「晴明様、どこですか晴明様!」
真昼の院の廊下を、慌ただしく駆け回る角が生えている女性の姿があった。
動きやすいように改造された衣装を身に纏ったその女性は、四神の一つであり富や恵みの雨を司ると言われている十二天将の一体である青龍だ。
「今日は、頼光様が帰ってくる、歓迎するから準備しろといったのは晴明様なのに、とうの本人がどっかにいくとかふざけてますよね!」
文句をいいながら院の中を探し続けるが、目的の人物である晴明の姿はどこにもなく、徐々にだが確実に青龍の鬱憤がたまっていく、そんな青龍を見かねたのか、この院の中で働く女中の一人が声を掛けてきた。
「青龍様、晴明様なら庭の方におりましたよ」
「あ、ありがとうございます庭ですね」
あの馬鹿は庭か……どうしてくれようか? と、そんな事を呟きながら庭に青龍は向かう。
青龍が庭に通じる扉の前にやってくると、中からは太鼓や鈴の音が響いていた。彼女はそれを聞き、本当になにをしているんだあの馬鹿はと思いながらその扉を開いた。
扉を開くと、そこに広がっていたのは月光に照らされた巨大な庭だった。奥には、季節外れの桜が咲き誇り、その周りには宙に浮かぶ提灯や縦横無尽に飛び回る紙で出来た鳥の姿がある。地面に意識を向けてみれば黄金の鱗を持った蛇や炎を纏った羽の生えた蛇もいた。
「青龍か? そんなに慌てて私に何の用があるんだ?」
「なんの用があるんだ? じゃないですよ、晴明様も準備手伝ってください。十二天将の皆さんも頑張ってるんです」
「皆ではないだろう、
きっぱりとそう告げる晴明に、手を出しそうになった青龍だがなんとか持ちこたえた。
「それより青龍皆を集めろ、面白いやつが頼光と共に都に来るぞ」
「面白い奴……なんか嫌な予感がするのですが、その人と何をするんですか?」
「人ではない鬼だ」
「え、頼光様が鬼を連れてくる訳ないじゃないですか、妖怪とあらば絶対に殺す人ですよ」
普段の頼光の人物像からそう晴明に伝えた青龍。だが晴明は、鬼が来るという事を確信しているのか、それ以上は何も言わなかった。
「はぁ、それで晴明様その鬼をどうするんです? まさか、式神にするなんて言いませんよね」
「安心しろ、そんなつもりはない。ただ――」
「ただ、なんですか?」
「なんでもない、ともかくもうすぐ鬼が来る準備をしろ」
分かりましたよ、そういった青龍はその姿を龍へと変えて院の中に帰って行ってしまった。
「蛇を宿す鬼よ、お前なら私を楽しませてくれるか?」
そんな言葉を残した晴明は、その場から姿を消してしまった。
「……あの、本当に貴方ですか?」
都に向かう途中、空を飛ぶ俺の姿を見た丑御前は少し驚いた様な顔をしながらそう聞いてきた。下を見てみれば金時や、綱の奴も同じような顔をしている。
まあ無理もない。今の俺は何年ぶりになるのか分からない、天狗の姿に戻っているからだ……いや、戻っているというのは少し違う、一時的に鬼の力を封じて、天狗の姿を取り戻していると言った方がいいだろう。
なんで今、俺が天狗の姿に戻っているかというと、鬼の姿で都に入れば騒ぎになると思ったからだ。一応今まで通り変化を使って、都に入ればいいのだが、この短期間で何度も変化を暴かれ自信を無くした俺は、術関連が得意になる天狗の姿に戻ることにしたのだ。
代償として鬼の腕力や攻撃的な術等々が全部使えなくなるが、その代わり使えなくなっていた天狗の神通力や風を操る力が戻っている。
後は、少し体が縮んで角が消えたり、羽が生えたりするが他に変わることはないので、特に問題なく過ごせるだろう。
「まあ一応俺だ。背は変わったが顔とかは同じだろう」
「そうなのですが、どうにも違和感が……なんて言えばいいのでしょう、今まであった暖かさが消え、より荒々しい炎のような気配に変わったような感じがします」
「どんな気配だよそれ……」
というか、そんな気配を放ってるなら天狗のまま変化しても意味ないじゃないか? いや、大丈夫なはずだ。愛宕天狗として恐れられてた時は、人間に化けて都に現れてもバレたことなんか一度もなかったし……だから大丈夫、というかそう信じないとわりとメンタルにダメージが……と、そんな事を考えているうちに都の門が見えてきたので、俺は一度地面に降りて変化の術を使う事にした。
「これでいいはずだろ」
そう言ってから頼光達に確認を取ってみると、気配が完全に人間のものになっているらしく、妖怪特有の気配と俺の独特の気配は一切感じないらしい。
都の門を抜けてみても何も言われなかったし、これなら余程の事がない限り鬼だという事はバレることはないとと思う。
「ちょっといいか頼光」
「なんですか?」
「これからどこに行くんだ? 都に来たのはいいが、何するか聞いてなかったからな」
「あ、そうですね。まずは私の屋敷で疲れを癒やして、その後は御仁や父様に挨拶をするぐらいでしょうか?」
なんで、丑御前の父さんに挨拶する必要があるんだ? それと、御仁って誰だよ、丑御前程の地位の奴が御仁なんて呼ぶ奴は限られてるだろうし……心当たりはないが、かなり偉い奴なんだろうな。
「了解だ丑御前。だがその前に、ちょっと寄りたいところがあるんだがいいか?」
「いいですよ、都に来るのは初めてでしょうし、好きなだけ遊んでください。私の屋敷は誰かに聞けば分かると思うので先に行ってますね」
「土蛇、都を案内してやろうか? オレッちのおすすめの店に連れてってやるよ」
「大丈夫だ金時、都から山に来た妖怪におすすめの場所は聞いてるからな」
「そうか、迷うなよ?」
「多分……大丈夫だ」
俺は、自分でも自覚している方向音痴だが何度も都には来ているし、迷うことはないはずだ。それに、用があると言っても香子に会うだけだしすぐ終わるだろう。