瀞霊廷、十四番隊隊舎___
十四番隊は五條鳬梅が私利私欲の為に作らせた隊。ーーというのが護廷十三隊では広まっているが、その実態は居場所のなくした死神や落ちこぼれを拾い自身の手で育成していく五條鳬梅の為の隊であった。
故に、その不思議な構成から護廷十三隊の中に十四番隊は含まれない。孤立した1つの部隊になっている。
そしてその隊長である五條鳬梅_現、浮竹鳬梅は十四番隊隊長に相応しい程の問題児である。
真央霊術院に在籍していた頃は院内の物を壊すのは日常茶飯事で、自分のクラスではないクラスの授業に出ては荒らして帰る、といった、今のほんわかした雰囲気からは想像もできないほどの問題児だった。
今でこそそんな暴れるようなことは無いが、自由人なところは治っていない。
そんな鳬梅だが、実力は本物で、真央霊術院を1年で卒業しあっという間に護廷十三隊へ入隊した。
ズズッ、と茶をすする音が隊舎から聞こえる。
十四番隊副隊長である
「隊長ー、お茶を飲むのもいいですけど、そろそろ書類仕事してもらわないと」
「えー」
「えーじゃありません。見てくださいこの山!うちは他の隊に比べるとまだまだなんですから、雑用が全部回ってくるんですよ!!」
「そんなにいっぱい私出来ないわ……」
「できないじゃないんです!やるんです!!!」
「でもほら、私書くのとか苦手じゃない?」
ズズッ、とまたお茶を啜る。
「なっ、もう……どうして隊長はいつもそんななんですか……」
諏宮は鳬梅のあまりの仕事のしなさに頭を抱えた。
十四番隊は他の隊に比べれば新しく出来た方だしなんなら隊士もまだ少ない。
しかも荒れたどうしようもない隊士ばかりだ。
「諏宮君はいつも真面目ねぇ〜」
「貴方が動かないだけです!!!!!!!」
溜まった書類は結局自分がやるしかなくなったので1枚1枚目を通していく。
何百枚もあるこの書類のほとんどが他の隊からのクレームで、十四番隊への不満や改善を願い出るものだった。
「はぁ、隊長。いつも通りクレームが沢山です。どうにかしてくださいよ……」
「うーん……でもほら、私は怒ったりとか苦手じゃない?」
「また言い訳ばっかりして!!」
鳬梅はお茶を片手ににっこりと笑いこちらを見つめていた。
何故か威圧されてしまい、結局折れたのはこっちだった。
「もう〜分かりましたよ……」
何枚か書類を手に取り「じゃあ仕事してくるんでじっとしててくださいよ!」と隊舎を出るのであった。
「ったく…あのダメ隊長は……」
諏宮は書類を片手に廊下を歩いていた。
諏宮が十四番隊に入隊したのはつい最近の事だ。とはいってももう数十年は経っているが。
入隊したきっかけは真央霊術院で鳬梅からスカウト
十四番隊は基本スカウト制で、鳬梅の思うように動かせる、そんな自由な隊だ。
最初は憧れの死神にスカウトされて舞い上がっていたが、十四番隊に入隊してすぐ副隊長に任命され、十四番隊の隊士の状況、そして鳬梅の仕事の出来なさに驚愕したものだ。
「どうして自分を十四番隊にスカウトしたのですか?」と過去に聞いたことがある。その時の返事は「仕事が出来そうだったから」の一言だ。
「よっ、慎」
「うわぁ!?」
「そんな驚くなよ!俺だよ俺!海燕!」
「なんだ海燕かぁ……びっくりしたぁ」
廊下で後ろから声をかけてきたのは十三番隊の志波海燕。
実は同期で仲がいい。
しかしどうしてこんな所にいるのだろうか、十三番隊はまた少し離れたところにあるはずだ。
「お前のとこの隊長に用があってちょっとな」
「書類系なら俺がやるよ、あの人働かないから」
「あっはっは、浮竹隊長の言う通りだな、鳬梅隊長は昔から戦うこと以外何も出来ないって」
海燕は遠慮なく持っていた書類を諏宮に渡した。
十三番隊隊長、浮竹十四郎。海燕の上司であり、十四番隊隊長浮竹鳬梅の夫である。
「なんだそれ、なんでそんなのが隊長務まるんだ?」
「お前副隊長だろーが、はは、十四番隊は楽しそうでいいなぁ」
「馬鹿言え、仕事は全部俺に回ってくるんだぞ」
「そんなのはこっちも同じだ!まぁ、お互い頑張ろーぜ」
「おう」
海燕はそのまま来た道をもどって行った。
久しぶりに会う友はやはり変わってなくて、懐かしい気持ちが蘇る。
「っしゃー、俺もクレームに頭下げに行くかー」
◇
十四番隊は隊の中でも2種類の人間に別れている。鳬梅隊長と同じほんわかとした温厚な十三番隊タイプ、そしてとことん荒れた荒くれ者、好戦的な十一番隊タイプだ。
諏宮はどちらかと言えば十三番隊タイプだが、十四番隊では第三席、そして第五席以外は諏宮が知る限り十一番隊タイプだ。
その為しょっちゅう問題を起こしている。
そして、一番の問題児は鳬梅の一人娘、"
隊長格の死神二人から生まれたせいか戦闘センスはずば抜けて素晴らしい。それに加えてまだ成長途中。これから先どんな風に大きくなっていくのか未だ検討もつかない。
諏宮は椿梅の子守りをしていた時期があったが、浮竹十四郎や鳬梅の性格とは真逆の天真爛漫さに頭を抱えた。元気なのはいいが容赦がない。
しかも、椿梅は瀞霊廷を自由に行き来し、遠慮という言葉を知らないせいか他の隊の隊長格にも堂々と接する。
天真爛漫なお姫様、椿梅は一部の死神から"厄介姫"と呼ばれている。
「新入隊員なんて久々だな、俺は諏宮慎。十四番隊の副隊長をしている」
「……古森……て……」
「アァ!?聞こえねーよ!!声ちっさ!!!!」
鳬梅から新入隊員が入ったので指導を頼む、と古森を引き渡された諏宮は面倒くさがりながらもそれを了承した。
まずは手始めに挨拶から、ということで諏宮は名乗ったのだが、目の前の大人しそうな少年はボソボソと喋るだけで諏宮は腹が立った。
「きちんと喋れや!ここではそんななよなよした態度だと生き残れねぇぞ」
「……」
「おーい聞いてんのか?」
ちっ、と舌打ちし考える。こいつはダメだと。
諏宮は仕方ないととりあえず隊舎を案内することにした。他の隊に比べれば小さめの隊舎も少ない隊員からすれば丁度いい。それに殆ど討伐任務で席を外している隊長の代わりに書類仕事をする部屋さえあれば、諏宮にはなんだって良かった。
「ここが姫の部屋な」
「……姫」
諏宮はとある部屋の前で止まった。
ごく普通の部屋だ。しかし、諏宮はそこを開けるか迷う。
「隊長の娘さんが隊舎に来た時に使う部屋ってことな」
「娘……」
「そ、浮竹椿梅。まだ十代半ばの見た目してっけど自分の斬魄刀を持ってるし卍解まで習得してる。霊術院は通わずに時期を見てうちに入隊するらしい」
「……」
顔にはあまり出ないが、瞬きを何度もする古森を見て、動揺していることはわかった。
「今この部屋にいるかは分かんねぇし、トラブルメーカーってやつであんまり俺も関わりたくないんだ……」
「だから、襖を開けないんですね」
「……おう。でもまぁ、そんなこと言いつつもよ、そのお姫様を守るのも俺達の仕事だからな」
◇
十四番隊に配属されてからすぐに第三席ついた
真央霊術院に語り継がれる成績優秀素行不良の、様々な偉業を成し遂げた最高最悪の女、五條鳬梅。
彼女からスカウトされ、十四番隊に入隊が決まった時も複雑な気持ちだったのを覚えている。
夜宵が思っていた鳬梅は、毎日怒鳴ったり、好戦的なイメージだったのだが、それが実際はどうだ。仕事はしないわ良く微笑むわ、優しいし怒らない。
質問をすれば答えてくれるし、鍛錬に付き合ってくれる時さえある。
仕事をしないだけで、隊長としては最高にいい人なのだ。
他の隊を見ても十四番隊で良かった、と思う時さえある。
そんな十四番隊で、鳬梅隊長は何故"落ちこぼれ"の夜宵を"第三席"で置いてくれたのだろうか。三席についた今でもまだ、理解出来ていない。
「浮かない顔をしていますね、夜宵」
「た、隊長!」
「ふふ、何か考え事でも?」
どうやら隊長に嘘はつけないみたいだ。
顔を覗き込まれただけで全てを見透かされたような気持ちになる。
「いえ!何も無いです!」
「あらそう」
隊長は目をぱちくりさせる。
「それより!これからの予定ですが、真央霊術院にて特別授業が____」
言葉を止めた。
辺りを見回すが隊長が居ない。
「隊長ぉおおおおお!!!!!」
全くどこまで自由なんだあの隊長は。辺りを走り回り探すがいない。
夜宵の叫び声は届いたのだろうか。
この後の予定は鳬梅隊長による真央霊術院での特別授業だ。
十四番隊は何故か真央霊術院とは結び付きが強い。
鳬梅はこんなんだが実力は確かで、教えるのも上手い。
真央霊術院へは特別講師として時たま呼ばれることが多い。その為生徒からは人気も高く、隊長の授業を欠席する奴は中々いない。
とはいえ、ご覧の通り自由人なので相手をする我々隊士達のことも考えて欲しいものだ、と夜宵は項垂れる。
「夜宵じゃないか、どうしたんだ」
「諏宮副隊長!」
「隊長は、いないみたいだな」
「今日も書類仕事ですか?」
「いや、書類仕事もそうだが、新人の世話をちょっとな」
新人?首を傾げると諏宮の後ろからひょっこり色素薄い系の美少年が顔を出した。
小さくお辞儀をされたので夜宵も軽くどうも、と返す。
「ほら颯、挨拶」
「……古森、颯……です」
ボソボソと名乗る古森に、夜宵もまた「十四番隊第三席、
「ちなみにこいつは九席だ」
諏宮は古森の首根っこを掴み夜宵の前に突き出すと、ニヤリと笑った。
その時だった。十四番隊に伝令が知らされる。
内容はーー虚討伐。
虚討伐任務、十四番隊にもそれが回ってくるとは人手が足りていないのだろうか、ともかく珍しい。
「うちが討伐任務につくのは珍しいな。とりあえず隊長に連絡を……て、どこ行ったんだあの人は……!」
「あ、今日は真央霊術院で特別授業の予定があったんですけど、それも放ってどこかへ行ってしまいました、すみません!」
忘れていた。夜宵はすみませんと謝り、諏宮はため息を吐く。
「あぁ、くそ、院の方もあったな。はぁ……いつもの事だ、仕方ない。討伐任務の方が重要だ、院の方は夜宵が説明しといてくれ、俺は隊士を連れて任務へ行く。後で合流しよう。行くぞ颯」
頭を押さえながら諏宮はそのまま瞬歩で任務へ向かった。その後を少し遅れて古森が着いていく。
この慌ただしさ、隊長に振り回される感じが十四番隊らしい。
夜宵は霊術院へ急いだ。
◇
ーーあぁ、今から隊移動出来ないかな
真央霊術院に着いて心からそう思った。
いなくなったと思っていた隊長は1人の生徒を連れて夜宵の目の前に現れたのだ。
「隊長!どこいってたんですか!!」
「ちょっと遊びにね…!それより討伐任務でしょ?早く行きましょ!」
「いや待ってくださいその子も連れていくつもりですか!?」
その子、というのは隊長が連れている女の子のことだ。どう見ても真央霊術院の生徒。
まさか連れていくつもりではないだろうな。
「連れていくに決まってるでしょ!この子は来年から十四番隊ですっ!」
「「は、はぁぁ!?!?」」
女の子も知らなかったのだろう、夜宵と一緒になって驚きの声を上げていた。
ムスッと可愛らしい顔をしている鳬梅だが、いや待て待て、生徒だぞ、まだ正式な死神にすらなってないような未熟な子が虚討伐に今から行くなどそんなこと____
「とりあえず時間が無いわ、行くわよ」
強引な鳬梅はそう言うと夜宵達を任務地へと連れていった。
ーーあぁ、ほんとどこまでも自由な人だこの人は。