「そう言えば大丈夫ですか?」
「ん、なに?…あぶなっ!」
「あ、変わります」
「ごめん…」
王都へ向かう馬車の道中、何回かトライしてみたものの途中で集中力が切れてしまうのでレムに変わってもらう。ていうか馬が言うこと聞いてくれない、よって俺悪くない、QED証明完了!。
「いえ、それで…その」
「…あー」
きっとレムは吸血のことを言っているのだろう、たまに忘れそうになるが俺は吸血鬼だ、そう言えば昨日の吸血以来吸血してないな。
「…今じゃなくてもいいけど、王都にいる時のどっかで貰ってもいいか?」
「…はい、構いません」
隣を見るとほんのりと頬を赤らめ、正面を見ながらも恥ずかしそうにモジモジしているレム、可愛いマジ天使ホントに可愛い。
「ごめん、ほんとに苦労かけるけど」
「いえ…レムはその…嫌ではありませんので」
「え…?」
「…いえ、やっぱり嫌です、でもツバキくんの為に仕方なくです!」
「あ…うん」
どうしたらいいのこの子ほんとに可愛いマジ可愛い尊い、ツンデレが下手なのも俺からすればプラス採点だ。ツンデレは機嫌のいい時のラムの十八番だからね。
「あ、見えてきましたよ」
「あ…あれか」
目前を見ると遠く離れたここからでもよく見えるほど立派な王宮が立って…立って…いや待って。
「いや…デカすぎじゃね?」
「はい、初めて見た時はレムも驚きました」
マジで引くほどでかいんだけど、ていうかここからでもはっきり見える建物が結構ゴロゴロあるんだけど何これ東京の何倍よ。
「なんじゃこれ…」
「見えてきましたし、先を急ぎましょう、馬達も疲れています」
「そっか…、よし、掴まってます、中のふたりは大丈夫なん?」
「お2人は慣れていますので問題ありません」
「どうりで落ち着いてるわけだ」
俺はそっと後ろを除くとロズワールは優雅に座って、紅茶を嗜んで、ラムは布に寝転んで寝て…寝てんの!?。
結構揺れてるはずだし物音も結構すると思うのだけれど、ていうかロズワール、ウィンクすな。
「落ち着きすぎだ…」
「どうかされましたか?」
「いや、慣れって怖いなって…」
「…はぁ」
「着いたー…しんど」
「王都について早々、何言ってるのかしら?」
「いや腰がね」
「それはツキが貧弱軟弱ナメクジだからよ」
「まぁ確かにそうかも…いやないわナメクジはないわ」
王都に着いて、揺れてたせいか腰が超痛い、めっさ痛い。どれ位かと言うとタイキック並に痛い。いやあれとは違うか…。
「ていうかそういうラムもどっか痛めてねぇの?揺れてる地面に寝てたんだし多少痛かったりじゃねえの?」
「…何を言っているのかしら」
「…今の間は何?」
「…なんでもないわ」
「だから間よ、…ちょっと立ってもらっていいですか?」
今レムとロズワールは王都への往来の際に必要な手続きを済ませている、その際に大きな荷物は先に宿に運んでもらい、今はその辺の手近な木箱に腰掛け二人待っているところだ。そして先程から全く姿勢を変えずにこちらと話しているラムは、何かを必死で隠そうとしているようだ。
「嫌よ」
「立ってください」
「嫌よ」
「別に変に笑ったりはしないから、ほら」
「…っ、立てないのよ」
「具体的にはどこ?」
「…背中」
「あー…」
俺は度々動いてから問題なかったものの、ラムは永遠に寝てたからその分痛みも長引くか。気持ちはわかる。
「移動の時はしょうがないからレムにおぶってもらうわ」
「ホントにレムいないと生きていけないな」
「それはお互い様でしょ」
「違いない」
「すいません、少し手間取り…どうかしたんですか?」
「いや別に、それよりレム、ラム頼むわ」
「はい、わかりました、荷物お願いしてもいいですか?」
「任せろ」
「ツキ、落とさないこと」
「痛みで立てない人がよく言うわ…」
「それじゃ行こうかーね」
そうして俺たちは招待人専用の馬車に乗って、王宮へと進み始めた。
「そうだ、ツバキくんこれを」
「お…忘れてた、これ被んなきゃだった」
街を経由して王宮へ向かう馬車の道中。
そうして渡されたのは先日ロズワールによって手渡された黒いコート、季節外れではあるがそこも細工がしてあるのか暑くもないし、寒くもない。
「フードを被ると認識阻害がつきますので、わざわざコートを脱ぐ必要はありません、損傷が激しいと認識阻害がつかなくなりますので気をつけてください」
「へー…っどわぁ!?」
コートを羽織、感触を確かめていると突然馬車が急停止した、俺は目の前に座っていたレムさんにダイブした、いえそう言うあれではなくですね。
「いった…頭打ったぁ」
壁に頭、肘、そして座席に膝をぶつけた。めっちゃいてぇ事故ってこんなんか。
「あの…ツバキくん」
「ごめんレム、大丈…っ!」
顔を上げるとレムの顔がほぼゼロ距離にあった、あかん、これはあかん。ひょっとしていけるのでは…とか思ってしまう、レムは目を閉じてるし行けるのでは…。とかそんなことを思っていたら頭頂部に思いっきり誰かさんのチョップが炸裂した。
「何をしてるのかしら?」
「今回ばかりは悪くなくね…?」
「だ、大丈夫ですか、ツバキくん」
「大丈夫…だけど、なんで止まったんだ急に」
「ツーバキくん、ちょっと来たまえ、少し面倒だ」
「は?なんだよ…」
ロズワールに手招きされ、馬車の隙間から前方の事態を視認する。見ると馬車の渋滞の先に大きな手斧をもった大男と部下と思われるガタイのいい男六名が周りの商店から金を巻き上げていた。
「なんだあの山賊みたいな…」
「ご推察の通り山賊だ、あれは手斧のボルト」
「まんまじゃねえか」
「もうだいぶ長いこと降りてきては荒し回るを繰り返して最近は王宮周辺にも顔を出して荒らすようになったとか」
「で、どうする?」
「面倒だが、国民の悩みの種を解決すれば確実にアピールにはなるだろう、やってくれるかい?」
「…分かった」
「レムも行きます、見過ごせません」
「ラムも行くわ、ツキがヘマしないか見ものだもの」
「そこ素直に心配って言ってくれねぇかなぁ…」
「おらおら!金出せ!金出せ!」
「なんだあのテンプレゼリフ、いやあれしかないか、金欲しいんだもんな」
「お金が欲しいなら、王宮にでも行って堂々と盗めばいいのに、こんなとこで盗むなんてただの臆病者ね」
「やった瞬間に滅多刺しか、タコ殴りだろそれ」
「流石は姉様です!」
「こんなとこすごいと思わなくていい!」
「あ!?なんだてめぇら!」
どうやら、すみに隠れて機会を伺っていたら気づかれたようだ、子分の連中もこちらを睨んでいる。
「ちっ…気づかれたわね、背後から絞め殺そうと思ったのに」
「いや殺すな、殺したらダメだろ」
「なら、足の骨を折って動けなくして両手を縄で縛りましょう」
「レムってたまに出てくるそのS気質なんなの?」
「「どうするの?(ですか?)」」
「普通に両手両足縄で縛って連行します!」
「お?なんだ、いい女じゃねえか、おいあの双子連れてけ」
そう言って子分の2人がレムとラムに触れようと近づいた瞬間、全力の拳と蹴りがそれぞれの顔面に突き刺さった。子分達は、壁にたたきつけられ、こっくりと崩れ落ちた。
「て、てめぇ!」
子分の一人が槍を手にバカ正直にこちらへと突っ込んでくる、俺は飛び上がりその槍を正面から踏み砕き、片割れの棒を胴へと叩き込む。槍の棒が砕けるのと同時に、子分もその場に崩れ落ちた、俺はその子分をその辺に捨て、眼前の3人の子分と、大男を睨みつける。
「もっろ…」
「当然でしょ」
「いや槍の棒の方」
「そっちですか…」
「なんだ、てめぇらぁ!」
「言葉に気をつけなさい、レムとラムを連れていく?恐れ多いわよ」
「生憎と、手加減はするつもりだったけど、お前らの言動でその気が失せた」
「おい、行けェ!」
子分の3人がそれぞれ武器を持って、こちらへと向かってくる。俺は短剣に手をかけ、構える。
「お前らがレムとラムを連れていくつもりなら、その分覚悟はあるんだよな?」
「あぁ!?」
「…一生牢屋で暮らす覚悟だよ」
瞬間、俺とラムとレムの一瞬のアイコンタクトで三人同時に飛び出す。まともな術も使わず、力づくでしか動けない山賊は魔術を行使した俺たち3人の速さに追いつけず、防御すら間に合わない。レムは蹴りで、ラムは拳で、俺は短剣の柄の先を、それぞれ腹に叩き込む。
その攻撃直後の隙を狙って頭上から大男が手斧を振りかざす、俺はそれを短剣で受け止めると地面に俺の両足を中心にしてヒビが入る。
「魔術行使なしでこれだけ出せるとは大したもんだな…、でもそれだけだな」
「なっ!?」
俺は短剣で弾き、大男を怯ませる。瞬時に切り返し、俺は手斧を短剣でバラバラに切り刻む。
「くっ…まだだァ!」
大男はそれでも諦めず、持ち前の大きな拳を俺に向けて振り下ろす。
「いえ、終わりです」
「えぇ、終わりよ」
「しまっ…!」
「吹き飛べ、デカブツ」
その拳が俺に届くまでにラムとレムの一撃が大男を吹き飛ばす。大男は地面に転がり動かない。
「はぁ…」
「骨のない連中ね」
「どなたか、縄をお持ちの方いらっしゃいますか?、それと馬車を一台貸して頂きたいのですが」
「あ、私が貸します、それと縄も」
金を取られた商店の店主が縄と、族共を乗せる用の馬車を貸してくれた、俺はレムから縄を受け取り子分共、そして大男の両手両足に縄を縛り付ける。
「おっも…こいつ」
「図体がでかいだけね、ちっとも強くなかったわ」
「レムがこちらの馬車を運転します、ツバキくんは中の族の見張りをお願いしていいですか?」
「任せろ、でもこのまま王宮に向かっていいの?」
「王宮には騎士もいるわ、そこで身柄を引き渡しましょう」
「そっか、店の人もありがと!」
そう言うと店の店主は頭を下げてお礼を言ってくれた。
「あー…やっと着いた」
「騎士様、こちらです」
「あ、こいつらです、お願いします」
そう言って馬車から出された大男はどうやら目が覚めたようでかなり暴れていた、ちょっとまずいなあれ。
「仕方ないか…」
俺は大男の首根っこを掴み、打撃を入れて気絶させた。
「ありがとう、助かった」
「いえ、お願いします」
「君は…見たところ剣士のようだが、使用人かい?」
「そんなもんです、ではまた」
そう言って俺はその場をあとにした。
「レム、荷物ない?」
「あ、でしたらこれをお願いします」
「…なんぞこれ?」
「王様へと捧げる献上品です」
「なるほどね」
「盗るのはダメよ、ツキ」
「盗らんわ」
「では、客人室へ行こう、君たち3人は一緒だが私は別室のようだ」
「特別待遇って奴か」
「そう心のいいものでもないがね」
「なんでだよ」
「接待の人間は私の部屋に来るのを嫌がるのだよ、何故だろうね」
「…何故だろうな」
客人室にしては広すぎじゃないですかねこれ、なんか普通にお風呂場とかあるし、ダブルベッド付きの寝室が2つあるし、据え置きでなんかよくわからん茶葉とか大量にあるし。
ていうか俺らの荷物ここにあるんやが、まさかここが宿?。何?一週間、レムとラムと部屋同じ?。死にそう、なんか精神的に、肉体的に。
「おーう…」
「ツバキくん、どうしたんですか?ぼーっとして」
「ごめん…ちょっと、先を思いやってた」
「ツキ、レムに変な事をすれば心臓を抉りとるわよ」
「先が思いやられる…」
かくして、混沌渦巻く王都での1週間が始まりましたとさ。