大江山の下っ端転生者   作:鬼怒藍落

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十六話

 殺気の籠もった双眸が俺を射貫き、返答次第では殺すと暗に語っている。その様子から説得は無理だと言う事が分かるし……暴れた場合の被害を考えると、炎なんか使えないし何より今の俺は人に化けてるから戦えない。

 ……なんでバレたんだよと愚痴りたいが、そんな事をしても意味が無い。前も源頼光に変化がバレたし、俺の術の完成度は低いのだろうか……。

 考えれば考えるほど悲しくなっていき、どう動けばいいか分からず俺が固まっていると、俺の後ろにいた幼女が、渡辺綱の元に近づいていった。

 

「兄様駄目、土蛇いい奴」

 

 それだけ簡潔に伝えた幼女の言葉を聞いた渡辺綱は、渋りながらも刀を収めた。やばいな、戦闘を回避してくれた幼女に後光が差している。この借りは大きいぞ、返せるか?

 幼女に感謝していると、何やら話し込んでいる幼女と渡辺綱の姿が目に入った。話しているときの幼女は、一緒にいたときには変わらなかった表情を色々変えながら今日合ったことを話している様だ。その様子を見ていると、金時が笑顔で俺の元にやって来た。

 

「久しぶりだな土蛇! オレッチの事覚えてるか?」

「あぁ、覚えてるぞ金時。元気してたか?」

「おうとも! この通りだぜ」

 

 金時はそう言いながら、腕をまくり筋肉を見せてきた。 元気そうで何よりだ。金時は数少ない酒呑様の愚痴を言える友だからな、怪我がなくて良かった。

 

「それにしてもよ土蛇、一瞬誰か分からなかったぞ」

「それはそうだろ、これでも一応変化してるからな。そんな簡単にバレたら困る」

「綱の奴にはバレてたけどな」

 

 悪気はなかっただろうが、今の言葉は刺さったぞ。昔どっかの妖怪が言ってたが、悪意ない言葉が一番効くらしいんだが、その通りだったな。

 そんなやりとりを金時と交わしていると、話し終わったらしい幼女が上機嫌で金時の肩に乗り、申し訳なさそうな様子の渡辺綱が俺の前で頭を下げた。

 

「悪かったな、妹を助けてくれたのによ」

「いいって、家族がいなくなったら俺もアンタのような反応するし」

「鬼だからって誤解したがオマエいい奴だな」

「そう思ってくれるなら助かる。改めて土蛇童子だ。よろしくな」

「……土蛇? どっかで聞いたことあるが……まぁいいか。俺は渡辺綱よろしく、でこっちが金時だ」

「オウ!」

 

 綱に紹介され、幼女と遊びながらこっちに笑いかけてくる金時。

 その後で俺は、礼がしたいと綱に言われこの里の茶屋にやってきた。初めて来る場所と言うこともあってか、珍しい物もあったので俺が土産用のを店の中でいくつか見繕っていると、誰かが来たのか畏まった様子の金時と綱の姿が。どうしたんだ? 結構偉い筈のあの二人があんなになるなんて。

 気になった俺は荷物をまとめながら店の外を見てみることにした。

 そこにいたのは、何処かで見た艶のある黒い髪を持った、凄まじいスタイルをした女性。その女性からは、どことなく雷神の気配が感じられ、妙に体が冷えてくる――――源頼光じゃん。

 なんで、こんな京から離れた場所に四天王二人と頼光がいるんだよ。これじゃあ後の二人もやってきそうだぞ。逃げるか? 幸い、今ならまだ彼女には俺の事バレてないし、逃げれるはず……そう思いながら俺がこっそりと茶屋から出ようとすると。

 

「店主、俺は帰ったと綱と金時に伝えてくれ」

「あら、どこへ行くのでしょう?」

 

 背中に凍りでも入れられたような寒気を感じて、俺はその場から後ずさった。急いで後ろを振り向けば、とても上機嫌な様子の彼女がそこにいて、その笑顔でだけで肝が冷えてくる。

 

「お久しぶりでございます。私の事、覚えているでしょうか?」

「……源頼光だろ、忘れるわけがない」

 

 忘れる訳がない、少し前のことだが土蜘蛛の時と同じようなインパクトで俺の中に残っている。あの雷に当たったら死ぬって思えた瞬間も、あの弓の腕も――今でも偶に夢に出てくるし、なんか考えてたらまた怖くなってきた。

 軽くトラウマが再来し、それに恐怖を感じていると、何故か頼光が体をびくりと震わせながら、恍惚とした表情を浮かべていた。

 

「……おい、大丈夫か?」

 

 見るからに大丈夫じゃなさそうだが、どうしたんだよ。

 天敵といっても、流石に目の前でこんなになられたら心配だ。そう思いながら近づいてみると、何かを堪えるように震えながら。

 

「んッ――ッ今のは、気にしないでください 」

「本当に大丈夫か?」

「……はい大丈夫です。それより、貴方はどうしたこんな所に?」

「ちょっとな、それより前みたいに襲ってこないのか?」

 

 俺としてはこのままの何事もなく終わってくれて、山に帰って休みたい。だが、それは叶う気がしないからせめて、何が起こるか聞いておこう。

 

「あの時の事は忘れてください、自分でも反省していますので――――そうだ。少し時間をいただけますか? あの時の事を含めて話したいことがあるのです」

 

 あれ、これってもしかしなくても詰んだか?

 今の戦力的にどう足掻いても逃げられないか断れないし、こないだの事って絶対碌な話じゃないよな。

 

 断ることが出来ないので、警戒しながらも俺はその話に乗ることにして、一先ずこの場を凌ぐことにした。返事を貰った頼光は、表情を崩しながら体を揺らし、少女のように喜んでいる。

 

「綱、別荘を借りられますか?」

「いいぜ姉御、だが何をするんだ?」

「気にしないでください、ちょっとしたことですので」

「まあいいか、こっちだ土蛇」

  

 そう言う綱に連れられて、別荘に俺は通された。いつも俺は、夜寝静まった頃に誰かの屋敷に侵入して酒などを盗んでいたから、こうやって正式に通されるのは珍しいな。そんな事を思いながら大広間に案内された俺は、頼光と二人きりにさせられた。

 暫く無言が続き、部屋の中は静まり返っていた。話があると言われた以上、こっちから切り出すことは出来ないので、どうしようかと考えていると。何かを決意したかのような頼光が、こう切り出してきた。 

 

「貴方は、丑御前という少女を覚えていますか?」

 

 


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