それは我らの憧れであった。   作:小池蒼司

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ーー後悔はしていません。


1章:真央霊術院
1.天才と呼ばれる男がいたんです。


護廷十三隊とはーー尸魂界の護衛、及び現世における魂魄の保護。そして虚を討伐する死神の部隊。それが護廷十三隊である。

死神として護廷十三隊へ入ることは"我々"には憧れであり、育成学校である真央霊術院に通う生徒たちはみなその為に日々邁進している。

 

そして、私もまた夢を見ている生徒の一人だ。

 

「あーあ、今日も上手く行かなかったぜ赤火砲」

 

学院の廊下で、同期の朝長が口をとがらせて言った。鬼道の一つである破道の三十一、赤火砲は新人生徒が必ず授業で扱いを覚えさせられる技で、私達はつい最近この授業に入った。

扱える鬼道はまだまだ少なく、霊術院に入ったばかりとはいえこれから先護廷十三隊へ入隊するには先が長い。

 

「私もこの先不安しかないや」

 

私が目標にしているのは十三番隊へ入ること。朝長も同じく十三番隊を目標にしているが、自分の実力ではまず入隊するどころか死神として生きることすらも危うく感じてしまう。

 

「何言ってんだよ!お前古森先輩に褒められてたじゃねーか!」

「え、うーん……まぁ」

 

古森颯。二つ上の先輩で、確かもう既に護廷十三隊に入ることが決まっている天才だ。合同授業の際に一度だけ彼と同じチームで訓練を受けたことがあった。大人しく無口な彼は私に一言、「お前は、できる奴だから自信を持った方がいい」と言ってくれた。

その時は嬉しさと興奮でパニックになってしまい、慌ててお礼を言っただけで終わってしまったけれど。

 

私はその授業で特別いい成績だった訳でもないし、古森さんに何か見せたわけでもなかった。故に、今思うと何をどう見て彼はああ言ってくれたのか謎である。

 

「そういや、古森先輩"十四番隊"に入るって話聞いたか」

「……十四番隊?」

 

知らない、と首を振ると朝長もだよな、と顔を逸らした。

十四番隊なんて聞いたことも見た事もない。何せ名前の通り護廷十三隊には十三の隊しかないからだ。

 

「古森さんがその十四番隊に入るって本当なの?」

「いや、俺も噂で聞いたからよ。でも十四番隊なんて見たことねぇしなぁ……」

「そうだよね、私も初めて聞いた。あ、」

 

移動をする生徒達の騒がしい声が廊下に響く。私達の横を生徒の集団が通り、廊下の奥の方に、今ちょうど話をしていた古森颯の姿が見えて朝長と顔を見合わせる。

 

古森さんは天才と呼ばれるだけあって鬼道の実力は勿論、斬魄刀の始解まで取得していた。真央霊術院に入ってわずか三年で卒業を控え、我々後輩からすれば憧れの人物だ。

しかし、本人の大人しい性格とあまり人と関わろうとしないことや、無口な所から人付き合いは苦手らしい。

 

現に、今廊下に一人で佇んでいた。

 

「古森さん、こんにちは」

 

私は朝長と共に古森さんに声をかけると、古森さんはゆっくりと振り向き、白く綺麗な髪をかきあげた。

美形な顔をしているのに人が寄り付かないのは勿体ないと思いつつ、私をじっとみたあと無言で壁を見つめ始めたので、心で苦笑した。

 

「これってこの前の試験結果ッスよね、うげっ、古森先輩めちゃくちゃ評価いいじゃないすか!!」

 

朝長は破道が最低評価だったもんね、と言えば肘で小突かれた。小突かれたという強さではなかったけど。

 

「……大したことじゃないよ」

 

古森さんは目を細めて一言口にした。

その表情から彼がどんな気持ちで結果の紙を見ていたのかは分からないが、天才と呼ばれる人間にはそのものにしか分からない苦労があるのだろう。

 

「じゃあ……またね」

 

古森さんは薄く笑って小さく私達に手を振った。

もう行くのだろう。朝長も私も丁寧にお辞儀をして古森さんを見送る。

 

 

「古森先輩って本当は一年の時に卒業する予定だったらしいぜ」

「えっ!?」

 

遠くに見える古森さんの背中を見ながら、朝長がふとそんなことを言った。

朝長曰く、本来なら一年で卒業出来たところを自ら望んで三年まで霊術院にて学ぶことを選んだらしい。

 

「一年で卒業した先輩はいる。でもその中で古森先輩が天才と呼ばれる理由は強さだけじゃないこだわりとか、そこにあると思うんだ、俺。」

「……朝長って古森信者だっけ?」

「バッカちげぇよ!!俺は古森先輩の意識の高さに尊敬と憧れを抱いてんの!」

 

あぁなりてぇよな、と朝長が零した横で、私は古森さんに"十四番隊"について聞くのを忘れたなと思った。




古森颯……こも りはやて
【挿絵表示】

朝長幸次……ともなが ゆきじ
永戸恵子……ながと えいこ
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