロルちゃん然り、パヴァリア光明結社然り、神の力然り……こんな個性的なキャラクター達が居て、それが全部なじみの作り上げた存在だとは思えない……この世界に元々設定されていた敵キャラだと俺は推測する」
此処まで響達が対面してきた全ての敵、全ての戦いがきちんとこの世界の設定上用意されているものであり、安心院なじみがそれを利用した、という方がまだ納得できる。珱嗄はそう推測していた。
安心院なじみはどこまでも平等で、自分が全知全能であっても神ではないことを知っている。つまり、己の程をわきまえている。自分の存在しない筈の世界で、新たな生き物を生み出すなんて愚行を、彼女がする筈がないと。
「……この際、モラルや倫理観については度外視するが、つまり奴は私達の過去に干渉することで物語を歪め、我々の戦いや生活を操っていた……この状況を作り出すために」
「そういうことだね」
「じゃあアタシが生きていたのはどういうことだ? 元々の物語でも生きてたのかもしれないけどさ」
「奏ちゃんが生きてたのは、十中八九なじみの保険だろうな。此処までの展開を考えて、途中でメンタル的に二課が潰れていてもおかしくない。死んだと思っていた人間が生きていた、なんて折れた心を癒すのにもってこいのだろ」
「あ、じゃあやっぱアタシ死んでたのか本当は」
「主人公が響ちゃんだとしたら精々一話で出番消えてただろうな」
「死んだことより若干ショックな事実止めてくれね?」
「それに関しては俺全然悪くないから、謝らないぞ」
「クソが」
そんなどうでもいいことはさておき、と言う珱嗄に奏がギャイギャイと噛みつくが、無視して珱嗄は進める。
「そうだと仮定した時、此処まで一方的かつ立て続けに敵に攻めさせた理由はなんだ? そもそも俺が目的なら直接俺に干渉しなかったのはなんでだ?」
「……確かに、キャロルに干渉している以上少なくとも珱嗄が生まれる数百年以上前から準備していたってことだしな」
「そう、つまりはなじみにとってそれが必要なことだったってことだ」
「必要なこと?」
珱嗄は指令室のコンソールを片手でカタカタと動かした。
すると今度は今までの戦いの映像が出る。フィーネの暗躍していたノイズ騒動から、クリスとの戦い、錬金術師キャロルとの戦い、アルカ・ノイズの出現、パヴァリア光明結社との戦い、神の力の顕現―――これだけのことを裏から手を回して実行するのなら、それは気の遠くなるほどの下準備がいる。例え永遠の命を持ち、無限の時間を行き来できる安心院なじみとて、珱嗄という本命を放っておいてそんなことをする暇も興味もない。
ならばこれらは全て珱嗄の為に行われていたことだ。記憶を取り戻すこと以上の、珱嗄の為に行われていたことだ。
「今までのことを見返すと、アイツが起こしたことは巡り巡って全て響ちゃんに干渉している」
「私に……?」
「というより、俺の幼馴染になった人に、だ。つまりは誰でも良かったんだ、俺がこの世界で過ごした十六年と少しの間で最も親しくなった人間であれば、それを利用するための準備をアイツは俺達が生まれるよりずっと以前から整えていたんだから」
「『どういうこと?』」
響に、という言葉に対して全員の視線が響に集まるが、響自身もピンと来ていなかったらしく、球磨川がその意味について問いかける。
珱嗄は今まで周りの進める展開にちょっかいを掛けるスタンスだったからか、今回の話の中心になっている自分に少しばかりむず痒いものを感じているらしい。
咳払いをしながら説明する。
「アイツは世界の脅威になりうる存在を確認して、その目的や詳細を調べ上げた。そしてそれを裏から操ることが出来るように、巧みに動き回ってきた。おそらくは俺にそいつらを当てがって楽しませようとしたって所だろ……そして俺が出現するその時を待った――――けど、俺が生まれた時……アイツはこの世界にヴィヴィオや球磨川君達、別世界の人間がいることを知り、この世界の違和感に気が付いた」
「この世界に神様が居て、私達に干渉しているかもってこと?」
「そう、そして俺に記憶がないことを知って、方針を変えた」
珱嗄の言葉に、全員が真剣な表情で聞いている。
安心院なじみ――あまりに強大に思えたその存在の、あまりに途方もなく、あまりに途轍もない計画の、あまりに我儘な、あまりに自分勝手な、そしてあまりに切ない最初の決意。
「アイツはこれまで下準備してきた全ての存在を、俺が最も親しくなった幼馴染にぶつけることにした。白羽の矢が立ったのが響ちゃんだ……アイツはフィーネが二年前の事件でやろうとしていることを知り、響ちゃんをそこへ行くよう仕向けることで、物語を始めた。響ちゃんの傍には俺がいたからな、響ちゃんに降りかかる脅威があれば、記憶がなくとも確実に俺は干渉する―――そう確信して」
「それで、私がガングニールの装者になったのを機に、色々なことが起こり出したんだ……」
「そして俺の記憶が戻るように、本来ならば時期を違えてやってきていただろう敵を立て続けに送り込んだ。必要な下準備に全て協力して。だからキャロルちゃんの持っていたレイラインマップも、オートスコアラーを動かすために必要な想い出も、サンジェルマンちゃん達が持っていたヨナルデ・パズトーリの像や、アン・ティキ・ティラというオートスコアラーも、おそらくは全てアイツが用意して与えたものだ。だから彼女達はフィーネと同じ時期にやってきて、響ちゃんと二課に振りかかるより大きな脅威として用意された」
「どこまで仕組まれているんだ……これほどの計画……」
弦十郎の言葉に含まれていたのは、あまりに緻密に仕組まれていた安心院なじみの計画に対する、深い感嘆。敵ながらあっぱれ、という言葉が真に当てはまるような、そんな感動すら覚える感情だった。
響達も、当事者として様々な辛い思いをしながら、安心院なじみの凄まじい計画に圧倒されている。驚愕の事実は多く、未だ全てを許容できないでいる中で、ただこんな凄まじい存在に立ち向かわなければならない現実に少しだけ、心が震えている。
だが珱嗄はそんな全員を無視して、更に続けた。
「ヴィヴィオ達に協力を求め、その後離反するであろうことも考慮した上で放置したのもそうだ。これだけ絶体絶命のピンチが立ちふさがった上に、異世界の化け物達がうじゃうじゃ出てくるんだ、流石の俺もどこかで記憶を取り戻すと睨んだ。結果、そうなったしな……で、此処からが本番」
「今の今まで、此処までが……ただの準備だったと?」
「その通りだよウェル博士、神の力ですら、アイツにとってはただの囮で、この状況を作り上げるためだけの単なる傀儡だった」
珱嗄はそう言ってから、コンソールを操作して浮かんでいた映像を切る。
そして消えたスクリーンを見つめながら、ゆらりと笑う。
まるで何かを確信しているかのように、何も映らないスクリーンを見つめて。
「そうだろう、なじみ―――ほら、さっさと最後の戦いを始めようぜ」
そして誰ともなくそう呟いた珱嗄の言葉に応えるように、
『ハ、違わず―――想定以上の怪物共、では始めてやろう』
そんな声と共に、スクリーンに見知らぬ女が映った。
白い髪と赤い光の映る瞳、まるで人間とは思えない風格を持つ存在。それは、スクリーンを通してどこかにいるわけではなく、まさしくスクリーンの中に存在している電子上の存在であるかのような、そんな存在感すらある。
珱嗄達はスクリーンに映ったその人物と睨み合い、珱嗄が口を開いた。
「お前は?」
安心院なじみではない、錬金術師でもない、今まで欠片も存在を感じさせなかった未知の存在。にも拘らず、全ての事情を知っているような様子で珱嗄の望む戦いを始めてやろう、と、そう言った。
そして、珱嗄の問いに彼女はこう答える。当然の様に。
「遺憾だな―――我が名はシェム・ハ、人が仰ぎ見るこの星の神が、我と覚えよ」
シンフォギアも、錬金術師も、人も超越したこの星の、神なのだと。
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