妖怪である俺にとって絶対的な絶望、坂田金時。
噂では妖怪相手に容赦なく、生き残った者はいないと言われている。そんな相手に出会ってしまった俺は、きっと殺されてしまうだろうと――そう思ってたんだが……。
「はははっ、お前話分かるな。もっと飲んでくれよ!」
「アンタもな金時! そうだよな、酒呑様ってやばいよな」
どういう訳か今俺達は、酒呑様の話題で盛り上がり取ってこいと言われた酒で宴を始めていた。なんでこうなったのか分からないが、酒が入ってあまり回らない頭は深く考えることを許さない。
「それにしても、よくあいつに付き合えるな。オレッちなら絶対無理だ!」
「聞いてくれよ金時、酒呑様酷いんだぜ? 大江山に花が足りないからって古椿の霊捕まえてこいっていったり、龍魚の酒蒸しが食べたいからって冬の滝に落とされたり……あ、思い出したらムカついてきた」
「龍魚って、何と戦ってるんだよ土蛇。そういえば、空に龍魚と炎が昇ったって噂を聞いたがオマエか?」
「噂になってたのか」
あの時の龍魚やばかったな、魚のくせに雷纏って突撃してくるから一歩間違えたら感電死してたし。
さてと、酒も確保できたし、そろそろ帰るか。金時って言う友も出来たし今日はいい日だな。いつか殺し合うかも知れないが、今は考えないようにしよう。
「そうだ土蛇、帰るのなら一つ伝言を頼んでもいいか?」
「別に構わないぞ、酒呑様にか?」
「そうだ、無駄かも知れないが暴れるのを少し自重してくれと伝えてくれや」
「了解した……まぁ、酒呑様はそんな事気にしないと思うんだがな」
「はは、違ぇねぇ。またな、土蛇」
そんな風に笑った金時を背に俺は酒を背負って山を下りていった。暫く離れた後山の頂上を見てみると、墓のような場所に座る金時がいた。遠目からではその表情は見えないが、何かを嬉しそうに喋りかけているのが見える。
ああいうのは見ない方がいいよなと、そう思った俺は今のを見なかったことにして山を駆け下りる速度を上げた。
少し寄り道をしてしまったので急いで大江山に向かう。
五日ほど休まず、走り続けているが鬼の体力のおかげかまだ疲れることはない。ここまで来る途中に山賊に襲われたが、特に怪我もなくむしろ酒や土産も増えたから良かったな。攫われていた人間もいたが、無事に都に送ったし、俺に関する良い噂でも流してくれれば助かるんだがどうだろうか。
「お前ら帰ったぞ、変わりないか?」
大江山の番人を務めてくれている二人の鬼に挨拶してから、そう聞いてみたが特に変わったことはなかったようだ。宴が始まり頭領が酔い潰れて暴れるという、いつもと変わらない十日間だったようだ。
「土蛇帰ったか! 早速都に行くぞぉ!」
山の宮殿に入ると、酔っ払った様子の頭領が俺の腕を掴みジャンプした。俺は、腕を鎖にへと変化させて柱を掴みそれを無理矢理止める。急に止められた事で、頭領は不機嫌そうな顔をしたが、今は持ってきた土産を酒呑様に渡さなければいけないのでなんとか説得しないといけない。
「む? にゃんだ土蛇、どうして抵抗する?」
「マジで待ってくれ頭領、先に荷物を置かせてくれ酒呑様に頼まれてるんだ」
「フハハハッ、おかしな事をいうな土蛇ィ! 酒呑なら汝が酒を取りに行ったときに帰ったぞ?」
ふざけんなスタイリッシュ痴女、休まず走り続けた俺の頑張りは何だったんだよ。そんな事を考えながら、頭領が酒呑様用に用意した部屋に入り、今回持ってきた荷物を妖術で保存しておく。
「よし終わったな、では都にゆくぞ土蛇ぃ!」
「どうしてそんなにテンション高いんだ?」
「知らん!」
あー、マジで酔ってるな頭領。多分だが酒呑様が悪戯で用意した酒でも飲んで酔ってるんだろう。酒呑様が用意する酒は、鬼でも酔う物ばっかりだからな。
「それより頭領、山で山賊狩りにでもいかないか? そっちの方が宝が集まると思うぞ」
「むぅ? それもそうだな土蛇。最近は吾ら以外の者どもが暴れているとよく聞く、それを全て滅ぼし再び吾らの名を上げようか!」
よし、誘導成功。今都には、あの源頼光が帰ってきているらしいから、どうしても行きたくないんだよな。噂を聞く限り、本当にやばい人物らしいし、何より現代でも有名な武士だ。それに源頼光は、今より先の未来で酒呑様を倒した人間の一人、あの酒呑様を殺せる人間なんて絶対に戦いたくない。
「土蛇、まずは近くの山を虱潰しに探索だ―!」
再び俺は腕を掴まれ、全力でジャンプをする頭領に空に連れて行かれた。空からは様々な山が見え、よく見れば大江山からかなり離れてた山の麓に山賊のアジトのような物が見えた。それを棟梁に伝えると、頭領はすぐに方向を変え、山賊のアジトらしき場所に一気に飛び込んだ。
「さぁ、面白可笑しく暴れようではないか」
「了解だ頭領、ただし手加減してくれよ、頭領が暴れすぎれば山が崩れる」
「分かっておる、吾も自然を破壊しようとは思っておらぬ」
ここから先にあったのは蹂躙だった。
抵抗する山賊は、俺の炎と頭領の爪で殺され、生き残った物は一人もいない。この山賊はまだ出来たばかりだったのか、特に宝を貯め込んでおらず、あった物と言えば安酒だけだった。
「では次に行くぞ、まだまだ暴れ足りぬ」
その後、再びジャンプした頭領に連れられた俺だったんだが、四つ目の山賊団と戦っている内に頭領とはぐれてしまい山の中を彷徨う事になってしまった。
「しまった。このままでは帰れなくなるぞ、それに酔った頭領を放置するわけにも行かないし……どうしようか」
近くには野営している人間がいるのか、ここまで届くような焼き魚の匂いがする。そこにいけば今いる場所がどこか聞けるが、この時代に野営している人間がただの人間だと思えないし、妖怪を討伐しに来た武士かもしれない。危険はあるが、迷ってばかりで無駄に時間を消費するより道を聞いた方がいいか。変化して、人間に化ければ多分大丈夫だろうし。
「あぁ、やっと出会うことが出来ました。私の名は源頼光、どうか一緒に来てくださいますか?」
あ、詰んだ。