◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第六話 ノイズに触れられる少年

 珱嗄が二課で事情聴取を受けた日から約二週間、これといって変化のない日々が続いていた。

 無論、世間的には大いに変化のある二週間だったと言われている。なにせ、生涯に一度遭遇するかどうかというノイズの出現が、ここ最近この近辺で立て続けに起こっているのだ。被害者の数はその度に増えていっているものの、二課の迅速な対応もあってどうにか最大限被害は抑えられている。

 無事に装者として二課の一員となった響と、元々の装者であった翼の二人の活躍によるところが大きいだろう。

 

 とはいえ、この二週間の出動の度に共闘を重ねた二人であっても、そのコンビネーションはあまり上手くいっていない。

 

 二年前の事件で互いに因縁のある二人ではあるが、翼は大切な相棒であった天羽奏を失い、彼女が身に着けていたガングニールを身に纏う響を受け入れられないでいる。また響も翼の力になりたいと思いながら、戦場に立つには覚悟も意志も足りていないことを突きつけられ、深く悩んでいた。

 

「あぁ~……どうしたらいいんだろ」

「響、最近変じゃない? なにかあったの?」

「んー……大丈夫、なんでもない! へいきへっちゃらだよ!」

 

 学校の机に項垂れる響を心配して声を掛ける未来。

 しかし響も二課のことやシンフォギアのことは機密事項とされているので、話すわけにもいかず、平気だと言い張るしかなかった。

 未来は確実に何かあるはずなのにソレをひた隠しにする響に、自分の中でまた心配が募っていくのを自覚する。

 

 珱嗄との連絡を控えるようになってからも二週間なのだ。

 自分の大切な二人が何か悩みを抱えていることを知りながら、何もできない状況に歯噛みしてしまう。

 

「……」

 

 未来は無意識に携帯に目がいった。

 珱嗄に連絡を取ろうかと思ったのだ。この二週間、珱嗄に電話をしようと思った回数は数えきれない。未来にとって見れば、今までずっと平穏に三人仲良く過ごしてきた日々が突然崩れ去ろうとしているのだ。必死にもなる。

 

 二週間。未来とて二週間我慢したのだ、十分だろう。

 

「あっ……ごめん未来、ちょっとまた用事ができちゃった! 先に帰ってて!」

「あ、響―――……もう……」

 

 するとそのタイミングで響の携帯から着信音が鳴り、項垂れていた響が慌てて去ってしまった。未来が呼び止める前に姿を消してしまった響に、未来は肩を落とす。

 

 そしてそのまま携帯を手に持つと、少し申し訳なさそうな表情を浮かべながらコールした。

 

「……」

 

 アプリ通話独特の呼び出し音が数度繰り返された後、繋がる。

 

『……未来? どうした?』

「連絡してごめんね珱嗄……でも、どうしても声が聞きたくて」

『ああ、いいよ。俺もある程度心の整理が付いてきたから、そろそろ連絡取ろうと思ってだんだ』

「そっか……悩みの方は解決したの?」

『んー半々ってとこかな? 時間が解決してくれるのを待つしかないかって感じ』

「そう……ひとまずは落ちついたみたいで良かった」

 

 電話の向こうにいた珱嗄の様子は、未来が思っていたよりも深刻そうではない。悩みもある程度解決の糸口が見えているのか、珱嗄の声色も然程落ち込んでいなさそうな感じで、未来も少しほっとする。同時に、自分の中にあった心配ごとも少し軽くなっていくのを感じた。

 

 けれど今度は響の方の様子がおかしくなっており、それに変わりはない。未来はこのことを珱嗄に相談することにした。

 ここ二週間響の様子がおかしいことを珱嗄に説明し、珱嗄の意見が欲しいことを伝えると、珱嗄は少しだけ考えた後に未来に問いかけてきた。

 

『響ちゃんが急用で頻繁に何処かへ行くようになったのはここ二週間のことなのか?』

「え、うん……最後に珱嗄と電話した日から、度々何処かへ行っては疲れたように帰ってくるようになって……授業中も上の空なことが増えたし、心配で……」

『……未来ちゃん、響ちゃんが急用で出ていった日の日付とかわかる?』

「え、えっと……ついさっきも急用で出ていっちゃって……前は三日前と、一週間前と……えーと、九日前と、十三日前かな? 多分だけど……」

『なるほど…………うん、とりあえずは大丈夫だと思うよ。可能性の段階でしかないけど、ちょっと調べてみればわかりそうだし……何かわかったら連絡するよ』

 

 珱嗄の問い掛けに記憶を辿りながらたどたどしく答えると、珱嗄は何かしらの推測ができたのかそんなことを言ってくる。未来はこれだけの情報で推測が立てられる珱嗄に驚愕しながらも、珱嗄が大丈夫だと思うと言ったことで少しだけ気持ちが軽くなった。

 とはいえ、心配が拭えたわけではない。

 

「響、危険なことに足を突っ込んでないよね……?」

 

 推測であっても、響の身に何か危険が迫るようなことであってほしくないという未来の問いに、珱嗄の返答は数秒の沈黙のあと、返ってきた。

 

『断定はできないけど、危険なことである可能性も十分あるかもしれないな』

「っ……!? ど、どういうこと? なんで響がそんな……」

『断定はできないって言っただろ? 落ちつけ未来ちゃん……まぁ、偶然かもしれないけど、響ちゃんが急用で出掛けた日の大半が最近のノイズの出現した日と被ってるから、もしかしたらノイズ関係で何かあった可能性もある』

「そんな……だとしたら響は何処でなにを……?」

『俺の方に心当たりがあるから、少しそこを当たってみる。とはいえ予想が当たっていれば、響ちゃんが炭素になって見つかる、なんてことにはならないと思うからあまり心配しなくても大丈夫だと思うよ』

 

 未来は珱嗄の大丈夫という言葉に、一抹の不安を抱えながらもとりあえずは話を呑み込んだ。ノイズに関わっている可能性があるというだけで、断定されたわけでもないし、仮にそうだったとしても珱嗄の予想では響がノイズに殺されるようなことにはならない。

 それに、珱嗄には響が何処に行っているのかの心当たりがあるという。何処までも頼りになる珱嗄の対応に、未来は電話を掛けて良かったと思った。

 心配も不安も拭えない。けれど今は珱嗄の予想を信じるしかない。

 

「ねぇ珱嗄……今から会えない?」

『ん? まぁ、放課後は空いてるから良いけど』

「じゃあこの後公園で待ち合わせ……いい?」

『わかった……何か買い物とかか?』

「ううん……ただ、珱嗄に会いたいの」

『……了解、すぐ行くよ。じゃあまたあとで』

「うん」

 

 プツッと通話が終わる。

 未来は少しの間通話が切れた携帯を見つめた後、黙って荷物をまとめ、不安を振り払うように教室から飛び出した。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 天気は晴れ。日が暮れ始めた時間でも、街を行き交う人の喧騒は止むことを知らない。

 家族や子供、学生やお年寄りなど、年齢層もバラバラな人々が集まる公園を見下ろすように、高台の上に立つ少女がいた。

 

 銀色の髪にアメジスト色の瞳、小柄な割にスタイルが良いのが一目で分かり、顔立ちも整った、かなりの美少女である。

 その首には赤い結晶の付いたペンダントをぶら下げており、その手には少し機械色の強い杖の様なものを持っていた。

 

「……こんなとこでおっぱじめろってのかよ……! 何考えてんだ、フィーネの奴」

 

 ガシャ、という音と共に杖を掲げる少女は、苦々しい表情を浮かべながらその杖を起動させた。中央に添えられていた赤紫色の水晶が光り、その光は眼下の公園に数体のノイズを生み出す。

 そして生み出されたノイズはその存在を全うするかのように人々を襲いだした。

 

「きゃああああ!!?」

「ノイズだ! 逃げ―――ぐぁあ!?」

「ワンッ! ワンッ!!」

 

 逃げ惑う人々、逃げ遅れた人々、炭素変換されて死んでしまう被害者が続々と増えていく中、襲われない犬が敵意を剥き出しにして吼える声が公園に響き渡る。

 叫びと恐怖の悲鳴と動物の鳴き声が混ざり合い、混沌とした状況が生み出された。

 とはいえ幸か不幸か、少女がノイズを生み出した場所があまり人の集中していない場所だったからか、近くにいた人以外は無事に逃げのびることができている。公園から人が蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。

 

 けれど、そんな中公園に入ってくる人影があった。

 

「なっ……なにしてんだアイツ!」

 

 少女は高台の上から浮かない顔で現れた少女を見て、慌てた表情を浮かべる。どうやら落ち込んでいるのか、周りが見えていないようだった。少女はノイズに気がついていない。

 反射的に助けようとした少女だったが、今回彼女は表だって動くことを禁止されていた。そのことを思い出し、足を止めてしまう。ノイズを生み出したのは少女の意思であったが、その表情から、一般人が死ぬことを良しとしているわけではないようだった。

 けれどノイズは容赦なく公園に現れた少女の方へと迫っていく。

 足音に気がついたのか、少女がようやくノイズに気がついた。だが気がついた時には既にノイズはすぐ傍までやってきている。

 死は免れない――高台の少女は目を背けながらそう思った。

 

 しかし、いつまでたっても悲鳴は聞こえてこない。

 

「!」

 

 変だと思って再度目を向けると、そこには先程までいなかった人物が少女を抱えてノイズから離れた場所にいた。見たところただの男子高校生だが、少女の知り合いなのか二言三言言葉を交わしている。距離が遠いので、なんと言っているのかは聞こえない。

 けれど少年が現れた瞬間、ノイズたちの動きが緩慢になる。まるで獲物がいなくなったかのような様子で、うろうろするばかりだ。

 

「なにが……アイツ、なんなんだよ!?」

 

 少女は突如現れた少年が何かしたのかと様子を伺うが、少年が少女に逃げるように言ったのか、少女が少し躊躇ったあと、自分がやってきた入口へと走っていく。

 すると少女を視界に捉えたノイズが獲物を見つけたとばかりに動きを再開した。今度こそとばかりに少女を狙うノイズを遮るように、少年がノイズの前に出た。

 触れれば炭素になってしまうというのに、自殺志願者のような行動に高台の少女は目を見開いて驚かされる。

 

「なにして……!?」

 

 だが、少女の予想に反し、少年はノイズを掴んで投げ飛ばしてみせた。

 その動きは少女から見ても戦い慣れていて、無駄のない動きで多数のノイズを相手に優位に立ち回っている。自分の後方へと一匹たりとも通していない。

 

 シンフォギアを纏ってもいないのに、人の身でノイズと戦えるなど明らかに人知を超えている。考えても少女の頭では目の前の光景に説明がつかなかった。

 

「アレが……フィーネが此処で暴れろって言った理由か……? 一体なにもんだアイツ……」

 

 ノイズを倒せてはいない。ただ投げ飛ばしているだけなので、ノイズが消滅させられるわけではないようだ。けれどそれでも十分すぎるほどの異常である。

 そうして逃がした少女が姿を完全に消した瞬間、ノイズたちはまた緩慢な動きに戻り、時と共に自壊して消えた。

 

 少年は無傷のまま、ノイズたちが消え去った後の公園に一人立っている。誰がどう見ても、彼がノイズを撃退したようにしか見えない光景。

 するとそこへ黒い車が数台やってきた。おそらくは二課の面々がノイズの出現を感知してやってきたのだろう。

 

「……まぁ、命令はこなしたんだ。文句はねぇだろ」

 

 高台の少女は車から降りてきた二課の職員と少年が話しているのを見て、その場を去る。今回は此処でノイズを暴れさせるだけの命令だったので、大人しく撤退することを選んだ少女。

 

 だが、撤退する直前に少年の方をチラリと見た。

 

「……チッ、なんだってんだ」

 

 くしゃくしゃと自分の髪を掻きながら、胸に燻るもやもやとした感情を吐き出し、今度こそ少女は去っていった。

 

 

 

 




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