◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第六十二話 ラブコメの裏

 私は、かつて人として作られながら、その完全さ故に人ではないとされた。

 全ての能力値において完全で、全ての才能におうて完璧、その容姿は美しく、あらゆる分野において結果を残してきた。完璧なまでの最高傑作、私こそが人類の頂点であることは疑いようもなく、私こそが完成品だと自信を持って言える。

 にも拘らず、奴らアヌンナキは私を捨てた。

 完璧な個体故の停滞、それ以上の進化がないことが奴らにとっては完璧ではなかったらしい。完全故に不完全さが欠けていることが、奴らにはたまらなく失敗作だったということ。

 

 だがそんなものが認められてたまるものか。

 

 だとしたら私は何のために生まれてきたというのだ。そんな勝手な事情で私という存在は否定されるのか? 私にだって意思があり、私にだって命がある。進化のないことがそんなにも罪深いのか? 私が人類でなく、全く別の命だったとしても、進化がないということは私こそが私という命の終着点だ。

 決して失敗作なんかじゃあない筈だ。

 捨てないでくれ、私という可能性を。私を孤独の闇へと突き落とさないくれ。

 

 それでも、私は捨てられた―――奴らに。

 

「―――へぇ、こんなところで思わぬ拾い物だね」

 

 そんな時、私の前に現れたのだ、彼女が。

 アヌンナキに捨てられ、バラルの呪詛によって人類が引き裂かれ、そしてアヌンナキがこの地球を去った後、死ぬこともなく星を彷徨うだけだった私の前に、唐突に現れた。人類は未だ非文明的な生活をしていた時代に、およそ千年以上も先の技術を使って作られた衣装を着ていた彼女。

 彼女は己をこう名乗った、安心院なじみと。

 親しみを込めて安心院さんと呼びなさいと言われたが、正直私は救われた気がしていた。私以上の孤独な存在を見つけたからだ。目の前にいるこの女は、私が逆立ちしても敵わない絶対的な存在であると、一目見た瞬間に理解した。

 

 完璧な私をもってしても敵わない、人外。

 私よりも決定的に人類から外れた生物。

 

 私という完璧程度では、孤独にはなれないことを知った。

 

「君、名前は?」

「……」

 

 名前など無かった。

 アヌンナキは私のことをAdamと呼んでいたが、それはただの識別番号のようなものだ。人類系譜の原点、私という失敗を経て今の人類が生まれている。だが私と人類の間に生物的な繋がりなど一切ない。

 そう伝えると、彼女はなるほどねと言いながら、ならばと私を指差してこう言った。

 

「じゃあ僕が名前を付けてあげよう。君の名前はアダム・ヴァイスハウプトだ、名付け親になる経験は初めてかもしれないな……大切にするといい」

「アダム・ヴァイスハウプト……私の名前、か」

 

 私は孤独ではなくなった。

 名前を付けてくれた人がいるのだから、私の人生は少なくとも一人と繋がっている。この名前は、誰かが与えてくれたものなのだ。

 

「それで、君はこれからどうしたい?」

「……分からない、私は人類として作られた……完全さ故に失敗作だったらしいが、今は捨てられた命だ」

「そうかい、じゃあ君の命は僕が拾おう。君の創造主のことはどう思ってる?」

「憎いさ、なにもかも……私を捨てたことを後悔させてやりたいくらいに」

「復讐したいかい?」

 

 その問いに対して、私は即座に頷くことが出来なかった。

 私の心は満たされていたのだ、彼女に出会ったことで。どうしても復讐したい、というほどではなくなっていた。心の底から憎いと思っているけれど、それでもそんなことに時間を使うくらいならば、彼女に付いていきたいと思うくらいには、私の心は穏やかだった。

 そんな私の躊躇を見抜いたのだろう、彼女はならばと私に手を差し伸べる。

 

「することがないなら、僕に協力してくれないかい? 色々時間が掛かることが多いんだ。君も短い命じゃないんだし―――その内機会があればアヌンナキに復讐することも出来ると思うよ。そのついででいいからさ」

「……ああ、いいだろう。私を連れていってくれ、貴女の行き着く未来まで」

「良いお返事だ」

 

 思えば私は、この時既に彼女に惹かれていたのだろう。

 完成された個である以上生殖の必要もないので、これが恋愛感情なのかどうかは分からない。けれど私は彼女に並々ならぬ愛情を抱いていた。名付け親であっても、親である存在を得たからなのか、それとも私を孤独という地獄からその存在を以って救い上げてくれた人だからか、分からない。

 けれどこの思いを愛情と呼び、この思いを繋げているのが人類だと理解した時、私は確かに感動したのだ。統一言語を失い、バラバラに引き裂かれて尚言葉と行動で、不確かでも愛を紡ごうとする人類……なんと愚かだと思っていたのに。

 

 ああ、確かにこんな思いならば、繋ごうとする価値があると理解してしまった。

 

 ―――なんだ、私も完璧ではないじゃないか……アヌンナキよ。

 

 愛を知らなかった、家族を知らなかった、その価値を知らなかった。私の知らないことがまだまだある。成長ではないか、それを知ることは。私という完璧にも、学ぶべきことがある。

 これから彼女に学ぼう。この命に付け加えられる多くのことを。

 

「何をするつもりなんだ、貴女は」

「うん。僕の愛する人に、最高の人生をあげたいんだ」

「……そうか」

 

 ほら、また一つ学んだ。

 この痛みはきっと―――嫉妬だ。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 ティキ、サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロ、そして今まで僕に力を貸してくれたパヴァリア光明結社に所属する全ての命。僕はしているよ、感謝を。

 人でなしと成り果てようとしていた僕を人にした安心院なじみに付いてきて、君達と出会った。最初はたかが人類、その能力など知れていると思っていたけれど、そうではないことを君達はその人生で証明してきた。

 

 人類の叡智、錬金術。素晴らしいと思った。

 

 人は愛があれば、どこまでも成長出来る。守るものがあることがどれほど人を強くするのか。その果てに生まれた錬金術という結晶が、どれほどの価値を持つものなのか。今の僕ならば理解できる。

 

「そうなんだろうな……君達も」

「アダム・ヴァイスハウプト……!」

「そこを通してもらうぞ……」

 

 来たか、シンフォギア。

 僕の後ろにあるユグドラシルには、君たちの読み通りシェム・ハがいる。僕が憎むべきアヌンナキの一人だ。本来ならば彼女に力を貸す理由はどこにもない。なんならこの手で縊り殺してやりたいくらいだ。

 だがティキに封印された神の力は今この手にはない。あえて、あえて二課の連中に預けておいたんだ。その力は今必要ないからね。ティキには悪いが、もう少し大人しくして貰いたい。

 

「悪いが出来ないね、通すことは……ここを通りたければ、僕を倒していくといい」

「何故パヴァリア光明結社の統制局長である貴様が、安心院なじみに手を貸している!」

「そもそも履き違えているんだよ、君は。パヴァリア光明結社は確かに、錬金術師で構成され、錬金術によって完全を目指す組織だ。その果てに神の領域に至り、その起源たる統一言語を取り戻すという目的も嘘じゃない……だが、そもそもこの組織の創立以前から僕は彼女の協力者だった……違うんだよ、順番が。僕が安心院なじみの目的に協力するために作ったのが、パヴァリア光明結社だ」

「なん……だと……!?」

 

 驚愕したのはシンフォギアを身に纏っているわけではない男。風鳴弦十郎か、装者全員に加えて彼が加わるとなると、いささか厄介かな。

 完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』も、彼が扱うのならシンフォギア以上の脅威になりうる。

 まぁ、僕の役目はあくまで時間稼ぎ―――彼女と泉ヶ仙珱嗄の再会のための。

 この状況を作れば彼女は自分の下に泉ヶ仙珱嗄が来ることを予測していた。自分に対抗出来るのは、泉ヶ仙珱嗄だけだと知っていたからだ。他の異世界人が同行しないように、泉ヶ仙珱嗄の分身まで作って、この状況を作り出した。

 全ては二人っきりで最愛の人と会うために。

 全く妬けてしまうね、流石に。僕の名付け親、救世主、長い時を共に過ごした人、僕に愛情を教えてくれた人、僕が最も愛した人外……語ろうと思えば幾らでも語ることが出来る。それでも彼女の最愛は僕じゃない、本当に嫉妬というのは一々痛い。

 

 けれど同時に嬉しくもある。

 この数千年の間、本当の意味で笑ったところなんて見たことがなかったから。今彼女は何億、何兆年という時間を超えてようやく、心から笑える瞬間を手にしたんだ。

 ならば子として、救われた者として、長い時を共に過ごさせて貰った者として、愛情を与えられた者として、僕に最も愛させてくれた人外の為に、少しでも長く。

 

「掛かってこい! シンフォギア!!」

 

 戦おう、全てを掛けて。

 

 

 ◇

 

 

 一方、二課本部前では、早々に戦いが始まっていた。

 泉ヶ仙珱嗄と異世界組の戦いは、この世界においてやはり最大規模。拳の一発で地面が抉れて、それぞれの動きがやはり目視で捉えがたい。ヴィヴィオが魔法で封時結界を張ることで周囲への影響は出ていないが、それでも度々結界が揺らぐほどの激しい攻防が続いている。

 この泉ヶ仙珱嗄は安心院なじみの記憶から再現された分身なのだ。

 単位にして2000京に上る数のスキルを保有しており、ギフトとして手に入れていた事象反転のギフト『嘘吐天邪鬼(オーバーリヴァー)』も所持、その上今の珱嗄が失った身体能力を持っている。

 

 如何に十六夜達でもそんな相手と戦えばただでは済まない。寧ろ本当なら瞬殺も当然の戦いだった。

 

 しかし、何故だか珱嗄と十六夜達は戦うことが出来ている。

 確かに珱嗄の動きは速く、その戦闘技術は達人以上に化け物染みている。時折使用されるスキルにダメージを貰うこともある。

 けれどそれでも敗北までは至らない。

 

「どういうことだ……!!?」

「わはは、どうしたそんなもんか?」

 

 十六夜だけじゃなく、この場にいる全員が違和感を感じていた。

 目の前の珱嗄は確かにかつての珱嗄と同じ強さを持っている―――だが、それでもあの泉ヶ仙珱嗄だとは思えなかった。彼らの中で、この珱嗄があの泉ヶ仙珱嗄に勝るとは到底思えなかったのだ。

 つまり、彼らの中の珱嗄よりも、この珱嗄は弱いと思ってしまった。

 

「チェーンバインド!!」

「おっと、小憎らしい手を使う様になったなヴィヴィオ」

「はぁぁぁあ!!」

 

 設置していたバインド魔法で珱嗄の動きを一瞬止めたヴィヴィオ、その一瞬の隙を逃さず衝撃徹しの拳を叩きこむクロゼ。かつての肉体を持っていると言っても、身体の内部を攻撃されれば珱嗄とて多少のダメージを負う。

 

「っ……! 思ったより効くなぁコレ……よっと」

「そんな簡単にバインド解かれるとちょっと凹むなぁ」

「俺の拳も大して効いてるように見えねぇしな」

 

 軽く息を吐きだした程度の珱嗄が、両腕をグイッと動かしてバインドを引きちぎる。やはりそれでも大してダメージを負わせられたように思えない。やはり違和感があっても、珱嗄は珱嗄ということなのか。

 だが十六夜はその姿を見て気付いた、対珱嗄を想定して鍛えてきたこと、そして安心院なじみのことを知っていること、様々な能力を見てきたこと、それが幸いして彼に気付かせた。

 

 この珱嗄の違和感の正体に。

 

「なるほどな……つくづく底知れねぇ奴だぜ、珱嗄の奴」

「何かわかったのか、十六夜」

「球磨川さん、大丈夫ですか?」

「『初手でノックアウトさせられた僕』『置き去りだったけど』『君達と違って平凡な学生だからね僕』」

 

 珱嗄がバインドを解いて一旦動きを止めたことで、全員が一度睨み合いの状態に落ちいる。珱嗄は余裕をもって佇んでいるが、十六夜達は全力で警戒していた。

 そんな中で初手で珱嗄に気絶させられた絶対敗者球磨川も目を覚まして合流する。空を飛べるヴィヴィオはまだしも、この化け物染みた速度の戦いに彼はついていけなかったらしい。

 

 すると十六夜は自身が気付いた事実を述べる。

 

「おそらくだが、あの珱嗄は安心院なじみのスキルによって生み出された分身だ。つっても、安心院なじみの記憶の中の珱嗄を再現したって感じだろうな」

「……だが、だとすれば正真正銘あの珱嗄は完璧にかつての珱嗄なんじゃないか?」

「いや違う、正直憎たらしいがアイツ、安心院なじみにすら"全力"を見せたことがなかったんだ」

「!」

 

 泉ヶ仙珱嗄の全力―――それを見たことがある者がいるだろうか。

 かつてハンターハンターの世界で、未だ人の領域にいた頃の珱嗄は、蟻の王メルエムとの戦いで死闘を繰り広げた。その時はおそらく全力だっただろう、必殺技である不知火を繰り出すために身体への負荷を無視して戦ったくらいなのだから。

 だが、それ以降は?

 ヴィヴィオが聖王のゆりかごを巡る戦いで誘拐された時、彼は本気で怒りの感情を見せたこともあった。けれどその時は既に本気を出すまでもなく事件を終息へと導いていたし、それ次の世界に行くまでにはヴィヴィオの血筋が絶えるまでかなり長い時間を掛けた。そして安心院なじみと出会い、人外としての人生を歩み出したのである。

 

 珱嗄の強さは最初の世界を超えた段階で、既に最強の領域へと到達していたのだ。

 

「安心院なじみでさえ、珱嗄の本気を見たことがない。つまりアイツの記憶から取り出されたこの珱嗄の実力は、安心院なじみが把握している部分までしか発揮されないってことだ」

「つまり……この珱嗄はけして本物の隠していた全力を発揮することは出来ないってことか?」

「その証拠に、さっき拘束されてからアンタの攻撃が入った。アイツが理由もなく攻撃を食らってる所なんて俺は見たことがねぇ……本当のアイツなら拘束されていても対処出来た筈だ」

 

 なるほど、と全員がその説を理解し、納得した。

 ならばこの泉ヶ仙珱嗄は、決して勝てない無敵の存在ではない。自分達が力を合わせて戦えば、どうにか出来る可能性は低くない。

 

 とはいえ十六夜は、この事実すら安心院なじみからすれば承知の上でのことなのだろうと思い、苦々し気に笑みを浮かべる。何処まで計算通りだ、あの人外は、なんて心の中で不満を漏らした。

 

「『なるほどね』『じゃあ、僕が珱嗄さんを食い止めよう』」

「……出来んのか?」

「『うん』『まぁ任せてよ』『一秒でいいから隙を作ってくれるかな』」

「……了解だ、じゃあトドメは俺が決める。幾分落ちると言っても珱嗄相手だ、全力の一撃でいく」

 

 すると今度は球磨川禊が不敵に笑って螺子を構えて自分がどうにかすると言い放つ。先程までの様子からジト目でソレを疑った十六夜だが、球磨川にも手があると思ってそれを受け入れる。

 ともかく珱嗄をどうにかしない限りはどうにもならないのだ。封時結界のおかげで異世界の力を観測されることもないし、周囲に被害も出ない今、遠慮はいらない。

 

 作戦会議を悠々と待ってくれる珱嗄が、あくびをし出したところで、十六夜達の準備が整う。それを理解したのだろう、珱嗄もゆらりと笑って手首を揺らした。

 

「作戦会議は終わったか?」

「ああ、待たせて悪かったな」

「良いよ、よく知らんが中々ない状況だしな。楽しませてくれ」

 

 そして再度戦いが始まる。

 十六夜と珱嗄が肉薄して衝突する。ヴィヴィオが魔力弾を放つことで援護射撃をし、その合間を縫って黒瀬が珱嗄の死角から攻撃を仕掛ける。

 その全てに対応する珱嗄はやはり強敵だが、それでも戦いにはなっている。本気を出せない珱嗄を相手に、十六夜達は善戦していた。

 

「『さて……』『それじゃあ僕も頑張るとしよう』」

 

 そんな戦いを見ながら、"マイナス螺子"を構える球磨川禊を置いて。

 

 

 




この裏で珱嗄となじみがキスしてます。





自分のオリジナル小説の書籍第②巻が発売となりました!
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今後とも応援よろしくお願いいたします。

また、珱嗄シリーズの更新報告や小説家になろう様での活動、書籍化作品の進捗、その他イラスト等々発信していますので、もしもご興味があればフォローしていただければ幸いです。

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