◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第六十五話 一匹の蟻

 アダムとフィーネとの戦いが始まった後、響達装者は全員でシェム・ハの下へと赴いてきていた。無数のユグドラシルの樹がゆっくりと地球隔壁の奥へと向かう中で、星の改造へと着々と準備を進めていたシェム・ハ。

 やってきた響達を見て、ハ、と短く笑い声をあげる。

 アダム・ヴァイスハウプトの障害を乗り越えてやってくるかどうか、それは装者についてよく知りもしないシェム・ハにとっては定かではなかったが、それでも超えてきたこと自体は称賛に値すると感じていた。

 

 アダムはそもそも彼女達が改造の末に作り上げた原初の人類だ。その性能と能力は全て把握している。シンフォギアがいかなる武装であろうとも、アヌンナキをして完璧とされたアダムを超えてくるというのは、中々どうして偉業といえた。

 

「誉めてやろう、我が袂まで辿り着くとはな」

「貴女を止めます」

「ハ、そうは言っても既に惑星改造の準備は最終段階まで進んでいる。バラルの呪詛が破壊され、人類が再び繋がれるようになった今……そのネットワークは我が手によって支配できる……シンフォギアが如何なる代物であろうと、我が支配から逃れることは不可能だ」

 

 シェム・ハが不敵な笑みを浮かべながら説明する。

 

 そもそもこの惑星改造のためのユグドラシルという装置を動かすために、人類は脳の進化に重きを置いた改造を施され、その過程でシェム・ハの因子を組み込まれた生き物だ。統一言語によって世界と繋がることが出来る人類は、いわば生体ネットワークで繋がった一つの巨大な脳。

 シェム・ハはその生体ネットワークでの演算能力を利用することで、ユグドラシルシステムを稼働、操作することを可能にしたのだ。

 

 かつてアヌンナキであるエンキがバラルの呪詛で人を引き裂いた理由は、その生体ネットワークの機能を封印する必要があったからなのだと。

 

「お前達がシンフォギアを纏っていようと、我が改造によって施されたネットワークから逃れることは不可能だ」

「なっ……!」

「それでも戦えるというのであれば―――やってみせよ」

 

 シェム・ハの言葉に応じるように、改造を施された大量の異形が姿を見せる。多勢に無勢と言わんばかりのその数に、響達はそれでも己が拳を握りしめた。

 8人もの絶唱エネルギーを万全の状態で束ねたエクスドライブ、その力は既にシンフォギアの機能を全て引き出している。今更その程度の雑兵であれば、大した障害にはなりえない。

 

 戦いが始まる。

 

 クリスの面による制圧攻撃によって大多数を減らした異形を突破して、響と奏と翼がシェム・ハへと接近。マリア達が数を減らした異形を殲滅しながら、その道を開いた。

 

「だとしても、だとしてもぉぉぉ!!! 何一つ手が無くたって、私達が戦うことを止めると思うなぁ!!!」

「ハッ! それは自暴自棄というものだ――お前達が束になって掛かってきたとしても、神の力を超えられるとは、思い上がってくれるな!!」

 

 響の拳を受け流し、奏の横薙ぎを躱し、翼の手元を抑えることで剣を止める。シェム・ハはかつてエンキを殺したが、同時に自身も相打ちによって死を迎えた。その肉体は滅び、封印された時点で現在はミイラとなっていた。

 だが安心院なじみはその不可逆を覆して、彼女本来の肉体にて彼女を蘇らせることに成功している。つまり彼女は、かつてのシェム・ハそのままの肉体と力を行使することが出来るのだ。

 

 その肉体性能はアダムの肉体性能を超え、秘められたエネルギーも能力も桁外れ。ましてやヨナルデ・パズトーリと同様、埒外の能力により不死身の力も保有しているのだ。シンフォギアのエクスドライブを以っても、肉薄するのが精一杯なのが現状である。

 

「この時代、この世界の痛みを消し去り、我が見るのはこの先の未来!! 一つに繋がることで手に入れる誰も痛みを感じることのない世界だ!!」

「そんなことしなくたって、人と人は手を取り合うことが出来る筈! 私は今まで全部取り零してきたけれど、今からだって! それを拾い直すことが出来ると信じてる!!」

 

 家族も、友達も、仲間も、先輩も、師匠も、幼馴染も、一度はその期待に応えることが出来ずにがっかりさせた。中にはバラバラになって離れてしまったものもある。

 けれど立花響は、それでももう一度その絆を繋ぎ直してきた。きっと本来の史実であれば一つ一つ乗り越えていったであろう絶望を一挙に受けて、それでも尚立ち上がることが出来たのだ。

 

 それは立花響の心の強さ。

 

 諦めない、未来への希望を紡いだ輝き。

 今更どんな絶望を前にしたところで、響は取り零すことを恐れない。取り零して尚、その全てを拾い上げて進むと決めている。

 

 歌を響かせて、シェム・ハに肉薄する。

 連撃にてシェム・ハを攻撃するが、その全てをシェム・ハは紙一重で躱しきり、逆にシェム・ハの攻撃も響はギリギリのラインで対処する。彼女の師匠は三人、珱嗄と弦十郎とヴィヴィオ、その全ての教えで培われた経験が今生きていた。

 ノイズでもない、巨大な敵でもない、人の形をした個人が相手。

 それは立花響が修行の中で最も想定していた敵の形である。

 

「はぁぁああああ!!」

「くっ……!」

 

 そんな彼女の攻撃には無駄がない。

 回し蹴りをしゃがんで躱せば、腰のブースターで空中姿勢制御をしながら軸足で前蹴りを繰り出してくる響に、シェム・ハは躱しはするものの冷や汗をかく。恐ろしく鋭い連続攻撃、どんな姿勢からでも攻撃を繰り出してくる自由自在な姿勢制御能力、そしてなによりガングニールというヨナルデ・パズトーリを打倒した神殺しの力。最も相性の悪い相手が最も手ごわい戦い方をしてくる。

 しかも、敵は響一人だけではない。

 左右から、背後から、後方から、響の攻撃を中心として援護する者達もいるのだ。ツヴァイウィングの連携は久々であるにも関わらず巧みで、響の作った隙を見逃さずに突いてくる。剣も槍も、形を様々に変えて迫るもの故に、同じ対処でどうにかなるわけでもない。

 

 もっと言えば、奏の纏うそれもガングニールなのだ。拳ならまだ対処のしようもあるが、槍という分かりやすい武器が相手となると、神殺しの性能は格段に危険度を増す。

 

「小賢しい!!!」

「うぐぁあッ!?」

「あぐっ!!」

「うぁあああ!!」

 

 付かず離れず攻撃を仕掛けてくる三人に痺れを切らしたシェム・ハは、そのエネルギーを放射することで三人を吹き飛ばす。アヌンナキとしての肉体にはほぼ無尽蔵のエネルギーが秘められている。ただのエネルギー放射だけでも、相当な威力を持っていた。

 エクスドライブ状態でなければかなり重いダメージだっただろうと思い、シェム・ハの底知れない力に息を飲む。

 

 それでも拳を握りしめて再度近づこうとした瞬間―――変化は起こった。

 

「戯れは此処までだ……バラルの呪詛が消えた今、人類に仕組んだ命と力を全て束ね、一にして全のシェム・ハによって凌辱してくれる」

 

 響と奏以外の全員がその動きを止めたのだ。

 シェム・ハの言葉を信じるのなら、神殺しの性質を持つガングニールを纏っているからかと思ったが、同じガングニールを纏うマリアまでが動きを止めている。ガングニールには等しく神殺しが宿っているわけではないのか、マリアがLiNKERによる装者故にその力を引き出せていないのか、分からない。

 けれど戦況が崩れたのは確か。

 響と奏の二人だけでアヌンナキとしての力を十全に発揮できるシェム・ハを崩すことは難しかった。

 

 全世界の人類がバラルの呪詛が破壊されて繋がっている今、シェム・ハはそのネットワークに干渉して改造を開始する。

 

「このままじゃ……!!」

「クッ……!!」

 

 焦りを募らせる響と、歯噛みする奏。

 

「ゲームオーバーだな、シンフォギア―――ガッ!?」

 

 残酷にもゲームオーバーを告げるシェム・ハ。

 だがその次の瞬間、そのシェム・ハの背後から紫色の閃光がその身を焼いた。その腕に身に付けていたアーマーの様な腕輪を破壊し、シェム・ハの身に集まろうとしていた人類の力が霧散する。

 突然のダメージになにが、と思ったシェム・ハが視線を向けた先――そこには、紫色のシンフォギアを身に纏った少女がいた。

 

 鏡をアームドギアに、周囲に紫色の光を携えて。

 

「その魔を払う光……『神獣鏡(シェンショウジン)』か……!」

 

 響はその姿を見て驚愕に目を見開く。

 彼女が此処にいることそのものが、響にとっては信じられない事実だったからだ。身に纏っているギアは何処で手に入れたものなのか、一体どうしてここに来たのか、その理由が一切理解出来ていない。

 

 だが確かに彼女は――小日向未来は、ここにいた。

 

「未来!!」

「響―――もう私も逃げないよ、私も響と一緒に戦わせて!」

「……! ……うん!!」

 

 バラルの呪詛が消えたことは残酷だ。

 危険だから逃げて欲しいという響の想いも、何があっても響と共にいるという未来の決意も、言葉を交わすだけで伝わってくる。響は、最早何を言っても未来の意思を曲げることが出来ないことを理解した。

 そして己をそこまで思ってくれる未来の心に、歓喜している自分を理解した。

 

 だがシェム・ハは疑問だった。

 

 確かに魔を払う輝きを持つ神獣鏡のギアを纏っているとはいえ、先のネットワーク干渉からは逃れられない筈。

 その干渉から逃れて自身に一撃を入れることが出来たその原因とはなんだ? それに、この場所へ辿り着くためにはアダムとフィーネの戦いを超え、配置しておいた異形の障害を越えてくる必要がある。

 エクスドライブでもない状態で、たった一人の力で此処まで来たにしてはあまりに早すぎる。

 

「貴様……どうやって此処に……!?」

 

 だが、それこそが珱嗄の仕組んだ策の一つだった。

 安心院なじみの策は緻密で、何千年以上も前から仕組まれていた打ち崩すことの出来ない策である。それを打ち崩すためには、珱嗄もまた密かに策を張り巡らせる必要があった。

 故に球磨川禊からの干渉を元手に、異世界人を仲間に引き込んだ。

 そしてヴィヴィオから響と未来を保護していること、クロゼからF.I.S.で管理している聖遺物の中に『神獣鏡』があること、十六夜から『神獣鏡』の詳細を、それぞれ教えてもらった段階でソレを活用することを考えていた。

 

 そして、ヴィヴィオが匿っていた未来に『神獣鏡』を与えたのだ。珱嗄のスキルでシンフォギアのペンダントへと形を変え、未来の『神獣鏡』に対する適合係数を引き上げるためにその身体にスキルで多少の細工を施していたのである。

 故に今の未来は一時的に――人類の中で最も『神獣鏡』の適正を持つ人間となっていた。

 この戦いが終われば、その適正は元に戻るだろうが、元々装者ではない未来にとってはそれで十分。

 

「でも未来、どうして……」

「うん……これは、珱嗄のおかげ」

 

 響達の傍に降り立った未来に、響がシェム・ハと同様の疑問を投げかけるが、未来は思い出すように珱嗄のおかげだと述べる。

 先のネットワーク干渉に未来が囚われなかったのは、先に珱嗄による肉体干渉を受けていたからだ。シェム・ハの干渉で肉体の支配を得られないほど、珱嗄の力が強かったということである。

 

「だがその力はあくまでシンフォギア! 此処へ辿り着けるはずが……!」

「―――そこはまぁ、ボクの協力があれば問題なかったよ」

 

 動揺するシェム・ハの言葉を遮るように、未来がやってきた方向からまた別の声が聞こえてきた。呑気な声で話しながら、その手に持っていた異形の生物を千切って捨てる。

 

「珱嗄はこういう状況を読んで、ボクをその子の護衛に付けたんだ。元護衛軍としては、こういう役割はお手の物だけどね」

 

 そう言って姿を現したのは、癖のある白髪に猫耳を生やした人間とは言えない見た目の女? だった。足の関節やその見た目から一瞬オートスコアラーかと思ったが、確実に生物としての命がある。

 人類ではない、けれど人類と同じ知能を持っている別種の生物。

 

「昔珱嗄と一緒に旅していた時、正体を隠さないといけなかったからね。こっちで目を覚ましてからはずっと念の応用で猫の姿になって存在を隠してたけど……ようやく自由に動けるようになったよ」

「猫……だと?」

「偶然だったけど……おかげで安心院なじみにも知られない異世界人として、珱嗄と接触出来た。まぁ、ボクは人じゃなくて蟻だけどね」

 

 そう、彼女はかの安心院なじみもその存在を知ることがなかった異世界の存在。かつて珱嗄が最強ではなかった頃、珱嗄と共に長い時を旅した蟻の一匹。珱嗄が最強になっていく過程で、その傍にいたパートナー。

 

 彼女が小日向未来を守り、この場へと連れてきたのだ。

 

 それが珱嗄が仕組んだ策の一つ。

 

 

「自己紹介しておくね―――ボクの名前はネフェルピトー……よろしくニャン♪」

 

 

 彼女こそ偶然を産物を味方に付けた珱嗄の、逆転の一手である。

 

 




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