「っ――――ぁ――――、ぅッ――――」
アツイ。
「はあ――――あぎッ――――ガッ」
体が熱い。
体の底から湧き上がる熱に、俺は酷く苦しめられていた。筋肉に骨、そして血の一滴に至るまで熱を持ち、俺の体を焼き、パチパチと燃える炉の音が耳に届く。
移植された心臓が脈動し、その度に内側が焼けていく。それだけではない、外に出ようとする炎が皮膚を食い破ろうと何度も蠢動する。
こうなった原因は分かっている。数年ぶりに外した枷の所為だ。一週間前、寝ていた心臓を起こしてしまった自分が悪い。だから今は耐えるしかない。ただ、この痛みに耐えてこの地獄を乗り切るだけだ。
「ぐ――――ゥ」
本当に今にでも焼死してしまいそうだ。
今の俺の状況をもしも頭領に見られたら、きっと優しい彼女は自分を責めるだろう。それだけは駄目だからこそ、俺は声を殺して耐え続ける。
夜風に当たろう、涼めば少しは楽になる筈だ。
「っ駄目だ、歩ける気がしないな」
それでも燃える体にムチを打ち、俺は大江山の頂上自分の秘密基地に足を運んだ。ここならばバレる事は無いだろうと考えたからだ。
「おうおう我が息子よ、久しぶりだな」
熱に意識を犯される中で、とても懐かしい声を聞いた。声の聞こえた空に視線を向けるとそこには、自分の羽がある癖に巨大な馬に跨がった異常な圧を放つ天狗がいた。
その天狗は、にやにやと笑いながらその双眸で俺を射貫く。
「何の用だよ……太郎坊」
「用などは特に無いわ、ただ久方ぶりに我が息子の安否を確かめに来ただけの事よ」
「嘘つけ、どうせ俺の状況を知ったからだろ」
今目の前にいる男の名は愛宕太郎坊天狗。かの有名な火之迦具土神の化身とされる大妖怪で、日本天狗を束ねる八天狗の一体。そして俺の育て親だ。
「ふん、まあそうだな。我の眷属に占わせたら、オマエが燃えてる姿が映り、揶揄いついでに火を消しに来てやったのだ」
「確かにアンタなら消せるだろうが、世話にはなりたくない」
「フハハハハ、それなら余計に消してやろう。オマエの嫌がる顔を見れるならな!」
もういいや、任せよう。火消しの恩恵も持っている太郎坊なら、この炎も止められる。というか昔暴走した時とかはずっと止めて貰ってたからな、一応信頼は出来る。
笑いながら太郎坊が俺の前に降りてくる。そのまま近付いてきた太郎坊は虚空から錫杖を取り出し、それを俺の体に突き立てた。
「ごっ――――」
「これはこれは、余程派手に使ったな? 二つ目の枷まで焼けかけておるわ」
体中に痛みが走り、炉が沈静化していくのが分かる。奥で燃える炎が静かに消えていき、眠りについていく。そして炉を封じ込めるように枷が掛けられ、徐々に痛みが引いていった。
「愛宕……いや、今は土蛇だったか。オマエを生かしているそれは何の心臓か分かっておるな」
「火之迦具土神のだろ、知ってるよ」
「様を付けろ莫迦者――――まあ、分かっておるならいい」
枷をかけ終わったのか、錫杖を抜き出した太郎坊は再び馬に跨がり去ろうとする。帰るのが早い気がしたのだが、いつも忙しい太郎坊の事を考えると、今日は無茶をしてきたのだろうと俺は勝手な予想をした。
「では我は帰るが、忠告だ半月はその枷を解くでないぞ」
「分かった」
まあ、そう何度も枷を外す事なんて無いと思うし、そこは心配しなくていいだろう。世話になりたくないとさっき言ったが、俺は世話になり過ぎたのではないだろうか? こうなると後で何を請求されるか分からないが、今日は感謝をしておこう。
あぁ、炉が静まった事で眠くなってきたな。まだ少しは動けるし、宮殿まで戻ろうか。
翌朝目を覚ますと、とても強い日差しが俺の部屋を襲う。昨日の出来事があったものの目覚めは良い物で、かなり気分がいい。
「今日は俺がなんか作るか、この時間ならまだ誰も起きてないだろ」
外に出ると、空は鬱陶しいほどに晴れていた。気温も秋にしては暖かく、庭は様々な落ち葉に彩られていた。それを見て綺麗だなと思いながら台所に移動する頃には眠気は完全に飛んでいた。
今日は何も無いだろうし、どうせ山の妖怪達は毎日行われる宴会で疲れているだろうし、食事の準備はゆっくりやればいいだろう。
朝食を作り終えた俺は、どうせ片付いてないだろう宮殿の中心部に足を運んだ。
「ん? 片付いているぞ、誰がやったんだ?」
そんな独り言を漏らしてから周りを見渡してみると、そこには少し眠そうな頭領の姿があった。
「むぅ? 早いな土蛇」
「おはよう頭領、こんな時間に起きてるのは珍しいな」
「目が覚めたのだ。丁度良い、少し付き合え土蛇」
「了解した。どこに行くんだ?」
「京の都だ。もうすぐ酒呑が来るのでな、準備をしようと思ったのだ」
まじか酒呑様来るのか、またいじられる事が確定してしまった。少しでも被害を抑えるために、都で酒を盗まなければ。香子に頼めば名酒でも分けて貰えるか? あ、いい案だな。今日頼みに行くか。
「そういえば頭領、今日は都で祭りがあるそうだぞ? ちょっと寄ってみるか?」
「それは良いな、祭りであれば酒呑が好きそうな物が手に入るであろう」