それは我らの憧れであった。   作:小池蒼司

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全てはあれが起こるまでの物語である。


2章:厄介姫は逃走中
7.藍染惣右介


 

 

災難だったねと周りから同情されながら、結局私は真央霊術院を六回生まで過ごすことになった。

 

卒業したら席官につくのは確実だろうと言われ、落ちこぼれだった私はあの一件以来突然持ち上げられるようになった。

 

そして、鬼道の秀才である朝長は苦手だった破道も克服し、卒業と同時に五番隊へ所属が決まった。私達は不安だった未来を明るい未来に変えたのだ。

 

 

 

ーーそれから現在。

 

 

「……よろしく」

 

目の前で静かに手を差し出す男、古森颯は私を見るとただ一言そう述べた。

 

「よろしくお願いします……」

 

何を隠そう真央霊術院を卒業後、私はスカウトされた通りに十四番隊へ入隊した。

 

実はあの後、鳬梅隊長は謹慎をくらい、挙句に私の入隊は却下されたらしいのだが、鳬梅隊長のわがままを浮竹隊長や五番隊の副隊長がなんとか言いくるめてくれたらしく、こうして今私はここにいる。(何度も言うが本当は十三番隊に行きたかった)

 

「十四番隊……第四席、古森颯です……」

「あ、存じております……」

 

古森さんはあっという間に出世しているし、卒業したら席官につけると言われていた私は未だただの平隊員だ。話が違うぞおい。

 

 

「おーい颯!後で五番隊に……て、なんだ新人か?」

 

古森さんと互いにオドオドしていると、たまたま通りかかった男性が書類を片手に話しかけてきた。この人知ってる。十四番隊副隊長の諏宮慎さんだ。

 

私はぺこりとお辞儀してから名乗ると、諏宮さんは何故か感動した様子で1歩下がった。

 

「挨拶も出来るし礼儀がなってる新人なんて久々に見た……感動したよ。俺は十四番隊副隊長の諏宮慎だ。颯の入隊時なんて酷いもんだったぞ、なぁ!」

「……」

 

ーーえぇ……

 

無言の古森さんとその背中をばしばし叩く諏宮さん。いいコンビに見えるけど実際の関係性はどうなんだろうか、ちょっと不思議だ。

 

「そうだ、なら丁度いい。お前ら二人で五番隊に行ってくれねーか。この前共同で任務行った時の事後処理報告とかその他諸々頼むわ。ついでに、永戸は五番隊の副隊長さんに挨拶しとけよ」

「え?どうしてですか?」

「そらあれだろ、お前の入隊を推薦したのはなんでか惣右介だったしなぁ…ま、いいや頼むぞ颯〜」

 

 

 

と、言われ。

諏宮副隊長は私と古森さんにそれぞれ書類を手渡すと口笛を吹きながら歩いていってしまった。

しまった、これは仕事を押し付けられてしまったぞ。

いいんですか古森さん、と振り向くと彼はまるでこれが日常だと言わんばかりに慣れたようにそそくさと歩いていってしまうではないか。

 

分かった。古森さんは諏宮副隊長のパシリなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、時を同じくして隊首会が開かれてた。

青から白へとグラデーションがかった長髪を赤いリボンで一つにまとめた少女を真ん中に、総隊長と向き合う形になり横には各隊長がずらりとその光景を並んで見ていた。

 

 

「さて、主の考えを聞こう」

 

山本元柳斎重國は細めた目を向け少女に聞く。

緊迫した空気の中で、少女は一言「嫌だ」と告げる。

 

「……ほう?」

「私は十四番隊に入るの、一番隊には入りたくない」

「誰に似たのか変なところで強情じゃの」

 

総隊長はほっほっ、と声に出して笑うが、空気は変わらず重い。

何しろ、彼に逆らう者は少なく、ましてや少女のようにタメ口を聞いて対等に話す者などいないのだ。ーー一部を除いて。

 

「いいか椿梅よ、お主の力は十四番隊では育たぬ」

「はぁ?何それお母さんの腕を疑ってるの」

「くどい!!これは各隊の隊長も同意見である」

「……どういうこと」

 

少女、椿梅はキッと端に立つ母親を見た。鳬梅はにこやかに微笑むまま表情を変えない。

 

「いっつもそう。お母さんも貴方たちも私を異常者扱いして、私はあなたたちの操り人形でも何でもないのよ!?」

 

椿梅は瞳を潤ませ訴えた。

「椿梅」

パシン、と総隊長の伸ばした手が振り払われる。

 

「触らないで!!私はもっとお母さんと、お父さんと皆といられると思ったから死神になる道を選んだのに、これじゃまるで……」

 

椿梅は一拍置いてから息を吐き、そしてその場を逃げるように走り去った。

誰もその後を追いかけることは出来なかった。

 

「…」

「後で部下に追わせます、お気になさらず」

 

誰も間違っていない。しかし、正解ではないこともまた事実。

浮竹椿梅の強大な力の扱いを決めるにはまだ時間がかかるのだ。

 

「ーーすまぬ、鳬梅」

 

沈黙を破るように総隊長が開口一番に謝罪した。

鳬梅は優しくそれを否定する。

 

「私があまり構ってやれなかったせいですね」

「鳬梅ちゃんの責任ではないでしょ、ここは椿梅ちゃんの意思を尊重した方が良かったのかもね〜ほら、もう反抗期の時期だし」

 

果たしてそうだろうか。京楽の意見に鳬梅が苦笑するが、隊長としての仕事に追われて忙しかった鳬梅と浮竹が椿梅にあまり構ってやれなかったというのは少なからず影響しているはずだ。

 

「日を改めて浮竹椿梅について隊首会を開くとする。今回のことは保留にしよう」

 

 

解散。総隊長の一言が室内に響いた。

 

 

 

 

✩.*˚

 

 

「五番隊はここを曲がったところにあるんですね」

「そう…今日は隊首会があるから、副隊長さんに届ければ大丈夫……」

 

道案内も兼ねて、古森さんは五番隊までの道と道中にあるよく使う場所の説明をしてくれる。

こうしてみると学院時代よりも喋るようになったな、と後輩のくせに古森さんの成長を感じてしまった。

 

 

「……ここ」

 

こんにちは、と五番隊隊舎へ顔を出してみると、黒縁メガネをかけた優しげな男性がこちらに気付いて微笑んでくれた。

古森さんはその人を見ながら彼が五番隊副隊長の藍染惣右介だと紹介する。

 

「こんにちは、初めましてだね。藍染惣右介です。と言っても、私は個人的に君のことを知っているんだけどね」

「初めまして……!永戸恵子です。十四番隊所属の際、推薦をしていただいたということで、この場を借りてお礼申し上げます」

「はは、特別なことはしていないよ。ただ君は才能がある。その力を育てるには十四番隊が一番だと思っただけさ」

 

 

藍染副隊長は穏やかな笑みを絶やさずに話し続けた。

霊術院で何度か私を見かけたことや居残りで訓練していたこと、それから決め手は討伐任務で突如現れ斬魄刀の解放を行ったあの日。

 

全て見られていたんだと急に恥ずかしくなった。

 

「永戸くんは席官につけたのかい?」

「いや、それがまだ平隊員で……」

「そうか、それは仕方ない。十四番隊は今色々あるみたいだからね」

 

藍染さんはちらりと古森さんを見るが、古森さんは何を言うでもなく動じなかった。

 

私もそのことには触れてはいけない気がして、ありがとうございますとお礼を言うので精一杯だった。

 

「それよりここへはなんの用かな?隊長は今隊首会で不在だけど」

「……これ、渡しに来ました……」

 

古森さんは私の手から書類を取ると自分のと重ねて藍染さんに手渡した。

少し、古森さんが前に出たので確信したがこの人は藍染惣右介という人間をあまり好きではないようだ。

 

 

「あぁこの前の。ありがとう、渡しておくよ。……」

 

藍染さんの視線は古森さんから私へ。そして逸らされ、古森さんは私の腕を掴むと五番隊隊舎を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、どうしたんですか古森さん」

 

古森さんはあまり感情を表に出さない。出したとしても分かる人は少ない。それでも今の古森さんを見た人は皆すぐに分かるほど負の感情が溢れ出ていた。

 

「……僕は、……あの人が、苦手だから」

 

ぱっと離れた腕、距離を置いて古森さんがそう呟く。古森さんがそんなことを言うなんて珍しい。

 

「苦手…?」

 

あんな優しそうな副隊長のどこが苦手なんだろう。

というか、古森さんにも苦手な人とかいたんだ。

 

 

「……僕は、「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!どいてどいてどいてェエエエエエ!!!!」うっ」

 

古森さんが言いかけた時、どんがらがっしゃーん。

目ん玉が飛び出すかと思ったくらいの衝突事故が突然起こり、間一髪避けた私はともかく、もろに直撃した古森さんは青髪の少女と共に床に倒れていた。

 

「こ、古森さぁぁん!?!?しっかりしてください!!」

 

少女を守るようにして倒れた古森さんの頬をペシペシ叩く。先に目を開けたのは少女の方だった。

 

ーーこの子どこかで

 

「はっ、私としたことが……!ちょっと大丈夫!?」

 

少女は倒れている古森さんの肩を掴みぐらぐらと揺らし続けた。ちょっとそれ以上やると気絶しちゃうんじゃ……。

 

___

 





オリキャラは当然のように死にます。
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