RE.チートから始める異世界生活 RE.MAKE   作:灰鳥

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第四話 傷つき、傷つけ

「話もさせてくれないのかな」

「話が必要なんですか?」

「せめてなんでこんなことするか教え…」

言う間も、もしかしたら言う気もないのかもしれない、レムさんは鉄球を振り下ろし氷を生やし、一方的にこちらを攻撃してくる。

こちらも攻撃とは今の状況ではいかない、というよりいけないの方が正しい。

先ほどまで、いや今もそうだがレムさんの攻撃は怒涛だ、何も出来ない、逃げる事と回避しか。だが限界が来ている、一つは単純な疲労、もう一つは飢えによる目眩や頭痛、さらにもうひとつはこれら二つが重なったせいでギリギリで躱せていた攻撃が躱せなくなってきている。

事実今、彼女が放った鉄球が俺の左大腿部を掠めて1部を持っていかれた。激痛が走って足に異常が出た、自己吸血するが…回復が遅い。

どうやらそろそろ肉体的に限界のようだ、精神的にもかなり限界が近い。

なんとか立ち上がり、目前を見据える。

彼女の氷の目が少し揺らいだ、まだ立つことができる俺に驚いているのかそれとも彼女の心に迷いがあるのか、分からない。

「もう諦めたらどうですか、立つのもやっとじゃないですか」

「そうかな…、まだ手も足も動く、目も見える」

「…っ、そうですか」

彼女が攻撃を仕掛ける、左大腿部の怪我が治りきっていないせいで躱すことは不可能、いやたとえ怪我がなくても躱すことなど出来なかったはずだ。だから…。俺は左手と両足に魔力を流す…だが左足に魔力が思ったほど流れなかった、俺はその分を右足にながす。

そして迫り来る鉄球を左手で受け止めた、鉄球にはトゲがついていて、そのトゲが俺の手の甲を貫いた。激痛が走ってそれは一瞬で止んだ。

左手の感覚が消えた、恐らく神経系をやられたのだろう、だが魔術回路は生きている、とても動かせるような手ではないが痛みがないので魔術回路を通して手を動かす。

血はおそらくもうほとんど残っていないだろう、ロズワールの資料に吸血鬼は血がないと魔力を動力源にすると書いてあった、ロズワールに言われた事だが俺は魔力が多い。

基本的に尽きることはないほど魔力があるらしいが、俺は先程からその魔力をごりごり消費している、というよりこの世界の吸血鬼自体がそういう魔力が多い人が多かったのかもしれない。

多分、出血量がこのまま増え続ければあと五分程だろう。

分かりきっている、俺は彼女に勝てない、左足は動かず、右足に左足分の魔力を回した影響でいくら回転が早いと言っても限度がある魔術回路が完全に魔力過多となって右足にも常に激痛が走っている。もはや傷は再生することはなく、勝ち目はゼロ。

「終わりです、大人しく死んでください」

「そうだなぁ、じゃあ最後に聞きたい、なんでこんなことしてる?」

「…姉様を守るためです」

「俺はラムさんに何か危害を加えた?」

「いえ、あなたといると姉様が辛いんです」

「…どういう意味だよ」

「もう失うわけにはいかないんです、悲しませる訳にはいかないんです」

「何をそんなに怖がってる…」

「あなたに何が分かるんですか!」

その一言が癪に障ったのか、怒りのままに鉄球を飛ばす、感覚のない左手でまたしても受け止める。その衝撃で左の二の腕と踏み込んだ右足が

ビキビキと音を立てて壊れる。おそらく中の骨がイカれたのだろう、とんでもない痛みだ。

「何も知らないあなたが…人の所に土足で踏み込んで…!」

「じゃあ、最初からどう関わればよかった!?どう接すればよかった!」

「決めたんです…、姉様とレムで二人で生きていくって…そしたら失う事もなければ悲しむ事もないから…って」

「…訳が分からん」

「あなたには…分からないんですよ、何も…」

「だったら言えよ!何も話してないだろ!」

「あなたからは…姉様とレムの嫌いな匂いがします、その匂いを感じる度に…姉様は、レムは!」

「匂い…何の話を…?」

「とぼけないでください!」

「ぐっ…左…っ!」

左手を出す、だがその腕に魔力は流れない。限界はとうに超えていた、当然だ。だから…俺は短剣を離し、右手で受け止めた。その腕はトゲを奇跡的に回避し、何とか切り傷のみですんだ。

「なんで…どうしてなんですか!」

するとこちらへ迫るレムは、俺を岩肌へと打ち付けた。

「が…」

「レムだってしたくてこんな事してる訳じゃないんです!」

「じゃあ…しなきゃいいだけの…話だろ」

「…あなたが言うことに説得力があるとでも?」

「だよな…、今から殺そうとしてるやつの言うことなんて耳貸すわけないか…」

そう言ってレムは俺の腹に拳を叩き込む、なんか色々飛び出そうになったがギリギリで堪える。視界もぼやけて遠くは見えない、でも目の前のレムの顔は見える先ほどまで俯いていたので顔を上げると、その顔は泣いていた。

「迷いがあるから…泣いてんじゃねえのかよ…」

「迷っても結末は変わりません、レムにはこれしかないんです」

「その結末に…納得出来るのかよ」

「……出来るわけ、ないじゃない…ですか」

「それは…俺が言いてぇんだよ、別に話せとは言わねぇよもう、俺はどの道助からねぇ、こんな状態になってレムさんがそのまま俺を放ってさればすぐ死ぬ…だから、あえて言う」

例え、ここで俺が死んだとしてもそれはこの子の責任じゃない、それはこの子の罪じゃない。そうか…多分きっと彼女も。これから話すことが彼女に響くかは分からない、でもおそらく多分俺はここで死ぬ。分かる、だからこれは俺の押しつけでしかない。きっと彼女には響かない。

「その結末にはラムさんはいない、レムさん一人だ」

「分かって…ますよ、そんなこと…」

「俺には…二つ離れた妹がいた」

「え…?」

レムがこちらを驚いたように見つめる。

「その子は、誰かが時計を見るといつも時間を聞いて笑ってた、でもそんなある日彼女は俺を庇って家に押し入った快楽殺人犯に刺された…」

「どう…なったんですか?」

「彼女は死んだ、殺人犯の刺したナイフは彼女を貫いてその後ろにいた俺の腹を半分まで貫通した」

「…」

「そのあと、家に駆けつけた親父もお袋も同じ殺人犯に殺された、病院のベッドで目が覚めると自分以外の家族は全員死んだと言われた、それから2年ずっと1人で生きてきた、二回も自殺して二回も失敗した、周りからは厄介払いされてどこにも頼りがなくなった」

俺は腹の布をめくってレムさんにみせた、そこには手術痕が残されていた。

「一生消えない傷だ、心と体にそれは残り続ける、傷をつけた相手を許すことは出来ない、言葉では言えても心では許せない。中には言葉でも言えない人もいる、たとえ傷をつけた相手がが死んでも許せない人もいる、傷は消えない、どんなに足掻いてもどんなに忘れようとしても何かの節に思い出して苦しんで結局は消えない」

「…どう…すればいいんですか」

「何も出来ない、周りを傷つけてもその痛みは紛らわせない、むしろその傷はどんどん広がってしまいには取り返しのつかないことになって居場所を失ってしまう、だから…向き合うしかない」

「でき…ません、レムは…強くありません、姉様のように強くないから…できないんです」

「…そっか」

俺が…彼女にどんな言葉をかけてやれるだろうか、今の今まで話してきたことも過程だけで結末は何も解決してない、ただ向き合い続けて逃げているだけ。だが、どんなに逃げてもそれから逃れられる事は出来ない、それは一生背中について回って背後で囁く、そしていつだってそれは枷となって心と身体を縛る。だから、本心はきっとそこには無いのだ、多分無意識の内に本心は行動に表れる、染み付いた本当の自分は傷をつけられても覆ることは無い、傷つかないように取り繕って、偽って、傷つけても。だから多分…彼女は。

「…それが本心?」

「…当たり前じゃないですか」

「当たり前じゃない」

「…え?」

「そんなのがお前の本心なわけが無い」

「何も知らないで…何を言ってるんですかあなたは…っ!」

「知らないよ、知ってもわからないと思う」

人は大して分かりもしないくせに、多くの事を知ろうとする、知らないというのは怖い事だ。事実今もそうだ、俺は大して分かりもしないくせに彼女を分かろうとしている。傷の痛みは傷をつけられた当人にしか分からない、傷の痛みが同じなんてことは絶対にありえない、その人にはその人の心があって、もろい人もいれば頑丈な人もいる。例えばいじめなんかもそうだ、やられた側の気持ちなんて分からない、または考えようともしない連中が好き勝手に相手を傷つけて、そう言った連中はたとえやられる側になったとしても傷をつけられた当人の気持ちなんてわかりっこない。

「たとえ知ったとして、俺にはレムさんの苦痛は一生分からない」

「だったら!」

「でも、矛先を別の誰かに向けるのは間違ってる」

「…そんなの、分かってますよ」

「だったら…」

「じゃあどうすればいいっていうんですか!…他にどうしろって言うんですか!」

「じゃあなんで…っ」

ダメだ、これを言ってしまうのはきっと卑怯だ、また逃げる事になってしまう、どうにか彼女を救おうとはしているものの、彼女の痛みは俺には分からない、分かってはいけないのだ。

でも…多分これしかない、もっと他に方法があるかもしれない。でも今の俺にはこれしか出来ない、

「なら…なんで俺を助けた?」

「…!」

「どうして、あの時…俺を助けた?」

あの雨の森の日、力尽きて倒れている俺を助けてくれたのはレムだ、その時のレムは本心なのか、または違うのか、それともただの親切心か。

「同じに…見えたんです」

「…同じ?」

「あの時…レムは、誰かに助けを求めたんです、助けて欲しくて、救って欲しくて、でも…誰も助けてくれなかった」

…ひどい話だ、古い鏡を見せられている。そうだ…俺もそうだったんだ、一人になって、誰かに助けを求めても、誰も助けてはくれなかった。

…やっぱりダメだ、俺には無理だ。彼女を救うことなんて出来るはずがない。

同じなんて、ない、同じに見えたんじゃなくてきっと自分と同じ様に助けを求めていたから、俺はあの時、レムさんと同じ様に助けを求めたから、レムさんは俺を助けたんだ。

だから、きっとこれは俺の責任だ、レムさんの責任ではない。

「レムさん…は、あれ…?」

「え…?」

言葉を続けようとした時、視界が横になった。どうやら倒れてしまったようだ、とうとう両足が言ってしまったようだ。うんともすんとも言わない、そんな俺を見てレムさんはどうしていいか分からないような表情をして俺の傍で膝をついて手を胸に置いている。

「レムは…どうしたらいいか、分かりません」

「そっか…、分からなくていいんじゃないか?」

「…え?」

「世の中に絶対正しい、絶対間違ってるなんてのはない、過程が正しくても結果が間違ってる事もある、過程が間違ってても結果が正しいこともある、正しいか、間違ってるかなんて他人の価値観で決めること、自分の行動が正しいか、間違ってるかじゃない、自分がどうしたいか…昔、俺の母さんがそう言ってた」

「…レムが…どうしたいか…?」

「これから先の人生で…多分レムは辛い思いをするし苦しい思いをすると思う、だからそれを踏まえた上で選択をして欲しい。その選択で後悔しないか」

「ツバキ…くん、レムは…」

「もう…目がよく見えない、レムさん」

「ダメ…です、レムは…っ、レムは…ツバキくんを傷つけたかったわけじゃない!」

やっと…本音を言ってくれた、結局…ずるい方法になっちゃったな、これじゃ多分レムさんはまた傷ついてしまう。でも多分彼女はそれを承知なのだろう。

「…そっか、それが聞けてよかった」

「ダメです!今、治癒を…!」

「…ダメだ、もう間に合わない、魔術じゃダメだ」

「でも…約束したんです!、レムが…こんな事を言うのは間違ってるかもしれない…でも、必ず助けるってレムはツバキくんと約束したんです、だから…!」

「レムさん…」

「…喋らないでください!」

「ごめん…」

「…っ、ダメです、ツバキく…」

 

 

 

 

 

 

 

 

降りしきる雨の中、目を閉じて動かなくなったツバキの胸にレムはすがりついた。

「ツバキ…くん、姉様、母様、父様、レムは…レムは…どうしたら…!」

「ツバキくん…」

手に触れる、暖かくなんてないはずなのに手を触れる。

「…あれ?」

心臓も止まっている、呼吸もしていない、にも関わらず、彼の体は未だに暖かいままだった。

「なんで…まだ…」

そこでレムの記憶がフラッシュバックした、その記憶は扉を挟んで盗み聞きした、ツバキが吸血鬼という事実、錯乱しきっていたため、先程まで忘れていたが、彼は吸血鬼なのだ。朧気な吸血鬼に関する記憶を探る…血だ、血を与えればツバキは助かる。

レムは彼が放り捨てた、短剣を手に取り手首を切って血を流す、その血を口に含んで、口移しでツバキの口に入れる。

レムはツバキを抱きしめて祈る、彼には生きてもらないと困るのだ、彼は大事な事を気づかせてくれた、身勝手な願いだ。でも生きて欲しい、彼をここで死なせてしまったら自分は一生後悔する。

自分より苦しい人なんて姉以外この世にいないと思っていた、でも違ったのだ、自分本位な考えで周りを見ていなかった。みんながみんな、苦しみを抱えて生きているのに、自分は苦しみから逃げて、それを人にぶつけた。

「お願い…戻って」

ツバキの胸にすがりついてそう呟く、すると彼の心臓が動いた。見るとボロボロになっていた四肢の傷が再生しはじめ、心臓から生み出された血液が全身へと回って、熱を取り戻していく。冷えきった自分の体には彼の体が随分暖かく感じた。

「温かい…ツバキくん」

彼は、生きていた、生きてくれていた。彼を担いで屋敷へと向かう。何を言われるかは分からない、出て行けと言われれば出ていく。でも彼だけは…彼だけは絶対助けなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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