大江山の下っ端転生者   作:鬼怒藍落

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十二話

「そぉれ」

 

 体を捕まれた俺は軽々しく頭領の方に投げられる。

 それを宙に浮かぶ腕で助けられた俺は、再度酒呑様に突撃した。酒呑様相手に手加減など出来ない。頭領も頭領でやりづらそうにしているが殺す気でやらなければ、こちらが殺されてしまうので全力で戦っている。

 

「……まさか、酒呑と戦う事になろうとはな」

 

 そう嗤う頭領の声は震えており、強がっているのは明らかだ。その気持ちは分かる。己の親友と戦わなければならないのだ――自分が惚れ込み憧れている親友と……。

 

「どうする頭領」

「酒呑は救う、だが最悪の場合は――」

 

 頭領はそこで言葉を切った。

 続く言葉は分かっている――最悪の場合は酒呑様を殺す。だがそれは本当に最後の手段だ。今は生き残り救う事だけを考える。

 

「なぁに、作戦会議でもしてるん? うちも混ぜてや」

 

 酒呑様がゆらりと現れて、俺達に向けて刀を振るった。

 それを避けた俺は酒呑様の体に一度触れ、彼女がどういう状態かを解析の術で確かめる。触れたのは一瞬だったが、なんとか俺は酒呑様の今の状態を知る事が出来た。

 今、酒呑様は変質した傀儡の術の所為で本能を刺激され、記憶を封じ込められた状態だ。恐らく、未完成の術が術者を失った事で暴走し、そうなっているのだと思う。勝手な憶測だが、間違えてはいないだろう――――これならば助ける事が出来る。

 

「嬉しそうやけど、どないしたん?」

「別に、ただ楽しいなと思っただけだ」

「そうやなあ、ほんまに楽しい。そやさかいもっと、うちを満足させてや」

 

 やる事は一つ、酒呑様に掛けられた術を燃やすこと。それが出来る力を俺の炎は持っている筈だ。神を殺せる炎だ。あの術から酒呑様を救うぐらいの力は見せてくれよ。

 体の炉は、それに答えるように炎の勢いを強め酒呑様を救う為の炎を作り始めた。ふと隣を見れば、頭領の炎も強くなっており、頼もしさが増したような感じがする。

 

「作戦はこれでいいか?」

「問題無い、信じてるぞ土蛇」

「じゃあ行くか、酒呑様を助けるぞ頭領!」

「応とも!」

 

 二人で同時に酒呑様の元へ走る。

 刀を繰り出し隙を作る。何度塞がれても構わない。何度こちらが攻撃を受けてもいい。俺達の勝利条件は、助ける為の炎を作る事だからだ。

 

「楽しい、楽しいなぁ!」

 

 その声と共に俺達は弾き飛ばされた。 

 踏み留まり、再び酒呑様に向かって行き、左と右から挟み込む攻撃。だが、それは先に辿り着いた頭領をこっちに投げる事で邪魔される。

 視界を頭領で遮られた刹那、俺の体に衝撃が走る。

 ――――骨抜き、本家のそれは骨だけでなく俺の内臓を幾つか抜き潰す。そのまま体の中に剣を突き立てられ、悲鳴を上げそうになる……。

 

「が――――っ……だが!」

「捕まえぞ酒呑!」

 

 体勢を立て直したらしい頭領が後ろから酒呑様を羽交い締めにし、俺から無理奴離させる。

 炎が出来るまで、あと四十秒――――俺は作られていく炎に集中し、その時間を早めた。頭領が動きを止めている間に、なんとしてでも完成させる。

 頭領に捕まえられている酒呑様は暴れて、その拘束を解こうとする。頭領と酒呑様は僅かだが、筋力の差がある。だから、長くは持たない。

 ――――あと五秒。

 完成間近のこの炎が俺の中から抜け出して、手の中に移動する

 

「しま――――なんのぉ!」

 

 酒呑様の拘束が外れそうになった瞬間、炎の腕で自分ごと掴ませ、再び動きを止めた。

 

「出来たようだな、吾ごとやれ土蛇!」

 

 出来た炎は蛇の姿へと変化して、酒呑様達に放たれた。

 炎の蛇が酒呑様達を飲み込み、炎に焼かれて苦しむ二人。だが火力は緩めない、頭領の覚悟を無駄にする訳にはいかないからだ。

 炎の中で何かが酒呑様の体から出てきた。それは蜘蛛の形をした影、その影からは鎖が伸びていて酒呑様の体を繋いでいる。

 見えたあれが原因だ。

 燃やせ。

 燃やし尽くせあの術を――――。

 

 

 

 

 だが、そんな俺の思いを他所に鎖は少しは溶けているようだが完全に消える様子は無い。足りない、この火力では焼き殺す事は出来ない――――ならば、無理矢理にでも火力を上げればいい!

 ここから先は俺も初めてやる事だ。無事で居られる保証は無い、だがやる価値は大いにある。

 

「廻れ――――火之夜藝速(ひのやぎはや)

 

 バチンッ、そう音を鳴らして豪快に二つ目の枷が外れたその瞬間、体の中で何か致命的な物が変わった気がした。

 今まで動いてなかった歯車が動き出したような感覚。自分の中の何かが燃料にされたような痛み――――だが、今は無視だ!

 

「燃え、尽きろぉ!」

 

 その言葉が最後だった。

 酒呑様に掛けられた蜘蛛の呪縛は焼き殺され、影が苦しみながら消えていき、酒呑様がその場に倒れた。

 

 


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