その日、とある陰陽師は百鬼夜行に出会ってしまった。
いつものように都を見張りの任を受けたその男は、悍ましい数の妖の気配を感じ、急いでその場所に向かって行った。
そこで見てしまったのだ。魑魅魍魎が列をなす、あの地獄のような時間に――――。
今まで見た事の無いような大妖怪に、普段見るような小妖怪が叢原火を纏いながら行進して行く。それは大江山の方からやって来ており、直に京の都に入ってくるだろうとその陰陽師は予想した。誰かに知らせなければならない。だが、かなり離れたこの場所からでも分かる殺気がそれを許してくれる事は無かった。体が動かないのだ。動かなければいけないはずなのに、この群れを都に入れない為に仲間を呼ばなければならないのに――――そう考えても体は恐怖に支配され、一歩たりとも動けない。
唯一動くのは自分の瞳のみ。恐怖に支配されながらも、その陰陽師は先頭を歩く一人の少女に目を付けた。美しい金色の髪を持つ小柄な少女、何故あんな幼い少女が先頭に? そう考えたのも束の間、その額にある角を見て、この少女が誰なのかを陰陽師は悟った。大江山を支配する大妖鬼、茨木童子だ。
格が違う、あれは駄目だ。あの鬼に見付かったら殺される。いや、自分はもう死んでいるのではないか? とそう錯覚する程に濃密な殺意を放つ茨木童子を見て彼は身を隠した。
怖い、恐ろしい、逃げたい。
様々な思考が頭の中を高速で駆け巡る中、急に横から誰かの声が聞こえて来た。
「悪いな陰陽師、忘れてくれ」
じゅっ、そんな音が一瞬だけ鳴ると、陰陽師である彼は抗えない程の睡魔に襲われて、その場で意識を失った。彼が最後に見たのは、二本の角を有する黒髪の鬼だった。
遠くからこちらを監視していた陰陽師の意識を奪った俺は頭領の真後ろに戻り、遠出用の宝船を呼び出した。暫くすると雲の中から、鬼の顔が正面に付けられている巨大な船が現れてくる。数百人は乗れるであろうこの巨大船は昔、太郎坊から譲り受けた物。なんでも、七福神が乗っていた物らしい。
「土蛇、問題無く動くか?」
「大丈夫だ頭領、点検はしてある。この船なら越後まですぐだぞ」
「完璧だ――――お前達乗り込め、酒呑を救いに行くぞ」
夜の空を船で駆ける。
大江山の全戦力が集まったこの船は、例え安倍晴明が乗り込もうと落ちる事は無いだろう。俺は宝船に乗りながらそんな事を考える。今この船に乗っている妖怪達はみな殺気を滾らせている。それもそうだ。あの酒呑様が捕まったという事だけでも皆怒るのに、星熊童子までもがやられたのだ。これでキレない奴は大江山にはいない。
「貴様ら間も無く越後に着くが、皆準備はよいか? これから吾らが行うのは害虫駆除だ。一匹たりとも逃がす事は許さぬ」
そう宣言する頭領の言葉を聞き、仲間達の士気は上がる。
「頭領、着いたぞ――――っ酷いな、越後の国が蜘蛛だらけだ」
空から越後の国を見渡せば、至る所にいる蜘蛛が里や山で暴れ回っている。蜘蛛はどうやら、人間妖怪関係無く、無差別に襲っているようだ。単体では強い天狗なども数の暴力には勝てないようで、次々と蜘蛛の餌になっている。
やりたい放題だな、まるで地獄のようだ。
「では、行くぞお前達、見たところ今暴れているのは子蜘蛛のようだ。囲まれないように、多数で行動しろ。百足、汝は暴れまくり数を減らせ。髑髏、汝は1カ所に集まった蜘蛛を処理しろ。熊達は自由に動け、汝らに作戦など無意味だ。指示は以上、大江山の力を見せてやるぞ!」
その声を合図として、宝船で山に突っ込んだ俺達は各々頭領の指示に従い散らばった。俺は頭領に付いていくことになり、酒呑様の住居に向かうことになった。
「さあ開戦の狼煙を上げろ土蛇! 一発デカいのを打ち上げるがよい!」
その声を聞いた俺は大地から炎を溢れさせ、蜘蛛の群れを焼き払う。炎に包まれた蜘蛛達は全てが炭に変わり、絶命していった。