大江山の下っ端転生者   作:鬼怒藍落

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十四話

 不思議な場所に俺は居た。

 そこは紅蓮の炎に包まれていたが熱さは感じず、何故か落ち着ける場所だった。どうして自分がこんな場所に居るのかは分からない。ただ、初めて来る筈の場所なのに、ずっと自分がここに居たかのような錯覚を覚えてしまう。

 

 そんな場所を俺は、目的も無く歩いていた。

 どこに向かえばいいのか分からないし、何より景色が全く変わらないので、自分が今どこに居るのかすら分からない。意味も無く歩き続けた俺はある事を結論付けた。

 こんな場所が現実にある筈無いし、多分コレは夢だろうと……まあ、気付いたからといって何かが変わる訳でもなく、夢は覚めないままだ。

暫くすると、開けた場所にやって来た。そこの中心部には、四つの岩が周りに置かれた炉のような物があり、炉の中からは巨大な太刀が顔を出している。

 

「……遂にここまで来たか」

 

 その刀に何故か惹かれた俺に向かって誰かが話し掛けて来た。

 

「まだ……その刀を抜く資格は無い」

 

 話し掛けて来た何者かは、それだけを伝えたかと思うともう俺に声を掛けてくる事は無かった。そんな謎の出来事の中、急に周りの炎が俺に向かって伸びて来て俺の体を包み込んだ――――――。

 

 

「…………変な夢だったな」

 

 

 ――――拳が迫る。

 小柄な体から放たれたその拳は真っ直ぐ俺の体を捉え、そのまま打ち抜いた。次に流れるように足払いが行われ、俺は体勢を崩される。一瞬揺れる視界、その間にも相手は俺の後ろを取り、裏拳を叩き込んで来た。

 日に日に成長していく、対戦相手の容赦の無さを感じながらも、俺は琴音を組み伏せ意識を落としに掛かる――だがそれは誘われた物だったのか、反撃されて重い一撃を俺は喰らわされた。

 一撃を受けた事で俺は彼女から距離を取る。

 

 ゆらりと彼女の姿がブレる。

 離れた場所に姿があるのに、次の瞬間には離れている筈の俺の目の前に現れて俺の鳩尾を正確にその目で捉え、回避不能の攻撃を放って来た。

 流石にその攻撃を受けると不味いと思った俺は全神経を防御に回し、なんとか防ぐ事に成功する。

 今の移動法は、初めて彼女に出会った時にやられた物。琴音曰く、自分の魔力で実態と変わらない残像を作り出し、相手が残像の自分に気を取られている隙に地面を蹴って移動しているそうなのだが……俺はどうにもこの技が苦手で、いつも攻撃を食らっている気がする。

 だが、俺もやられっぱなしではいられない。

 先程、彼女にやられたように足払いを仕掛けて、その周りに不可視の炎を設置した。琴音は足払いを上に飛ぶ事で避けたようだが、避けた先には俺が設置した炎があり、着地した琴音に反応した炎に囲まれた。

 

「……あ、無理です。負けました」

 

 自分の周りでゆらゆらと回る炎に囲まれながら、琴音は降参の合図かその場で手を上げた。炎が消え、琴音の元に今の戦いを見ていた大江山の仲間達が集まってくる。彼女は周りから労いの言葉を受けながら、竹で出来た水筒を受け取り水を飲む。その後、彼女が最近友達になったと言っていた小妖怪達と楽しそうに喋り始めた。その姿を見ていると、この大江山に彼女も馴染んできたんだなと実感する。

 

「……そう言えば、最近琴音とばっかり戦っている気がするんだが」

「気の所為じゃないよ土蛇、アタイが知る限りここ二週間は毎日戦ってる」

 

 虎熊童子が呆れたようにそう言いながら竹水筒を手渡して来た。

 

「それにしても、あの子凄いね。まだまだ粗いけど、磨けばもっと強くなるよ」

 

 武人である虎熊童子にそう言われるなら、琴音が強くなるのは確実だろうな。

 俺もあれから鍛えたから、枷を掛けている状態でも、今はなんとか勝ち越しているが……いつ抜かされるか分からないので気が抜けない。

 それとこれは余談なのだが、酒呑様の技を琴音が使える理由は土蜘蛛にあったそうだ。なんでも大元は土蜘蛛が仕込んだもののようで、琴音はあの空間に張り巡らされていた糸から奪った力を自分のものにする力があったとのこと。酒呑様の技が使えるのは力の副産物的な恩恵として技術も同時に手に入るからだそうだ――本当に反則だよなこれ。頭領も土蜘蛛との戦いで、力を奪われていたって言うし、もしかしたら頭領の技まで琴音は手に入れていたかもしれないんだよな……この先は考えないようにしよう。

 

 それと土蜘蛛との戦いから約三ヶ月が経過した。その間、大江山では特に事件は起こらず、平和で変わらない日々が続いている――いや、ちょっと違うか。変わった事は少しある。あの土蜘蛛を倒した事で、大江山の茨木童子の名が有名になり、名を上げようと討伐しに来る人間が増えた事だろう。今日も朝来たようだが機嫌の悪かった星熊童子の八つ当たりに付き合わされ、全滅していた事を覚えている。

 

 

「なあ土蛇、最近暇だ構え」

「どうしたんだよ頭領」

 

 その日の宴が終わった後、ごろごろと寛ぐ頭領に俺はそう命じられた。とても気怠そうに、俺が持って来た甘味を貪る頭領の姿からは威厳は感じられない。

 

「頭領、せめて座って食べてくれ」

「面倒だ。このままでいいだろう」

「頭領がいいならいいんだが。あまり他の奴には見られないようにしてくれよ? せっかく保っていた威厳が無くなるぞ」

「そこは大丈夫だ。吾も弁えておる」

 

 ならいいけどさ。

 …………確かに暇だな、やる事が無い。

 酒の肴に用意した焼き魚を食べながら、暇を潰す方法を考えてみたが思い浮かぶ事は無かった。

 

「京に出向くか、そろそろ酒の在庫も切れるのでな。土蛇、準備しろ」

「……了解、頭領」

 

 ついでに香子の所に顔でも出すか、土蜘蛛の話を聞きたがってるだろうしな。

 

 

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