◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
読んでない方は前々話からどうぞ。
「……どうしても、一緒にはいられないんだね」
「ああ、どうしてもやらなきゃいけないことがある。悪いな未来ちゃん―――俺と別れてくれ」
珱嗄は最後の戦いの直前、私にだけ――全てを明かしてくれた。
◇ ◇ ◇
全ての戦いが終わり、珱嗄が今まで失われていた全てを取り戻してから、世界には正真正銘の平穏が訪れていた。
長い歴史の中で起こっていたノイズの出現も、『ソロモンの杖』が二課の手の内にある以上起こることは無くなり、その杖自体も今はフィーネと融合して誰にも奪えない状態にある。錬金術師によって生み出されていたアルカ・ノイズも、アダム・ヴァイスハウプトの指揮の下、パヴァリア光明結社の中で秘密裏にレシピも召喚結晶も全て廃棄された。
元々善人として生きてきたアダムの作った組織故に、執着を見せるものはおらず、これから時間を掛けて緩やかに解体されていくことが決まったらしい。
またキャロルも、安心院なじみによって蘇った父親と無事に再会。オートスコアラー達やエルフナインと共にリディアンの地で平穏に生活を始めている。とはいえ生活費は稼がなければならないので、エルフナインと共に二課に協力しているようだ。オートスコアラーという人命救助において多少危険な場所にも赴ける戦力を得たことは、二課に取っても僥倖である。
キャロルの父イザークは、この時代に慣れるために、目下勉強中とのこと。
『F.I.S.』の面々は目的を達成した以上不必要として既に組織を解体し、装者は二課の戦力として所属、ナスターシャやウェル博士はそのまま二課の聖遺物研究員としてフィーネと共にその辣腕を振るっている。
マリア、セレナ、切歌、調の四人は、珱嗄の用意したレセプターチルドレンの引き取り先に、一人一人残されたレセプターチルドレンを預けるという手続きをしつつ、二課の仕事に励んでいる。最近では響、クリス、翼、奏とも打ち解け、装者だけで遊びに行くこともあるようだ。
サンジェルマン達は、バラルの呪詛が消えたことで、あとは響の言葉を信じて人類の行く末を見守ることにしたらしい。今はアダムの下でパヴァリア光明結社解体の手伝いをしている。キャロルとの関係もあり、二課とは未だに交流を取っているらしく、緊急時は力を貸す協力体制を組んでいた。
シェム・ハに関しては、人間の身体を与えられ、二課の聖遺物研究に力を貸しているようだ。元々異端技術の根元たるアヌンナキである彼女の知識は、研究者達からすれば宝の山だろう。今は聖遺物を科学の力で、人類平和の為に役立てる方向で研究を進めている。
今のところ、人類の可能性に関しては目下観察を続けるようだ。
そして二課は、全ての戦いを終えた後、様々な手続きを経て要災害救助に出動する機関としてその組織の役割が変更された。結果特異災害特別対策本部ではなく、呼称名を超常災害対策機動部タスクフォースとして『Squad of Nexus Guardians』と変更する。
略称を『S.O.N.G.』
リディアンだけでなく、国外も含めた幅広い範囲で活動を許され、災害が起こった場所での救助活動をメインとして動いている。シンフォギアや錬金術師を要するこの組織をもってすれば、大抵の悲劇は回避できるであろうという目算もあった。
その際風鳴訃堂が苦言を呈したものの、日本という国の一組織がシンフォギアや錬金術の最高峰の人材をこれだけ抱えて動ける、その事実の有益さを提示すれば、黙らざるを得なかったようだ。これも珱嗄の考えた通りの顛末である。
色々なことがあったものの、今では戦ったもの同士が手を取り合って人類の為に一丸となって尽力している。
敵同士だった者達が、共に食事を取ることもある。世間話に花を咲かせることもある。共に歌うこともあれば、共に遊ぶこともある。こんな光景を作るために、どれだけの力が必要なのかを、彼女達は知っている。この今が、どれほど尊い日常なのかもわかっている。
噛み締めなければならない。
かつてあの泉ヶ仙珱嗄が告げた事実を、乗り越えなければならない。残されたものとして、それがあの人外の望んだことなのだから―――
◇
全ての戦いが終わったあの後、珱嗄の口から告げられた衝撃の事実を飲み込むことは、誰一人として出来なかった。言葉にならない衝撃に口をパクパクさせる全員の中で、なんとか言葉を発したのは、響だった。
「どういう……こと? 珱嗄が死ぬって……!?」
そう、全員それが知りたかった。
別に珱嗄と仲がいいわけではない、珱嗄が死ぬことに絶望するほどの縁もない、けれどこれほどの奇跡を起こし、全てを救い、そしてその存在の凄まじさを見せつけた男が死ぬ。そんな事実が信じられないのも確かだった。
それは異世界人の面々も同じようで、珱嗄の言葉に驚愕している。特に拘束されていた安心院なじみは、バインドも突き刺さっていたマイナス螺子も破壊して、珱嗄に詰め寄るほどだった。
「珱嗄!! どういうこと!? なんで……!!」
「……落ち着けなじみ、そもそもこれは決まっていたことだ」
「意味が分からないよ!!」
詰め寄るなじみに珱嗄が言ったのは、コレは確定していたことだという事実のみ。それに対して髪を振り乱して声を荒げる安心院なじみに、珱嗄は苦笑した。
そしてスッと立ち上がると、その手で弄んでいた光の針を見せるように差し出して見せた。全員の視線がその針に向かい、それはなんだと言わんばかりに珱嗄へと視線が戻る。
「……俺は、元々はただの高校生だった。神様の世界の偶然で、この針が俺の心臓を突き刺し、俺は一度死んだ」
「……死んだ……それで、他の世界に転生したということか?」
「その通り、俺は死後神様に会った。そこで誤って死なせてしまったことを謝罪され、その代償に別世界への転生という道を提示されたんだ。そこで俺は転生するに当たって、強靭な肉体や能力を貰って様々な世界へと転生する人生を始めた」
「あの馬鹿げた身体能力はそういうことか……ま、使いこなすための努力や経験は珱嗄自身の研鑽なんだろうが」
珱嗄の語るそれは、誰も知らない珱嗄の原点。
転生を始める切っ掛けになった時、時間にして数兆年以上も昔の出来事である。珱嗄はそこからさまざまな世界へと転生し、そこで多くの人と出会い、多くの戦いをし、多くの経験を積み、多くの娯楽に触れ、多くの人生を送ってきた。
そして最後にやってきたのがこの世界。
「俺はこの世界を最後にすると決めて、全ての力を手放してこの世界に転生した。記憶を失ったのはおそらく、この身体が普通の人間と同じものであるせいだ。常人に何兆年もの時間を過ごした記憶なんて記憶していられるはずがないからな。まぁこうして記憶を取り戻したわけだが……おかしいよな? 記憶を取り戻せたこともそうだが、全ての力を手放したはずなのに、記憶を取り戻したからといって今までの全ての力が使えるっていうのもおかしくないか?」
「確かに……どうして」
「答えはこの針にある」
珱嗄は問いかける。己の境遇を語った上で、何故自分に今までの世界の力が使えたのかという疑問。記憶を取り戻す、それはまだわかる。常人には耐えがたい量の記憶を取り戻して尚正気でいられるのも、まぁ珱嗄の精神力ならばまだあり得るのかも、と思えてしまうから。
だが能力に関しては別だ。
各世界の能力は全て神によって回収されているのだ。この世界には存在せず、珱嗄の中にも存在していないものの筈。なのにどうして珱嗄がそれを行使できたのか。
それは、珱嗄の持つ針に秘密があった。
「これは『トルニチェライカの針』って言ってな……俺の世界の神話で、古き神の欠片として生まれた71の姉妹の中心、トルニチェライカって存在の髪で作られたとされる針だ。その性質は、あらゆる世界の中心を指し示すというもの」
「古き神……キュトスのことだな」
「『何それ、十六夜君』」
「人類が生まれる前にいたとされる、死を禁じられた神だ。そいつの死後にキュトスの欠片として生まれたのが、トルニチェライカを含めた71人のキュトスの姉妹だ。トルニチェライカはその姉妹の丁度真ん中、36番目の姉妹であり、中核を担う者とされてる」
「でも、それがどうして珱嗄に……?」
珱嗄の語ったことを、十六夜が補足すると、響が何故そんなものが珱嗄の心臓に刺さったのかという疑問を提示する。
それもそうだろう、どんなに特異な針だとしても、針は針だ。誰かが動かさなければ動くことはないし、まして人間を貫くなんてことがあるだろうか。
その場にいる全員がその疑問に答えを出せない中、珱嗄はその答えに気が付いていた。
「それはな響ちゃん―――"俺"が、この全ての世界の中心だったからだよ」
コレから珱嗄が語るのは、珱嗄が転生した全ての世界がフィクションであったこと、そして珱嗄がそれらの世界をフィクションとしていた世界から来た存在である、ということそのものを覆す事実だった。
珱嗄は自分自身の、全ての世界の中心だと言った。
「この針は、あらゆる世界の中心を指し示す。そしてその世界の中心には、『紀元槍』というありとあらゆる世界とそこの存在する全ての存在を支える、神話上の強力な根元的概念があるとされているんだ」
「それって……」
「そう、この『トルニチェライカの針』は、その性質に則って俺を刺しただけに過ぎなかったってことだ。偶然でもなんでもなく、必然としてコイツは俺を指し示したんだ」
それはつまり、珱嗄という存在そのものが―――『紀元槍』であるということだ。
「俺は今まで、現実の世界からフィクションの世界に転生し、フィクションとノンフィクションの間を行き来できる曖昧な存在として、生きているんだと思っていた。けれど違ったんだ。俺が元居た世界を含めて……この世界は設定で構成されていたんだよ」
「珱嗄の世界を、含めて……!?」
「そう、つまり俺も―――"あらゆる漫画の世界へ介入する転生者"……っていう『設定』の下生み出されたキャラクターだったってことだ」
それは、珱嗄という存在の認識を根本から覆す。
珱嗄という存在そのものが、更にフィクションの設定によって生み出されたキャラクターである。それは果たして、現実という世界が存在するかどうかすらも怪しくなる事実だ。
しかし珱嗄の語ることが真実であるのならば、確かに色々な説明が付けられる。
珱嗄が特典ではなく、本来持っていた肉体がもしも『紀元槍』であるのなら、つまり珱嗄自身がそもそも人間でありながら、高次元の聖遺物だ。ノイズが珱嗄を無視したのも、珱嗄がノイズに触れることが出来たのも、そういうことなら納得がいく。
もっと言えば、珱嗄が様々な世界に転生出来るのもそうだ。
ヴィヴィオが他の世界に干渉できなかったのに、珱嗄が出来た理由。安心院なじみの様にメタフィクションを超越出来る設定を持っているわけではないとするのならば、それは珱嗄が全ての世界の中心であるから、つまりはありとあらゆる世界に対して中立の存在であるということだ。
どんな世界に対しても干渉することの出来る中立性がある珱嗄は、どんな世界にも存在出来たのだ。
そして今回珱嗄が今までの世界で得た能力を使えたのも、珱嗄が全ての世界を支える中核であるなら理解できる。全ての世界の中心であるならば、珱嗄という存在は常に全ての世界に触れているということだ。そこから力を引き出すことが出来てもおかしくはない。
「けど、あくまで俺の身体は性質こそ異質であっても、その強度や能力は人間と大差ない。以前の肉体ならまだしも、この身体で人外の力を行使すれば、その負荷に耐えられるはずもない……既に、俺の肉体は緩やかな崩壊を始めている」
「そん、な……じゃあどうして力を使ったのさ! それを話してくれれば、珱嗄がやったことくらい、僕にだって出来たのに!!」
珱嗄の言葉に最も感情を露わにしたのは、他ならぬ安心院なじみだった。
珱嗄が記憶を取り戻してからやったことは、別に珱嗄がやらなくても誰かが変わることが出来た。サンジェルマン達を倒すことも十六夜なら容易に出来たし、神の力を封じることもヴィヴィオが封印魔法を行使すればできたかもしれない。ユグドラシルシステムを消し去り、全てを無かったことにすることも球磨川なら出来た。
そしてこの場で謝礼として返還すると言ったその全ても、安心院なじみならば同様のことが出来た。
なにもかも、珱嗄がやらなくても良かったことだったはずなのに。
「なじみ、俺は嬉しかったんだよ……今まで頭のどっかでお前らと俺は世界を異なる存在と思って生きてきた。そこには絶対に触れ合えない領域があって、飛び越えられない境界線があるように思っていたんだ」
「っ……」
「けど違った。俺もお前らと同じ『設定』を持ったキャラクターだった。それはつまり、お前らと同じ現実を生きる存在だったってことだ」
珱嗄は言う。己が記憶を取り戻した時に、それに気づいたこと。そしてその事実を知って、自分の心が現実を感じられたこと。この現実を全力で楽しみたいと思ったことを。
―――俺がクロゼと親友になったのは、嘘じゃなかった。
―――俺がピトーとの旅を楽しいと思ったのは、嘘じゃなかった。
―――俺がヴィヴィオを娘として愛したのは、嘘じゃなかった。
―――俺が安心院なじみを恋人として愛したのは、嘘じゃなかった。
―――俺が十六夜達と箱庭を駆け抜けた喜びは、嘘じゃなかった。
―――俺が、俺が、俺が………俺が今まで生きてきた全部が、嘘じゃなかった。
その全てが嬉しかったということを。
娯楽主義者として生き、娯楽主義者として存在してきた全て、砕かれていたと思ったその生き方は嘘じゃなかった。珱嗄の人外性も、精神性も、生き方も、思想も、全てはフィクション上の設定で、キャラクターとしての個性だった。
だが、それがとても嬉しかったのだ。
「俺はお前らと同じ世界を生きた、世界一幸せな人外だった」
だから珱嗄はこの世界で、完膚なきまでの大団円を迎えたいと思った。敵も、味方も、モブの全てですら救い上げて、自分自身が消えたとしても、その先を生きるフィクションの行く末を少しでも良いものになるように力を尽くしたのだ。
「これは俺の感謝だよ、なじみ。俺がやりたいと思ったから、そうしたんだ」
「珱、嗄ぁ……!! どうして……!」
泉ヶ仙珱嗄は消えていく。
その事実だけは、決して変えられないのだということを、この場にいる全員が理解した。安心院なじみのスキルであっても、どんな聖遺物であっても、珱嗄の肉体の崩壊を止める術はないのだろう。それは、安心院なじみの涙が証明している。
残り一週間もしない内に―――この物語の『設定』に準じて、珱嗄が消えるのだ。
だがこの場にいる全員が、それを不幸だと思わなかった。
寧ろ、珱嗄に対して感謝すら覚えていた。フィクションの中のキャラクターであること、この人生が全て偽物であることに、誰もが絶望したというのに、
「君は……フィクションだからこそ、幸福だと言うのだな」
偽物であることを幸福だと言い切った珱嗄の言葉を聞けば、そんな絶望は吹き飛んでいた。偽物でもいい……誰かの物語の中で、自分たちは必死に戦い、この結末を迎えているのだ。ならば偽物だっていい……それを幸福と、自分達が思うのならば。
泉ヶ仙珱嗄の人生は、偽物でありながら真実だったのだから。
「珱嗄……っ……う、ぁああ……!!」
「……」
そしてその中で、響と未来だけが涙を流していた。
声を上げ、嗚咽と共に泣く響と、全てを覚悟の上で何かを我慢するように唇を噛み、静かに涙を流す未来。この世界で唯一、珱嗄が親しくしていた幼馴染と恋人。他の面々と違って、珱嗄がどんな存在であっても、別れが辛いと思うのは当然だった。
珱嗄はそんな二人を見て、苦笑する。
そしてその上で、本題に入るようにそこでだ、と空気を切るように告げた。
「やはり最後は、面白いことがしたい」
―――付き合ってくれるか?
泉ヶ仙珱嗄はとても楽しそうに、それはそれは幸せそうに……ゆらりと笑った。
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