◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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本日二度目の更新です。
まだの方は前話より読んでください!


第六十三話 お布団

 珱嗄との戦いは激化していく。

 唯一身体能力で肉薄出来る十六夜を中心として、ヴィヴィオとクロゼがそれを援護する形での戦い。流石に全力が存在しない劣化珱嗄からしても、かつての世界で共に戦った者達―――しかもその身には自分が命を落とすまでに培った経験と力が全て宿っている者達とやりあうのは、少々厄介だったらしい。

 十六夜の拳を受け流す最中にクロゼの攻撃が介入し、それに対応しようとすればヴィヴィオの正確な援護射撃が襲い掛かってくる。

 

 響達の連携とはレベルが違う。本当の意味で呼吸一つ置かない攻撃が連続して続くのだ。全員がその未知の達人レベルに達した実力者だからこそ、お互いの動きを読み合い、お互いの攻撃を活かし、正確なタイミングで己の攻撃を入れてくる。

 一人一人の実力が珱嗄に勝らずとも、数人で連携して攻撃し続ければ、いずれは隙を作れる――十六夜達は己が人生で培った全てを費やして動いていた。

 

「―――ッ……! ふっ……!」

「ハァッ! オオオ!!」

「こいつは―――中々―――!」

 

 それでも珱嗄はそれらの攻撃を一人で捌き切っている。時折身体を掠ることもあるが、それでも数分間の攻撃の嵐を超えて無傷。十六夜達が達人というのなら、珱嗄はその上を行く人外だ。史上最高の連携攻撃だとしても、珱嗄はまだ攻撃に対処するだけの実力があった。

 

 だがそれでもかなり集中しているのか、軽口を叩く余裕はないのが分かる。

 十六夜からすれば、それで十分。もう少しで届く距離に、珱嗄の背中がある。それだけで十分燃えていた。

 

「アクセルシュート!!」

「チッ……おらっ!!」

「っと……」

 

 ヴィヴィオの追尾型魔力弾が無数に飛んでくる。躱しても無駄だと悟った珱嗄は反撃に出る。十六夜に回し蹴りを繰り出し、追尾してくる魔力弾を全てスキルで対処した。十六夜はその蹴りを後退することで躱し、体勢を整える。

 

「やっぱり厄介だな、十六夜ちゃんのギフトは」

「ハッ、だろうよ」

 

 珱嗄のスキルはおよそ2000京個もあり、その全てを使えば世界を滅ぼす以上のことが容易くできる。神にだってなれる最強の要因がこのスキルだ。

 だが十六夜のギフト『正体不明(コードアンノウン)』はそういう恩恵を全て破壊する力を持っている。これは上澄みの能力に過ぎない力であるが、その恩恵により十六夜は珱嗄が如何なるスキルで干渉してこようが、その全てを無効化することが出来るのだ。

 

 つまり、珱嗄は十六夜をスキルや恩恵では傷つけることは出来ない。おそらくはスタイルでも倒すことは出来ないだろう。故に身体能力全振りの近接格闘戦を繰り広げるしかなくなっているわけだが。念能力はそもそも体内エネルギーであるオーラを活用した力なので、これは無効化されていないようだが、これも例えば何かを具現化したり、相手に干渉する発を発動した場合は破壊されてしまうだろう。

 

「それに、十六夜ちゃんにはもっと上もあるしな」

「ああ、見たければ見せてやるよ」

「遠慮したいところだけどね」

 

 再度衝突が始まる。

 十六夜にはまだ切り札があった。

 それは『擬似創星図』と呼ばれる概念攻撃である。あらゆる宇宙観、世界には、空間があり、星があり、時間が流れているというテンプレートそのものに力と形を持たせたもの―――あらゆる物語にはこのテンプレートが必要不可欠であり、それがある以上概念的な攻撃では傷一つ付けることの出来ない無効化能力まで備えた必殺の一撃だ。

 

 正真正銘、星を砕く一撃。

 相手の宇宙観すら全てを無視して、消滅させることの出来る力である。

 

 そしてもう一つ。

 

「行くぞ―――珱嗄!!」

 

 十六夜の身体が一瞬発光した、その瞬間珱嗄の身体が大きく後ろへと吹き飛んでいた。

 

「……ッ!」

 

 十六夜の真の奥の手、それは己の体内の第三種星辰粒子体を加速させる事で取得した人体疑似粒子化能力。

 ―――『Override with Another crown』

 簡単に言えば、光速で動き回ることが出来る能力である。詳しくは省くが、かつての箱庭の世界で十六夜が修羅神仏達と戦う中で開花させた恩恵だ。

 

 今の十六夜は、最早武の原点であり頂点でもあった神の化身ですら圧倒する。

 

「全く、本当に厄介な奴だ」

「うぐぁッ!!」

 

 だが珱嗄はその十六夜相手であっても、一度の敗北も許さなかった男である。二度目の十六夜の拳をその手で受け止め、その勢いのまま地面へと叩きつけた。

 光速で動き回る、確かに凄まじい力だ。十六夜の他の能力も合わされば、最早最強無敵の存在となるだろう。

 

 だが珱嗄はその限界知らずの身体能力を以って光速を超えた動きを可能としている。地球が太陽に飲まれ、なじみと共に宇宙で生きるようになってから、珱嗄は宇宙を自由自在に動き回っていたのだ。光速など、当の昔に超えている。

 

「掛かってきなよ、その程度じゃまだまだだ」

「ハッ、上等……!」

 

 かつての若き十六夜はこの力を使いこなすことが難しかった。使えば三日間は貧血状態になったし、正真正銘最後の切り札だったのだ。

 だが大人になり、老いていくなかで、十六夜は強くなっていった。この力を自在に使いこなし、三日間のクールタイムも段々と短くなり、応じてその肉体は強く成長していった。

 

 そして今の十六夜は、全盛期の肉体でその力を振るっているのだ。

 

「ッ!?」

「ラァッ!!!」

 

 切り替えるように、一瞬だけ全力で加速することで珱嗄の速度を超えた十六夜は、驚愕した珱嗄の顔に拳を当てる。鈍い音と共に珱嗄は殴り飛ばされ、地面へと背を付けた。

 恐るべきは十六夜の強さだろう。一瞬とはいえ、珱嗄の身体能力を超えたのだから。

 

 珱嗄はすぐさま体勢を立て直すが、十六夜はすぐ目の前に迫っている。

 

「くっ……!?」

「ハ―――ァァァ!!!」

「がふっ……!」

 

 立て続けに放たれる十六夜の拳を躱すも、躱しきれない拳が珱嗄の腹へと叩きこまれた。今度は直撃、珱嗄の身体にもかなり重いダメージが入るのが分かる。

 反撃に珱嗄も十六夜の胸倉を掴んで投げ飛ばすが、空中で体勢を立て直して着地された。全力を出せない珱嗄からすれば、なじみが知っている限りの珱嗄の実力では、十六夜のこの強さを超えた強さにはなれない。

 

 だが、それでも対等に戦えるだけの力を備えているあたり珱嗄の強さも桁外れには違いない。

 

「やるじゃないか十六夜ちゃん……知らない間に強くなったね」

「ハッ……てめぇが弱いだけだ……胸糞悪ィな」

 

 珱嗄の言葉に、真の意味で珱嗄を超えたわけではないことを知っている十六夜は、つまらなそうにそう言い放つ。

 だが珱嗄は楽しくなってきたのか、今度は本腰を入れて立った。ヴィヴィオもクロゼもしっかり警戒した上で、それでも珱嗄は十六夜に向き合う。

 

 そして再度衝突しようとしたその瞬間――珱嗄の身体をマイナス螺子が貫いた。

 

「ッ!?」

「……僕の始まりの過負荷(マイナス)……『却本作り(ブックメーカー)』だよ」

 

 括弧付けた話し方ではなく、自分の本音で言葉を放つ球磨川禊が背後にいた。

 珱嗄の髪色が白くなっていく。

 球磨川禊が本来持っていた最悪の過負荷(マイナス)、『却本作り(ブックメーカー)』。それは最弱であり絶対敗者である球磨川禊と、螺子で貫いた相手を全く同じにする力。

 

 誰よりも敗者(マイナス)で、誰より可哀想(マイナス)で、誰より不幸(マイナス)で、誰より負完全(マイナス)な球磨川禊と何もかもが同じなる。

 

 そんなスキル。かつて安心院なじみですらこのスキルによって封印され、自由に動くことが出来なくなっていたほどの、そんな最凶のスキルだった。

 

「この場にいる全員が、珱嗄さんと同じように強く、主役を張れる英傑ばかり」

「……球磨川君」

「だから十六夜君達の輝きで僕の存在を見失った……けど、僕は知っている」

 

 球磨川禊と同じステータスへと落ちた珱嗄、その心の在り方まで球磨川禊と同じになることで相手の心を折ることが本質のスキルだが、今の球磨川の心ではその効果は期待できないだろう。

 だがそれでも、珱嗄に唯一残されていた身体能力という強大な力を奪うことには成功していた。

 

 球磨川禊は言う。

 

「珱嗄さんと安心院さんが証明してくれたんだ。嫌われ者でも、憎まれっ子でも、やられ役でも、主役を張れるって」

 

 かつて珱嗄となじみによって人生唯一の勝利を手にした球磨川禊は知っている。どんなに弱くてちっぽけな存在でも、活躍していい。主役を食っても良い。それが己の本懐であるのなら、貫いていいということを。

 

 珱嗄が前を向けば、十六夜がその手に光の柱を生み出していた。

 

「……なるほどね」

「僕達の勝ちだよ、珱嗄さん」

 

 球磨川禊はもう勝利することはない。

 だが、皆と一緒なら勝てる。一人じゃできないことも、皆と一緒ならやり遂げられる。足を引っ張るかもしれない、一人じゃ負けるかもしれない、それでも精一杯を尽くせば何かを変えられるかもしれない。

 

 頑張ったら、あの誰からも愛される生徒会長に勝つことが出来たのだから。

 

 十六夜が光の柱を掲げて珱嗄へと迫る。

 最早球磨川と同じステータスになった珱嗄にそれを避ける方法はない。

 

「これもまた――面白い、だ」

 

 そんな珱嗄の言葉と共に、珱嗄は光の柱に貫かれた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 一方その頃風鳴本邸では、珱嗄にノックアウトさせられた安心院なじみと原因である珱嗄が久々の再会に、親睦を深めていた。

 

 主に、安心院なじみの欲求不満が爆発していた。

 

「あー、あー、珱嗄ぁー……あー、やばい、あー、ちょっとやばいかも、あー……」

「そこでもぞもぞしないでくれる?」

 

 本邸のある場所へ続く階段の最上段に腰掛けた珱嗄の膝枕にうつぶせで横たわり、あまつさえその両手で珱嗄の腰に抱き着いている安心院なじみ。あーあー、と何やら限界化した声を上げながらクンカクンカと珱嗄のニオイを嗅いでは、やばいやばいとぶつぶつ言っている。

 完全に甘えたモードに入った安心院なじみが、そこにいた。

 これが三兆年を二度過ごした人外の姿である。

 

 珱嗄も流石に此処まで自分の為に色々手を尽くしてきたなじみを振りほどくことは出来ず、多少の甘えたい欲求も仕方ないと思っているのか、そのまま好きなようにさせていた。

 だが安心院なじみが顔を埋めている場所が股間なので、少々問題のある絵面になっているのが気になった。

 

「あー……珱嗄ぁ、丁度そこに休憩できる場所あるし、ちょっと寄ってかない?」

「風鳴本邸のことか? 国家防衛のための重要拠点をラブホテルみたいに扱うとは、お前も大分ぶっとんだな」

「失礼な、僕だってムラムラすることはある」

「少なくとも今じゃない筈だ、見ろこの光景、人類崩壊の危機だ」

「そうだよね……僕が珱嗄としたいことと、人類の危機、優先すべきがどちらかなんて決まり切っているよね」

「そうだよな、お前は俺と違ってクールな思考をしていたはずだ」

「うん、じゃあお布団いこっか」

「お前シュールギャグ出身だからって何やってもいいと思ってない?」

「はぁ……全く、好きな女一人抱けないの? 無敵の男も夜はチェリー君かい?」

「よく言うよ、そのチェリー君にひんひん言わされてる奴が。ちなみにこの状況二課にモニタリングされてっからな」

「……」

 

 欲求不満大爆発でいろいろ醜態を晒していたなじみは、珱嗄のその言葉で大きく溜息を吐くと、ゆっくり起き上がって座り直す。

 そしてもう一度はぁーと大きく溜息を吐くと、そのままゆっくり頭を抱えるように肩を落とした。

 

「はぁー…………尊い犠牲が増えちゃったね」

「殺す気だよコイツ、俺も共犯のように言ってやがる」

 

 最早安心院なじみのテンションがMAXから降りてこない。

 珱嗄のキスからの愛してる宣言で、大分舞い上がっているらしい。此処までの計画全てを投げ出してイチャイチャしたいですと行動全てから伝わってくるほどに。

 

「で、其処に居るのはなじみの協力者か?」

「……」

 

 そんななじみを放置して珱嗄が声を掛けたのは、本邸の方から出てきた一人の人物。白い髪を長くして、年老いた風貌ながら佇まいからかなりの強者であることが分かる老人。

 

「ああ、忘れてた……彼は風鳴訃堂、風鳴機関総帥だよ。この国の国防の為なら諸々汚い手も取るような老害だけど、僕がちょっとお話したら協力してくれたんだ」

「ふん…………あんなもの、話とは言わぬわ……貴様に協力しなければ日本どころか地球が滅ぶと脅迫されれば手の打ちようがない」

「なるほどね……それであのシェム・ハのユグドラシルシステムを起動させるために風鳴本邸地下の電算室を明け渡したと」

「そういうことだよ」

 

 風鳴訃堂は最初から安心院なじみの傀儡であった。

 本来であればあそこまで遅れを取った二課の状況に、一言二言小言を挟んできてもおかしくはなかった男なのに、それがなかったのは安心院なじみに脅迫されて動けなかったからである。

 そして風鳴機関の力を利用して、安心院なじみの指示に従いアン・ティキ・ティラの歯車やヨナルデ・パズトーリの偶像を蒐集したり、シェムハの封印の解除に尽力したりと、様々な暗躍をしていたのだ。

 

 このユグドラシルシステムが稼働した状況下で行われるゲームに勝つ、そのたった一つの国防手段に賭けて。

 

「なじみ、お前めっちゃ計画立ててたんだな」

「当然だよ、珱嗄の為に頑張ったんだ。褒めてくれていいよ」

「わはは、偉い偉い」

「あは~ん」

 

 珱嗄の言葉を受けて、肩におでこを擦り付けるようにして甘える安心院なじみ。それをはいはいと撫でてやれば、幸せそうに笑っている。

 

「……化け物め」

 

 風鳴訃堂は好きな男の為にプレゼントを用意しました、みたいな感覚で世界を滅ぼす計画を実行する安心院なじみに、心の底から恐怖を感じていた。

 どうしようもなく狂っていると。

 そしてそんな重たすぎる愛を受け入れて笑う珱嗄も、また常識の範疇を超えたところにいる生き物であると。

 

「あー、あー、やばいやばい……やっぱりお布団行く?」

「限界化すな」

 

 それはそうとして、家の前でいちゃつき続ける二人を蹴飛ばしたくなったのは、必死に押し殺した。

 

 




《悲報》 黒幕の安心院なじみさん、シュールギャグに走り出しました。




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また、珱嗄シリーズの更新報告や小説家になろう様での活動、書籍化作品の進捗、その他イラスト等々発信していますので、もしもご興味があればフォローしていただければ幸いです。

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