◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
まだ読んでいない方は二話前からお読みください!
シンフォギアとは何なのか、何故愛という不確かな思いに反応するのか、その原因は多分最初から決まっていたのだと思う。きっとこれは願いだ、愛しい人に会いたいという、了子さんの願いの結晶だったんだ。
だからこそ、シンフォギアを纏う者の想いでギアは強くも弱くもなった。
私達は弱い、皆が皆何かを抱えてる。私も、色々なことがあって、色々なものがこの手のひらから零れ落ちていった。珱嗄や未来が居なければきっと、何もできなかったくらいに傷ついてきた。
クリスちゃんも、翼さんも、奏さんも、マリアさんたちも、きっとそう。何かに傷ついて、悲しみにもがき苦しみながら戦ってきた。
この世界は物語だという。
全てはフィクションで、私達は全て物語の中に作られたキャラクターだった。あらゆる設定でしかなくて、あらゆる出来事が物語の起承転結に過ぎない。そんな事実を知った時、私達はきっと皆絶望した。辛い出来事に苦しんできた全部が、ただの設定に過ぎないとされたら、当然の想いだ。
だとしても―――そう、だとしても、私達の現実はこの世界。
生きとし生ける全ての命を見放して、戦うことを放棄することには繋がらない。手と手を繋ぐことが出来ると信じた私の心は、設定であっても間違ってないと思うから。
「お前達のギアで一体何が出来るというのかな! 脆過ぎるぞ、シンフォギア!」
「くっ―――それでも、諦めなぁい!!!」
パヴァリア光明結社統制局長アダム・ヴァイスハウプト。
強い、今まで戦ってきた全ての人よりずっと強い。拳を合わせれば分かる、彼の中にある憎しみと、それ以上に深い愛情が。きっと多くの人に対する慈しみがある、彼の中で確固たる決意がある。
それが何なのか、私は知りたい。
「はぁぁああああ!!!」
「行け響!! まっすぐにだ!!」
駆ける、ギアが私の意思に応えてくれている。
腰のブースターで加速し、アダムさんに肉薄する。後方からクリスちゃんが援護射撃をしてくれていることが、背中に深い安心感を齎してくれた。
一直線に拳を振るう、アダムさんは私の拳を半身になるようにして躱し、そのまま一回転して蹴りを繰り出してくる。けれどその蹴りを私の一歩後ろからやってきていた師匠が蹴り上げ、体勢を崩したアダムさんに拳を叩きこんだ。
「チィッ!! ならばこれならどうだ!」
「なっ……!」
アダムさんのハットが投擲される。
そのハットのつばが鋭い刃物の様な切れ味を持って私と師匠の間へと迫った。師匠とアイコンタクトで互いに拳をぶつけ、反動で身体を離す。ハットが私達の間を通り抜けて、ブーメランのようにアダムさんの手に戻った。
「隙ありだ!!」
「食らえ!!」
「甘すぎる、そんな攻撃ではね!!」
距離の離れたアダムさんの後ろから翼さんと奏さんが迫る。撃槍と剣が同時に別方向からアダムさんを挟撃するけれど、アダムさんは上半身を仰け反らせると、倒れた上体の上を通る両方の穂先を掴んで、そのまま更に後方へと投げ飛ばす。
倒れた上体をそのまま倒し、バク転の要領で着地。
その瞬間を見逃すことなく私は再度アダムさんに肉薄し、一撃を入れた。その拳はアダムさんの手のひらで受け止められるが、この瞬間を作ることが私の目的。
「私達だって!」
「覚悟を以って来てるのデス!!」
拳の衝撃でやや後ろへと後退ったアダムさんの直上から、切歌ちゃんと調ちゃんがユニゾンでの合体攻撃を叩きこむ。おそらく直撃すれば最も殺傷力の高い一撃、これならば―――そう思った瞬間だった。
「ガッ!?」
「がふっ……!!」
「デッ……!?」
彼は私の拳を引き寄せて鳩尾に肘鉄を入れてきた。
そのまま私を上空へと投げ飛ばし、二人の身体にぶつけることで攻撃をキャンセルさせる。重たい攻撃に私の呼吸が一瞬止まり、ノッキングを引き起こした。
切歌ちゃんと調ちゃんは私の身体を支えながら体勢を立て直し、地面へと着地してくれたけれど、地面に足を付けた瞬間少しふらついた。
強い、迷いも焦りもない、単純な自力の差を思い知らされる。
ならば無理を通すしかない。
私の意思を汲み取ったからだろう、翼さん達もアイコンタクトで意思疎通を完了させた。
「そんなものか、シンフォギア……勝ることなど出来ないぞ、そんな程度では!! 全力を振り絞ってこい!!」
「言われなくとも―――抜剣!!」
球磨川さんの力で元に戻ったイグナイトモードを起動、全員がそのギアを漆黒の物へと変化させた。暴走出力、けれどこれでもおそらくは勝てない。
故にやるべきことは一つ、更に力を束ねるしかない。クリスちゃんとやったアレの応用を、今度は全員で――!!
これは此処に来る前に了子さんとウェル博士によって提示された賭けの一つだ。
私の束ねる力を利用してギアを強化リビルドする!!
「師匠!!!」
「任せろ―――ここで俺がきっちり時間を稼いでやる!!」
失敗すれば全員戦闘不能、けれどこの賭けに乗るしかないことはもう誰もが理解している。元々無茶苦茶な人が相手なんだ、こちらも無茶苦茶するしかない。奇跡でもなんでも、道理をひっくり返してでも、私達は全ての奇跡を掴み取って貫き通すしかない。
イグナイトモードでの、絶唱を束ねてみせる!!
「全員のフォニックゲインを私が束ねて――」
「私のアガートラームでエネルギーを調整、全員に再配置します!!」
セレナさんのアガートラームと私のガングニールで行う高密度のフォニックゲインを使ったギア強化。しかもイグナイトモードでのそれは正真正銘大博打だ。
けれど、バラルの呪詛が消えた今、私達は自由に繋がることが出来る筈だと了子さんは言った。
ならば信じて成功させる―――シンフォギアのエクスドライブ!!
―――♪……Gatrandis babel ziggurat edenal
―――Emustolronzen fine el baral zizzl
―――Gatrandis babel ziggurat edenal
―――Emustolronzen fine el zizzl……♪
全員での絶唱、更にそれをユニゾン、イグナイトの暴走出力で最大級のエネルギーを生み出し、更にそれを私の力で束ね、アガートラームの力で再配置する。
ウェル博士が以前言っていたらしい。
イグナイトモードの正反対。暴走ではなく、純粋な高密度のフォニックゲインを生み出すことで、シンフォギアはイグナイトとは別の進化が可能であるはずだと。
それがエクスドライブ。
私の束ねる力を見て了子さん達が考えた、シンフォギアの新たな決戦機能。
「ぐ……ぐぐ………ぅぅぅぅ!!!!」
八人分の絶唱負荷が私に一挙に押し寄せる。けれど、負けられない。私の想いは、私が夢見たことの輝きは、こんな逆境になんて負けやしない。束ねろ、バラルの呪詛が無くなった今、私達は正しく手を取りあえるはずなのだから。
「頑張れ、響!! アタシが付いてる!」
「そうだ、一人じゃないぞ!」
クリスちゃんが私の肩を支え、奏さんも、私に声を掛けてくれる。
「立花ッ……私もだ、己の心の弱さでお前を受け入れることが出来なかった……本当にすまなかった! だが、許してもらえるのなら―――今度こそ共に!!」
「翼、さん……!!」
そして、翼さんも。
けして分かり合えず、手を取り合うことが出来ず、ずっと心の壁があったけれど、ようやく今、同じ方向を向くことが出来ている。認めてくれるんですか、私を。
力が湧いてくる。
「何を――絆であれば、私達とて負けていない!!」
「そうデス!! そっちに負けないくらいの私達家族の力!!」
「強い絆と絆を合わせればもっと強く出来ると、私達も信じてる!」
「響さん、私達も貴女の手を取らせてください!」
マリアさん達も、私の夢を信じて、その力を預けてくれようとしている。
絆で繋がった家族――なんて温かい、本当に頼もしい。
お互いのことなんて殆ど知らない。でもその繋がりがきっととても強い力に変わると信じている。本当に、本当に、私はもう一人じゃないらしい。
「はあああああああああああ!!!!!」
もうなんだって出来る気がした。
そして、高密度のフォニックゲインが光となり私達を包み込む。身体に押し寄せていた負荷が全て消えていき、代わりに身体の奥底から溢れてくる力の奔流が私達の身体を包み込んでいくのが分かった。
「ハッ……それがお前達の力か!!!」
アダムさんの言葉に応えるように、私達は光の中から飛び出していく。
「エクスドライブ――――シンフォギアぁぁぁぁぁ!!!!」
飛ぶ、私達のギアは飛行能力を備えていた。光を纏い、形状の変わったシンフォギアは私達の意思をそのまま形に変えて動いてくれる。
師匠の攻撃をいなすアダムさんが、私達を見上げて笑っていた。
「ハハハッ!! ……だが、時間切れだ!」
「!?」
瞬間、ユグドラシルの建造物が地面に向かって大きな音を立てて下がっていく。
赤い静脈のような模様が光り、何かが始まったことを理解した。
「まさか! シェム・ハさんが!?」
「その通りだ、星の改造が始まるぞ――さぁどうする!!」
アダムさんの目は私達を試しているようだった。
この人を突破していくには時間が掛かる――どうする!? どうすれば!!
「くっ!」
「立ち止まるな立花!! やるべきことは変わらない、時間がないというのなら――最速でこの苦境を突破するのみ!!」
「そうだ! エクスドライブを成功させたんだ、今更怯んでどうする!!」
一瞬逡巡した私に喝を入れるように翼さんと奏さんがアダムさんへと向かっていく。クリスちゃんも上空からミサイルを構えて、マリアさん達も私に視線を送りながらそれに続いた。
そうだ、やるべきことは変わらない。戦うしかないんだ、手遅れになる前に走るしかない。
「ならば僕も見せよう、真の姿をね!! 見せたくはなかったけどね、出来ることなら!!」
「うわぁぁあ!!?」
「くぅぅぅ!!?」
けれどそんな私達の意思を覆すように、アダムさんの姿が変わる。巨大な異形の姿へと変わっていき、その威圧感が増す。エクスドライブ状態の今ですら簡単には突破できない壁として立ち塞がってきた。
まさかまだ上があるだなんて、これ以上どうしたら。
そう考えた瞬間、この場にいなかった別の人物の声が響いた。
「―――ここは私に任せて、先にいきなさい」
それは金色の髪を靡かせて、金色の瞳を鋭く細めた女性だった。
その手には完全聖遺物『ソロモンの杖』を持っており、もう片手には見覚えのあるトランクケースを持っている。
「了子さん!?」
「了子君!?」
「弦十郎君、私にネフシュタンを!」
「!」
その正体は、フィーネの姿をした了子さんだった。
了子さんは師匠の身に纏っていたネフシュタンを受け取ると、それを纏って戦闘態勢を整える。異形と化したアダムさんを打倒する手があるというのだろうか。
迷っている私を見かねて、了子さんは強い声で言った。
「早く行きなさい! 大丈夫、私の作ったシンフォギアと―――胸の歌を信じなさい!」
その言葉には強い意思が込められたいた。
バラルの呪詛が解かれたからだろう、私達は今まで以上に自分の心で通じ合うことが出来ている。だから分かる了子さんの心の中には、決意と覚悟があることが。
皆もそれが分かったのだろう、苦々しい顔を浮かべてから、一斉にユグドラシルにいるはずのシェム・ハさんの下へと飛んでいく。
私はそんな皆に少し遅れて、その背を追いかけた。最後に見た了子さんの顔は、とても優しい愛に満ちた笑顔だった。
涙が出そうなほどに。
◇
「……久しいな、フィーネ」
「そうだな、アダム・ヴァイスハウプト……まさか最後の最後でお前とまた戦う羽目になるとは、私も思っていなかったよ」
「フフフ……ハハハハハハハ!! そうだな、数奇な運命もあったものだ」
バラルの呪詛が無くなった今、フィーネもアダムも、此処で戦う理由はない。
お互いにお互いが憎しみで動いていないことを理解しているからだ。統一言語ではない、お互いの気持ちを汲み取ろうという意思が二人の間を繋いでいる。
アダムもフィーネも、互いにアヌンナキに対して深い悲しみと怒りを覚え、長きこの時を生きてきた。奇しくも、互いに愛を知って、愛の為に生きてきた二人だ。
だがだからこそ、その愛の為には貫き通さなければならないことがあると理解している。
アダムの持つ異形の真の姿は、完全な人類として生み出されただけあって、膨大なエネルギーを秘めている。そこに対抗するためには、フィーネも同じだけの力でもって対抗するしかない。
しかしカ・ディンギルは限界稼働のせいで最早使い物にならない。
「問おうフィーネ、何のために戦うのかと」
「……愛しいあの人が私を捨てたのではないことが分かった。寧ろ、私達を守るために戦っていたことを知ることが出来た……私の心に燻っていたどす黒い怨念も憎悪も、今はもうどうでもいい」
「ならば何故?」
「あの人が守ろうとした人類を―――私が見捨てられるものか」
月を感情のままに破壊し、バラルの呪詛を解除してしまった。
かの愛しい人、アヌンナキのエンキが命をとして人類を守るシステムを起動させたのに、それを自分が破壊してしまった。フィーネはその罪を重く受け止めていたのだ。
愛する人が守ろうとした人類、それを自身が守ることに、何の躊躇いがあるのか。
長い間、痛みだけが人を繋げる唯一のものだと思って生きてきた。それは自分が愛しい人から唯一与えられたものだと思っていたから。けれど違った、その痛みは愛ゆえの希望だったのだ。
ならばこそ、フィーネもまた愛こそが人を繋ぐ希望だと信じられる。
「いくぞアダム・ヴァイスハウプト―――長きにわたる私達の戦いを終わらせよう」
ソロモンの杖が輝き、大量のノイズが生まれる。
トランクケースから光り輝くデュランダルが姿を見せる。
そして、身に纏ったネフシュタンの鎧がフィーネの身体に融合していく。
「っはぁ……私も全力を尽くそう」
最後に自身が開発した『Elixir』を飲み干すと、己自身に大量のノイズを殺到させた。聖遺物との融合速度を『Elixir』によって促進させ、ネフシュタンと融合したフィーネの無限の再生能力で更にソロモンの杖と融合――そのコマンドワードによってノイズの身体を掛け合わせて生み出された巨大な形。
まさに黙示録の赤き竜が、そこに生み出されていた。
「これほどとは―――フィーネ貴様、死ぬ気か? 此処で!」
「私もお前も、先史文明期に生まれた過去の遺物……私はこの先の未来を、あの子たちが紡ぐ希望に託す……!! 此処で私と共に消えて貰うぞ、アダム・ヴァイスハウプト!!」
アヌンナキによって生み出された完全なる人類と、アヌンナキによって生み出された弱い人類の巫女―――どちらが人類として正しいのか、そんなことはどうでもいい。
互いに愛を知って数千年を生きてきた二人の終着点が、此処にある。
最終決戦も終盤ですね……。
◇
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