◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
戦いが始まって、誰もが笑顔を浮かべながら戦って、そして一人ずつ倒れていく。
珱嗄は最強無敵の男。今までの世界で出会った全ての者が集まったとしても、倒しきることは出来ない―――それほどに彼は強かった。
既に集まった異世界人も半分以下へと数を減らし、残っている者も少しずつ倒されていく。
珱嗄は駆け続けた。未だ激しく迫る攻撃を潜り抜けながら、それでも心の底から楽しそうに笑って走り続けていた。だが全身から汗を流し、息も切れている。更には能力の使い過ぎか、身体の至る所に罅割れのような亀裂が走っている。
珱嗄自身の肉体も、限界が近いようだった。
「はぁっ……はぁっ……!」
「はぁ……はぁ……」
この場において最も疲弊しているのは珱嗄だ。けれどこの場にいる異世界人たちもまた、疲弊している。魔導士であるなのはたちは既に魔力切れを起こし、今や直接的な攻撃手段を失ってバインドなどのサポートに回っているし、珱嗄が早々に退場させた故にメルエムやネテロ、ヒソカ、ゴンにキルアも倒れ伏している。学園都市から来た能力者達も流れ弾にやられたり、珱嗄によって気絶させられたりで既にほぼ全滅しているし、めだか達も不死性を持つもの以外は倒れていた。
今残っているのは、中でも無類の耐久力や防御能力を持つ者や、不死性を持つ能力保持者たちが殆どである。
ここまで集まって尚、珱嗄という存在は立ち続けていたのだ。
「そろそろ……はぁ……限界なんじゃないのか珱嗄?」
「わはは……いやいや、こんなにギリギリなのは初めてだ……はぁ……はぁ……良いな、こういうの……身体が燃えるように熱いし、今にも崩れそうで痛いし、足が重いよ……本当、絶好調だぜ」
「そうかよ……だが、ここまでだ」
全員が息を切らして此処に立っている。
珱嗄がそれでも笑って見せるが、十六夜が追い詰めたとばかりに宣言した。瞬間、そこに集まってきたのは、現在生き残っている者達。
「やっぱ、お前らは残るよなぁ……はぁ……こうなる前に潰しときたかったんだが、流石にきつかったか」
「……」
珱嗄の目の前にいるのは、十六夜を始め、安心院なじみ、球磨川禊、黒神めだか、高町なのは、ヴィヴィオ、
珱嗄にとって、どれも厄介な能力を持った人物達だった。
スキルによる防御や身体能力がなければ、どれも珱嗄に致命的な隙やダメージを与えうる者達である。だからこそ珱嗄は、先に脅威となり得る者達を倒して回っていたのだ。
彼らが生き残ったのは単に、その意図を見破って終盤に残すべくその者を守った者がいたこと、純粋にやられることなく立ち回った者であること、そしてそもそも集まった人数が多かったことが原因。
流石の珱嗄とて、身体が崩壊しないよう力をセーブしながら戦うのでは、あれだけの数を相手に上手く立ち回るのは厳しかったらしい。
絶体絶命のピンチ、というべきだろう。
「はぁ……すぅ……ふー……さて、あと一踏ん張りか……」
崩れ落ちそうな膝を抑えて、珱嗄は大きく呼吸を整える。
此処からはなのは達魔導士のバインドに捕まってもダメ、上条当麻や未来や球磨川の攻撃に触れるのもダメ、ピトーや十六夜、めだか、響の高威力の攻撃を食らうのもダメ、なじみや食蜂のスキルや能力にも警戒しなければならないし、その上でこちらの攻撃は
一瞬の隙を見せただけで、集中力を切らしただけで、珱嗄は敗北するだろう。
本当に厳しい状況だというのに、それでも珱嗄は心から楽しそうに笑っていた。こんな高揚感はいつぶりだろうか、なんて思いながら、拳を握る。
「今の内に言っておくぞ……サンキューな、お前ら。本当に、楽しい人生だった」
「珱嗄……本当に最後なんだね」
「ああ、なじみ……最後の最後にお前がいてくれて、本当に嬉しい。愛してんぜ、ずっとな」
「『珱嗄さん』『最後に貴方に見せてみせるよ』『もう一度、僕は勝つ』」
「おう、理不尽を覆してこそ――
「パパ、お疲れ様……本当に最高のパパだよ」
「ありがとなヴィヴィオ、俺もお前が娘で本当に良かった」
「私からは何もない――珱嗄さん、貴方のいた人生が私の財産だ」
「お前の言葉は本当だったなめだかちゃん……本当に、生きることは劇的だった」
「珱嗄のいない世界で頑張ったけれど、それでも同じようにはいかなかった。憧れたよ、アンタに」
「それでもお前達が掴み取った未来だ……大事にしなよ、上条ちゃん」
「珱嗄さん、私この戦いで十二回簀巻きにされたんだけど」
「十二回で終わると良いな、なのはちゃん」
「楽しかったよ、珱嗄……あとピトーな」
「俺もだネコー……ついに先読みし始めたかよ」
「……チッ」
「ここでなんも言えないヘタレだから
「珱嗄さんが消えた世界で辛かったけど、また貴方に会えて良かったわぁ……私貴方が好きよ」
「サンキュー操祈ちゃん、でも俺好きな奴いるんだ。来てくれてありがとな」
本当なら、此処に来た全員にありがとうと言いたかった。珱嗄は生き残った者達一人一人と一言ずつ言葉を交わし、その一言の中に気持ちを全て込めて贈る。バラルの呪詛が消えたこの世界でなら、言葉の裏にある感情は全て伝わる。
倒れ伏す者達にも、珱嗄の感謝の気持ちは伝わっていた。
涙を流す者はいない―――彼らは精一杯生きたから。
全ての命の辿り着く先を見届けてきた珱嗄の人生に、ようやく終着点がやってきたのだ。それは祝福されるべきなのだ。
ずっと続いていってほしいとすら思える珱嗄の人生の終わりを見届けられる機会に恵まれたのだ。これ以上の喜びはない。
「珱嗄……」
「珱嗄」
「や、未来ちゃんに響ちゃん……」
そして最後に珱嗄に声を掛けたのは、この世界で幼馴染として過ごした未来と響。恋人にもなった未来は、既に珱嗄が消えることを覚悟している。響もまた、珱嗄が喜んでいるのならそれは幸せなのだろうと理解している。
それでもやはり、別れは寂しかった。
彼女達は他の異世界人たちと違い、珱嗄と過ごした年月が少ない。本当なら他の皆と同じように、最後まで見届けて欲しい、ずっと見守っていて欲しいと、そう思わずにはいられない。
珱嗄は二人に笑いかけた。
「響ちゃん、お前の抱いた夢は間違ってない……自分の心を信じて進めばきっと大丈夫だ」
「うん゛……珱嗄もっ……ありがとう」
珱嗄の言葉に泣きそうになった響は、グッと涙をこらえて笑う。
泣いてはいけない、珱嗄を笑顔で送り出すことが、今の自分に出来る最後の恩返しなのだから。
「未来ちゃん……辛い思いをさせて悪かったな」
「良いよ……これで最後―――あとは私の想いを全部歌に乗せて、珱嗄に伝えるよ。しっかり受け止めてね」
「……ああ、しかとな」
そして未来の言葉を受けて、珱嗄は少し驚いたような顔を浮かべたが――面白そうにまた笑った。最後の最後で、小日向未来という少女の強さを垣間見たような気がして、嬉しく思ったのだ。
言葉を交わすのはもう終わり―――あとは戦いの中で、語るとしよう。
「行くぞ……これで終わりだ!」
珱嗄が地面を蹴った。
◇
「はぁあああああ!!!」
「チェーンバインド!!」
「黒神ファントム……!!」
「
十六夜ちゃんの拳を躱し、ヴィヴィオとなのはちゃんのバインドを潜り抜け、亜光速で迫るめだかちゃんの拳を受け流し、僅かに生まれた姿勢制御のタイミングにピトーが全力で突っこんでくる。
なんというか、本当――凄い奴らだよな。
フィクションの世界、漫画の中のキャラクターだとしても、こいつら全員が普通ではない現実を乗り越えて生きていたんだ。その力を必死に鍛えて、理不尽な現実に対しても諦めずに進んできたんだ。
本当に凄い奴らだ。神様に力を貰って、苦悩なんて無かった俺とは全然違う。
「行けェ!! ヒーロー!!」
「あああああああ!!!!」
「珱嗄!!」
「! ――甘い!」
「んなっ!?」
「きゃああっ!?」
正面から上条ちゃんが、背後から響ちゃんが迫る。
どちらの拳も受けるわけにはいかない。響ちゃんの手首を掴み、迫る上条ちゃんの盾にする。上条ちゃんの右手が響ちゃんに触れると――シンフォギアが『
ギアが破壊されたからか、響ちゃんの元々来ていた服を復元する機能も働いていない。全裸になった響ちゃんに、上条ちゃんがぶつかって二人して転がっていく。ここでもラッキースケベを行うのか、上条ちゃん。
「何してンだお前!?」
「ち、ちがっ! これは事故で!!」
「響から離れろこの変態!!」
「ぎゃあああああああ!?」
一方通行に突っ込まれた上条ちゃんが、胸を隠す響ちゃんを押し倒しながら弁明するが、未来ちゃんの閃光に飲まれて丸焦げになった。右手で防ぐ暇もなかったらしい。アホだ。
だがそんなことをしている彼らを気にする間もなく、俺はピトーの攻撃を受け流してその腹へと蹴りを叩きこむ。げひゅっという声を漏らしながら後方へと転がっていくピトーを無視して、正念場だと崩れ落ちそうな自分の身体に鞭を打った。
―――ピシッ、ビキ、ビキ……
体中に走る罅が、少しずつ、少しずつ広がっていくのが分かる。
「―――了解!!」
「!?」
すると、誰も何も言っていないのに全員の連携が良くなるのが分かった。今までは少数での連携がいくつもあるような形だったのに、今度は残っている全員が全員の意図を理解したように動きだした。
十六夜ちゃんが粒子化を使ったのか光速で接近してくる。攻撃を加えるかと思いきや俺の前で方向転換し、いくつものフェイントを入れて惑わせてきた。そこへめだかちゃんも亜光速で近づいてきて、幾つもの分身を幻視させて視界を塞いでくる。
まるで何かを隠す様な動き――気配を察知して、俺は背後から迫る球磨川君の『
だがどうやってこんな連携を……操祈ちゃんか!!
「心を読んで他の人達の力の詳細を知るまでは出来なかったし、あまりに人が多いと厳しかったけど……この人数くらいなら、タイムラグなしに私の意思や指示を伝達出来る!」
「くっ……!」
操祈ちゃんがこの場に生き残った理由はこれか―――戦いには参加せず、この場に集まった全員の能力の詳細を集めていたんだ。そして数が減った今、その詳細を理解した操祈ちゃんが作戦を練って、能力を使って全員に伝達している。
指揮官が生まれるだけで、連携の取りやすさは大きく変わってくるわけか。
しかもその操祈ちゃんを守る壁役としてなじみを置いている。この連携の中、要である操祈ちゃんを崩すのは今の俺では不可能。
流石―――面白いじゃないか。
「は、ハハハハッ!!」
思わず笑ってしまう。
ならばここからはセーブ無しで行こう。力も身体能力も、全てを懸けて戦おう。どうせ消える寸前の命、最後くらいは華々しく、全力で今を生きよう。
念能力でオーラを全開放。
加速して十六夜ちゃんとめだかちゃんの二人を捕まえ、全力で地面へと叩きつける。
「んなっ……まだ速くなんのかよ――ぐはぁっ!?」
「流石は……珱嗄さんか――がふっ!!」
魔力を全開――魔法を発動、『
バインドでなのはちゃんとヴィヴィオを縛り上げ、魔力を分解する性質を持った鎖で行動不能へと追い込む。ゆりかごの魔力炉であっても、魔力を練り上げられなければ意味がない。
「きゃああっ!? ち、力が……!!」
「この鎖っ……くっ……!?」
スキル全開放、一瞬の内に発動させた数千のスキルによってピトーと一方通行の力を封じ込め、即座に気絶させる。
「身体が……うっ!?」
「反射が効かねェ―――あぐっ!?」
ギフト解放、『
「『―――ッ……!』 僕の
能力解放、未来ちゃんから放たれる閃光を全て逸らし、触れる能力を使って迫りくるなじみのスキルを全て引き剥がし、なじみを投げ飛ばす。
体の崩壊が始まっている――けれどこれで操祈ちゃんを守るものは何もなくなった。目の前に踏み込んだ俺の見上げて目を見開いた操祈ちゃんの首を叩き、一瞬の内に意識を奪う。
「はぁ……はぁっ……はぁっ……!!!」
息が切れる。最早呼吸をするだけで身体に激痛が走っていた。
残っているのは、なじみと未来ちゃん、かろうじて意識があるのは球磨川君とバインドで捉えたヴィヴィオ達くらいか。これでもやはり厄介な状況だ。
「くっ……」
既に限界ギリギリだったからか、全能力を解放したことで身体能力の再現は不可能になっている。今の俺の身体は、もう通常の人間とさほど変わらない。
力も使えてあと二、三回が限度ってところだろう。未来ちゃんは倒せるかもしれないが、これでは万全のなじみを倒すのは不可能かもしれない。
だが、だからこそ面白い―――響ちゃんたちが逆境で諦めなかったように、俺も最後まで戦い抜くとしよう。
「これが最後―――だ……!?」
パキン、という音と共に俺の右足が割れた。
能力の負荷に耐えられず、膝下の足が割れて倒れてしまっている。とっさに片足で立つが、この決定的な隙を、彼女達が見逃すはずがなかった。
反射的に正面を見ると、目の前までなじみが踏み込んできていた。
「珱嗄……僕も、君を愛してるよ」
「―――は、やっぱこの状態じゃきつかったか」
笑みを浮かべる。
なじみの手が掌底となって俺の身体の中心を撃ち抜いた。とっさに後ろに跳躍することで衝撃を逃がしたが、それでも人外の威力だ。その一撃は俺の身体に大きく罅を入れていき、右手と脇腹が砕けるのを止められない。
そして着地と同時に左足がビキリ、と軋んだ。そこから次の動作に繋げることが出来ず、敗北を悟る。
「ッ……く……『閃光』!!!!」
トドメとなったのは、未来ちゃんの放つ『神獣鏡』の光。
涙を堪え切れずに放たれた彼女の一撃は、正確に俺の腹を撃ち抜いて――聖遺物であるこの身体を打ち砕いた。
上半身と下半身が分かれ、ゆっくりと背中が地面へと落ちていく。
その途中で見たなじみと未来ちゃんの顔には、溢れるほどの涙が浮かんでいた。別れは辛い……そうだな、俺もそう思うよ。
なにせ今まで此処にいる全員の死を見届けてきたんだ……俺は。
一人、また一人と死んでいく。俺の前で、俺の腕の中で、俺の知らないところで、その全てを俺は受け止めて進んできた。悲しくない筈がない、いつだって笑って歩いてきたけれど、辛くなかったわけじゃない。
「珱嗄!!」
「珱嗄ぁ!!」
俺に手を伸ばして駆け寄ってくる二人の声。
「(ああ、分かるよ二人とも……別れって辛いよな、よく分かる)」
でも、なんでだろうな。
今俺はとても満足している。皆を見送ってきたその全てで、とても辛かったのを知っているのに、いざ見送られる側になると全く別の感情が湧いてくるんだ。
こんな幸せな気持ちは、きっとないだろう。
なぁ、お前達もそうだったか? 俺が見送った時、こんな気持ちだったのか? 人生に満足した顔して死にやがって、こんな気持ちで死んでたならそう言えよ。
こんな経験、きっと誰もが味わえるものじゃないんだぞ。
数秒経ったか、数分経ったか、時間感覚が鈍くなった頭でいつのまにか閉じていた目を開く。すると、俺の身体はなじみの膝枕で寝かせられていた。なじみの涙を流す顔が視界に入ってくる。
そして視線を動かすと、
「―――」
そこには、此処にいた全員がボロボロになりながら集まっていた。最初と同じように俺を取り囲むようにそこにいて、全員が俺の顔を覗き込んで笑顔を浮かべている。
「珱嗄……君の我儘だ」
「……ハ……負けたのにか?」
「勝敗なんて関係ないよ……君の我儘が、偶々僕たちの我儘だっただけさ」
なじみがそう言う。
俺の我儘が、なじみ達の我儘か。
「僕たちは君に勝った……だからっ……僕達全員で、君を、見送る……拒否権なんて、許さないからね……っ……!」
そんなもの、拒否する必要もない。
そうか、俺を見送ってくれるのか。他でもないこれまで出会った全員で。
―――珱嗄、珱嗄、オウカ、珱嗄さん、珱嗄、パパ、珱嗄、珱嗄さん、珱嗄、珱嗄さん、珱嗄、珱嗄、珱嗄さん、珱嗄、珱嗄さん、珱嗄、珱嗄さん、珱嗄さん……
目を閉じると、みんなが俺の名前を呼んでくれる。一人ずつ、見送るように呼んでくれていた。そうだ、俺の本当の名前は泉ヶ仙珱嗄ではなかったけれど、皆と過ごしたのは俺で、俺は泉ヶ仙珱嗄だ。
俺は泉ヶ仙珱嗄として、生きたのだ。
「あぁ―――……面白かった」
だから身体が砕け、意識が白い光に溶けていく寸前……俺はいつも通りに、いつも以上に、万感の思いを込めて、そう言うことが出来た。
次回、最終回!!
◇
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