ラブオーズ!「Anything goes!『旅はまだ途中』」 作:ゆっくりシップ
「大丈夫だろうか皆......」
走りながらアンクの言っていた事を思い出す。
「いいか、コアメダルとセルメダル。コアを中心にセルがくっついてるのが俺たち封印されたグリード。お前が倒したのがヤミー、セルメダルだけで出来てるグリードの分身みたいなもんだ」
彼の言っていた事はなぜかすっと頭に入ってきた。別に納得したわけではないけど。
それに姉のこともあるし頭の中はパンク寸前だった。
「とにかく今はこの状況をなんとかしないとな」
息も絶え絶えになりながらもなんとか先程のところまで戻ってきた。
あたりを見回すと、荒らされてはいるが幸いな事に怪我人はいれど死者はいないようだ。
「繋音!」
不意に背中に誰かが抱きつく感触をおぼえ振り向く。
それはある意味今繋音が最も求めていたものでもあった。
「かすm」
「バカっ!!」
「みぞおち!?」
かすみの拳が鳩尾に突き刺さる。
知らないとはいえ命がけで戦っていた親友に対しての仕打ちがこれとはあんまりにも程がある。
「バカ、ばかばかばかばか!」
「痛い、痛いってかすかす!」
「うっさいアホ繋音!人がどれだけ心配した思ってるの!」
ぽかすかと胸板を叩いてくるかすみだが、その声は確かに上擦っている。
「......ごめんな」
今はただ謝る事しかできなかった。
「おい、行くぞ」
「は、えっ?ちょっと彼方先輩?今はかすみんのターンなんですけど?それに少し変じゃないです?」
心底興味がなさそうにしていたアンクが突然右手を掴みどこかへ向かおうとする。
「メダルの匂いだ。それもかなりの大物......さっきのやつより稼げそうだな」
体が微かに震える。
「めだる?いやそんな事言ってる場合じゃないですよ早く逃げないとまた!」
「......いや、ここはもう安全だよ、もうあいつはこない」
かすみの頭をわしゃわしゃと撫でながら宥めるように言う。
なにか言いたげな目つきでこちらを睨むがそんな事にかまけている余裕は残念ながらないのだ。
ふわふわとした髪を堪能しつつ思案する。
彼女には大丈夫と言いはしたが正直なところここが安全とは言い切れないのだ。
ここを襲ったやつ——間違いなく先ほど倒したヤミーの事だろう。
ならばもうここを襲われる事はない、と言いたいところなのだがアンクの言葉が本当だとするとそうとも限らない。
アンクのメダルに対する執着がかなりのものであるという事は先ほどよく理解した、彼?がコアメダルとセルメダルに関する情報で嘘をつくとは思えない。
かなりの大物、そう言っていたがあのヤミーよりも強いのだろうか。
あの化け物どもと戦えるのはオーズ、つまり俺だけ。
mそして俺にそんな相手を止める事ができるのか。
「ちょっと!撫ですぎ!」
「ん、あぁごめん」
慌てて手を止めるが何故かかすみからは鋭い視線で睨まれた、女の子って難しい。
だが、心の整理はできた。
「皆は無事なんだよな?」
「う、うんもう避難してるよだから繋音達も!」
「——それはできない」
既にアンクの姿はなかった、もうヤミーのところに向かっているのだろう。
遠くでビルが倒壊する音がした。
それはもう迷っている時間はないと確かに俺に告げていた。
「行かなきゃいけないんだ、助けられる命があって俺にはそれだけの力があるんだから」
かすみははっとした表情を浮かべるがすぐに厳しい表情に変わる。
そしてこう言った。
「......帰ってこなかったら許さないから」
「——了解!」
それだけ言って俺たちはお互いの行くべき方向へと走りだした。
会場にはもう誰の姿もなかった。
_____
「はぁ、はぁ、悪い遅くなった」
「ふん......あれを見てみろ、誰の欲を元にしたのかは知らないがこのままいけばこいつはたんまり稼げそうだな」
アンクの異形の手が示す方へ視線をずらす。
そこにいたヤミーは先程のやつとは比べものにならないほどの巨体だった。先のビルを倒壊させた犯人はこのヤミーだという事ははっきりとわかった。
高層ビルを喰らっていくその姿は怪獣と呼ぶにふさわしい。
こんなのを放って置いたらどうなるかは火を見るより明らかだった。
「ほら」
アンクへと手を伸ばす。
「あ?なんだよ」
「メダルだよ、メダルがなきゃ変身できないだろ!」
前回の戦闘が終わったあと、変身が解けた際にいつの間にかメダルを抜き取られていたので今の状況では俺1人じゃ変身できないのだ。
「まぁ待て、あいつはまだ成長しきっていない」
「はぁ?」
「いいか繋音、ヤミーってのはな棒のないこいつみたいなもんだ」
いつの間にか咥えていたアイスキャンデーを指差す。
「こいつぁいい、あーアイス、だとか言うんだか」
こめかみ辺りを押さえながらアンクは続ける。
「棒が俺たちグリードの核になるコアメダル、それでこのアイスがセルメダル、体になるってわけだ」
「それはなんとなく分かったけどそれとこれがどう関係あるんだよ」
確かにグリードとヤミーの関係性については納得のいくような説明ではあったがあのヤミーを倒さない理由にはならなかった。
「アイスは多い方が旨いだろ?そしてヤミーは宿主の欲を満たす度セルメダルを蓄えていくんだ、こいつはまだデカくなる。その後倒した方が一気に稼げるんだよだからもう少し待て」
「んなこと言ってる場合じゃないだろ!誰かが死ぬかもしれないんだぞ!?」
「あ゛?」
アンクに対し捲し立てるが普段の姉からは想像もできないような鋭い目で睨み付けられ一瞬言葉が詰まる。
「勘違いすんな、お前の役目はメダル集めだ」
「とにかくセルメダルがいるんだよ」
目の前の高層ビルが1つ、また1つと倒壊していく。
「タダで助かる命なんて無いんだよ、黙って俺の言う通りに動け」
「お前なぁ......!」
こんな事をしている場合ではないというのに。
今この瞬間にも誰かの命が消えていくのに。
その人たちにも大切な人がいて、そして何よりも明日が来るはずで。
でもそれがこんな事で壊れてしまうなんて。
そんなのを黙って見ているなんて俺には——
『なにをすべきか......分かってるだろ?』
「——あぁ」
脳裏に声が響く。
そうだ、やる事なんてとっくに決まっていた。
「俺は後悔したくない」
固く拳を握りしめ走り出す。
行先は次にあのヤミーが標的として選んだビル。
「おい!」
アンクの静止を振り切り再び全速力で駆け出す。
この手で掴める命が、まだそこにはあるのだから。
今年もあと半分ですが今年最初の更新でした執筆をサボってやるゲームは楽しいですね