◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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明けましておめでとうございます。


第七話 対ノイズ性

 珱嗄と公園で待ち合わせをしてから、私は心に重石が乗っているような感覚を振り払うようにまっすぐ公園目指して駆けた。

 周りを見ずに走ってきたからどこをどうやって来たのかは覚えていないけれど、慣れ親しんだ道だったからか気付いた時には近くまでやってこれていて、息を整えるために歩きながら公園の入り口へと向かう。

 走ったことで疲れたのと、頭の中でぐるぐると嫌な想像ばかりが浮かんで、自然と視線は地面へと向けられていた。

 

 すると、そこへ人のものとは違う柔らかな足音が複数聞こえてくる。

 普段中々聞かない音に自然と顔があがり、地面へと割かれていた視界が今まで見えていなかった前方の景色へと移動した。

 

「なっ……!?」

 

 そして私の視界に入ってきたのは―――死神(ノイズ)だった。

 

『―――』

 

 ぐにゅぐにゅと動く度に奇怪な音を発する怪物たちは、問答無用で私に襲い掛かってくる。私は足が竦んで動くことができなかった。

 

 死ぬ―――……一秒後、私は塵となってこの世から消える。

 

 死に直面して脳が活性化しているのか、動くことはできないけれど、ノイズの動きがゆっくりに見えた。少しずつ私の身体に近づいてくるノイズの触手、あと数十センチという距離が埋められようとしている。

 けれどその瞬間、視界に青黒い色が入ってきた。

 硬直して動かない私の身体が温もりに包まれ、大きく後ろへと跳ぶ。視界いっぱいにいたノイズたちが遠くへと移動し、地面を掴んでいた私の足はいつのまにか空中に浮いていた。

 

「―――……え?」

「ふー……間に合ってよかった、怪我ないか? 未来ちゃん」

「おう、か……?」

「そうだよ、珱嗄さんだよ」

 

 そこまできてようやくスローモーションだった私の時間が元の時間に戻ってきた。

 珱嗄が助けてくれたことを理解すると、反射的にか、忘れていたように大きく息を吸い込んだ。

 

「お、珱嗄……逃げなきゃ!」

「うん、とりあえず未来ちゃんは出口に向かって走れ。こいつらは俺が相手するから」

「何言ってるの!? ノイズに触れたら死んじゃうんだよ!?」

「わかってるよ……大丈夫だから、行って」

 

 珱嗄が何を言っているのかわからなかった。

 ノイズに触れてしまえば炭素になって死ぬ。そんなこと小学生でも知っている一般常識だ。ましてやついさっき珱嗄が助けてくれなければ私もそうなっていた。

 

 それを知って尚、珱嗄は私を逃がそうとしている。

 

「嘘! 大丈夫じゃないでしょ!?」

「嘘じゃないよ……本当にどうにかする手段はあるんだ。いいから早く走れ」

 

 見ればノイズは珱嗄を前に全然動く気配がない。緩慢な動きでうろうろするだけになっていた。目の前に襲う対象がいるというのに、どういうことだろう。

 珱嗄が何かしているのだろうか、だとしたら何故珱嗄はノイズに干渉する手段を知っている? 本当にどうにかする手段があるというのだろうか?

 

 珱嗄の目が一瞬こっちを見た。その視線に、私は珱嗄が嘘を言っていないと感じる。

 

「嘘だったら……怒るからね……!」

「ハハ、了解」

 

 私は言いたいことを呑み込み、へたり込んだ状態から力強く立ち上がって走り出した。入ってきた公園の出入り口へと向かい、陸上をやっていた時と同じ位の集中力で身体を動かす。きっと火事場の馬鹿力なのか、陸上をやっていた当時の自分よりも速く走れているような気がした。

 私が走り出したからか、背後からノイズの動く気配がする。けれど、振り返っている暇もなければ余裕もない。私は珱嗄を信じて、ただ前へと走ることに全力を尽くした。

 

 出入り口に設置されていた防止柵のポールをハードルのように飛び超える。

 

 そして入り口前の道路を曲がって、公園から少しでも離れるべく足は止めない。そこでチラッと見えたのは、珱嗄がノイズを投げ飛ばしている光景だった。

 

「え!?」

 

 足が止まる。今までにないくらいの集中力が一気に霧散するのを感じた。寧ろこけそうになったくらいだった。

 触れたら死ぬノイズをどうにかする手段が、ノイズを掴んで投げるという暴挙。思わず目が飛び出しそうになるくらい驚愕するに決まっている。

 

 足を止めた私は、ぽかーんと開いた口を閉じることなくその光景に呆然としていた。

 触れたら死ぬんじゃなかったの? どうして珱嗄はノイズを投げ飛ばしているの? 夢? 漫画みたいな光景なんだけど? ノイズが宙を飛んでいるんだけど。

 

 そんなことばかり頭をぐるぐるして、先程ノイズに殺されかけた時とは違う意味で動くことができない。状況が一切許容できないでいる。

 

「なにこれ……?」

 

 そうして私はノイズが自壊するまでの間、最早珱嗄がノイズでお手玉しているんじゃないかという光景を呆然と見続けていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ノイズが自壊した後にやってきた数台の黒い車からは、珱嗄の予想通り二課の職員が姿を見せた。二週間前、珱嗄が事情聴取を受けた時にいた顔がちらほらといる。

 向こうは珱嗄も覚えていないだろうと思っているかもしれないが、珱嗄はあの日にあの場にいた職員の顔を殆ど覚えていた。

 

 そして車に遅れてバイクに乗った翼もやってくる。おそらくはノイズ撃退の為に出動してきたのだろうが、出番はなかったということでシンフォギアを纏ってはいない。

 響の姿がないのは、弦十郎たちが珱嗄との接触を妨げた結果だろう。

 調べれば珱嗄と響が幼馴染であることくらいすぐにわかるのだ。珱嗄はなんとなく響が二課に関わっていると予想しているが、響が珱嗄と二課の関係を知って動揺させないように配慮したのだろう。

 

「珱嗄!」

「ああ、無事だったか未来ちゃん」

「無事だけど……もうなにがなんだかわかんなくて……」

 

 未来が珱嗄に駆け寄り、パニック状態のままわかりやすく困惑していることを伝えてくる。そんな未来に珱嗄は苦笑しながら、必死に走ったからか乱れた未来の髪を手櫛で整えた。自分の髪を整えてくれる珱嗄に未来は一瞬驚きつつ、自分よりも大きな手の温もりに逸っていた鼓動が落ちつくのを感じる。

 そうして珱嗄が未来のリボンをきゅっと付け直すと、未来はすっかり平静を取り戻すことができていた。逆に顔が熱くなるのを感じるものの、嫌な気分ではない。

 

「珱嗄、さっきノイズに触れてたけど……大丈夫なの?」

「うんまぁ、これといって怪我はないよ。響ちゃん風に言うなら、へいきへっちゃらってやつだ」

「そう……よくわからないけど、良かった」

 

 未来は珱嗄が手のひらをひらひらと揺らしながら平気だと示したことで、ホッと胸を撫で下ろした。そんな未来を見て、珱嗄はその手を未来の頭にポンと置く。少しだけクセのある未来の黒髪をくしゃりと撫で、珱嗄は心配かけてごめんねと一つ謝った。

 

 するとそこへ二課の職員がおずおずと話しかけてくる。

 

「良い雰囲気の所すみません、少しお話を伺ってもよろしいですか?」

「あ、ご、ごめんなさい……」

「うん、良いよ」

 

 ノイズの対処にきた二課の職員だったが、思わぬ形でノイズが消滅していたので話を伺いたいようだった。

 未来は恋人のやりとりを見られて恥ずかしかったのかパッと離れ、珱嗄は照れた様子もなくそれに頷いた。自分だけが恥ずかしい想いしたからか、未来は若干珱嗄をジト目で見上げながらむくれた顔をする。

 ソレをスルーして珱嗄は職員を話をし、一人ずつ話を聞きたいということで、まずは珱嗄が先に話をすることになった。

 

 そして未来が唇を尖らせてむくれているのを見て、珱嗄はまた苦笑する。

 

「そうむくれないでくれ。俺もあまり柄じゃないなって思ってるよ」

「その割には手馴れてるみたいだけど?」

「未来以外に恋人がいたことなんてないのは知ってるだろ?」

「……もう、ずるいんだから」

 

 珱嗄がむくれる未来を優しく抱きしめると、未来は口調だけは不服そうだが、表情はどんどん緩んでいく。結果、珱嗄のことを許してしまっていた。惚れた方が負けとはよく言ったもので、未来は珱嗄に甘い。

 

 苦笑しつつ、珱嗄は二課の職員に付いていく。おそらく車の中で話を聞くつもりなのだろう。するといつの間にか車内に乗り込んでいた翼と目が合う―――どうやらただの事情聴取という訳にはいかなそうだった。

 そして車に向かって歩く最中で、珱嗄は公園を見下ろせる高台の方へと視線を送る。そこには誰の人影もないが、珱嗄の口元は緩やかに弧を描く。

 

「そろそろ……面白くなりそうだね」

 

 誰にも聞こえないような音量で、珱嗄は呟いた。

 

 

 ◇

 

 

 珱嗄たちが事情聴取を受けている中、二課の司令本部では困惑した空気が流れていた。

 当然だろう、ノイズを相手に素手で戦う民間人など非常識でしかない。しかも何が困惑するかって、珱嗄とノイズの戦闘において聖遺物の反応が一切感知されなかったことだ。

 

 二課ではシンフォギアを扱っている故に、聖遺物の扱いに関しては他組織よりも一歩抜きんでている。

 シンフォギアとは核となっている聖遺物の欠片のエネルギーを、装者の歌の力で増幅させ、そのエネルギーをバトルスーツへとと再構築したもの。そして詳細は省くが、シンフォギアの持つ機能によってノイズと戦うことを可能としているのだ。

 その際にシンフォギアとなった聖遺物の欠片から感知されるのが、アウフヴァッヘン波形という個々の聖遺物によって異なる波形パターン。

 二課ではそれを感知することで、如何なる聖遺物であろうとも起動したことをすぐに知ることができる。

 

 つまり、珱嗄が聖遺物を使ったのならすぐにわかるのだ。

 

 しかし、今回珱嗄がノイズとの戦いを繰り広げている最中に聖遺物の反応はなし。正真正銘身体一つでノイズと戦ったということになる。

 

「どういうことだ……?」

「聖遺物の反応がない以上、彼自身の身体がノイズの特性を無効化する何かを持っている可能性があるわね……もしくは、聖遺物とは違う超常の力を持っているか……」

「以前此処に彼が来た際、佇まいやその身体つきからよく鍛えられているとは思ったが……今回の戦いを見ても、身体能力的に人間の枠を超越したものではなさそうだった……無論、高い身体能力であることは間違いないが」

「……見れば見る程、異質な子ね……泉ヶ仙珱嗄君」

 

 弦十郎と了子は珱嗄の戦闘データと映像を見ながら、そう分析する。

 聖遺物ではない超常の力を使っているのなら、此方が感知できないのもあり得ない話ではないが、パッと見た感じでは高い身体能力と戦闘技術を持ってはいるものの、人間の域を超えた部分は一切ない。

 彼の身体そのものに何かしらの対ノイズ性があるとするのなら、ソレを調べるためには詳しい身体検査を行う必要がある。

 

 現状、弦十郎たちには珱嗄という存在をどうするかの結論が出せない。

 

「民間人である以上、下手に手出しできない所が歯痒いな」

「そうね……でも私たちの仕事はノイズによる被害をどうにか食い止めることよ。響ちゃんや翼ちゃんのこともあるし、今はできることからやっていきましょ♪」

「ふー……そうだな、今は彼に話を聞きにいかせているし、念のため翼も付けているからな。彼に関しては情報を待つとしよう」

 

 弦十郎は眉間に寄った皺を解すように息を吐くと、その太い首をコキコキと鳴らしながら気持ちを切り替えた。

 

 

 




改めまして、明けましておめでとうございます!
昨年はオリジナル作品も書籍化を達成し、珱嗄シリーズも最終作ということで、作家として一つの節目となった良い一年になったのではないかと思っております。
また、自分の中でもやりたいことや表現したいことが増えて、今年はそれが形になるよう全力を尽くしたいと思っています!

2020年、オリンピックなどの大きな変化を迎える年。

私自身も表現者として大きく成長し、結果に繋がるよう精進致しますので、今後とも応援よろしくお願いいたします!

今年も一年、皆様にとって良い年になるよう祈っております。

こいし

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