◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
スクリーンに現れたその存在を、私は知っていた。
シェム・ハ――かつての先史文明時代、人類がバラルの呪詛によって割かれるより以前に存在していたカストディアン。人類を作った神たるアヌンナキの一柱であった者。
アヌンナキの中でも優秀な改造執刀医として名を馳せた天才だった彼女は、人類の創造にも深く関わっていたと聞いている。だが、バラルの呪詛によって人類が割かれた後、カストディアンの全てはこの地球を捨てて去った筈……なのに何故。
どうして、どうしてこいつが今ここに登場する!?
『貴様ら人類の行動で覆るものなどない……だが、我々アヌンナキよりもずっと以前より誕生していた埒外以上の人外が相手ではそうもいかぬ』
「アヌンナキ……へぇ、想像するに、なじみに呼び出されでもしたか? もしくは復活した、か?」
『然り。奴は封印を解き、我の復活を幇助した……先の錬金術師との戦いで発生した惑星級のエネルギー、それを活用したのは何も錬金術師だけではなかったということだ』
「隠れてこそこそ何してんのかと思ったら、神様の復活とは恐れ入ったぜ」
泉ヶ仙珱嗄とシェム・ハが話しているのを聞きながら、私は己の心の中で燻る感情に気付く。私自身がどうしても知りたかった真実を、この存在はきっと知っている。
何故、かつて先史文明期―――アヌンナキの一柱にして私の最愛の存在であったエンキは、私を置いていなくなったのか、そして何故バラルの呪詛で人類を引き裂いたのか、その真実を。
私が一歩前に出ると、シェム・ハは私に気付いたのか少し驚いたような顔を浮かべた。
『ほう……お前、見覚えのある顔だな…………ああ、奴が大層ご執心だった人間か。我々で創造した人類の一個体に過ぎないというのに、特異な奴だと思ってはいたが……ハハハッ! なるほど、中々どうして、お前も特異な人類だったらしい―――まさか、こんな時代まで生き永らえているとはな』
「一つ、訊きたいことがある」
『構わぬ、この愉快さに免じて答えてやろう――と、言っても、精々奴のことだろう? 我の反逆に最後まで抗い障害となったアヌンナキ、エンキ』
「!!! あの人は、何故バラルの呪詛で人類を引き裂いたのだ!! あの時、一体何があった!!?」
奴の口から、あの人の名前が出てきた時、私の感情は一気に爆発した。
心臓が激しく鼓動し、ついにあの日の真実が目の前に現れたという現実に、私の心は最早何を置いてもこの真実を渇望する意思に支配される。
一体、あの日に何があったのか――あの人はどうして、どうして私に何も言わずに消えたのか、その真実が今!
シェム・ハが愉快に笑みを浮かべながら答える。
『哀れだな……バラルの呪詛―――それほどまでに長き時を生きて尚、それを正しく認識していない。だが一つ、確かな事実を述べるとするならば……あの日、エンキはこの我の手で屠られた、それだけだ』
「!? ……そんな……何故……?」
あの人は私を捨てて消えたのではなく、あの日こおシェム・ハの手によって殺されていた? ではバラルの呪詛には何の意味が? 正しく認識していない、ということは、バラルの呪詛は人類に罪深さを感じたアヌンナキによる呪いではない? もっと、もっと他の目的があって施されたものだったというのか?
「!」
待て、シェム・ハは最初に言っていた。安心院なじみによって封印を解かれ、復活したと。何故封印されていた? 彼女は反逆したと言っていた。あの人と彼女が敵対し、殺される羽目になったのは、彼女がアヌンナキに反逆した結果、それをあの人が阻止しようとしたからだろう。
アヌンナキであるシェム・ハを封印する―――ならばそれをやったのは同じアヌンナキの柱達だったはず。ならば彼女の封印と同時に施されたバラルの呪詛には、彼女の目的を阻止するための意図があった?
であればそれはどんな目的だ?
「まさか……!」
彼女は優秀な改造執刀医であり、人類の創造――特に生物的進化と滅亡というシステムに深く辣腕を振るったアヌンナキである。
そしてバラルの呪詛は、統一言語によって感情も意思も繋がることが出来た人類を切り離すシステムである。
ならばシェム・ハのやろうとしたこととは。
「人類を使って、何かをしようとしたのか……!?」
『ほう、たったこれだけの情報でその結論に至るとは、馬鹿ではないらしいな』
「……お前はアヌンナキの中でも随一の改造執刀医だった。バラルの呪詛以前、いわば意思によるネットワークで繋がっていた全人類。その進化の過程で何か細工することも容易かった筈……そしてその細工を使って何か恐ろしい目的を実行した際、あの人達によってそれを阻止された。つまり彼らがバラルの呪詛で私達人類を引き裂いたのは、人類が統一言語によって繋がっていることそのものが、お前の目的に必須のことだったからだ!」
『さてな、例えそれが真実だったとしても……エンキが死んだことも、我以外のアヌンナキがこの星を去ったことも、何一つ変わりはしない。そして我が復活した事実もな』
「許さない……絶対に許さないぞ、シェム・ハ!!」
『それを決めるのはお前ではない、神たるこの身である』
何を言っても所詮は人類の戯言として聞き入れない。先程の言葉からして、彼女は人類そのものに神を超越する力などありはしないと、そう思っているのが汲み取れる。
だがそれでも彼女はこうして私達の前に姿を現し、言葉を交わす行動に出ている。安心院なじみと泉ヶ仙珱嗄―――そのアヌンナキを超越する埒外以上の人外を、彼女自身が認めているからだ。
安心院なじみはシェム・ハのやろうとした人類規模の計画すらも超越して動く人外。ならば当然のことだろう。
彼女がシェム・ハに何を言い、どのようにしてこのような行動を取らせているのか、それが見えてこない。此処まで多くの情報を得て、泉ヶ仙珱嗄の為にやっていることだということまで知っているというのに、その手や策を読み切れない。
計り知れない底の深さ、これこそが人外だというように。
「で、なじみに復活させて貰ったお前は何をしようって?」
『ハ、奴曰く――ゲームをしよう。我はこれから、バラルの呪詛を解除した末に本来の目的を果たすために行動を開始する……それを阻止出来たのなら、最早安心院なじみはこれ以上人類への干渉の一切をしないと宣言した』
「ゲーム……ね」
「でもこのゲームに勝てば、正真正銘我々の勝利になる」
「やらない手はないのデス!」
ゲーム、人類の―――いや、この星、果ては宇宙規模の運命をゲームで決めようと言うその思想。心の底から恐ろしさを感じさせる。シェム・ハではなく、安心院なじみのその鮮やかな手腕にだ。
此処までシンフォギア装者を放浪し、我々を掌の上で転がし、自分の行動の一切を阻害させることなくこの状況を作り上げている。考えてみれば、キャロルやパヴァリア光明結社という敵と戦ってきたものの、私達は安心院なじみと一度だって対面していない。
要所要所で姿を見せはしたものの、負傷した泉ヶ仙珱嗄を回収された時も、立花響と小日向未来の間に亀裂を入れ、クリスの心にも亀裂を入れた時も、奴は悠々とやってきて、悠々と帰っていった。
まるで整地され、砂利をどかされた道を歩くように、彼女は一切コケることなく、止まることなく、邪魔されることなく、ただ考えた通りに歩いて行っただけ。
『ゲームというからにはルールが必要だろう』
「確かにな。教えてもらおうか、そっちが考えたゲームの内容を」
『勝利条件は先程述べた通り。そして我はこれからやることを全て話し、その通りに実行する……お前たちはそれを止める……それだけだ』
「なっ!? 話した通りに実行する、だとぉ!?」
「それって……こっちに動きが筒抜けの状態で目的を達成するってこと?」
それはつまり、作戦内容も、目的も、その手順も、全てを晒した上で、尚もそれを達成できるということに他ならない。
あまりにもこちらに有利すぎる。舐めているとしか思えない。ふざけている。
『手始めに――外を見よ』
「司令!! リディアン音楽院の正面に浮遊した人影が!」
「複数モニターにして映せ!」
シェム・ハの言葉に外を確認した藤尭がスクリーンにリディアンの正面を映し出す。既に空は暗くなっており、月や星も見える景色へと変わっていた。
そしてその月を背に背負う様に現れたのは、先ほどまでスクリーンに映っていたシェム・ハの姿。電子上の存在ではなく、確かに肉体を持って生きていることの証明がそこにいた。
生きている―――あの人を殺した奴が!
『さぁ、ゲームを始めるとしよう。これから我が何をするのか』
「その必要などない!!」
私は感情に駆られてコンソールを操作、既に地上へと出ているカ・ディンギルを最大稼働させてシェム・ハを狙い撃つ。此処で奴を殺せばそれでいい、あの人の命を奪った怨敵を、人類を引き裂く原因となった存在を、此処で消し去ることが出来れば全て解決だ。
―――私は冷静ではなかった。
『デュランダル』からのエネルギーチャージは既に完了している。
あとは撃ち放つだけ。
「死んでしまえッッ! シェム・ハぁぁぁ!!」
そして私はトリガーを引いた。
チャージされたエネルギーは、世界を分解する一撃を止めた時以上の威力となって極太のレーザーとなる。最早避けることなど出来ないほどの巨大な光、それは正確にシェム・ハを飲み込んで、空高くへと延びていく。まるで夜空に定規で引かれた線のようだった。
やってやった、そう思った。安心院なじみが何を計画しようと、ゲームを提示しようと、それに乗ってやる必要はこちらにはない。
―――少し考えれば、分かることだったのに。
思わず笑いが込みあげてくるが、レーザーの光が消えた瞬間、空に幾つもの歪んだフィルターが現れた。それを見てハッとなる。
それはかつてヨナルデ・パズトーリが見せた、埒外物理、神の力の一端。
幾つものフィルターが中心を通り抜けた時、そこには先程と変わらないシェム・ハの姿がある。そしてその表情は何処までも、こちらを見下したような笑みだった。
『愚かだな、先史文明期の巫女……我の言葉に飲まれ、その先の未来を鑑みなかった―――それがエンキの死を無駄にするとも知らずに……見ろ』
「あ……ッ!」
シェム・ハが笑いながらその背後を顎で示す。
その先には、私の浅慮が引き起こした現実があった。
―――もっと考えるべきだったのに。
カ・ディンギルを作った理由を思い出す。これはそもそも、バラルの呪詛を砕くための塔だった……そう、月にある遺跡に残されたアヌンナキのシステム、それが地球上を覆うバラルの呪詛の正体。故に月さえ破壊すれば再び―――そう思って作り上げた、月を破壊するための塔。
それがカ・ディンギル。
そして今、そのカ・ディンギルの限界を超えた最大稼働で放たれた一撃はシェム・ハを捉え――月に向かって伸びていった。
つまり、
『改めて始めるとしようか……都合良くバラルの呪詛も破壊されたことだしな。さて、これから我はこの星の改造を行う……全ての生命を怪物へと変えてくれよう!』
―――私はまた、間違えたのか。
『さて、ゲームには障害が付き物だ――さて、我の下に辿り着くためには、これらの障害を乗り越えて見せよ』
そう言ったシェム・ハの言葉に呼応するように、スクリーンに複数のモニターが更に映し出される。
そこには別々の場所に佇む、別々の人物。
『出番か、僕らの……全く、こんなことになるとはね』
『さぁ、とうとう最終決戦だよ……珱嗄』
其処に居たのは、パヴァリア光明結社統制局長アダム・ヴァイスハウプトと、安心院なじみ。まさかこの状況でこの二人が邪魔をしてくるとは、絶望的以上に致命的だ。
シェム・ハは笑う。
止められるものなら、止めて見せよと。人外によって止められることが分かっている計画を、人外の手を借りることで為そうとするなど、反則過ぎる。
『制限時間は少ない。急げよ? 人類……そして仰ぎ見よ。これが、ユグドラシルだ!』
そして、地球に無数の巨大な木の様な構造物が屹立し始めた―――。
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